2 悪の秘密結社に拾われました
わたしは中学生のころに悪の秘密結社『邪須訂巣』の保護施設『児咲寺園』に引き取られてきました。
それまでのわたしは物心ついた時にはすでに虐待の日々をおくっているのがふつうの生活環境でした。
お酒と賭け事と母親以外の女性に奔る父親。
宝飾品とブランド品と父親以外の男性に奔る母親。
そんな二人が息が合うのはいつもわたしを虐げる時でした。
気に入らなければ叩かれ、食事を抜かれ、箱の中に閉じ込められました。
ある時、それを見かねたらしい遠縁の親戚と言うおじさんが、二人に封筒を渡し、わたしを別の場所へと連れて行きました。
その時の両親の顔が封筒の中身を確認し嬉しそうだったのが頭の隅に印象的に残っています。
始めて会った遠縁の親戚というおじさんに連れられて、新しい家に来てからは、今まで見た事も無いたくさんのキレイな服が与えられました。
おじさんはその服をわたしに着せるのが楽しい様でニコニコとしながら服を差し出してきます。
「食事をロクに与えられていなかったと心配したけど、発育は悪くなさそうで安心したよ」
白いヒラヒラとした服。
綺麗な飾りのついた色の鮮やかな可愛らしい服。
水着に鎖の突いた棒と首輪。
ときには以前の家で着ていた擦り切れた服よりも布面積のない布切れ。
そのときには決まって目の前で着替えるように言われ、その後は身体中を撫でてこようとします。
わたしはそれが嫌で避けようとするのですが、そうすると急におじさんは厳しい顔になり、人が変わったかのように鞭で叩いてきます。
その時のおじさんはいつもの貼り付けたような笑顔が消え、段々と滲み出るような笑みがこぼれて来て、何処か両親を思い出させました。
わたしの身体は硬直します。
ある時、「今日を記念日にするか」との一言で、わたしはベットの四隅に両手両足を縛り付けられて寝かされていました。
おじさんが何時にもない笑顔でネクタイを緩めながら近付いてきます。
わたしは心の底からの恐怖を覚えましたが、身体を固くこわばらせる以外には何もできません。
その時でした。
急に部屋の外が騒がしくなり、いろいろな人の声が聞こえてきたのは。
おじさんは慌てて扉へと向かい出ていったかと思うと、すぐに大きな声で怒鳴り叫ぶのが聞こえてきました。
しばらく怒号と争うような物音が聞こえ、やがて収まりました。
その後、すぐに入って来たのは真っ黒な衣装に身を包んだ変わった格好の方々と、その中心から現れたマントを羽織った軍服のような姿の、わたしと同じくらいの年頃のように見えるのに、鋭い目付きをした黒髪の少年でした。
それが、今の戦闘員の方々とワルビレル様です。
『アクゥー! (どういたしますかワルビレル様?)』
「連れていけ」
『『アクゥー! (はっ!)』』
その後はあまり良く覚えていませんが、気が付けばわたしは黒ずくめの方々に保護施設という所に連れていかれ、お医者さんに診察してもらった後、治療をしてもらい、食事が与えられました。
その時の涙を流しながら食べたスープの温かさと美味しさだけは今でも忘れることが出来ません。
そして、後に知ることになったのですが、ここは悪の秘密結社『邪須訂巣』の世間を欺く偽りの姿の保護施設の一つだったということで、わたしは教育を受け、ある大幹部の副官、兼、お世話係として着任する事となりました。
それが、あの時私を救い出してくれたワルビレル様だったのです。
わたしが15歳になったころのことでした。