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『せいかいマンション』〜突然ですが!メスケモはいかがですか?〜

作者: 森の番人



「これで荷物は全部ですね〜、こちらが請求書になりますー。それでは失礼しやーす。」


 引越し業者が仕事を終えて玄関から一礼をして出て行く。

 そして、部屋には僕1人とダンボールが大量に積み上げられたものだけとなった。掃除をしたてなのか少しだけ新居のような匂いがする。


「なんだか、寂しくなっちゃったな。」


 僕の名前は伊藤明いとう・あきら。今週の金曜日から大学1年生になる18歳だ。そして、一人暮らしを今日から始めることになった。

 理由は単純。高校を卒業してギリギリになってから大学が決まった。合格をした大学が自宅を出なければ通うことが難しいぐらいの距離にあることで下宿先を早急に決めなければならなかった。

 しかし、どこもかしこも学校に近いところの空き部屋が無く途方に暮れていたところ叔父さんが紹介してくれたマンションについ先週に決まった。

 家賃も学生にとってもかなり安いことが不安であったが親が卒業まで出してくれることになったので、貧乏学生にはならずに済んだことはよかった。

 目的の学校にも徒歩で10分から15分で着くぐらいのいい場所である。

 やってきた新居をゆっくりと見て回る。11畳のワンルームでありトイレとお風呂は別々と嬉しいところである。しかも、お風呂は綺麗であり汚れも見当たらない。

 台所ではガスではなくIHであり実家と大差もないので料理をしやすいのでありがたい。

 押し入れはかなり入りそうだ。空間の使い方が上手なのだろう。

 一人暮らし初としてはとても好条件であり家賃も安いとはかなりいい。

 ある程度見て回ったので現実を具現化したダンボールの山を見る。実家の部屋の荷物のほとんどを持って来させられた。

 

「さて、荷解きでもするかな。入学式まであと3日しかないからな。」


 窓際に置いていたカバンの中からカッターナイフとハサミ、ドライバーなどの道具を取り出す。

 早速、買ったばかりの新しいダンボールの中にある本棚や簡易ベッドを組み立てることにする。それによって、残りの段ボールに入っている本や布団を収納することが出来て部屋が広くなり今日はベッドの上でしっかり寝ることが出来るからだ。

 カッターナイフの刃をある程度を出してセロハンテープで止められているところを切って中身を開封する。カッターナイフで部品や説明書が切断されることを防ぐための厚紙を除けると木製のパーツがぎっちりと詰められていた。


ガタガタ、ガタガタ


 パーツを取り出して床に置いていると隣の部屋の方向から何か物音がする。隣の部屋からにしては音が大きい気がする。音が鳴るような要素のある場所といえば押し入れだけである。


「この部屋が安かった理由って事故物件とかじゃなくて幽霊が出るからなのかな?幽霊の存在は信じているけど、出てきては欲しくないな。」


 カッターナイフを置いてゆっくりと立ち上がって恐る恐る押し入れに近づく。扉に手を掛けて勢いよく開け放つ。


「なんもないや。やっぱりお隣さんなのか。びっくりして損した。」


 押し入れは綺麗な状態で何かあったようにも見えなかった。埃ひとつすら目当たらない。音を立てているようなものがないのは不思議だ。

  

「こんなことしてると荷解きが全く進まない。手を動かせ手を。」


 自分自身に不思議はないと言い聞かせながらスマホからダウンロードした音楽をかけておく。

 最近アプリ内で購入をしたもので、個人で製作をして販売をしている人の歌でありかなり上手なので数曲まとめて買っている。曲を出した当初から聴いていて古参でもある。

 そんなお気に入りを聴いて作業を始めると手の速度がだんだんと上がっていく。

 本棚を数個、机に椅子に色々と組み立てたり設置するものはたくさんある。

 お昼も近くなっていてゆっくりとしていると今日だけでなく明日明後日と終わるのが伸びてしまって明後日の入学式が終わっても荷解きが終わっていないのは格好がつかない。


「リミットは夜の7時とするかな。」


 時間を決めることでやる気が長続きするだろう。



 両手のものを置いて寝転がって体を伸ばしていく。大きく息を吸って


「ようやく終わったー!」


 勢いよく起き上がってそこらに散らばっているダンボールの中のものをタンスや本棚にしまい、ダンボールを紐で縛って玄関の近くの壁に立てかける。

 本棚は新品で一から組み立てて、タンスは実家で使っていたものをそのまま持ってきた。

 更に大学の授業のレポートの制作に使うノートパソコンなどの簡易的な机を組み立てた。ホームセンターなどではドライバーさえ有れば組み立てることが出来るがこだわるならヤスリなどで角を取ったりするなどして自分ならではの物に作り替えることも出来るがせっかくの部屋が汚れるのでやめておく。


「まだ4月になる前なのに荷解きで汗が出てきたよ。早速風呂に入ろうかな。」


 荷解きの時に風呂に入るためにシャンプーや着替えなどを別の場所によけておいた。汗だけでなくて汚れも気になるから絶対に入ると決めていた。

 シャンプーなどは完全に新品であり、前まえから欲しかったヒーロー系の作品である『ロード』とコラボをしたものを購入した。評判的にもかなり良いものなので少しだけ楽しみ。

 ようやく部屋が整い一人暮らしという学生の憧れの1つを実現出来ると思うとテンションが上がってしまって軽快なステップを踏んでしまう。

 タオルを持って服を


「ガダガタガタ、、、ドッ!」


 昼の時と同じところの押し入れから今度は何かが落ちたような音がした。その中には掛け布団などと布団類しか置いておらずドッ!というような音が鳴るような固いものなど一つも入っていない。だからこそ自分の下手の押し入れで何が起こっているのか怖くなった。


「やっぱり、何かいるんだ。安い理由は何かが棲みついているためなのかも。幽霊?動物?何かはわからないけど確かめないといけないよな。後々に襲われたら困るし。」


 手に持っていたものを作ったばかりの机に雑に置く。次に壁に立てかけていた中学生の頃に野球のクラブチームで使っていた木製バットを持つ。もう片手にはダンボールを持つ。木製のバットを剣とダンボールを盾の役割をしてもらう。

 しかし、ここで気が付く。


 「、、、両手が塞がってたら開けれないじゃん。」


 馬鹿丸出しの行動に誰もいないというのに少しだけ恥ずかしい。利き手とは反対に持っているダンボールを床に置いて目的の押し入れの扉に手をかける。そして、扉をスムーズに開ける。

 

 中に入っている布団は入れた時と同じように入っている。今はそれに目がいかない。部屋の光に反射する銀色の毛並みが頭とお尻のところにある人間がいた。

 それに目を奪われて思考が止まっているところそれは転がって足元に向かって落ちて来た。それの頭が自分の足に直撃をする。

 痛みに反射で反応しすぐさま後ろに飛んでいっていく。何も敷いていない床が背中に衝撃を与えるが関係ない。

 あまりに足が痛すぎて転がりに転がる。夜なので声を出すことは迷惑になるので極力抑えるが、後で部屋に知らない人がいたので声を出してた方が正解なのではと思った。

 息を整えながら落ちて来たものはなんなのかを起き上がって確認する。


「不審者には見えないよな?これは一体全体どうやって押し入れなんかに。」


 転がっているのは、薄い茶色、狐色をした髪色であり鼻が高く綺麗な顔をしている。先ほどみた銀色は光の関係でそう見えただけなのだろう。服装だが薄く白色のローブを着ているだけであり所々切れていたり土の汚れがついていた。ほこりで汚れていたようには見えないので屋根裏にいたわけではないことがわかる。

 さらにお尻のあたりから毛が、、、尻尾が生えていた。しかし、お尻が丸見えなのでそこは一瞬で視界から外す。

 更に身体中の至る所に怪我をしている。切り傷がほとんどであり足元に打撲の跡があり青くなっている。かなり痛そうである。


「これは手当しとかないといけないな。誰であろうとこのまま放置も良くないし、起きてから事情を聞くことにするけど、、、押し入れはどうなってるのやら。」


 押し入れをチラッと覗いてみると何やら上の方で奇怪な音を鳴らしながら穴が空いていた。某アニメのトンネルみたいな色をしている。その穴の先は何があるのか見えなくなっている。穴の先の空間は広いのか狭いのか奥行きがあるのかないのか。


「これってどこかに繋がっているワープホールなのかな?、、、あ!?」


 少し穴を見ていると段々とその穴が小さくなっていく。声を上げてから10秒ぐらいで消えてなくなった。押し入れの天井部分であったものがしっかりと見える。


「この子、元の場所に帰れなくなったんじゃ?」


 問題の子を見ると少し声を出している。目を覚ましそうな感じである。体を少しだけ震わせていたりして意識を取り戻そうとしている。

 顔をしっかりと見ようとして覗き込む。綺麗な顔をしていて今まで生きてきた中でもこんな人は2人もいない。でも、そんな美人がなぜ押し入れにいて、変な穴があったのだろうか。

 そんなことを考えていたがその子を見ているとその考えも湧いてこない。

 

 閉じていた目が開いた。


 そして、しばらくお互いに何も喋らず動かずそのままの状態が10秒以上も続いた。


 「人攫い、人攫いに捕まってしまったぁぁあ!このぉ!」

 「うわぁあ!」


 突然、女は叫んだと思ったら鼻に向かって頭突きをしてきた。

 そして、鼻に潰れそうな強烈な衝撃と痛みが襲ってきた。勢いのまま後ろにのけぞって床に後頭部をぶつける。そちらもそちらでかなり痛い。


 女は立ち上がって体のどこにも異常がないことを確かめている。特に手首と手足、首をだ。何度もさすって確かめて何もないとわかると次は周りを確認しだした。


 「ここはどこだ!くそ、気絶している内に知らないところに連れてこられた。いや、そんな長い間ではないはず。なら、まだこの辺の地理がわかるはずだ。」


 女は全体を見ると玄関のある方へと向かって走っていく。その方向がこの部屋を出るための玄関があるとわかっているようだ。

 玄関へとたどり着いたのだろうドアを無造作にガチャガチャと盛大な音を立てながら出ていく。


 転がったままではいけないと思い立ち上がる。

 怪我人をそのままにしておくわけにはいかないので、痛みに耐えながら追いかける。足が一歩ごとに痛むので力が入りずらい。その反対もあって痛みを我慢して力を入れると力を入れすぎてしまう。


 僕がいるのはマンションの4階であるので階段を降りなければ危険である。玄関まで行くと女はそこにいた。しかし、その階から外壁を乗り越えて飛び降りた。


 「嘘だろ、4階から飛び降りたら死ぬか大怪我に、、、あ、商店街の方に行った。」


 外壁から身を乗り出して下を見ると、落下の衝撃をものともせず走っていく姿を確認することが出来た。しかし、知らない道を走っているからなのか走っている速度はそれほどない。


 驚きはしたが止まっている場合ではなく、追いかけるために急いで階段を駆け降りて追いかけていく。彼女が走っていった道はマンションの下見と今日とで道はある程度は知っている。階段を降りきるとまっすぐに商店街に向かって走り出す。


 走って浴びる3月の風は少しだけ冷たいが彼女の方が冷たさを感じているだろう。なにしろローブ1枚だけだからだ。


 彼女は商店街の方向に向かったこともわかっているが絶対にそこにいくとは限らない。人がいればよかったのだが、夜も遅いので誰一人として人は誰も見当たらないので目撃情報を聞くことは出来ない。


 「全く、人攫いとか時代錯誤もいいもんだよ。」


 このご時世で人さらいなんてものを親族に紹介してもらったマンションで行う間抜けはそうそういない。しかも、この顔で人攫いって言われたのは少し落ち込む。

 この顔は中学・高校の女子からは

 

 「人畜無害で秘密をしっかりと守ってくれそうだから安心できる~。」

 「そうそう、男子連中と仲がいいから恋愛の相談とかやりやすそうだよね~。」


 かなり普通であり悪いことなどしないような評価をもらっていた。スクールカーストの上位の女子からよく言われていた。もしかすると、冗談で言われていたのかもしれない。


 結局、商店街の方に向かったなら商店街に行ってから周辺を探せばいいと思い、駆け足で進んでいく。

 昔からある商店街らしく時間的には全ては閉じており飲み屋ぐらいは空いていると荒んだ感じがあるが昼間は閉店しているところがないぐらい賑やかである。

 下見の時に一軒気になっている店も見つけた。アンティークな感じがあって落ち着けそうな雰囲気もあった。看板に出していたのだが、レトロテーブルゲーム機があるらしい。今ではあまり触れることが出来ないゲームであるので興味がある。


 今はそれどころではないので頭からそれを追い出す。

 今改めて見ると酔っ払いなどがいることはなく静かである。夜の治安がいいという情報はかなり正しかったのだろう。


 「やっぱりここにもいないのか。人が本当にいなさそうなところに向かったのかな。」

 「そうでもないよー。」

 

 いきなり隣から女の人の声が聞こえてきた。隣を見ると八重歯が特徴的な女性と巨漢が立っていた。女性の方もかなり身長が高いので見上げる形になった。


 「ああ、すみません。そうでもないということはこの辺で走る女の人を見かけたということですか?」

 「ああ、そうだよ。そっちの方に走っていったよ。君は早く行った方がいいと思うけどね。被害が出る前にね。」


 商店街の方を指さして笑いながら教えてくれる。巨漢は黙ったままでいた。


 「ありがとうございます。すみません、失礼します。」

 (私としてもその方が面白いからね。他の連中に拾われるよりはね。)


 女性は何か小言で喋っていたが聞こえはしなかった。巨漢はじっとこちらを見つめていることがかなり不気味であった。


 女性から聞いた道をそのまままっすぐに進んでいく。下見に行った道であるので迷うことなく走ることが出来る。


 彼女は何を目標にして走っているのだろうか。行くべきところがわかっているのか。それともわからないところでどこに行けばいいのかわからない。だから、適当に走っているのでは。


 そう思い探索をしていると彼女の声が聞こえてきた。

 そこに向かって走っていくと彼女と1人の男性がいた。たどり着くと例の彼女と知らないおっさんがいて、揉めている。


 「なぁ、あんたなんだよ。その耳とお尻から生えているのはぁ。コスプレか?ゲフッ。」

 「近寄るな人間。臭いし汚らしい。」

 「成り切っているのか。ヒック。おじさんそういうの好きなんだよな。」


 女性は男を振り解こうとしているが絡み続けている。その男、おっさんは酒を飲みすぎていているのか顔が真っ赤に染まっている。足元もしっかりとしていなくよろよろと少し押すだけで倒れそうである。

 何度も拒絶しているのにその度になんどもナンパをしている。どんな女性を相手にしていてもこんなおっさんは相当金持ちを目的とした女性以外は相手にもしないだろうが、彼女は相手をしているのが間違いである。相手にすることは更に絡まれることになる。


 怒りが頂点に達したのか彼女は拳を握り込み振り上げる。


 「おっさんが悪いことは明白だけどこのままではまずい。」


 4階から飛び降りても怪我ひとつもない人?が人を殴ってしまうと殺しかねない。おっさんは酔っ払いなので避けるや守ることなどは出来やしない。

 すぐさま全力疾走で駆け寄って両方を手で制すために両手を突き出す。とりあえず、男が来たことでナンパという目的が変わって僕を邪魔をしたやつなので怒りをぶつけるという目的に変わるはずだ。


 「ストープ‼︎こいつは僕の連れでして絡むのは止めてください‼︎止めないなら警察を」

 「ねえ、そいつ伸びてますよ。頭をその柱にぶつけて。」


 彼女の声で男の方を見ると手の先にある電柱に後頭部を強くぶつけたのか白目を向いて意識を失っていた。口からよだれを垂らしてかなりだらしない格好になっている。


 「ちょちょちょちょ、、、息はしてる。死んではない。気絶しただけか。今のうちにトンズラするぞ。こっち。」


 男が息をしていることを確認をして周りに人がいないことをしっかりと確認すると女の手を取ってその場から立ち去る。男がしつこく絡んでいることも悪いのでこれは犯罪ではないし、入学式に参加する前に問題を起こすわけにはいかないので、男は酔っ払って電柱に頭をぶつけたということにしよう。

 彼女の手を握って家の方へと走っていく。


 「な、おい。どこに行くんですか。」


 女は今度は暴れることはなく、しっかりと付いてきてくれたのですぐに家に戻る事が出来た。道中は会話はなく只々走っていった。

 玄関の鍵を開けて、閉めてリビングに再び戻ってくる。部屋から居なくなった時間はあまり経っていないのにも関わらず久しぶり感がとても出ているが、とりあえず彼女をベッドの上に座らせる。

 そして、本棚の上に置いてある医療箱を持ってくる。


 「そこに座って動かないでね。今怪我しているところを消毒するから。」

 「消毒?応急処置のことかな。君は人攫いとかではないとは思うけど誰なの。」


 女は部屋をじろじろ見ながら尋ねてくる。

 尋ねてくる内容は当然のものだ。自己紹介もしていないのにいきなり治療をするという男は信頼なんて出来ないに決まっている。なら自己紹介をしよう。


 「僕はこんど大学1年生になる伊藤明。ここは、下宿先のマンション『せいかい』で引っ越してきて今日が初日なんだ。そんな君はどこの誰なの。」


 大学、マンションなど聞きなれない言葉には顔に疑問が浮かんでいるのがわかる。こちらの質問を答える前に僕が言ったことをなんとなくで理解をしようとしているがやはりわからなかったらしい。

 そして、頭のケモミミをゆさゆさと揺らしながら答える。かわいい。


 「私はシンガ族の族長の娘のリーン。つい先日のことなのですがシンガ族が祀っている神のような存在の生贄に選ばれました。生贄になったものは二度と帰ってくることはないのです。その事が意味するのは私たちの一族の神というのは生贄を殺してしまうと言う事なのです。」

 「つまりは、殺されたくないから逃げてきたということだね。」

 「はい、一族の村から出たのはいいのですが、生贄である私を捕まえるために大勢が追いかけてきました。私は村で1番強いので全て返り討ちにしたのはいいのですが。」

 

 あ、返り討ちって多数に対して勝つ事が出来るのは只者ではないけど。村一番で強いというのは物語の作中では最強枠に入るか、雑魚かの2通りあるが全滅させたということは強者である。

 更に続ける。


 「かなり体力を消耗していまして、人里に近いところで亜人などを攫って奴隷商に売り払う人攫いに出会しまして、そこで逃げるのに精一杯で草木で身体中が傷だらけになったところを人攫いに足を攻撃されて谷から落ちてしまって意識を失ってしまいました。気がつくとここにいて。」


 なるほど。谷から落ちた先にはこの部屋の押し入れにつながるワープホールがありここまでやってきたと。あと、生贄とか人攫いとかリーンのケモミミ、尻尾はおそらくだが本物。そんな存在はこの世界にはいないはず。いないとは言い切れないし。


 「なるほどね。谷から落ちてひょんなことから異世界の中のこの部屋にやってきたのか。」

 「やっぱり、ここは異世界だったのですか。見たことのない建物や服装しかなかったからもしかしてと思ったけど。でも、言葉は伝わるのですね。」

 「それはそうだね。でも、言葉が通じるなら問題はないでしょう。いつまでも汚れた格好のままじゃよくないね。汚れた状態で治療はよくないし。お風呂の使い方を教えてあげるからこっちに来て。」

 「お、お風呂なんてそんな身分の高い人しか使えないものなのでは。あなたはもしかして身分を隠している貴族なのでは。」

 「貴族なんて階級はないよ。お風呂はこの国では庶民でも使う事が出来るんだよ。ほら来て。服の替えは僕ので我慢してもらうけど。」


 お風呂場まで連れて行き、使い方をひとしきり教えると目がキラキラしていて早く入りたいということがよくわかった。その前に気になっていることを聞いておく。


 「その耳や尻尾は本当についているものなの?」

 「ええ、種族名は人狼族なの。高い身体能力、この耳、尻尾が生えているのが特徴です。私はまだ出来ないのですが完全に狼化と人間化に変化することが出来るそうですよ。尻尾だけしか隠せないのですが。尻尾触ってみます?」

 「ぜひ!」


 リーンは背中を向けて尻尾を出した。ゆさゆさと揺れる尻尾は綺麗な毛並みと共に何か引き寄せるものがあり抗えない。


 「いざ!尋常に勝負!」


 触った結果としては、モサモサでいつまでも触っていたい尻尾でした。



「きゃ、こっちに捻ると冷たい水が出るんですね。こっちは、、、よりあったかい水が。この国は豊かな国ですね。」


 シャワーで遊んでいて楽しそうにしている。僕の手の平はまだ尻尾の感触が残っている。


「さて、この感触ともお別れになるけど晩御飯の準備でもするかな。」


 リーンが出てきたら簡単な治療をするために救急箱を机に置いておく。お腹が空いて来て、夜ご飯がまだなので準備に取り掛かる。


「今日は簡単に済ませるからパスタにするかな。」


 鍋とフライパン、ボウルを用意する。鍋には水を入れて沸騰させる。その際に塩を一つまみ程度だけ入れておく。理由は知らないけど。

 次にベーコンを用意する。本当は包丁を用意したいけど洗い物が増えるので手で適当に食べやすそうなサイズに切り裂いていく。

 沸騰してきたのでパスタをパラパラとばらけさせながら投入する。

 次にコンソメキューブをボウルに入れて少しだけ待つ。パスタのゆで汁でコンソメキューブを溶かしておく。そこに生クリーム、牛乳、卵、粉チーズ、塩コショウ、ベーコンを入れて混ぜていく。

 パスタが茹でたならしっかりと水切りをしてお皿に盛りつけていく。リーンはお腹を空かせているかもしれないから少し多めに入れておく。

 最後に、たれを上からふんだんにかけて黒コショウをかける。


 「超手抜きのカルボナーラの完成。あとは、麦茶を用意して晩御飯づくりはこれで完成。」

 「気持ちよかったー。ありがとうございます。あと、タオルをもう一枚ほしいのですが。」


 その理由を聞こうと思ったが彼女を見てわかった。


 「ああ、尻尾が濡れてるね。そこにあるのを使ってよ。そこに座って。傷にこれを塗っておくよ。」


 彼女が尻尾だけをベッドに当たらないようにしている。おかげで濡れなくて助かる。

 早速、新品の軟膏を取り出してリーンの傷に塗っていく。下手に消毒液を使うのは体を治すための菌も殺してしまうからだ。

 軟膏を塗っていくと何か少しだけおかしいところがあるような気がする。傷が塗る前と後で塞がりつつあるような。


 「このタオル水をよく吸収してくれるから尻尾が早く乾くね。いいタオルね。」

 「新しいタオルだからね。吸水性能が高いんだよ。」


 リーンが声をかけてきたので傷をまじまじと見るのはやめた。見ているところが足のところでもあるからだ。


 「足の殴られた所は何もしなくていいですよ。見た目だけなので。」


 そう言い手渡して来たタオルを受け取って洗濯機に入れる。

 お腹が聞こえてはいないと思うが鳴ってしまった。


 「リーンはお腹空いている?僕はこれからご飯なんだけど一緒にどう?」

 「いいんですか!さっきからいい匂いがしていてお腹が鳴るのを我慢していたんです。」


 グゴオォォ!とどこからか音がする。ドラムでも鳴らしたかと思った。そして、リーンはカルボナーラをジーッとみている。


 「こっちのちょっと多いのがリーンの分だよ。ほら、フォーク。食べよう。」

 「はい、ありがとうございます。」


 部屋の中央にある少し大きめのテーブルにお皿を置いて向かい合って座る。リーンはもう待ちきれ無さそうだ。

 手を合わせて「いただきます」と言う。


 「あ、いただきます。」


 リーンの村では食事の前に何をするのかはわからないがペコリと頭を下げて「いただきます」という。

 次は、待ってましたと言わんばかりにフォークをパスタの束に突き刺していく。パスタ自体食べた事があるのかしっかりと麺を絡ませていく。崩れる事がなさそうな綺麗な球を作って口の中に入れた。

 それを見て自分のパスタにソースを混ぜ合わせて食べる。適当の中でもしっかりとしている味になった。

 すると、隣で鼻を鳴らしている音が聞こえる。リーンがあったかいものを食べて鼻水を垂らしているのかと思ったが違った。


 「ぐす、あったかいな。あったかい。ぐす。おいしいな。」


 涙を流しながら、鼻水を流しながらカルボナーラをゆっくりと食べていく。一口ごとに美味しそうにそして悲しそうに食べる。 

 信頼していた家族から突然生贄になれと死刑宣告をされて、逃げたら村全体で追いかけ回されることになった。二度と家庭の料理を食べられなくなってしまうことを覚悟したんだろう。次は次で人攫いたちに商品としてみられて怪我を負わされるぐらい逃げることになる。谷に落ちて死んだと思ったら知らない異世界か。


 「ほら、麦茶も飲んどきなよ。シャワーして体の水分を失っていると思ってるし。」

 「ありがとう。ぐす。おいしい。」

 「ご飯には冷たい麦茶があうんだよ。人それぞれだけどね。」


 麦茶とカルボナーラを交互に食べては飲んでを繰り返して味わっている。

 適当な料理でもこんなに美味しく食べてくれるならこんなに嬉しいことはないね。


 「それじゃあ、ごちそうさまでした。」

 「ご、ごちそうさまでした。」


 リーンは最後に残った麦茶をごくごくと飲み干してプハーッとお酒を飲んだ人みたいに声を出した。

 

 「リーンをこれからどうするかなんだよなー。元の世界に帰るといってもあの穴は消えちゃったし。」

 「私この世界のこと知らないから追い出さないでください、、、。」

 「大丈夫、追い出したりはしないから。でも、いつまでもこのままにはいけないからね。どうしようか。」

 「どうしましょう。」


 2人がうーんと悩んだ状態が数分続いた。名案なんてただの大学生には思いつかない。


 ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!


 玄関のベルが何回も鳴る。この癖のある鳴らし方は1人しかいない。

 玄関のモニターのところを除いて確認するとその人だった。


 「こんばんわ。おばさん。夜遅くになんのようですか?」

 『大家と呼べ、明。おばさんて言われるのは嫌いだ。さっさとここを開けろ。一緒にいる異世界人のことで来た。』

 「え⁉︎何で知ってるの。」

 『理由も教えるからさっさと開けろ。あと、茶を出せ。作り置き忘れて今旦那に作らせてるから冷たいのを頼む。』


 おば、大家は僕の父親の姉であり昔から実家に帰ってくる際には玄関のベルを連続で3回鳴らす。それで誰が来たのかはすぐにわかる。昔からぶっきらぼうな喋り方であり旦那さんとは正反対である。仕事もこのマンション経営をしていることや何か他にもしているとは聞いたいたけど異世界人って何で知っているのかはわからない。

 玄関の鍵を開けると半袖半ズボンの大家がクリアファイルを持って待っていた。


 「邪魔するぞ。」

 「あ、はい。」


 全く音を立てずに廊下を歩いてリビングに向かっていく。


 「おー、今回は人狼の女の子か。ま、人に害をなすようなやつじゃなくてよかったわ。ほら、お茶を出してここに座れ明。あんたも警戒せずにゆっくりとしな。」


 大家は勝手に座布団を取って座った。そして、クリアファイルを机の上においてスマホをいじり出した。


 「はいこれ、大家さん。麦茶です。早速何が起きているのかを教えてくれませんか。」

 

 麦茶を差し出してその向かい側に座る。今の状況がどうなっているのかを問う。


 「ああ、早速だけど私はマンションの経営もしながら当然やってくる異世界の者たちの管理をしている。」


 大家は次のように語った。

 世界はいくつもあるなかで滅多に怒らないが世界と世界をつなぐ穴が繋がる事があるらしい。基本的にはアリ程度の穴しか開かないらしいが人間がすっぽりと入れるぐらいの大きさになるらしい。その穴からさまざまな生物が通って世界を渡る。しかし、異世界ということで何も知らない状態だとやってきたものや遭遇したものが危険に及んだりこの世界だとネット上で情報が出てしまう。問題を起こしてしまうことはなるべく避けたいということで世界的な組織が陰ながら発足。世界をつなぐ穴が出現したら観測と警戒を行うこと、その穴からやってくるものがいれば保護もしくは処理を行うとのこと。

 そして、今回その穴がこのマンションの僕の部屋の押し入れに穴が空いたとのこと。穴が開けば遅延はあるものの組織に伝わってすぐさま組織の人がやってくるらしい。この地域の担当であった大家さんであったのだが、「飲み屋で飲んでいた。」とのことで遅れたらしい。


 「んで、今回はお前の働きもあって安全に保護ができそうだ。あとな、お前が突き飛ばしたのは町内会会長だからな。酔ってたから記憶はないらしいけど気をつけろよ行動には。」

 「はーい。それはそうとして保護って実際には何をするの?」


 リーンはビクッとした。


 「ああ、異世界に帰りたいなら目的の異世界の穴が空いているのならそこから帰すさ。けど、何かしら事情があるやらで帰りたくないならこの世界にいるものありだが当然当分は監視付きだ。」

 「そうですか。リーンはこの世界にいたいよな。戻っても、、、」

 「はい、一族を追われてしまった私には居場所がないので。」


 大家は頷いてクリアファイルを僕に手渡してくる。


 「なら、このファイルにある書類に必要事項を書いて私のもとに朝持ってくること。それで十分だ。」


 ファイルを受け取って中の書類を見てみると名前を書く部分と契約書があった。


 「これを書けばリーンは戸籍が手に入るってこと?あと、これって監視付きになることを承認する契約書だけど大家さんの名前が入っているよ。」

 「ああ、監視責任者は一応私だが、監視者はお前だ。戸籍もここで登録だからお前はそこの娘と一緒に監視を兼ねた暮らしをしてもらうからな。ちなみに拒否権はない。私はその組織の幹部だからな。」


 ひさしぶりに会ったおばさんが世界的な組織の幹部だった件。


 「僕はこれから大学生生活をリーンとするってこと?」

 「ああ、そうだ。本人も乗り気みたいだしそうする方が面白いかなって。おい、尻尾はこのペンダントを首からかけて隠しておけ。そういう効果があるからな。耳も隠れるから安心して外出しろ。そこの小娘の生活資金は組織から援助があるから朝渡す。それじゃ、忘れずに持ってこいよ。邪魔したな」


 麦茶を一気に飲み干して大家もといおばさんは帰って行った。

 帰るのを見終わるとリーンとお互いに向かい合った。


 「明、これからよろしくお願いします。」


 ベッドの上でリーンは正座をして礼儀正しく頭を下げる。それがなんともいえない可愛さを秘めていることに顔を赤くする。


 「ええと、こちらこそよろしくお願いします。」


 突如、大学生活が1日目から一人暮らしではなく美少女との二人暮らしになることになった。人狼と呼ばれた毛並みが整っておりケモミミがちょこんと、そして、お尻の辺りからは足の長さぐらいはある尻尾が生えている美少女。この春から理系大学生として進学をした18歳の少年。


 かわいい女の子とルームシェアをすることは嬉しい限りである。



4



「さて、ちゃんと書いて来たようだな。これで受け取る。」


 言われたとおり朝に大家の部屋を訪れて、契約書などの書類を2人で手渡す。

 リーンはこの国で生活の保護を受ける事ができることになった。

 昨日の夜はお互いに疲れていたので、何もやましいことなど一斉起こらずに爆睡した。


「はい、よろしくお願いします。」

「大家さん、本当にありがとうございます。」


 大家はニヤリと笑う。かなり怖い顔を自覚してその笑顔を控えた方が社会のためだと思うが声に出せば命はないので黙っておく。


「さて、これでお前のこの国での安全は保証されたということで2人には言っておく事がある。」


 大家は僕達の下を指差して言う。


「私がここに住んでいるということはこのマンションも普通ではないことはわかっているな。お前のような異世界人、この世界に元々住んでいるような異種族のやつらしかここには住んではいない。エルフ、ドワーフと異世界の鉄板だけではないから気をつける事だ。」


「そんな気はしましたが全員ですか?」


「ああ、王族だろうと天使だろうとここではこのマンション「せいかい」ではそんな身分、種族なんて関係ない。せいぜい仲良くなるんだな。」


 大家はそれだけいうと部屋に戻っていった。


 ひょんなことから、ケモミミ美少女と一緒に生活することになった現実の少年。住んでいるマンションにも様々な種族や身分の人たちが住んでいる。

 天使、悪魔、エルフ、ドワーフ、勇者、魔王など現実にはいないような存在もいるのかもしれない。

 そこにただの人間が住むことになるのなら何も起こらないなんてアホらしいことは起きないのは明白だった。


楽しんでいただけましたか?よろしければ評価の方をよろしくお願いします。


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