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終極の撃癒師【ヒーラー】~絶対無敗の撃破スキル【撃癒】を極めた治療師。どんな病気も困難もぶん殴って解決へ~  作者: 秋津冴
第四章 ワニと女神と絶対領域

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【絶対領域】

「昼夜問わず、赤い月の光が届く場所に置いて。あなた様は時間を自在に操ることが可能となります」

「はあ? 要らないよ、そんなレアスキル! まるで神様みたいじゃないか!」

「時間に制限はございますが回数に制限はなく、使ったからといって、撃癒のように魔力の極端な減退もありません」

「……」


 それは便利な能力だ。

 だけどどれくらいの時間を――好きにできるのか。


「時間の制限は瞬き程度。しかしその中で動けるあなた様の行動には制限がございません」

「え? ……ちょっと待って。だって一瞬しか時間は止まらない?」

「時間を止めるのではなく、時間という制限から解放されるということです。瞬き程度というのはそのスキルを持たない者から見た場合の感じ方」

「いやそれなんかおかしくない? じゃあ僕はその能力を使えば無制限でどんな距離もどんな場所どんな氷だって自在に行えることになる」


 カールの問いに、ワニは短い指先を立てて、ちっちっちっと爪先を振った。

 クソ、やっぱりステーキ肉にしてやりたい。


「行動に制限はございませんが、人の身では水中でどう足掻いても、数分の行動が限度でしょう?」

「時間から解放されるってまさか……!」

「光は水、空気や風。ありとあらゆるものが時間の束縛を受けております。まあ、せいぜい一分程度、といったところかと」

「巻き戻すことも可能?」

「可能でございますな。回数に制限はございませんから、一分。一呼吸、また一分。というのも可能かと。相手側の体力にもよります。もともと持っている魔力量にもよります。なにせ、魔素は時間に制限を受けない唯一の物質でして。魔力量の多さは操れる魔素の量に比例します。このスキルを使った際、己の周囲に魔素を予め充満させておけば、より扱える時間は増すことでしょう。……このようなスキルですがいかがでございますか?」

「使うか使わないかは別として。なるべく使わないことを期待して――頂いておきます」


 使うことになったら誰かの命がかかった時だろうな。

 なるべくその能力には頼らないことにしよう。

 想いを再度強くする。


「それでは任務に関しても許諾していただけるということでございますので」


 誰も許諾してないけどね?

 無理やり押し付けられた感が強いよね?

 神様って全部こんな感じなの?

 不平不満はたくさんある。


「まだもう一つのお願い事を聞いてもらってないよ」

 冷静に伝えると、ドラエナははて? と首を傾げた。

「そうでしたでしょうか? こちらとしてはほとんどお伝えすることもお伝えしましたので」

「僕はまだちゃんとお伝えしてない」

「それでは何を望まれます?」


 それはとても簡単で些細な問題だった。

 つまらない。

 本当につまらない、はかない希望だ。


「手伝いをしてもいい。だけど死にたくない。あと妻たちを悲しませたくない。意味わかるよね?」

「示す範囲が大きすぎてよく分かりませんな」

「僕の手に負えなくなったとき。必ず助けに来てほしい。誰でもいい、あなたでも、女神様でも、聖女様でも。勇者でも。誰でもいい。僕も最終的な決戦の場に使わないでほしい。それはあなた達と神に選ばれた彼らと、神に対抗しようとする者たちと。僕の関係ないところで決着をつけて欲しい」

「……つまり、本戦には参加しないが、局地的なら、お力を貸していただけると?」


 カールはドラエナを睨むと腕を組んだ。

 局地戦?

 まさか。それを本戦にするつもりの癖に。

 そんな感じのことを表現して見せた。


「必ず誰かの助けが必要になります、必ずね! 僕は医者であって戦う人間ではないので」

「いやはや。その幼さで一つの武人の極致にありながら、何を言われますか。下手な勇者や聖騎士よりも、優れたレベルにあらせられる」

「もしそうだとしても。あのダレネ侯爵には敵わないと思うよ。ケリーと二人がかりでも」


 否が応でも巻き込まれていくだろう、黒狼の二人。

 その片方の名をカールは挙げた。

 戦えば、その半身程度は、打ち破れるかもしれない。

 慢心ではなく、武術を極めた達人の勘のようなものが、そう囁くのだ。


「撃癒と先程のスキル。その両方をうまく組み合わせれば、不可能ではないかと」

「能力だけでいえばね。戦いっていうものは長く生きてそれをより多く経験しているものの方が能力で競り合っている場合なら、より有利になるよ」


 数年前に死んだ師匠が生きていれば。

 彼女こそ、さっきくれるというスキルを手にしたら、史上最強になれただろう。

 もしかすれば魔王すらも、撃破したかもしれない。だがそれは夢だ。


 この世にない、存在することのない、単なる幻想。

 願うことすら愚かしい。


「それではあなたの知る中で最も強くもっともこの任務にふさわしい人間を一人用意するとすればいかがですか?」

「……墓の下で眠っている人間を、叩き起こすような真似はやめようよ。今の戦いは今の僕たちでやるべきだ。過去の英雄に手を借りることほど、愚かしいことはない。罪深いことはないよ」

「本当に変わった御方だ。あなたがそう願うなら、先程心に思い浮かべた人物を、あなたにより近い年齢で、この世に再び命を与えることも可能だというのに」

「それはまやかしでしょ」


 ワニは言葉に詰まった。

 嘘を言い当てられたかのように。

 偽りの幻想を見破られたかのように。


「撃癒……魔素を通じて、世界の理に触れ、奇跡を起こす。そうでしたな……何を知られました?」

「別に? 何も。例えば死霊術で死者を再生しても、あの世から魂魄を呼び戻しても、それは肉体に刻まれた在りし日の記憶を再現しただけの、人形。生きている人形であり、魂はどうやっても死神の手からは戻らない。その程度、かな?」

「人間だというのに神の領域に近づきすぎると火傷をしますよ、撃癒師様」

「だから望まないんですよ。師とはもう死別したので」


 長く重い沈黙が続いた。

 やがて、ワニは何かを決めたように、一つ肯くと、カールに告げた。


「誰かを向かわせることを誓います」

「……戦いなんて起きて欲しくないんですけどね。もし逃げられる状況なら僕は遠慮なく逃げますからね?」

「被害者を捨ててもですか?」

「まさか! 頂いた時間を好きにできる能力とやらで、みんなを逃がしますよ。もちろん僕達が逃げている時間をちゃんと、手伝いに来た人に作ってもらいますけどね!」

「抜け目ない御方だ」


 くっくっく、とワニは面白そうに笑い、そろそろ時間です、と言った。

 夢が終わる。

 そういう意味だろう。

 最後に、カールは短く質問した。


「頂ける特級スキルの名前は?」

 ワニはこれまた面白そうに笑うと、にんまりと笑って告げた。

「【絶対領域】です」

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