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セカンド・カース  作者: ONION
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第0話 災魔の祝福

アルデラ王国。この世界リグリスで一、二を争う大国と言われている。その王都。

人、人、人…、見渡す限りの人の波に目眩がしてしまう者も少なくないだろう。


「ウチの串焼きは世界一だよ!よったよったぁっ!」


「ママー!串焼き食べたい!」


「おいっ、早くしろ!遅れたら大目玉だぞ!」


「うわっ、今の人凄い美人…」


「誰だよ!俺の財布盗った奴は!」


「あぁっ、何処へ…!メガネ、わたくしのメガネ…」


流石大国と言ったところか活気が凄まじい。豪奢な装いをした馬車が通り、屋台は賑わい、更には大道芸まで至るところで行われている。何より街行く人の顔が生き生きとしている。きっとこの上なく栄えているのだろう………が、物語の始まりはここではなく………、正確にはアルデラ王国ではあるが、その辺境のそのまた辺境のスラム街にて………。






「うぅ…暑い…腹へった…」


少年にとっての目覚まし時計は常に空腹だ、少々違うかもしれないが腹時計というやつだ。

季節は七の月(一~十二まであり四季も存在する)に入り、うだるような暑さも顔を出し始め中々に気分の悪い目覚めだった。


「ふぁあ~。よし、今日も頑張って食料確保だ」


年は十に届くかどうかといったところだろう。痩せすぎの体躯に真っ赤な瞳、さらに無造作に伸びた黒髪が相まって端正な顔立ちのはずがどこか不気味な印象を受ける少年だ。


「早く行かなきゃありつけないかも」


まるでスラム街の勝手知ったると言わんばかりに寝起きの体にムチを打ち、早速走って目的の場所へと向かう。いや、本当にそうなのだろう、なんせ物心ついたときには既にここにいたのだから。小さい頃こそ施しを受けることもあったが、十歳ほどになればここでは立派な大人扱いだ。故に強かでなければならない。そうなれなければ待っているのは餓死だけだ。

それから五分ほど走るとようやく目的の場所に到着した。


「あー、先越されちゃったか…」


少年が前日から狙っていた残飯ポイントは既に誰かに荒らされた後らしく、食べる事が出来る物はほとんど何も残っていなかった。


ポツッ、ポツッ


「それに加えて雨かぁ、今日はつくづくついて無さそうだなぁ」


数分前までは晴れていた空がどういうわけか雨空に変わり雨が降り始める。だが少年はなんの疑問も持つことはないようだ。残飯にありつけなかったのが相当堪えているのだろう。


「はぁ、いつまでこんな生活が続くんだろう…」


腹も減っており雨も降ってきた、だが食べる物もなければ雨風を凌ぐすべもない。物心ついたときからこんな生活だったとはいえ普通の暮らしに当然憧れはある。


「串焼きってどんな味なのかなぁ…」


そして毎回行きつく考え、何故自分は孤児なのか。両親は死んだのか、生きているのか、もし生きているなら何故自分を捨てたのか。街行く家族を目にする度つくづく思い知らされる。自分は生まれながらの日陰者なのだと。


「あー、だめだだめだ!こんなこと考えても良いことなんかない!」


強くなりだした雨に打たれながら次の目的地へと踵を返そうとする少年。その後ろ姿はなかなかどうして十歳そこらの子供に出せる哀愁ではないだろう。



「キヒャッ、キヒャヒャヒャッ!」


そんな少年を虚仮にするように少し遠くで気味の悪い、背筋が粟立つような笑い声が聴こえた。


「え、な、なにっ??」


今まで感じたことのない感覚に、少年の体は全力で警笛をならす。が、本能的に萎縮してしまっているのだろう、ピクリとも体が動かない。


ドゴォオオオンッ!!!


直後破砕音、


「ま、魔獣だぁっ!まずい!逃げろ!!」


「何で街中に魔獣がっ?!」


「知るかよ!!んなことよりありゃやべぇぞ!災魔レベルだ!!」


「うそだろ?!何でこんな辺境に?!結界はどうなってんだ?!」


「だから知るかよ!!逃げねぇとまじでやっぺひっ…」


「う、うわぁああ!!!た、たすけちぇっ…」



言い忘れていたが………、



この世界には人に仇なす魔の生き物、魔獣が存在する。



「キャアアア!!何でこんなに魔獣が!!」


「こいつらいったい何処から沸いてきたんだよ!!」


「ハンターは!?ハンターはいないのか?!」



そしてそれを狩ることを生業とする者、ハンターが存在する。



「けっ、これから隠居生活で羽を伸ばせると思ったのによォッ!」


「しょうがないじゃない、魔獣と戦うのは祝福持ちの宿命よ」


「オレは生憎祝福持ちじゃねぇんだよ!」


「あら、ごめんなさい、悪気はなかったわ」


「つくづく嫌味な女だなお前はっ!」



そして女神に祝福を与えられし選ばれし者が存在する。



「キヒャヒャヒャッ!ンキヒャヒャヒャッ!!」


「ライアン!アイツが親玉よ!」


「んなこたぁみりゃわかんだよ!ミランダ!お前は祝福の準備だ!」


ガンッ!!


「ぐっ、うぉおあ?!」


「ンー、お前らじゃない、あっちいけ。キヒャッ」


「ちょっと!なにやってんのよ!」


「ってぇ…、くそが!見ての通り吹っ飛ばされたんだよ!!文句あるか?!」


「おおありよ!逃げられたじゃない!!」


「あれはマジでやべぇ!災魔がなんでこんなとこに!!」


「追うわよ!急いで!」



そしてそれらを凌駕する圧倒的な存在、災魔が存在する。



「ひっ、からだが、う、うごかないっ」


「キヒャッ!!見つけたァ~、キミおいしそうな臭いがするなァ~」


その災魔はまさに音速と呼べる速度でハンターから離れ少年の元にまでやって来ていた。そしてお目当てのおもちゃを買ってもらえた子供のように嬉しそうに嗤う。


「な、なんなんだよお前ぇ…!」


「赤い目に黒い髪かァ、懐かしいなァ、あの方を思い出すよォ~」


「た、食べるのか?お、俺を食べるのか…?」


「ンフゥ。食べたいけどォ~、まァだ食べ頃じゃないかなァ~」


そう言ってスッと右手を少年の顔に向ける。その体躯は三メートルほどありそれに不釣り合いなほど痩せこけており手足が長い、何より赤黒い肌にまるで豚と蛇辺りを掛け合わせたようなおぞましい顔が少年をより一層に萎縮させる。


そして、


「っ、ぎゃああああっ!!!」


災魔は鋭く伸びた爪で少年の顔の左半分を切りつけた。

少年はあまりの激痛に慟哭したのち、一瞬で意識を手放す。


「これはァ~、ボクからの祝福だよォ~、キミなら耐えられると思うからァ、もっと美味しくなったらァ、食べにいくねェ~?キヒャッ」


そう言い残してその災魔は、霞のように消えた。



数分後――――


「はぁ、はぁ、くそっ逃げられた!」


「っ、あんたがっ、はぁっ、ちゃんとっ、足止めっ、しないからでしょ!」


「無茶言うな!あんな怪力どうやって足止めすんだよ!」


災魔が逃げてきた場所に息も切れ切れでようやくたどり着いたハンター達だったが時既に遅し、そこに災魔の姿はなかった。

だが男の言う通りだ、なんせ二メートルはあろうかと言う自分の巨体を片腕で十メートルほど吹っ飛ばしたのだ。まるで石ころのように。常識の範疇ではにわかには信じがたい光景だ。

むしろ軽い打撲で済んでいる自慢の肉体を誉めてほしいくらいだった。


「まぁ、終わったことはしょうがないわ。それより…」


「あぁ、あの転がってるガキか」


二人は路地裏で倒れている少年に目を向け頷くとそのまま少年に向けて小走りで駆け寄っていく。


「あの災魔にやられたのね…」


「みてぇだな。だが幸い傷は深くねぇ、ミランダ、お前の祝福で治してやってくれ」


そう言った大男…ライアンだったが、相棒の女、ミランダからの返答がない。なんだかんだ長いこと一緒にやってきている仲だ、それだけで何かまずいことになっているのに気づくのは流石といったところだろう。


「で、こいつ、何かやばいことになってんのか…?」


ミランダは深く息を吸い込み、そして吐き出し、諦めたように言葉を発した。



「この子、呪いにかかってるわ。災魔の。」





ゆったり更新していきたいと思います。


よろしくお願い致します。

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