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Drive  作者: Lucy
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【1】ハジマリの電話

ちょっと暗めな話になるかもしれません。なんとか最後まで書きたいと思います。構想は最後まで一応考えてあるのであとは上手く矛盾のないよう書き上げるだけです。読んで頂ければ幸いです。

 「最後におさらいだ。ターゲットはヨドガワ電機社長淀川源次の息子、淀川吹雪18歳。予備校生。3人兄弟の末っ子でかなりの甘ちゃんだ。」

「予備校生ってことはそこまで勉強できる奴、キレる奴じゃないってことっすよね?」

「まあな。だが油断は禁物だ。末っ子で甘えん坊ってことはそれだけ溺愛されている、つまり警護がきついということもある。」

「その辺は大丈夫です。ここ2週間張っていましたが、ターゲットに警護はついていません。平日は10時から18時まで予備校におります。帰宅後は特に自宅から出る形跡はありませんでした。休日は自宅にいるか友人と遊ぶぐらいで、目立った奇行はありません。」

「友人?ありゃどうみても彼女でしょう!」

「まあどちらにせよ、誘拐するにはターゲットが一番最適な人物に違いありません。ロジャー。」

「ご苦労だったな。アーサー。あとは運転の方をよろしく頼んだぞ。」

「ルートは完璧です。ご心配なさらず、任務の遂行を最優先にお願いします。」



 アーサーと呼ばれた男は白い小型トラックに一人乗り込み、バックミラーやらサイドミラーやらをいじくり、ガソリン、バッテリー残量を確認し、ウィンカーをつけては車から降り、ライトの確認を怠らない。雨が降っていないにもかかわらずワイパーを作動させ、正常かどうかを確認する。ブレーキランプを仲間たちに確認させ、彼は小さく頷いた。彼は安全運転を心がける人間であるという理由は多少あるかもしれない。だが、彼らの作戦は天候にも警察にも左右されてはいけないのだ。その為、万全の体制で挑まなければならない。車の不調で停止したり、ライトが切れてて警察に指導された時点で彼らは終了する。



「よし。時間だ。ハリー、ジュード、くれぐれも慎重にな。」

「騒ぎ立てたら自分が口を塞げばOKですよ。あんなひょろいの片手で充分ですわ。」

「筋力しか取り柄のないジュード君にはうってつけだな!おいらはとにかく人がこないかを見張りまっせ。」

 3人はトラックに乗り込み、ターゲット出現地点へ向かった。

「しかしロジャー。なぜトラックなんすか?ワゴン車にすりゃトランシーバなんて使わずにアーサーと連絡取れるじゃないっすか。」

「まあな。ところでハリーよ。アーサーの弱点は何か分かるか?」

「うーむ。人前に立つとキョドるってとこですか?」

「それもあるがな。奴は周囲に人がいるとイラつくというか、集中力を欠く習性があるんだ。とくに後ろに人がいるととにかく落ち着かない。奴には運転に集中させたい。だから緊急のとき以外、奴と連絡を取るのは避けたい。それにはトラックの方がいいって思ってな。」

「ほおー。さすがっすね!」

「神経質な奴は俺には理解できませんわ。」

「アーサーとジュード君は一生分かり合えないな。」



 4人を乗せたトラックは閑静な住宅街へと入っていく。この近辺は勝ち組と呼ばれる著名人が多く住み、特にその中でもヨドガワ邸の大きさは異彩を放っていた。この土地に居を構えるだけでも莫大な金がかかるのだが、神社の鳥居かと見紛うほどの門に、森かと思うような木の多さ、その木々の隙間からちょろちょろと屋敷の屋根が見える。これほどの金持ちであれば予備校へ行くにしろ当然高級車での送り迎えがあるはずだと思うかもしれない。しかし、そこは淀川源次の哲学で、若いうちは人並みの生活を送って欲しいという願望があった。彼自身、幼少からここに住んだ結果の答えなのだ。それはヨドガワ電機入社式で毎年語っているので、寝ていない新入社員以外は全員耳にしたことがあるのだ。『貧乏は貧乏なりの、金持ちは金持ちなりの苦悩がある。自分だけがなぜこんな目に?と思うのは間違いだ。皆それ相応の苦悩があり、その苦悩を客観的に見ることで人は簡単に変わることができる。視野を広く持て。グローバルな視野を持ち続けてこれたことで、我々は長年日本を代表する企業となりえたのだ・・・』と、ありがたい社長の哲学を1時間も聞けるのだ。



「やっぱりあの言葉は嘘だな。」

「あの言葉ってなんすか?」

「淀川の訓示だ。貧乏は貧乏なりの、金持ちは金持ちなりのって奴だ。」

「元係長とは思えない発言っすね。それでどの辺りが嘘と?」

「今はただの犯罪者だがな。あの言葉の全てが嘘だ。貧乏人は金持ちになるには多大な苦労を強いられる。だが金持ちが貧乏人になるには簡単だ。使っちまえばいいんだからな。持つ者持たざる者の関係だ。所詮生まれたところが全てなんだよ。淀川源次が何をしてきたんだ?父親の築き上げた遺産をただただ守っているだけだ。優秀なのは奴じゃない。創設者淀川源栄と社員達だ。その社員をまずリストラするってのは奴の言うグローバルな視野ってのがまがい物だっていう証拠だろ。」

「・・・俺たちのことっすか。」



 彼らが生きている時代はまさに就職難と呼ばれる時代、いわゆる氷河期である。この時期に首を切られるということは死ねと言うに等しい。大企業ですらこれなのだから、中小企業は目を覆わんばかりの状況だ。ホワイトカラーの戦士達は藁をもすがる思いで会社にしがみつく。そんな価値もない会社がほとんどなのにもかかわらず・・・。



 ロジャーと呼ばれる男は元ヨドガワ電機の家電部門の係長であった。部下はアーサー、ハリー、ジュードの3人。年齢的にはアーサーが一番上なのだがロジャーは上手く立ち回れる男だったため、アーサーよりも早く昇進した。給料はさほど上がらなかったが、ここで終わる男じゃないという社長のげきなのだろうと解釈し、強引に納得していた。誰よりも会社に尽くし、誰よりも働いたという自負はあった。だが、たった一度の発注ミスで彼は部長に目をつけられた。時期が悪かった。全体的に業績が落ちていた。彼は解雇者リストに名が挙がり、1ヵ月後首を切られた。自主退社扱いとなったため、退職金は貰えたが、彼は納得がいかなかった。金額ではない。こんなにも会社に時間を吸い取られ、ストレスと疲労で何度も倒れかけた末の会社からの答えがこれだったからだ。そしてこんな会社に今まで忠誠を誓っていた自分への馬鹿馬鹿しさに嫌気がさした。結婚を約束していた相手にも見放された。家族からは早く次を見つけろとせかせられた。金を貸してくれる友人なんていやしない。ここ数年会社仲間としかつるんでこなかったツケがここにきた。文字通り、彼は会社に全てを搾取された。果ては会社という物の存在自体に疑問を感じるようになっていた・・・



 この世の中に一体どれほどの会社が忠誠を誓うほどの価値を持つのか。



 やがて彼はニートになっていった。ひたすらにタバコを吸い、ひたすらに眠り、ひたすらに引きこもった。酒には手を付けなかった。彼の中で酒は会社を連想させるものだからだ。彼はアルコールが強いわけではなかった。だが社会の一員としてちょっとは飲めるようになれとの父親の薦めで飲み始めたにすぎない。家にいれば自主的に飲むことは決してない。彼は酔っ払いの存在にも嫌気がさしてきていた。



 やがて彼の思考はとどまることを知らなくなって行く。


 会社とは何か、

 社会とは何か、

 幸福とは何か、

 生きるとは何か、

 死とは・・・。



 そんな路頭に迷い込んだ時、一本の電話がかかってきた。これが幸か不幸か彼の人生を大きく変えることになった。

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