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あすきぃ!  作者: 海月大和
第1話
7/23

ギコの受難⑦

 えと、皆さんこんにちは。イマリです。


 僕は現在、ギコさんの家の台所を借りて、鍋の下ごしらえをするしぃさんの手伝いをしています。


 さっきまでは生きた心地がしませんでしたが、どうにか豆まきなんていう恐ろしい行事に巻き込まれずに済み、今はすごくほっとしています。なんだかんだ文句を言いつつもフォローしてくれたギコさんに感謝です。


 ていうか、僕なんかの独白が必要なのかなと疑問に思ったりもするんですが、今はそれよりも気になっていることがあるんですよね。


「あの~、さっきから銃声みたいな音が聞こえませんか?」

「そうねぇ。とっても賑やかねぇ」

「あの~、さっきから怒声とか高笑いとかが聞こえてませんか?」

「そうねぇ。とっても楽しそうねぇ」

「え~っと……その、全然気にならないんですか?」

「そうねぇ。だって、いつものことだもの」

「そっ、そう、なんですか……?」

「そうなのよ」

「はぁ……そうなんですかぁ」


 ああいった大騒ぎも、いつものこと、の一言で片付けられてしまうようです。なんというか、日頃のギコさんの苦労が偲ばれます。


「イマリくん、そこのお豆腐とってちょうだい」

「あ、はい」


 とりあえず、台所はとても平和です。






 近所迷惑な銃声轟くここはまさしく戦場。


 俺ことギコは何故か『THE・MAMEMAKI』という名のサバイバルゲームに強制参加させられ、理不尽な戦力差に苦しめられていた。


 しかし、そんな絶望的な状況に一筋の光明が差し込む。なんと現状を憂えた弟者が新たな武器を授けてくれると申し出たのだ。


 果たして俺たちは新兵器を手に、憎き鬼役にして諸悪の根源、兄者に反撃を試みる。


 以上、これまでのあらすじでした。


「ぶつぶつと何を言っているのだギコよ」

「何でもない。で、今度はどんな武器をくれるんだ?」

「うむ。これだ」


 弟者が鞄から取り出したのは、拳銃よりも二周りは大きい銃だった。


「短機関銃、サブマシン豆丸ズガンだ。これで少しはまともに戦えるはずだ」


 相変わらずのネーミングだな……。


「おお! 強そうじゃん! 割と軽いし」


 早速フサが手にとって感触を確かめる。弟者は俺に同じものを手渡しながら、説明を始めた。


「軽量で比較的扱いやすい銃だ。反動も抑えてあるぞ。安全装置はここ。これを外せばすぐに撃てるようになっている。ただ……」

「おっしゃ食らえ兄者ぁ!」


 新しい銃を手に入れてテンション上がっちゃったフサが、弟者の説明を最後まで聞かずにぶっ放した。


 パラタタタタタ! カカカカカカン!


「あっ、ずりぃ! あいつ盾なんて持ってやがった!」

「マジかよ」


 そもそもあれはどこに隠してたんだ?


「いやでも、盾を使うってことはその銃が効くってことじゃないか?」

「なるほどそうか! お~らおら~!」


 俺の言葉を聞いてさらに勢い付いたフサが、バリケードから身を乗り出しなおも銃をぶっ放す。俺もここぞとばかりに、フサと一緒になって兄者へ銃撃を加えた。



「おい二人とも! ……まったく。説明は最後まで聞いてほしいものだな」


 弟者が何か言っているようだが、耳元で弾ける銃声でよく聞こえない。それよりも、二人がかりの攻撃によって兄者の持つ木の盾がボコボコに凹んできていることの方が、俺たちにとっては重要だ。


 もしかして、このまま押せば勝てるんじゃないか?


「おっしゃ畳み込めー!」


 同じことを考えたのか、フサは身を隠すこともせず、攻撃に集中している。


 だが。


 カチッ。カチッ。カチッ。


「あ、あれ?」


 フサの銃、遅れて俺の銃が豆を吐き出さなくなってしまった。出るのは引き金を引く軽い音だけだ。


「だから説明は最後まで聞けと言ったのに。フルオートで撃ち続けると十秒ほどで弾倉が空になるのだ」

「「……マジで?」」

「嘘を言ってどうする」


 あはは、そういうことは先に知っておきたかったなぁ。


「ということで俺のターンだ!」


 ドッバゥ!と再びショット豆丸をぶっ放し始める兄者。


 くそぉ。主導権があっちにいってしまった。弾切れさえなければあのまま押し切っていたのに!


「っておい、ちょっと待て! おかしいだろ! なんでアイツは弾切れしないんだよ」

「兄者の銃はカートリッジ式で、しかも代えが沢山あるからな。弾切れはまずないぞ」

「なんでアイツだけそんな至れり尽くせりなんだ!?」

「それはアレだ。ボスが簡単にやられたりしたらつまらないから」

「いいよ! 別に弱くていいよ! むしろ大歓迎だよ! さも当たり前って感じに言うけど、ボスキャラが弱いとがっかりするだろうとかそんな心配りはいらないからな!?」


 おかげで手が付けられなくなってしまっている。攻撃も防御も高くて弾切れなしの相手をどうやって倒せというのか。


「あんなもん、どうにもならねえじゃねえか」

「いいや、手はあるぜ」


 サブマシン豆丸のマガジンを交換しながら、フサが言う。


「本当か?」

「ああ」


 いつになくハードボイルドな感じのフサの声。どうやらふざけている訳ではないようだ。


「このままここで縮こまっていても何にもならねえ。打って出るべきだ」

「それが出来ないからこうして隠れてるんだろ?」


 少しでも顔を出したらすかさず撃ち抜かれる。それは、今までの銃撃戦で身に染みて分かっていることだ。フサだって、その程度のことを理解していない筈がない。


「やり方によるだろ? 二人で同時に、それも反対側から飛び出したら?」

「どっちを狙うか迷って、隙が出来る……?」


 こくりとフサが頷く。俺は唸った。確かに、今の状況では一番有効な手かもしれない。どっちみち、あっちの弾が切れるよりこっちの弾切れの方が早いのだから、持久戦は勝ち目がないのだ。


「なるほどな。悪い手じゃない。けど、その方法だと……」

「ああ、俺かお前のどちらかが確実に犠牲になる」


 そう。兄者に隙が出来ると仮定しても、恐らくその隙は一秒にも満たない。結果的に鬼を倒すことは可能だろうが、無駄に高い射撃スキルを持つ兄者にかかれば、飛び出した一瞬後には俺とフサ、どちらかが撃ち抜かれるだろう。


「どうしたギコ? まさか、怖気づいたのか?」


 バリケードに凭れたフサが、考え込む俺を流し見て口角を上げる。バリケードに複数の弾が着弾し、派手な音が鳴った。


「そういう訳じゃないけどよ。いいのか? もしかしたらお前がやられるかもしれないんだぞ?」

「何言ってんだ。そりゃお前だって同じだろうが。俺はもう覚悟決めたぜ。ほらよ」


 軽い口調で言って、フサは余ったマガジンをぽんと投げて寄越した。


「……そうか、そこまで言うなら俺も文句はないな。もしお前が撃たれても、俺を恨むなよ?」


 マガジンを受け取り、弾の交換を終える。


「はっ。そりゃこっちの台詞だぜ」


 ニヤリと笑ったフサは、拳を握り、顔の前まで持ち上げた。俺もそれに倣う。ゴツンと、鈍い音を立てて、拳と拳がぶつかり合った。


「スリーカウントで飛び出すぞ、ギコ。ゼロまでは数えねえから、タイミング間違えんなよ」

「ああ、分かってる」


 緊張に汗ばんだ手から武器が落っこちないように、グリップを強く握り締める。


 足に力を溜め、俺はフサの合図を待った。


「よし。お前は右、俺はここだ。3・2――」

「おい待て。今なんて言った?」

「――1・GO!」

「GOじゃねえよバカヤロウ」


 パァン。


「あだっ!」


 ツッコミとともに一発、裏切り者の後頭部に発砲。俺の怒りよ届け。


「おい俺を撃つなよ!?」

「やかましい。お前一分くらい前に『俺はもう覚悟決めたぜ』とかなんとかカッコつけて言ってたよな? ハードボイルドな雰囲気を漂わせながら。あれは何だ。俺の聞き違いか?」

「待て。誤解だ。おれの言った覚悟ってのはそういうことじゃない」


 憤怒のオーラを纏う俺にたじろぐも、フサは必死に抗弁してくる。


「じゃあどういうことなんだ? 言ってみろ」


 反論があるなら聞こうじゃないか。


「お前を踏み台にする覚ごぅっ!?」

「そんなものはドブに捨ててしまえ」


 たわけたことを言い放ったフサに右ストレートを炸裂させる。友の裏切りという悲しみを乗り越えた俺のパンチは銃弾よりよほど強烈だったことだろう。


 フサは殴られた頬を押さえて言った。


「ふっ。この一発でチャラにしてやらあ」

「それはお前がいう台詞じゃねえよ」

「いつものことだが、懲りない男だな……」


 成り行きを見守っていた弟者が呟く。


「しかし、あれでギコが囮になっていれば、フサが兄者の隙を突けたのではないか?」

「それで終わっちまったらやりきれねえよ」


 こくこく頷いているフサを視線で大人しくさせて、俺は言った。俺だって好き好んでやられ役をやりたくはない。さっきの作戦は平等にリスクを背負うという内容だったから承知したのだ。


「そうか? もしかしたら名誉の負傷を負ったと聞いて、しぃが膝枕しながら傷を治してくれるかもしれんぞ?」

 なん、だと……?


「……。いやいや、ないな。それはない」

「否定までに少し間が空いたようだが」

「うっさいわ。撃つぞ」

「それを持って言われると笑えんぞ……む?」

「ん?」


 ホールドアップしている弟者に銃口を突きつけていると、なにやらフサの様子がおかしい。とても真剣な顔をして念入りに銃の点検をし始めたのだ。


「おい?」


 呼びかける俺の声も届かないほどに、フサは作業に集中していた。


「ギコ、聞いてくれ」


 やがて、点検を終えた彼は、力強い目で俺を見てこう言った。


「俺が囮になる」


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