8話 『冒険者登録と準備』
アリシアの衣服を調達したシュウヤは、彼女を引き連れてジュノーの大通りを歩いていた。
空を見上げれば、透き通るような午後の空に浮かぶ太陽は既に西へと傾き始めている。通りの賑わいは未だ健在ではあるが、ぼちぼちと店仕舞いの準備を始める露天商もいるようだ。
シュウヤはそんな街並みを眺めながら、これまでのことを、そしてこれからすべきことを脳内で纏め上げる。
とりあえず最初の目標だった奴隷の購入によるパーティメンバーの入手には成功した。彼女、アリシアの能力は未知数で戦力になるかはわからない。魔法適正があるそうなので、魔法を覚えさせれば優秀な戦力になるかもしれないが、現時点では金銭的にも情報的にもそこまでの余裕はない。おまけに精神状態が不安定だ。こちらも時間をかけて対処していくべき問題だろう。
そうなると当分は一人でなんとかやり繰りしていく必要がある。もちろんこの世界の常識やルールといった面ではアリシアを有効活用していくつもりだ。
現状の整理を終え、シュウヤは次の目標を定める。
とりあえず今日中に冒険者登録を済ませてしまおう。冒険者登録が済めば安価で宿泊場所なども斡旋してくれるだろうし、なにより有用な情報をギルドで集められるかもしれない。
問題は複雑だが、解決の糸筋はとりあえず見える。
思索を断ち、シュウヤは目の前の建物を見上げた。
「思ったより遠回りしてしまったが、とりあえず目的地到着だ」
シュウヤはアリシアを連れて、冒険者ギルドの扉をくぐった。
~~~
冒険者ギルドの喧騒は朝と比べて……特に変わった点はなかった。依頼が貼ってある掲示板の前、そして依頼の完了を受け付けるカウンターの前には粗野な冒険者たちがたむろしている。
とりあえず朝に受付嬢から教えてもらった登録カウンターに向かう。登録カウンターは朝と変わらず空いているので、並ぶ必要はなさそうだ。
「冒険者登録をしたいんだが……」
「はい、承りました! それではまずこちらの書類に必要事項を記入していただけますか?」
元気のいい受付嬢がカウンターの下から書類を二枚取り出して、シュウヤに差し出した。
ざっと目を通してみる。記入すべき事項は、氏名、年齢、種族、職業、パーティ名。
「アリシア、字は書けるか?」
「あ、はい、大丈夫です」
シュウヤはアリシアにペンを渡し、二人で記入を始める。
まずは氏名だ。アリサカ・シュウヤ……と書こうとして、ふと手を止める。そういえば最初にトーマスに出会ったときに名乗ったら、アリサカが名前だと勘違いされた。この世界では、名前、姓という順番なのだろう。これからは名乗るときも誤解を招かないように気を付けたほうがいいだろう。登録用紙にシュウヤ・アリサカと記入する。
年齢は……確か二十八歳と女神が言っていた。種族は人間で問題ないだろう。人狼の力も使えるわけだが。職業は……なんと書けばいいだろう。シュウヤは刀と銃、両方を所持して使いこなせる。しばし悩んだ結果、シュウヤはふと思いついた職業を書き込んだ。
「このパーティ名っていうのは後から変更可能なものなのか?」
「はい、窓口に申し出ていただければいつでも変更可能です」
それなら悩む必要もないだろう。とりあえず適当な名前を付けておこう。シュウヤの能力が『人狼の呪い』なので、とりあえず『狼』とでもしておこう。
一通りの記入を終えて、間違いがないか確認。問題なさそうなので、受付嬢に登録用紙を渡す。アリシアといえば……職業欄で迷っていた。
「とりあえず魔術師とでも書いておいてくれ。後で修正は利くだろう。だよな?」
「はい問題はありません。パーティ名と同様に申し出があれば変更手続きをいたします」
「じゃあ……これで、大丈夫ですか?」
「よし」
アリシアが記入を終えたようなので、登録用紙二枚を受付嬢に手渡す。
「それでは確認させていただきますね」
受付嬢がシュウヤとアリシアの書いた書類に目を落として、問題がないかを確認する。
冒険者登録申込用紙
氏名:シュウヤ・アリサカ
年齢:二十八歳
種族:人間
職業:近接銃士
パーティ名:『狼』
氏名:アリシア
年齢:十四歳
種族:人間
職業:魔術師
パーティ名:『狼』
「えーと……はい! 問題ありません! それではこれからギルドカードを発行いたしますので、少々お待ちくださいね」
受付嬢は二人の登録用紙をカウンター脇の小箱に挿入した。小箱の上には何かを嵌め込めそうな窪みがあり、受付嬢はそこに透明な水晶のような薄いプレートを差し込んだ。するとプレートが綺麗な輝きを放って、文字が浮かび上がってきた。
これがギルドカードらしい。
「お待たせしました! はい、どうぞ! こちらがギルドカードになります。依頼を受ける際、また依頼完了の報告の際はこちらをカウンターにご提示くださいね。ちなみに紛失すると再発行に手数料がかかりますので、お気を付けください。あとギルドカードは冒険者としての身分証明書の役割も果たします。街に入る際にはご提示いただければ、怪しまれずに済みますよ」
「なるほど。結構便利なんだな。他に使い道は?」
「他にはですね、冒険者向けの店や宿などで割り引きが効いたり、資金の融資の際に手続がスムーズになったりといった使い道がありますね」
「資金の融資?」
「危険度の高い依頼や遠距離まで出向かなくてはならない依頼を受諾した時にある程度纏まったお金が必要になることがあるんですね。そういった方に対して、冒険者ギルドの方から資金を融資させていただいております。また、特に初心者の方は費用面で出だしに困ることがあるので、初心者向けの初期資金の融資などもご利用になる方が多いですね。いかがですか?」
「んー、今のところは資金は問題ないから大丈夫だ」
「承知いたしました! では、手続はこれにて終了です。初心者向けのガイダンスを受講なさいますか?」
どうやら冒険者登録自体はこれで終了らしい。受付嬢によれば、初心者向けに冒険者について説明してくれるガイダンスがあるらしいが……この世界の知識が乏しいシュウヤが受けない理由はない。
「それじゃあ受けさせてもらおうかな」
「承知いたしました、それではこちらにどうぞ」
シュウヤとアリシアが受付嬢についていくと、まずは掲示板の前に案内された。掲示板には何枚もの紙が貼りつけらている。
依頼を受ける際はここから紙を剥がして、受付カウンターに持っていくそうだ。紙と一緒にギルドカードを受付嬢に渡すと、受諾した依頼情報を例の小箱でギルドカードに記録してくれるそうだ。そして依頼が完了したら同じように報告をカウンターで行わなくてはならない。この際もギルドカードを渡せば、受付嬢が完了手続を行ってくれる。それから報酬が支払われるそうだ。
ちなみに冒険者にはランクがある。上からS、A、B、C、D、Eといった区分けがされており、最初はEランクからのスタートとなる。ランクによって受けられる依頼にも制限があるとのことで、例えば現在シュウヤのランクはEであり、受けられる依頼はEかDのみである。つまり、自分のランクの上下一つまでしか依頼は受けることができない。
ランクはそれぞれ昇格条件があるらしく、細かいことは受付嬢に聞けばいつでもわかるとのことだ。
ちなみにパーティについても教えてもらったが、パーティメンバーにランク差がある場合はランクが一番高いメンバーのランクに従った依頼制限となるらしい。
「ちなみにルール違反とかはあるのか?」
一通り説明を聞いたシュウヤは受付嬢に尋ねた。
「ええ、基本的には国の法に違反する行為を行った冒険者は発見次第、除籍処分となります。また依頼の契約違反等も罰金が科されることになりますね」
「普通にやっていれば処罰されるようなことはないってことか」
「はい。もし不安であれば受付で聞いていただければご確認いたしますので、ご遠慮なくどうぞ!」
最後に、受付嬢に冒険者ギルド内の道具屋と宿屋の場所を教えてもらい、初心者向けガイダンスは終わりになった。
~~~
「さて、次は準備なわけだが……」
シュウヤは今、ギルド内の道具屋で並べられた商品を眺めていた。
冒険者としての活動に必要な備品は多岐にわたる。なので、基本的なものだけ揃えれば問題はないだろう。シュウヤは女神からもらった武器と水筒があるので、そこまで買い足す物はない。せいぜい街周辺の地図と細かい作業用のナイフくらいだろう。しかし、アリシアは無一文且つ裸一貫なので、最低限の装備は整えてやる必要がある。
「店主、とりあえずこの子に合うポーチと水筒、あとナイフを一本頼む。それとこの辺りの地図だな」
シュウヤは店の中で椅子に座っていた小柄な老人に必要な商品を注文する。
「はいよ、あんたら初心者さんだね。おまけしといてやるよ。全部合わせて、3000メルクだ」
「はい、3000メルクぴったりだ。あとここで魔導書なんかは売ってるか?」
「魔導書はちょっと売ってねえなあ。街の本屋とかなら置いてるかもしれねえが」
「ちなみに相場は?」
「一番簡単な初心者向けでも5~6万メルクはするだろうな」
どうやらこの世界では本は貴重なものらしい。魔導書となれば尚更だろう。アリシアには是非とも早く魔術を覚えて貰いたかったのだが、手持ちの金額的にも厳しい。アリシアと魔術に関しては追々考えていこう。
~~~
冒険者ギルドから出ると、すでに空は紅に染まり始めていた。街の中心にある教会の鐘が一日の終わりを告げる。
異世界一日目、随分と密度の濃い一日だった。とりあえず今日はもう早く寝たい。シュウヤはトーマスからもらった地図を開いて、受付嬢に教えてもらった宿屋へと向かうことにした。




