12 番外編:非情! 戦闘員殺し
俺は秘密結社『邪須訂巣』の上位団体の幹部として、△△支部の査察を行なう事となったエージェントである。
コードネームは俳優だ。
この組織には影で『戦闘員殺し』と呼ばれている女幹部がいるという。
その魔の手からは誰も逃げられないという戦闘員の間での噂だそうだ。
悪の秘密結社としてはなかなか頼もしい限りではないか。
おそらくは失敗には制裁を無表情で課す冷酷な女なのだろう。
俺は今回、△△支部に幹部候補の研修生としてここの副官メグシテゴナを評定すべく潜入調査をすることとなった。
どんなキツいメイクのケバいビキニねえチャンであろうか……。
◇
「はじめまして、△△支部、ワルビレル様の副官を務めさせていただいております、メグシテゴナと申します」
「……」
(こう来たか)
見た目は虫も殺さぬような見るからに大人しそうな少女と言っていい、清楚そうな礼儀正しい長い黒髪の女だ。
だが、長年査察をしている俺様の目は誤魔化されない。
こうやって表面上は人畜無害を装って、実態は冷酷非情というのが当たり前の世界だ。そして、それが求められる資質ともいえる。
そういう意味では、まずは合格と言えよう。
俺は着任早々、監視を開始した。
◇
「まあ、戦闘員11ZAKOさん怪我してるじゃないですか!」
『アクゥー! (いっ、いや、こんなのかすり傷ッスよ。舐めておけば治るッス。はははっ)』
「駄目ですよ! ほら、こっちに来てください」
通路で、戦闘員が一人、例の女幹部に引っ張られて連れていかれる所を見かけた。
『アクゥー! (うおおっ! しみる!)』
しばらくしてから、先程の戦闘員らしき男の悲鳴がかすかに聞こえてきた。
どうやら、何か失敗をして制裁を加えられているに違いない。
俺は気付かれぬよう、その場を離れた。
「ほら、思ってたよりも怪我が酷いじゃないですか。ちょっとだけ我慢してくださいね。ふうー、ふうー。痛いの痛いの飛んでイケー! はい、これで大丈夫ですよ」
『アクゥー! (おおっ、痛くなくなったッス)』
……。
◇
「あら? 戦闘員11MOBUさん、戦闘服の膝のところがほつれてますよ」
『アクゥー! (あちゃー! 潜入工作の時にひっかけちゃったんだなこりゃあ)』
「繕いますので、今すぐ脱いで下さい!」
『アクゥー! (いや、えっと、補修班にまわすからいいですよ)』
「駄目ですよ! そうやって後に回そうとするんですから。ほら、はやく脱いでください!」
何やら、遠目で戦闘員を脱がそうとしている場面に遭遇した。
『アクゥー! (えっ、いや、副官殿の前ではちょっと……)』
「問答無用です」
容赦がない様だ。
もう少し近づいて会話を盗み聞きしてみる。
「こういう小さなほつれが、引っ掻けたりしてすぐに大きくなるんですよ」
『アクゥー! (すっ、すみません。ですが、勘弁してください)』
「ほら、こっちに来てください」
小さな解れ? どうやら、あの戦闘員は小さなミスをして副官から懲罰を課せられ脱がされているようだ。
そのまま戦闘員は女副官に連れられて、おずおずとした態度で部屋へと入っていった。
なるほど、小さなミスも許さないとは。
……。
◇
俺が夜中、上部組織に報告書を提出する為に書類仕事に向かっていると、ふと部屋の入口のところに気配がした。
俺はすぐさま隣に置いておいた剣に手を掛ける。
「あの、メグシテゴナです。少し宜しいですか?」
なんだ、こんな時間に?
まさかとは思うが、正体がばれての懐柔か?
だとすれば、食えない女だ。
俺は油断せず扉を開けた。
「何か用か?」
「お疲れ様です。何となく目が覚めてしまって、飲み物を飲みに廊下に出たら、部屋から光が漏れているのに気が付きまして。夜中までお仕事大変だなあと。これ、わたしの手作りで申し訳ありませんがお夜食です。よろしければ召し上がって下さい」
「!」
やはり、これは俺が査察をしていることを見破っての買収工作だろうか?
いや、そんな筈はない。
トレイの上の物を見る。
握り飯と味噌汁というシンプルなものだ。
買収にしては陳腐過ぎる。
俺がトレーを受け取ると、女副官はすぐに部屋をあとにした。
俺は徐にトレイの上のものに手を伸ばす。
「……!」
うっ、うまい!
……。
◇
―― 数日後 ――
「戦闘員、11AKUTAです! よろしくお願いいたします!」
俺はすぐに『邪須訂巣』△△支部への長期出向を決めた。
ーー この組織には影で『戦闘員殺し』と呼ばれている女幹部がいるという。その魔の手からは誰も逃げられない ーー




