番外・ハロウィンの夜②
「くっそぉ! 来るな化け物ォ!」
響いた銃声は二発。着弾した銃弾はそいつの足を一瞬だけ鈍らせる。が、それだけだ。
「くそっ! くそっ! くそっ! くっそォオオオオ!!」
等間隔の叫び。等間隔の銃声。やがて弾を撃ち尽くした男は、がたがたと震える手つきでマガジンを交換しようとする。落ち着いていれば数秒で済むはずの動作だったが、恐怖に染まった男の体はいつも通りの動きをしてくれない。そして、にじり寄る怪物にその男は――
「リロードが遅いな」
「うむ。それに無駄撃ちも多い」
「ってか、ぶん殴った方が早えだろ」
モンスター系ホラー映画を鑑賞するモンスターズ。なんの冗談だ一体。
俺の部屋に上がり込んだ途端にくつろぎモード全開になったモンスター達は何故か、どこからか引っ張り出したホラー映画を仲良く見始め、なんだかんだで夢中になってしまった。
ははっ。微妙に仲間外れっぽい俺はどうすればいいんだろうな。誰か教えてくれよ。
ピンポーン。チャイムが鳴る。
またか。今日はよくよくこの音を聞く日だ。
三匹からちょっと離れた場所でテレビを眺めていた俺は、あんまり歓迎したくない客を出迎えにいった。
どうせあれだろ? モララーあたりがドラキュラの仮装して「トリック オア トリートメント!」とかズレたこと言うんだろ。
覗き穴には悪いが、俺は確認作業をする気もなくしていた。
「はいはい。どちらさまですか」
若干投げやりな感じで言いつつドアを開く。
「よう! 元気か!」
「こ、こんばんは。ギコさん」
「……」
うん。イマリは分かる。黒猫の仮装して頭に黒猫乗っけてるけど、イマリは分かるよ、うん。
で、この狐の耳っぽいとんがりがあるヘルメット被った黒ライダースーツのお方は何がしたいの? 強盗?
っていうか、腰に片手を添えたモデル立ちがものすごく似合うこの人物はもしかしなくても、
「大家さんだよな?」
「おう。ハロウィンだっつーから仮装してきたぜ。なんだっけ? バトルオアトリート?」
「戦いか悪戯かってどんな脅しっすか!?」
マジで物騒だよこの人。さすが、人類最強を目指すだけはあるぜ。しかし……。
「その仮装は一体なんの……?」
「ん? これか?」
ライダースーツの裾を引っ張って、大家さんは言う。
「これはな、首なしライ……」
「アウトォオオオオ!!」
俺は力一杯セリフを遮った。
ダメだ大家さん。それはダメだ。仮装は仮装でもそれはちょっと方向性違うから!
「なんで素直にデュラハンにしとかないんすか!?」
「なんで? そんなの決まってんだろ」
問い詰める俺に、大家さんは飄々と答える。
「面白いからだよ」
にやり、とヘルメットの向こうの口元が楽しそうに歪んだ。
「でしょうね……」
こっちだって知ってるよ。あんたがそういう人だってことは。くっそ、言ってる事は無茶なくせに格好良いのがなんかムカつく。
「よし! イマリ! 気が済んだからドライブ行くぞ!」
「えっ? い、今からですか!?」
大家さんの横で、恥ずかしそうに縮こまっていたイマリが飛び上がった。
そりゃそうだ。大家さんはまだしも、イマリは黒猫の仮装をしている。バイクで走ったら人目を集めるのはまず間違いない。
「心配すんな。どうせ普通の奴にゃ見えねえくらいかっ飛ばすから」
「どんな速度で走る気なんですか!?」
「法定速度の三倍」
「そんな無茶な! 死んじゃいますって!」
「無茶かどうかはやってから考えんだよ。いいから行くぞ」
「いやいやいや! やらなくても分かりますから! 僕を巻き込むのは勘弁してくださいよ!」
やいのやいのと言い合いながら、イマリと大家さんは俺の元から去っていく。
「イマリ。死ぬなよ……」
とりあえず、哀れな黒猫の無事を祈っておいた。




