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勇者の名前が変わりまくるRPG

 カワールス大陸南西、『マオウゼツユル王国』と呼ばれる国に悲鳴が巻き起こる。


「大変です王様! 魔王軍が攻めてきました!」


「なんじゃと!? よし、勇者を向かわせろ!」


「ハッ! ただちに勇者ドドッコを向かわせます!」


「待て、ドドッコとは誰のことだ? この前謁見したのは勇者バルツァーであろう? 奴はどうした」


「王様、勇者バルツァーがドドッコであります」


 国王は首を傾げる。

 当然だ。意味が分からない。


「ぎ、偽名を使っていたのか?」


「いえ、言葉の通り、バルツァーが、ドドッコなのです」


「なにゆえ……? 変えても仕方な」


 国王の言葉を遮るように、扉が蹴り破られる。


「お呼びでしょうか、王様」


「おぉ、勇者バル……いやドドッコ! よく来た! でもせめて扉は手で開けてね?」


 勇者は「フッ」とわざとらしく息を吹くように笑う。


「いま扉を蹴り破ったのはドドッコであって俺じゃない」


 まさか……と国王は唾を飲む。


「俺は、勇者ナマスゴンだ!」


「よし、さっさと戦いに行ってこい!」


「フッ……魔王を倒すのが勇者の使命……やってやりますよ」


「いいからはよ行かんかい」



◇ ◇ ◇



 王国門前には、ゴブリンやオークなどの魔物の軍勢が迫っていた。


「だぁーっはっはっは! オレ様は魔王軍四天王が一人、撃墜のドグディア様だァ! 潰してやるぞ、人間どもォ!」


 巨大な斧を振り上げる魔王軍四天王。

 どうやら魔王は初めから本気で潰しに掛かってきたらしい。

 兵士達は怯えながら剣を構えている。

 魔物だけでも足がすくむ勢いなのに、いきなり四天王なんてものが現れてしまってションベンを漏らしている者もいた。


 だが、一人だけ――。

 ションベンで濡れた地面を避けながら軍勢に立ち向かおうとする勇敢な者がいた。


「呼びにくい名前だな。変えたらどうだ?」


「なんだ貴様は?」


「俺は勇者デュクテクトチュトン。魔王を倒す者だ」


「勇者……くくく……ごめん聞き取れなかったからもう一回言ってもらっていい?」


「ダデュールだ」


「さっきと違くね?」


「気のせいだろ」


「まァいい……どうせ殺した人間の名前など忘れてしまうのだからなぁ!」


「そうだな。俺もお前の名をもう忘れたよ」


「――――はっ?」


 四天王、撃墜のドグディアは真っ二つにされていた。

 断ち斬られた巨大な肉片が下の魔物達に降り注いで潰す。

 確かに撃墜の名に相応しかった。



 ――ドグディアを倒し、軍勢をしりぞけた勇者バラゾプグドゥムは先へ進む。

 その後も残りの四天王を見事に打ち倒し、遂に勇者トトポッポは魔王城に辿り着いた。


「ここが魔王城かぁ~。テンション上がるなぁ」


 魔王が居る最深部へ着くや否や、勇者は扉を蹴飛ばした。


「四天王を倒し、遂に我が元へ来たか……勇者……えっと、なんだっけ?」


「今はアポスカンだ」


「そうか……よく来たな勇者アポスカン! 我が魔王ドーデモン! ここが貴様の墓場だ!」


「すまない、たった今ロットプルルになった」


「お前殺しても墓に名前刻めないじゃん……」


「そうかもな」


「……名を捨て、我に挑むか。勇者ロットプルルよ」


「誰かがやらなきゃ、平和にならないんでな。そして俺がその誰かになる。俺の名は勇者ああああ! 魔王を倒す勇者だ!」


「では行くぞ、ああああ!」


「うお、急に叫ぶなよ心臓に悪いだろ」


「なんで名前呼んだだけで攻撃になってるんだよ」


「ちなみに今の名前はドラゴンフレイム!」


「ほんまに名乗りで魔法攻撃してきたよコイツ!」


 魔王は燃えた服をパタパタと叩き、焦げたところを撫でる。


「覚えておけ魔王……お前を倒す者の名は……ササットだということを」


「覚えられるかァァーッ!」


 魔王ドーデモンの怒りの業火が燃え上がる。

 灼熱により、部屋は一気にサウナ状態。

 ただの人間であれば即座に蒸し焼きになっていたところだが、腐っても勇者。

 ササットは涼しい顔で剣を抜いた。


「ならば我も剣で応えよう……ハァァッ!」


 剣を手にした魔王は勇者ササットを斬る。


「……なっ、なぜ避けん?!」


 呆気ない。

 勇者の体が崩れゆく様に、魔王は呆然と眺めていることしか出来なかった。


「――それは残像(ササット)だ」


「なにィッ!?」


「教えてやろう。俺は一分、一秒前の俺とは違う。常に変わりゆく勇者だ」


「貴様……一体何者なのだッ」


「俺は、勇者サトエモンだ」


 勇者の斬撃が魔王を斬り裂く。


「カハッ……勇者、サトエモン……我の負け、だ……見事っ」


 魔王ドーデモンは倒れ込む。


「……最後に、貴様の本当の名を……教えてはくれまいか」


「…………俺は勇者だ。ゲームの主人公だ。何度もお前に敗北し、何度も挑戦した。たくさんのプレイヤーがこのゲームをプレイする……その度に俺の名前は変わっていく。だから、どれも本当の名前なんだ」


「そう、だったのか……」


「あぁ、名前の数だけ物語がある。魔王ドーデモン、次のプレイヤーのことも、楽しませてやってくれ」


「ククク……人と魔族……種族は違えど、我らは同じ、()()()()()()だったな……」


 魔王は笑い、倒れながらも両手を豪快に上げた。


「我を倒しても! 第二、第三の魔王が現れるであろう! 勇者が名を変え現れるように! このゲームを、何度でも、飽きるまで遊び倒すがよい!!!」


 ――こうして、魔王は倒された。


 世界に平和が訪れ、ゲームはエンドロールを迎えた。


 楽しいゲームを終え、プレイヤーは勇者からいつもの名前に戻っていく。


 シャットダウンしたゲーム機からソフトを抜いて大切に保管して、人生のエンドロールを迎えるまで、あの頃の思い出を糧に踏ん張っていくのだ。




 ――これから世界を救う勇者の名前は、まだ、未設定である。




 勇者の名前が変わりまくるRPG…………完。




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