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第7話 新種誕生

「さて、めでたく称号持ちになったカンだけど、ここでもう一つ決めなければならないことがあるんだ」


「ん? 決めなければならないことだと? 割と真剣な顔をしているが、それだけ重要な事という事か?」


 デスクの上に置いてあるボコボコのカンを見ながら、イチカは真剣な眼差しで何かを考えている様子だった。

 

「根本的な事なんだけど、カンって何者?」


「何者とは?」


「簡単に言えば、種族的なもの何だけど。空き缶ってのは、見たら分かるんだけどね」


「唐突だが、確かに空き缶であるのに間違いはないな。しかし、種族なんてものは生まれた時に既に決まっておるものではないのか? 種族の選択等が、そもそも出来るものなのか?」


 カンの最もな問いに対して、イチカは少し困った顔をしながらゆっくりと口を開いた。


「自分で言うのも何だけど、取り敢えずのノリでカンを空き缶に転生させたわけなんだけども、そんな生物が、この世界には、今まで存在していなかったわけだよ」


「お主が、絶対言っては駄目なやつだな。という事の上に、ノリで空き缶転生させるとか絶対してはならんやつであろう。この怨み、はらさでおくべきか」


「小さい事でガタガタとうるさい缶だねぇ。それでも、空き缶かい?」


「空き缶だな」


「空き缶だね」


「……」


「……という事で、今からカンの"種族"を決めようと思う! ゲームのキャラメイク的なノリで!」


 イチカは力強く握り拳を作りながら椅子から立ち上がり、先ほど使っていたホワイトボードの前に歩いて行くと、ホワイトボードの裏表をひっくり返した。そして、次々と種族について書き出していった。


「これは……」


「カンが選択出来る"種族"候補は、以下の通りだ!」


 ①宇宙からの使者

 ②新種の宇宙生命体

 ③うっかり空き缶に擬態した宇宙人

 ④空き缶に転生した元人間

 ⑤空き缶に受肉した下級魔族

 ⑥その他(新種の空き缶)


「宇宙人多い!? というか、ちゃんと正解があるではないか、迷うことなく④であろう。あと"⑥その他(新種の空き缶)は、雑が過ぎるぞ」


 ホワイトボードにイチカが書いたカンの種族候補は、全部で六種類であった。


 しかし、カンのツッコミを聞いたイチカは、少し目を瞑り考え込むと、次々と書き出した種族候補の上から横線を引いていき、結局二つの候補以外は全て横線が引かれた。


「④と⑥以外は、悔しいが(・・・・)やはり無理がありそうだね。流石にここまでの無茶は、例え()でも世界の理が認めてくれないか……」


「なら、何故書いたのだ……」


 カンは、イチカの言葉を聞いて呆れていた。


 しかしイチカは表情には出さなかったものの、内面では多少なりとも落胆している様子だった。


 自身の"神核の欠片"を分け与えた存在であるカンに対して、どの程度の無茶が世界の理に許容させられるかどうかの確認をしていたが、ホワイトボードに候補を書き出した際に、二つの選択肢以外は全くの手応えを感じる事が出来なかった。


 この世界の創造者(マスター)と同属性を持った存在であったとしても、あまりにも矛盾が生じる事やあり得ない事象は、世界の理は認められる事はなかったのだ。


「欠片程度じゃ、自由にはさせないって事かい……」


「どうした、やけに悔しそうな顔をしているが」


「いや、何でもないさ。さて、この二つのどっちかがカンの種族になるんだけど、どうする?」


「いやいや、普通に考えて④であろう?」


「まぁ、普通に考えて一択だよね」


 二人の言葉が一致したところで、イチカは満足そうに頷くと天井に視線を向けると、大声でカンの種族を宣言したのだった。


「カンの種族は"新種の空き缶"族とする!」


「だろうね! そんな気がきたわ! が!? カァアアアアン!?」


 カンが激しくツッコミを入れた瞬間、室内であるにもかかわらず、カンに稲妻のような光が落ちたのだった。


 "新たな種族『喋べる空き缶』が誕生し、発見されました"


 "カンは種族『喋べる空き缶』を獲得しました"


 しばらくするとカンのボディから光が消え、先程までと全く同じ状態に戻っていた。


「今のは……何だったのだ……」


「おめでとう。カンの種族が世界の理に登録されたという事だよ。『"喋る空き缶"族のカン』になったと言えば、わかるかい?」


「喋る空き缶族って……それって種族としてどうなのだ? さらに言えば、個体が一体しかいない時点で、それは"族"なのか?」


「そんなのはノリだよ、ノリ。世界の理に対して、ツッコミ入れてたら先に進まないよ?」


「それでいいのか、世界の理よ……」


 カンは、世界の理に対してややポンコツ臭を感じながらも、余計な事は口にしないと決めていた。


 ノリで更に何か決められたら、たまったものではないと思っていたのだった。


「結局、お主が勝手に決めた種族だが、種族としての『喋るの空き缶』とは何ぞ?」


「『言葉を話す事が出来る空き缶』でしょうよ。それ以外に、何があるのさ?」


「でしょうよ、ではないわ。文句を言ってもどうせ変わる事はないだろうから、この際その事は良いとして、今までに我の様な生き物はいたのか?」


「Tシャツを着た人間に潰されたカエルが平面ガエルになり、言葉を話しぴょんぴょん跳ねたという新種発見報告を知っているかな」


「発見報告て……アレはそうなのか?」


「あの生命体は、カンの先輩とも言える様な存在だね」


「……平面ぇええ……我は魔王になりたいのだが……」


「ど根性だ」


 イチカのドヤ顔をみたカンは、先輩の偉大さを感じながらも、自分と先輩の決定的な違いを悟ってしまった。


「先輩……そもそも我は、先輩の様に動けるのか?」


「カエルは『跳ねる』、空き缶は?」


「転がる?」


「『蹴られる』『潰される』『捻られる』『投げられる』」


「『られる』ばっかりぃいいい!?」


 今のカンは、単なる"喋る空き缶"過ぎない。その為、自ら動く事は出来るはずもなく、その場から移動したい場合は、誰か別の物の協力が必要不可欠だったのだ。


「そうだ。だから気付かないか?」


「一人じゃ何もできないぃいい……」


「ザッツライト!」


「ホワッツ!?」


「だから必要だろ? 同じ夢を追いかけてくれる相棒がさ」


 イチカはそう言うと、カンに向かって不敵に微笑んだ。


「まさか、イチカ……我は、一人じゃない!?」


 "空き缶は一人で動けない"その事実を知ったカンは、絶望の闇に堕ちそうになった。


 しかし、一筋の光が差し込むような言葉が、カンのボディに響いたのだった。


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