4 偽装学園生活 入学時の自己紹介って緊張しちゃいますよね
本日は滝グループが運営する小中高大一貫の総合学園『霊王学園』の入学式です。
一貫校といっても進級の際は試験がありますし、落第もありますので、多少有利という程度の物だそうです。
何でもこの学園の創設者が、
「一貫校といって最初に入ってしまえば後が楽などと思い、精神の成長しないまま、いざ卒業して初めて競争社会に晒され挫折し潰れてしまわないように、学生のうちから精神を鍛えておくべき」
との教育方針だそうです。
ですので、わたしのような途中編入も意外と多いそうです。
そして、マンモス校のためか、進級でクラスが変わるとお互い知らない方も多いようで……。
「それじゃあ、自己紹介をしてもらおうか。50音順で行くぞ。順番に教卓の前まで来て一人30秒から一分以内で自己紹介をしろ」
「「ええー!」」
まだ、皆お互いをよく知らないのですが、こういう時は一斉に揃った声が上がります。
「まずは俺からやって見せよう。俺はこのクラスの担任になった近藤 功志だ。専門教科は数学。大学時代、将来、安泰な生活のために経済学の株式投資を専攻した関係で金融取引の授業の時も受け持つことになっている。部活は体を鍛えるがてら、陸上部の顧問をやっている。ついでに趣味と実益を兼ねて料理同好会の顧問もやっているから興味のある生徒はいつでも歓迎するぞ」
「「……」」
わたしたちの担任の近藤 功志先生が、そういうと、教卓を離れ、窓側に置いてあったパイプ椅子に腰かけました。
何となく微妙な空気の流れる中、一人の男の子が教壇に歩み出てきました。
「青須子 建だ」
名前だけ言うとすぐに自分の席に戻ってしまいました。高校一年生にしては落ち着いた感じのする男子です。
「赤津端 海太だ! 皆、俺様と握手、待っててやるぜ!」
この方は如何にも運動系といった感じの熱血男子です。
そして、わたしの番です。
世間を欺く偽りの姿である現在の姿は、ごく何処にでもいるありきたりの女子高生です。
出来るだけ目立たないようにしなければなりません。
「阿久寺 千里です。趣味は料理と裁縫です。得意料理は肉じゃがです。どうぞよろしくお願いします」
阿久寺 千里とは世間を欺く偽りの姿として与えられた私の仮の名前です。
予習しておいたどこにでもある様なありきたりな自己紹介で無難にこなせたと思います。
あれ?
妙に視線を感じるようになりました。
何か失敗したでしょうか?
もしかして緊張のあまり気付かないうちに、何かおかしなことを言ってしまったでしょうか?
まさか! あの言動で、わたしが悪の組織の副官であることに勘づく者がいたというのでしょうか?
流石に、それはないですね。
わたしは不安げにワルビレル様の方にそっと視線を向けますが、ワルビレル様はまるで興味がないといった様子の態度をして窓から外を見ています。
もう一度、チラリとワルビレルさま、世間を欺く偽りの姿として、ここでは鉱嶋 王史と名乗っていますが、王史様……王史君の座っている席の方を見てみます。
やはり、反応はありません。
ワルビレル様の前で何たる失態。
わたしは席に座ると下を向いてしまいました。
「おいって、メチャクチャ可愛い上に、声まで可愛いじゃないか」
「癒し声だよなあ」
「なんか恥ずかしがって下向いちゃってるぞ」
「いい」
「得意料理が肉じゃがって」
「うわあ、すげえ食べたい」
「お前、どんな意味で言ってやがる」
あちらこちらの男子からヒソヒソという声が聞こえてきます。
ですが、内容までは聞き取ることが出来ない為、何かやらかしてしまったのではと非常に不安になります。
もう一度、チラリとワルビレル様、王史君の座っている隻の方を見てみます。
なんの反応も帰ってきませんでした。
……。
それからもクラスメイトたちの自己紹介は続いていきます。
「黄亥路 いこえで~す! どうぞ、よろしくお願いしま~す。部活はチアリーディング部に入るつもりで~す。頑張っている姿を見るのが好きなので。そういう人がいたら、思わず応援しちゃうぞ♪」
元気のいい小柄で活発そうな女の子が壇上でポーズを決めています。
わあ、とてもサマになっていてカワいいです。
「黒井 絵魅よ。趣味は読書」
こちらは先ほどの女のことは対照的に、スラリとした知的な感じのする女の子です。
ですが、何故でしょう?
とてもわたしたちに似ているという親近感が湧いてきます。
次はいよいよ、ワルビレル様、王史君の番です。
「鉱嶋 王史……よろしく」
最初の型と似ているシンプルな自己紹介でしたが、最初の型、青須子 建君でしたか、彼が鋭い感じのクールな印象を与える言い方に対して、ワルビ、……王史君の方はボソリと印象に残らないような言い方です。
なるほど、学園では極力目立たないようにするとおっしゃっていましたが、自己紹介はあのようにするべきだったのですね。
勉強になります。
「白尾 希瑠です。……部活は今の所考えていません」
この方は不思議な感じのする、一見何を考えているのか分からない方ですね。
それからもクラスメイトの自己紹介は続いていきました。
……
でも、何故でしょうか。
わたしはクラスメイト全員にお会いするのは初めての筈なのに、何人かの方々はとてもよくお会いしているような気がするのですが?
これは既視感というものでしょうか?