第1章 九尾と俺
鏡に映る俺は紛れもない赤ん坊だったのだ!
どういうことだ? 確か俺は霊に殺されて……?
っは! もしかしてこれって異世界転生ってやつなんじゃ? 休み時間とかに本読んで、ボッチでも別に悲しくないよ!アピールしてた時に読んだ本に書いてあったぞ。
『死んだら異世界転生しちゃった!』って。
もしかしなくてもきっとそれなんじゃないか?
そんな感じで頭を全速力で回転させていると母親らしき人が不安の混じった声を発した。
「この子全然泣かないじゃない……。 何処か悪いところでもあるのかしら……?」
おっとこりゃいかん。 異世界の病院だ、何が待っているかもわからない。
もしかしたら、めっちゃごっつくて、超いかついゴブリンみたいなモンスターが治療してるかもだし。
とりあえず泣いとっか。
「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
ふぅ、我ながらいい声だった。
「あなた!」
「あぁ、何処か悪いってこともなさそうだ」
「あぁ、あなた!」
「おぉ、愛しのマイハ二ー!」
「あなた!」
「ハニー」
二人で抱き合って喜んでいる様子を見て俺は、
この世界はバカップルが常識なの? いやそれとも、ここが例外なだけ?
という考えが頭をよぎった。
そんな両親のもとで俺は、愛情を滝のように浴びて育っていった。
そして月日は流れ俺は12歳になっていた。
どうやら、この世界での俺の名前はレイというようだ。そして、この世界は7つの国に分かれていて、ここは『グリーンフット』と言うらしい。
ここは、いいところだ、緑が多くて危険なことも全くと言っていいほどない。
まぁ、その分、経済力とかは7か国で一番低いんだけど。
ちなみに俺は今、森の中を全速力で走りまくっている。
俺が蹴った石がたまたま、めっちゃ狂暴な猪にあたってしまったのである。
普通だったら、太陽の光がいい感じに反射して幻想的なこの森も、今の俺からしたら地獄と何ら変わりはない。
そんなこんなで、全力疾走している内に俺は気味の悪い神殿のような建物の前にいた。
建物が全体的に黒ずんでいて、所々にひびも入っている。
この見た目ため的に、もう何年も使われていないっぽい。
しかも極めつけには、入り口に『立ち入り禁止』と書かれている看板がある。
俺はすぐに引き返そうとしたが、神殿から声が頭に聞こえてきた。
「こっちにこい……、お前にはやらねばならぬことがある」
一回は無視してやろうと思ったが、どうにも無視する気にならなかった俺は、その声に話しかけた。
「お前は誰だ? どこから語りかけている」
すると、
「中に来れば全て教えてやる」
好奇心に満ちている俺にとって、こういう未知との出会いってなんか憧れる。
その好奇心と憧れが俺の足を動かしていた。
神殿の中は、かろうじて太陽の光が少し差し込んでいた。が、それでもなんか大きい門のようなものがあることぐらいしかわからない程の明るさだった。
また声が聞こえた。
「お前の目の前にあるその門に触れよ」
俺はよくわからないまま、門に触れた。
すると、眩い光と同時に門の全容が見えた。
その門は、まるで地獄とこの世界をつないでいるのでは? と連想させる程の不気味さをまとっていた。
光がだんだん収まって目を一回閉じ、開いた。
「え?」
目を開いて視界に最初に映り込んできたのは、不気味な門でも、黒ずんだ壁でもなく、小さい狐だった。
「ちっこい狐? さっきまでいたか? こんなやつ」
「誰が、ちっこい狐じゃ!」
俺は、あたりをきょろきょろ見回し、さっきの声の主を探した。
だが、何処を見回しても見当たらない。
もしかして……と思いあの狐の方を見てみると。あの狐がしゃべりだしたのだ
「何見ておる、気色悪いぞ」
狐がしゃべったことへの驚きで俺は言葉が出なかった。そしたら、狐が
「なんじゃ? 何かしゃべらんかい」と言ってきた。
俺は、おどおどした口調で
「ええと……じゃあ……、あなたの名前は?」と。
そしたら、
「我の名前は『九尾』、妖怪じゃ」と言ってきた。
俺はあいつの一言で、今まで忘れていた前世の頃の記憶の一部が蘇った。
俺は、前世で霊に殺された。こんな大事な事を俺はなぜ忘れていたんだ?
頭の中には忘れていた事に対してのもやもやした感情が渦巻いていた。
「しかし助かったわい、あやつに封印されてざっと100年近くこのきったない門に閉じ込められていたからの。 感謝感謝」
「ん?どういうだ? 俺はそんなことをした覚えは無いんだが」
「あ~、言っておらんかったか。 あの門はな、『ぬらりひょん』が我らを封印するために作ったんじゃ。」
俺は『ぬらりひょん』という名前になんだか聞き覚えがあった。
「それで、なんで俺がその封印とやらを解くことができたんだ?」
「それはの~、お前が前世で『ぬらりひょん』に殺されたからじゃ」
俺は、今まで誰にも話して来なかった前世から転生してきたことを知っていることに対して驚愕の感情を抱いた。
「なんで、お前が前世のことを知っているんだ?!」
「前世とこの世界を行き来できる力は『ぬらりひょん』しか持っていなかったんじゃが、なんか、その『ぬらりひょん』が作った門の中にいたらなんか見れるようになっちゃったんじゃ」
俺は、「どういう原理だよ」、って突っ込みそうになるのを抑えて会話を続けた。
「はぁ、それでその『ぬらりひょん』に殺されたらなんで呪いを解けるんだ?」
「お主の右腕にはな、どういうわけか『ぬらりひょん』の手跡が残っているんじゃ。たぶんそれが呪いを解けた理由じゃろうな」
確かに俺の右腕には、誰かの手の跡があった。しかも他の人からは見えないというものだ。
言いたいことが多すぎて口をもごもごさせていた俺にあの九尾とやらが、話しかけてきた。
「あ! 言い忘れておったが、お主があの呪いを解除したことで我以外にも数多の妖怪がこの世界にあふれ出したぞ。 このまま行けばこの世界はあっという間に妖怪が支配するじゃろうの」
「何が言いたい」
すると九尾は、
「妖怪を解放した責任はお主にもあると思うのじゃが……」
「つまり?」
「我をお主の使い魔にせよ、そんでもってお主を殺した『ぬらりひょん』を一緒に倒そうぞ」
「『ぬらりひょん』を倒したら、その責任もなくなるのか?」
「安心せい、奴は妖怪の王じゃ、あやつを倒せば他の妖怪たちも全ていなくなるはずじゃ」
「もし断ったら?」
「お前を喰う!」
九尾は満面の笑みでそう言った。
おいおい、初めっから断ることは出来ないのかよ…… なら仕方ねえ
「わかったよ、その使い魔ってやつにしてやればいいんだろう。お前を」
「あぁ、そうじゃ」
「じゃぁ、行くぞ使い魔」
重い足取りで家に帰ろうとする俺を九尾が呼び止めた。
「ちょっと待てぇぇぇぇぇい!」
「なんだよ…… 俺はもう寝たいんだ。よくわからん狐のせいで疲れたし」
「あのな……使い魔にするにもちゃんと儀式というものがあるのじゃ」
「はぁ、とっとと終わらすぞ」
「安心せい、やることは簡単じゃ。 我の手を掴め、あとは我が全て行う」
俺は渋々、九尾の掌に俺の手を乗せた。
その瞬間、俺は眩い光に包まれた。
そして、九尾が呪文っぽい言葉を口にした。
ぼーっとしていた俺に九尾が話しかけてきた。
「ふぅ、これで儀式も終了じゃ」
「なら、とっとと帰るぞ、九尾」
「ちょっとまて」
「まだ、なんかあんのか?」
「九尾って言うのもなんだし、名前?つけてくれんか?」
九尾は何故か顔を赤らめ、もじもじしながら俺にそう言った。
俺は、九尾だし 九朗 とか適当な感じでいいだろ。という安直な考えで名前を決めた。
「九郎。お前は今日から『九朗』だ」
そしたらまさかの、
「『九朗』、いい響きじゃ! 気にいった!」
高評価だった。 妖怪って独特だな、と俺は思った。
「はぁ、わかったから帰るぞ。くれぐれも俺以外の他の人とかに見つかんなよ」
「大丈夫じゃ、お主以外の人間には我の姿は見えん」
「お前、やるな」
「なんじゃ……急に褒めるな!」
九尾の九朗は何故か顔を赤らめていた。
「きも」
「上げてから落とすな!」
そんなわけで、俺は九尾である九朗と出会い、九朗を使い魔にするのだった。
だが俺は、あの門の呪いを解いた事を後々後悔することになるのだった。