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最強の傭兵、人狼となりて異世界を征く  作者: 観音崎睡蓮
一章 異端の皇女、奴隷となりて傭兵と歩む
2/20

2話 『異世界での一歩』

さっそくブクマしてくださった方、ありがとうございます。

引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。

 再び目を開くと、そこは薄暗い森の中だった。

 足の裏には夜露で湿った柔らかい下草の感触。目の前には等間隔に並ぶ針葉樹林の数々。空気は水分と冷気を十分に含んでいる。

 

 シュウヤは周囲の状況を一通り確認すると、天を仰いだ。

 生い茂る葉のせいで、はっきりとは見えないが紺碧の空に赤みがかかっている様はどうやら明け方のそれであるらしい。


「さて……」


 どうやらあの女神の言うとおり、本当に異世界に移動してきたようだ。

 シュウヤはとりあえず一番近くに生えていた木の根元に腰を下ろした。

 薄暗い環境下の森の中は非常に危険である。まず第一に視界が不自由になり、潜んでいる伏兵などに気づかないことが多い。対する向こうはこちらを捕捉しているわけなのだから、狩る側に大変有利な状況と言える。

 明確な危機が迫っていない今、少しでもリスクを軽減するためには陽が昇るまで動かないのが賢明だろうと一瞬で判断を下した末の行動である。


 そこまで考え、シュウヤは女神の言葉を思い出した。


「そういえば俺は元々傭兵だったんだっけか。だとしたら具体的な記憶は曖昧でも経験はしっかりと身体と心が覚えてるんだな」


 そう思うと、このような森にもどこか見覚えのあるような気がしてくる。

 きっと前の世界でも同じような環境にいたことがあるのだろう。


「……まずは自分の現状把握か……ん? これは?」


 腰に違和感を感じ、触ってみるとそこにはウエストポーチが巻きつけられていた。

 先ほどの空間にいたときは持っていなかったものだ。ということはあの女神が持たせてくれたものということだろう。


 シュウヤは早速開封してみることにする。

 中には色々な物が入っているようだが、まず最初に目についたのは四つに折られた紙片だった。そこには可愛らしい丸文字でこう書かれている。


『女神様からのチュートリアル♡』


「あいつは文字までウザいのか……」


 うんざりした顔で紙片を開く。

 A4サイズの紙はぎっしりと文字で埋められている。完全な日の出まではまだ時間があるようなので、シュウヤは上からゆっくりと読むことにした。


『まずは第二の人生おめでとうございます!! と挨拶でもしておきましょうかね? どうも、毎度おなじみキューティでビューティな女神様ですよー!!

 と、まあ前書きはこれくらいにして、スペースもあまりないので本題に入りましょう!

 まず、あなたが今いるのは私の座標指定が間違っていなければ街からそれほど離れていない森の中のはずです。

 次にあなたに与えた能力についてですが、それぞれ三つ。『人狼の呪い』、『鑑識眼』、『武装錬成』となっているはずです。詳しく書くとスペースが足りなくなってしまうので、『鑑識眼』の能力で詳細を確かめてみてくださいね!

 そして鞄の中身ですが、まずはお金。そちらの世界の単位で20万メルクほど入っています。普通に暮らしても二月ぐらいは不自由なく過ごすことのできる額ですが、無駄遣いは厳禁!

 あと、食料と水筒も入れてあります。そちらの世界の水は綺麗なので川から組んだ水でも十分飲めますよー!

 後は、お話したあなたが生前使っていた武器ですね! 一つは鞄の中に、もう一つはあなたの腰にすでにあるはずです。私の手でそちらの世界でも十分使えるように手を加えてありますのでうまく活用してください!

 それではよい異世界ライフを!

 PS.あなたが最初に躓かないために、一つ女神様からの有難いお言葉を送ってあげます! ”情けは人の為ならず”ですよ!』


「親切なのは分かるがなんかウザいなやっぱり」


 一通り読み終えて、シュウヤは手紙を鞄に戻した。

 そして腰に意識を向けると、確かに剣がそこにベルトでくくりつけられていた。刀身が綺麗に湾曲したそれはいわゆる刀と呼ばれる部類の武器である。


「この手紙から察するに、『鑑識眼』っていう能力があるのか。どんな能力なんだ?」


 シュウヤがそう思った瞬間のことだ。

 突如、奇妙な感覚がシュウヤの脳裏を突きぬけた。それは今まで知らなかった情報が突如堰を切ったように流れ込んでくるという感覚だ。


技能スキル:『鑑識眼』

 説明:対象物の詳細を把握する技能スキル。使用方法は対象に意識を集中させること』


 なるほど、要するにこの力があれば見たことの無い物、知らないことであってもそれが何か情報を得ることができるということらしい。

 確かに初めての世界を生き抜くには必要な能力であるといえるだろう。


「じゃあ、こいつを使って、他の力に意識を向ければその詳細も分かるってわけだ」


 さっそくシュウヤは手紙に書かれていた『人狼の呪い』とやらに意識を向けてみる。

 すると先ほどと同じように情報が頭に流れ込んできた。


技能スキル:『人狼の呪い』 Lv.1

 説明:任意に使用することが可能。使用し、人狼と化すことによって、身体能力の大幅な強化、治癒能力の向上、保有魔力の上昇などの様々な能力の向上あり。ただし、人狼化の際には銀で製造された武器に対する耐性が著しく低下するので注意』


 どうやらシュウヤ自身の基本スペックを上げてくれる力のようだ。これは大いに助かる。ただし弱点もあるようなので、そこは注意する必要がある。


「このLvってのは何だ? 『鑑識眼』にはなかった表示だが……」


『Lv:技能スキルに設けられた習熟度。技能スキルを使用することによって上げることが可能。上昇につれて、技能スキルの効果が強化される』


 ……要するに、『人狼の呪い』であれば、使用を重ねることによってLvが上がり、効果も増大するというわけだ。

 

 だいたいの意味を把握したシュウヤは次に『武装錬成』に意識を向けてみる。


技能スキル:『武装錬成』Lv.1

 説明:武器の作成や強化を可能にする技能スキル。この技能スキルがなくとも武器の作成や強化は可能だが、専用の設備や道具が必要となる。この技能スキルがあれば、素材のみで武器を作成でき、素材と強化元の武器のみで強化が可能となる。成功確率や作成武器の練度、強化武器の強化度合いはLvに比例する』


 どうやら自分好みの武器を作ったり、自分が持っている武器を強化したりできる力のようだ。それも設備や道具は要らず、素材だけあれば可能らしい。

 シュウヤはもともと戦いを生業としていたようなので、武器に関しての知識は豊富だ。おそらくこの世界ではまだ存在していないような武器を作ることも可能だろう。

 ……具体的なエピソード記憶が抜け落ちているのにも関わらず、意味記憶だけがしっかりと残っているのは奇妙な話だが。


 とにかくあの女神は本当にシュウヤの前世での人生から役に立ちそうな力を寄こしてくれたようである。あのウザい態度は用語できないが、そこだけは今度会うことがあったら感謝しておいてやろうと思う。


 ざっと能力の確認を終えたところで、シュウヤは次に手持ちの荷物の確認に移ることにした。特に女神が少し手を加えて持たせてくれたという武器についてはしっかりと『鑑識眼』を使って、確かめなくてはならないだろう。

 まずは腰に佩いている刀からだ。


『武器名:妖刀―朧月夜― 等級ランク:S

 説明:世界的に名の知れた名匠が打った刀。戦乱の最中で失われたと思われていたが、偶然とある傭兵の手に渡り、以後、銃弾が飛び交う戦場で振るわれ続け、数多の人の血を吸い、妖刀と化した。吸った血の量だけ輝きと切れ味を増すこの刀は、同等級以下の武器では決して破壊することができない』


 この説明に記されているとある傭兵とは間違いなく自分のことだろうとシュウヤは思う。

 どうやら前世では、この刀を使って銃を持った敵相手に存分に威力を振るったらしい。銃相手に刀とは聞いて呆れるが、どうやら自分はその呆れるほどの馬鹿であったということか。

 改めて自分が前世でどんな人間だったのかが気になるところだが、その辺りの具体的な記憶が抜け落ちている以上、それを確かめる術はない。

 それよりも登場した新しい単語について調べる必要があるだろう。


等級ランク:武器に限らず、アイテムに定められた格を示す記号。等級ランクが高ければ高いほど性能が優れ、価値も高くなる。等級ランクはS、A、B、C、D、Eに分けられる』


 単純にそのアイテムの価値を示す指標ということか。

 シュウヤの持つ刀はその等級ランクがSということなので、どうやらこの世界では最高級に値する武器のようだ。


 シュウヤはさっそく朧月夜を鞘から抜き放ってみる。

 柄の感触にどこか懐かしさを覚え、抜き身の刀身が放つ輝きは見つめているとなんだか落ち着く。異常がないかを確認し、再び朧月夜を鞘に戻すと、次はポーチの中にあるというもう一つの武器を引っ張り出して見る。


 それは見慣れた形状の回転式リボルバー拳銃だった。ただシュウヤの記憶の中にある同系統の拳銃とは明らかにサイズが違う。

 今、シュウヤの手に収まっているそれは通常の拳銃の二倍ほどのサイズがある。漆黒に輝くその銃身は一般的なものより長く、ずっしり手に響く重量からも、これが量産されたものではなく、カスタマイズされた特注品だということがわかる。


『武器名:フェンリス・ヴォルフ 等級:S

 説明:とある傭兵が特注し、自身でカスタマイズを加えた大口径回転式拳銃。初速、貫通力、殺傷力、どれをとっても凶悪な代物である。ただし反動が強く、一般人が撃とうものなら肩の骨が砕けること間違いなし。なお、弾丸は魔力で代用可能(魔法に関してはあなたは素人だと思うから、装填を念じるだけで自動で魔力の弾丸が生成されるようになってますよ♡ By女神様)』


「なんだこれ。こんなの人間で使ってた俺って化け物か何かか?」


 説明を見るに、どうやら普通の人間が扱えないような馬鹿威力を備えた銃らしい。

 魔力で弾丸の代用ができるというのは、恐らくこの世界では弾丸の補給ができないだろうということから、女神が手を加えてくれたのだろう。

 そして魔法というものを知らないシュウヤのために自動装填機能まで付けてくれたらしい。

 相変わらず語尾の♡がウザいが……今回は大目に見てやることとする。


「じゃあ、物は試しだな。撃ってみるか」


 シュウヤは記憶の中にある構え方と身体が覚えている身のこなしで滑らかにフェンリス・ヴォルフを構えた。


(装填)


 念じると、確かに黒色の弾丸が装填された。それを確認してから、慣れた動作で撃鉄を起こす。これでいつでも射撃可能だ。

 シュウヤは狙いを近場の木の幹に定め、息を止め、そして引き金を引いた。


「――っ!?」


 静寂に包まれていた森を雷鳴のような轟音が劈いた。

 反動がシュウヤの全身を揺さぶり、思わず全身の筋肉が収縮する。

 銃口から飛び出した黒の弾丸は狙い通りに直進し、木の幹に命中。着弾点を中心に炸裂し、吹き飛ばした。大きく幹を失った木は軋みをあげながら、地面に倒れた。


「……おかしいだろ。なんだよこの威力……」


 まさに化け物級の拳銃だ。もはやこれを拳銃と呼んでいいのかすらわからない。

 このフェンリス・ヴォルフを人の胸に向けて撃ったら上半身が吹き飛ぶだろうし、足や腕に当たったとしてもその部位の欠損は免れないだろう。

 恐ろしい兵器だ。


 シュウヤはその威力を実感しながらフェンリス・ヴォルフを腰のホルスターに収める。

 荷物を忘れないようにすべてポーチに詰め込んで、気づけば差し込み始めた朝陽に目を細めながら、歩き始めることにした。


「とりあえずは手紙にも書いてあったし、街を目指すとするか」


 シュウヤはまだこの世界について無知といっても過言ではない。なので情報収集は基本中の基本である。そして人が集まる場所には情報が自然と集まっていくわけだから、まずは人が集まる場所を目指すのが先決だろう。


 ちょっとした好奇心で倒してしまった木に詫びながら、シュウヤは森を抜けることにした。

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