8 メイドのお仕事 お出迎えは笑顔が基本ですよね
「お帰りなさいませご主人様。……ワルビレル様、本日も御勉学、お疲れ様でございました」
ワルビレル様とは学園内での接触を極力控えるようにとの指示が出されていますので、残念ですが、わたしはクラスメイトですが教室内では殆ど会話を交わす事はありません。
放課後もわたしは陸上部、ワルビレル様はアニメ研究会に所属していますので、帰りもバラバラです。
ただ、陸上部が終わるよりもアニメ研究会の方が遅くまで学園に残っているようですので、わたしは部活が終わると部活の子たちと寄り道の予定が無ければ、基本的に真っ直ぐ急いで走って世間を欺く偽りの家に帰宅します。
一見、どこにでもあるような一戸建ての家です。
それからシャワーを浴び、メイド服に袖を通し、身支度を整えて、お出迎えの準備をします。
本日も、必死に覚えたカーテシーでご挨拶です。
様になっているでしょうか?
ワルビレル様からは「偽装工作なのだから、出来るだけ友人達との交流を深めて来い」とのお言葉を頂いていますが、出来る限りお出迎えや身の回りのお世話をしたいと思っていますので周りには怪しまれないように工夫しています。
「世間を欺く偽りの家では王史だ。間違えるな。誰が何処で聞いているか分からんからな」
「はい。申し訳ありません。ワ、王史様」
わたしは救出されて以来、身寄りのない孤児として育っています。
聞くところによると、わたしの事実上の両親はあれからも散財をし続け、とうとう首が回らなくなり「お父さんは山に芝刈に、お母さんは川に洗濯に行かされ、鬼ヶ島にドンブラコと流されていった」ということでした。
そのような事情で身寄りのない私は、いえ、実際には遠縁の親戚のおじさんではない親戚も、いることにはいた様なのですが、どうやら皆「そいつらはウチとは関係がない」と口をそろえて言うそうで、その子供の私は何処にも引き取り手が無かったようです。
あとから聞いた話ですが、その後にわたしの写真を見た親戚という人が何組か、わたしを引き取りたいと接触してきたようですが、窓口になってくれた方が、その方々の身辺調査をして不適格と判断した様で、丁重にお断りをしたということでした。
なので、現在わたしはワルビレル様のご厚意により普段はワルビレル様の偽装の家でメイドとして住み込みで働かせていただいています。
もちろん、学園にも届けて許可を貰ってあります。
「お風呂にいたしますか? お食事にいたしますか? それとも」
「うむ」
「アジトに行かれますか?」
「……いや、今日はもう仕事はいい。風呂にしよう」
「はい、ただいま着替えをお持ちいたします」
現在の目標。
今は準備だけですが、いつかはお背中を流させていただけるようにメイドのお仕事も精進していきたいと思います。