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セカンド・カース  作者: ONION
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第1話 雨

(ん…、なんだ、暖かくて、ふわふわしてる…、何があったんだっけ────キヒャヒャヒャッ!)


「や、やめろっ!!くるなぁっ!!!」


「おおっ!?ったく、目ぇ覚めたか坊主」


「…て、…え?ど、どこ?だれ?」


目を覚ますと全く身に覚えのない部屋のベッドで横になっていた。声がした方向へと目を向ける少年、そして驚愕する。


(きょ、巨人がいる!なんだどうなってるんだ何が起こった!)


「安心しろ、坊主になにかしたりはしねぇよ」


少年のあまりの狼狽ぶりに、太陽のような黄色の髪を持った三十歳程の大男は苦笑しつつ立ち上がる。


「ひぃっ!」


「おいおい…、立ち上がっただけだろうよ…、俺はバケモンか何かなのかよ…」


「あんたがその凶悪なニヤケ面でいきなり立ち上がったら大の大人でも腰を抜かすでしょうよ」


今度は大男の後ろの扉から、二十代半ば程のまるで深海のように深い青色の髪の女が現れた。


(き、綺麗な人だ……、じゃなくて!!なんだこの状況は!拐われた?!まずい!まさか奴隷にされるんじゃ…)


「安心して、私たちは君に危害を加えたりはしないわ、むしろその逆よ、一旦落ち着いて」


「そ、そんなの信用できるわけが…!」


そこまで言ったところで、ハッと事の顛末を思い出した少年。

(そうだ…雨が降ってきて、魔獣に襲われて…)

すると女がゆったりとした口調で口を開いた。



「思い出した?キミ、災魔に選ばれちゃったのよ」


(災魔に…選ばれた…?どう言うことだ?)


「災魔の呪いって知ってる?」


「災魔の、呪い…?」


生まれてこの方スラムで生きてきた少年にとっては初めて聞く言葉だった。それも無理はないだろう、何せあそこの人間はその日を生きることで精一杯だ。おそらくあそこで暮らしている者で災魔の呪いとやらを知ってる人間はほとんどいないだろう。少年の反応を見て知らないことを悟った女は口を開き、


「災魔の呪いって言うのは、とその前に自己紹介がまだだったわね、あたしはミランダ、宜しくね」


まだ名乗っていなかったことを思い出し、先に自己紹介を済ませ、大男もそれに続く。


「そんで俺がライアンだ、宜しく頼むぜ坊主」


「う、うん…」


少年はまだ状況が飲み込めていない、いや、落ち着いてはきたが如何せん自己紹介などやったことがないのだ。そして当然のごとく、


「それで、君の名前は?」


ミランダにそう問いかけられる。そこでようやく気づく少年。なるほど、名前を名乗りあうのか。

分かったは良いが少々バツが悪そうに少年は口を開いた


「名前は、ないんだ。その、物心ついたときから孤児でずっと一人だったから…」


なんとも言えない空気が一瞬場を支配するが、


「マジかよ坊主!それなら俺らが名前つけてやるよ!これも何かの縁だしな!」


「ちょ!ライアン!」


「いいじゃねぇかミランダ!名前がないなんて不便で不便でたまったもんじゃねぇだろうしよぉ!」


深くため息をつくミランダ、自分の提案に満足げに頷くライアン、そしてこの展開についていけない少年。


「まぁ、それもそうね、ただ適当なのはつけられないからしばらく考えるわよ」


あれよあれよと言うまに自分に名前がつくことが決まってしまった。わけがわからなかったが不思議と嫌な気分はしないものだ。むしろ名前を貰える事が楽しみな自分がいる。


「あの、ありがとう…」


少年の言葉を聞いて思わず微笑む二人。

そして話がずれていたことを思い出すミランダ。


「あっと、それはそれとして災魔の呪いのことだったわね」


「あ、うん」


少年もそうだったとばかりに相づちをうつ。


「災魔の呪いって言うのは災魔が人に対して付けるマーキングみたいなものよ。いわばお気に入りってやつね」


(なんだそれ?どういうことだ?)


「魔獣は人を食べるんじゃないの?」


「そう、普通はね。ただ知能を持つ上位の魔獣、災魔の中でも特別な個体がいくつか確認されているの。そういった個体は何故かその場で殺さず自分の魔力を傷口に刷り込んで立ち去ることがあるのよ。まぁ、それでも普通はその魔力に耐えきれず死んじゃうんだけど。」


「でも俺は…」


「そう、生きてる。まぁ私が女神の祝福持ちで治癒術を全力で使ったからだけどね!」


「そ、そうなの!!ありがとう!!」


少年はミランダが命の恩人だと知り勢い良く頭を下げる。それを見たミランダは苦笑しつつ、


「いいわよ、別に、というか正直あたしが術を使わなくてもたぶん無事だったろうし」


その言葉に首をかしげる少年。


「え?まさか気づいてないの…?キミも治癒の祝福持ちじゃない。私は念のため少し治癒をかけたくらいでほとんど自分自身の魔力で治したのよ?」


「っ?!」


だが、驚きは一瞬だった。


「そうだったんだ……」


確かに言われてみれば思い当たる節はある。廃屋の天井から落ちて骨折したときも、見知らぬ奴にボコボコにされたときも、背中をナイフで切られたときも、二日とたたず傷が完治していたのだ。

なるほど、これは女神の祝福だったのか。

そしてそこにライアンが声をかける。


「祝福持ちは一万人に一人って言われてんだぜ?そんな能力もったやつが何でまたスラムなんかで暮らしてたんだか…」


そうは言われても気付いたらそこにいたのだから仕方ない。少年にはそこに適応するしか生き延びるすべがなかったのだ。


「あと、災魔の呪いの話だけど、」


ミランダが話を元に戻す。


「適応できた人間は魔力が爆発的に増大するの、その反動として理性のコントロールが効かなくなるわ」


「え、どういうこと?俺、意識ははっきりしてるよ?」


「今はね。でも、感情が高ぶったりすると押さえられなくなって暴走、魔獣化するケースが今までに数件確認されてるわ」


(そんな…、俺は化け物になっちゃうのか…?)


呆然とする少年、だがそこにミランダが付け加える。


「けどキミは、女神の祝福を持ってる。祝福の力は絶大よ。しかもあたしと同じ治癒の祝福だもの。もしかしたら、災魔の呪いを完全に使いこなせるかもしれない。」


「ほ、ほんとっ?!」


思わぬ知らせについ大声を出してしまう少年。


「ええ。ただ生半可な努力じゃ扱えない代物よ、それこそ死んでもいいくらいの覚悟が必要なほどにね」


「それってどういう意味…?」


「鍛えてやるって言ってんだよ」


そう答えるはライアン


「そういうこと、あたしたち二人はつい最近までハンターをやってたの。まぁ、色々あってしばらく辺境で過ごすことになってね、生憎と五年程暇になるの。暇潰しがてらキミが呪いに呑まれないように鍛えてあげる。安心して、あたしの見立てが正しければキミは強くなれる」


「ま、そういうこった。もちろん暴れる可能性のある奴に拒否権はねぇ、大人しく俺達に鍛えられろ、自分の為にな」


少年はふたたび呆然とする。

(戦う?俺が?残飯漁りしか能のない俺が強くなれる?そんなのあるわけが………いやっ)


「うん、分かったよ。二人とも、これから宜しく」


(いつまでもあんな肥溜めにいてたまるか…、これはチャンスだ、呪いだろうと何だろうと絶対に自分のものにしてやる…!)


「良い暇潰しになりそうね」


「はっ、ちげぇねぇ!」


何がおかしいのか、自然と笑い出す三人。

そしてライアンが突然口を開く。


「あ、思い付いたぜ!お前の名前!」


「え!ほんとに!」


「あぁ、お前は今日から、レインだ!」


ミランダがまた深くため息をつく


「また安直な…」 


だが当の少年は気にならないようで、しきりにその名前を繰り返す。生まれて初めて貰えた名前だ、相当嬉しいのだろう。


「レイン…、レイン…、俺は今日からレイン…」


止まっていた少年の時がゆるやかに動き始める。


その日の雨は、どこか晴れ晴れとした不思議な雨だった。



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