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Drive  作者: Lucy
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【2】実行

<前回までのあらすじ>

 リストラされた4人が会社への復讐として社長の息子を誘拐しようと計画した。リーダーであるロジャーは会社からあらゆるものを搾取され、その恨みを原動力として会社、そして社会に対して復讐をすることを心に刻んだ。

 「リストラする前にまずトップが責任を取るべきっすよね。おかげでアリスちゃんに会う機会もめっぽう減っちゃったんっすよ!ひどいっすよね。」

「お前まだあの子に搾取されてたのか。」

「搾取って言い方はないっすよ!アリスちゃんはお金が無いから仕方なくあそこで働いているんすよ。」



「「へぇー。」」



 ロジャーとジュードはまーた始まったと言わんばかりの表情でハリーを見た。



「そろそろ足を洗えよ。もう貯金もないんだろ?」

「そうなんすよー。おかげで消費者金融から金を借りないと生活できなくなったんすよ。」

「お前まさか借金してるのか!?」

「はい。50万ほどですから問題ないっすよ。」



 こいつの人生は終わったなとロジャーとジュードは目で会話した。



 やがて車は路肩に止まった。ヨドガワ邸の屋根がちょろっと見える。彼らはヨドガワ邸の門から約100m離れた場所に停車した。門前ではあからさますぎるし遠すぎても本人の確認ができなくなってしまうため、適度に距離を置いて停車する必要があった。



「予備校に着く時間が大体9時55分。通学時間が大体12分。普通なら10分かからないほどなんだが、ターゲットは必ずコンビニへ立ち寄る。そのため家をでる時間は大体9時43分。現在9時33分。ちょっと早い気がするがイレギュラーを考えると丁度いい。」

「あんまり早すぎても人目について危険ですからね。」

「ロジャー。聞こえますか。ロジャー。」

「聞こえるぞアーサー。どうした?」

「門前に人影が見えます。一人のようです。」



 ロジャーはジュードに確認させた。



「本人じゃないです。女のようです。」

「女?」

「あ!門が開きました!」

「ロジャー。これは最悪の展開かもしれません。」

「あ!本人が出てきました!あの服間違いありません!見覚えがあります!」

「・・・どうやら、ターゲットの友人のようですね。」

「いやいやだからありゃ彼女ですって。って言ってる場合じゃないっすね。どうしますか。」

「ロジャー。今日は諦めましょう。これは完全なるイレギュラーです。明日でも実行は可能かと。」

「・・・いや。ダメだ。今日の実行に変更はない。」

「しかし・・・」



 彼は恐れていた。しかしその恐れの原因は作戦の失敗ではない。また元の自分に戻ってしまうと感じたからだ。生産性のないニート生活は、仕事人間だった彼を心底攻撃し続けていた。やっと得た救いをここで逃すわけにはいかなかった。彼らの作戦が成功したとしても彼らの未来は真っ暗であろう。だが彼はそれでもいいという信念を持ってこの作戦にあたっていた。あの淀川源次に一泡吹かせることで会社への復讐、そして社会への復讐となるのだと考えていた。それが達成されれば死すらも厭わない、牢獄程度なら安いものだと。



「わかった。実行犯は俺が行く。」

「お言葉ですがロジャー。自分の方が腕力に関しては勝っていると思いますが。」

「ここで腕力を出されたら女に悲鳴を上げられて万事休すだ。腕力は使わない。説得でいく。」

そんなやりとりをしているうちに、ターゲット達は50mまで迫っていた。

「アーサー。すぐ出発できる準備をしておいてくれ。失敗したと思ったら俺を置いて逃げろ。」



 そう言ってロジャーは車を降りた。他の3人はロジャーの意気込みに圧倒されると同時に、彼のこれまでの見えない苦労を垣間見た気がした。



 ロジャーは一歩二歩と歩き、やがてターゲット達と接触する。



「すみません。」

「?」

ターゲット達は立ち止まった。

「私、帝都大学病院の松下と申します。」

「はぁ。」

「淀川吹雪様でいらっしゃいますよね?」

「そうですが。」

「お父様の淀川源次様の息子さんでいらっしゃいますよね?」

「それが何か?」

「はい。大変申し上げにくいことなのですが実は・・・あ。そちらは妹さんでしょうか?」

「いえ。友人ですが?」

「友人の方でしたか。すみませんがお父様のプライバシーに関わることなので少々外していただけないでしょうか。」

「・・・。ごめん。先にコンビニ行ってて。」

友人の女は分かったとだけ言い、先にコンビニへ向かった。

「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません。」

「父が病院に通っているなんて初耳なんですが?」

「はい。お父様からも誰にも言うなと言われておりまして。しかしこれはご家族の方に知らせておかなければならない事態だと、そう思いまして。」

「・・・。そんなに悪い病気なんですか?」

「はい・・・。お父様は大変なヘビースモーカーでいらっしゃいます。それが影響して肺にガンを・・・」

「・・・そうなんですか・・・。それは、治らないんですか?」

「発見が遅かったので手術しても既に手遅れの状態でして・・・」

「・・・長くて何年になるんですか。」

「もってあと半年です。それを伝えてもお父様はタバコをお吸いになられるのでそれも厳しいかと・・・」

「・・・それは、僕のほかに誰かに伝えてますか?」

「いえ。まだあなた様にしかお伝えしておりません。」

「そうですか・・・。」

「それでですね。もう少し詳しいお話をさせていただきたいので、当病院まで来ていただけないでしょうか。」

「・・・分かりました。それでは母も一緒に聞いたほうがいいですよね?呼んできます。」

「お父様からお母様には特に内密にするよう言われておりますので・・・本来であればあなた様にも決してお伝えしてはいけないのです。お父様からあなたの話は常々伺っております。ご兄弟の中でも特に可愛がられているあなた様にだけは、私の医師人生をかけてでもお伝えしなければと思いまして。」

「・・・分かりました。お話は僕一人で伺います。」

「ありがとうございます。あちらに車を待たせておりますので是非ご一緒に。」

「はい。・・・あ、友人がコンビニに待たせたままなのでちょっと電話します。」



 ターゲットは友人に簡潔に用件を伝え、電話を切った。



「あの車ですか?なんか野菜を運ぶ車みたいですね。」

「お父様は大変勘のするどい方であられるのは幾度とない問診で既に承知しております。今日も白衣でなくこうして私服でないと、勘付かれる可能性があるので。」



 松下医師はふいに手を上げた。

 それと同時に2人の男が車の後ろから出てきた。

 予備校生の青年は松下医師に口を塞がれ、

 そして3人がかりで車に強引に乗せられた。



「アーサー!いけ!」



 その声を合図に、白い小型トラックは発進した。

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