番外・ハロウィンの夜③
「トリック オア トリートメント!」
「……リンスインシャンプーじゃダメか?」
ドラキュラ伯爵の仮装でズレたことを言うモララーへ、俺は至極冷静に答えを返した。
あえてツッコミはなしだ。というか、ここまで予想通りの行動をしてくれると俺もツッコミを放棄してボケたくなるんだよ。いいだろ? たまには楽をしたって。
「ふむ。弱酸性ならば良し」
バサッ!と艶のある高そうなマントを翻し、モララーは厳かに告げる。
「なるほど。ボケだと分かってはいるんだな」
「ボケはボケでも天然ものだけどね。本人は至って真面目だよ」
モララーの隣で、キョンシー姿のモナーが顔の札を捲って笑った。柔和な笑顔に不釣合いな牙が、口の端から生えている。
「そういえば、つーはどうした? 一緒じゃないのか?」
モララー、モナー、つーは三人でつるんでいることが多いのだが、今日はつーの姿が見えない。遅れて来るんだろうか。
「つーなら今日は来ないぞ」
と思ったら、モララーがこともなげに言った。
「誘いはしたんだけど、断られたんだよね」
モナーも、困ったもんだ、という風に肩をすくめる。
「へえ。そりゃまたどうして?」
「ええとね……」
モナー:ハロウィンの衣装、用意してみたよ。魔女と妖精があるけどどっちがいい?
つー:ぶふっ!(お茶噴出) アホか! そんな露出の高ェ服、着れるわけねェだろが!
モナー:いいじゃないか。ほら、サービスだと思ってさ。
つー:サービスの意味が分からねェ……。とにかく、俺はそんな服死んでも着ねェ!
モナー:つー。
つー:なんだよ?
モナー:もしかして魔女より子悪魔の方が……
つー:うっせェ! 死にさらせ!
モララー:キョンシーはとっくに死んでいるが。
つー:んーなこたァ分かってるっつーの! ……あ~、寝る! もう帰って寝るぞ俺ァ!
「とまあ、こういう感じで」
「ああ、そりゃお前が悪いわ。確実に」
今のやりとりでお分かりだろう。モララー、モナー、つーの三人の中で、一番まともなのがつーだ。言葉使いは荒いが良識がある。その分苦労しているようだが。
「賑やかだけど、もう皆来てるの?」
玄関口から奥を覗き込みながら、モナーが聞いてくる。俺もリビングの方へと首を巡らした。
「ああ、狼男とミイラ男と透明人間なら中にいるぞ」
黒猫と飼い主はドライブという名の決死行に旅立ったけどな。……ってか、イマリはまだ無事なのだろうか。心配だ。
「ふむ。では、お邪魔させてもらうが、いいか?」
「ん? おう。入れ入れ」
モララーが玄関に足を踏み入れる。吸血鬼って招かれないと家の中に入れないんだったっけ? そういう設定もちゃんと守る訳か。相変わらず律儀だな。
「あ、ちゃんと差し入れはあるからね」
モララーに続いて敷居を跨いだモナーが、コンビニ袋をがさりと揺らした。
「そりゃ助か……待て。その格好でコンビニ入ったのか!?」
すげえなおい。ちょっと間違ったら奇抜な格好のコンビニ強盗だぜ?
「よく捕まらなかったなお前ら」
「通報で駆けつけた警察の人が稀に見るお人好しだったからね~」
「ハロウィンの仮装だと言ったらお菓子をくれたぞ」
「軽いなぁ、警察……」
そんなんで町の治安を守れるのか?
リビングに入っていく二人を見ながら、この町が変わっていることを改めて実感する。
「さて」
俺も中に戻ろう。そう思って、開きっぱなしにしたドアのノブを掴む。すると、がちゃり、と隣りの部屋のドアの開く音が聞こえた。
「あっ……」
しまった、といった声を出したのは、カボチャのマスクを被り、ローブを羽織ったお隣さんだ。桃色の髪がどうにも隠し切れていない。
「えと……」
タイミング悪く発見されてしまい、戻るに戻れなくなった彼女は俺の傍に寄ってきて、
「お、お菓子をくれなきゃイタズラするぞ~……」
弱々しい感じで脅し(?)てきた。当たり前だが全然これっぽっちも怖くない。
「えっと……。い、イタズラしちゃうぞ~!」
反応がないことに戸惑いつつも、しぃは俺をなんとか脅かそうとする。うん、素の君じゃどうやっても人を怖がらせるのは無理だと思うんだ。
「……」
すぽっ。
「!?」
パンプキンマスクを外してみる。
「なぁ」
そしてめっちゃびっくりって顔をするしぃに、俺は言った。
「頭撫でていいか?」
「えっ!?」
この後に控えるお馴染み!ドッタンバッタン大騒ぎ!の前に少しくらい癒やされたっていいでしょう? でなきゃ今夜を乗り切れる気がしないのです。
「えっと、その。ちょ、ちょっとだけなら……」
若干恥ずかしそうにもじもじするしぃさん。いいね! その恥じらいはとってもグッドですよ!
ひとしきりナデナデして活力を得た俺は、凝りもせずバカをしようとするお騒がせハッピーセットどもに無駄と分かりつつも牽制の言葉を発する。
「お前ら少しでも調子乗ったら簀巻きにして外に放り出すからな!」
ハロウィンの夜はまだ始まったばかりである。
おわり




