(2)
形の良い笹竹を首尾よく手に入れ、意気揚々と帰路に就いていたときだった。 近くの山で笹竹を切っていた寺本隆夫にばったり出くわしてしまった。
あの、門前で美鈴に冷たい態度を取ったとき以来のことだった。
「おやおや、総領さん自ら笹竹切りとは恐れ入りますのう」
隆夫は、顔を洋平に向けたままでお辞儀をするという、妙な謙りの所作を見せながら、相も変わらずからかうような物言いをした。
隆夫の挑発に反して、洋平はいつものように苛立ちはしなかった。このとき、ある決意をしていた彼は、冷静な目で隆夫を見ていたのである。
洋平はこれまで、隆夫のこのような言動に対して、苛立ちを押し隠すため、軽く受け流し、全く相手にしていなかった。
だが、海岸通りでの美鈴の『隆夫君は四年前と少しも変わっていなかった』との一言が、指肉に食い込んだウニの棘のように気になっていた彼は、そのときから隆夫の立場になって想いを巡らしてみた。
そして、ある結論に達していたのだった。
思い返せば、洋平の知る限り、隆夫は誰一人として自ら話し掛けることがなかった。
唯一、自分に対してのみ、たとえそれが挑戦的であれ、からかいであれ、例外であったことに気付いたのだった。
――隆夫は寂しいのかもしれない。彼は自分と関わりたくて、わざと気を荒立てるような言動を取っていたのかもしれない。
そういう思いに至った洋平は、それが真実なのかどうかはともかく、少なくとも、彼に対して真摯に接しようと心に決めていた。
そういう目で見れば、隆夫の言動は明らかに彼の鬱積した心の現われだと洋平にはわかった。洋平は、隆夫がこのような屈折した態度を取る、止むを得ない理由も察しを付けていた。
隆夫の生家もまた、かつては網元であった。
だが、洋平の祖父・洋太郎が旗揚げした恵比寿水産には最後まで加わらず、独自で漁を続けていた。
しかし四年前の秋、突然の不幸が彼の家を襲った。大金を費やして建造した新船が、
時化で難破してしまい、祖父と父を同時に亡くしてしまったのだ。
この事故が原因で、隆夫は心を閉ざしてしまうことになった。彼は、周囲の口先だけの同情を遠ざけ、必要以上のそれを拒んだ。つれて世間には寡黙を通し、洋平には茶化した態度を取るようになっていった。
その後の生計は、彼の母の女手一つに頼ったため、新船の借金を抱えた生活は楽ではなかった。やむを得ぬ事情で、隆夫の兄は中学を卒業と同時に、稼ぎの良い遠洋鮪漁船に乗ったため、ほとんど家にはおらず、母と二人暮らしの隆夫は、実質的に家長の立場にあった。
隆夫もまた、小学生とはいえ、休みの日には海に出るなどして母を良く助けた。つまり、遊び半分の洋平とは違い、夏にサザエやあわびを獲り、冬にわかめや岩海苔を獲ることは生計の足しにするためであり、釣りもまた、食卓に上がる貴重なおかずを得るための仕事だったのだ。
当然の如く、隆夫は釣りもそして素潜りも、洋平などより数段上手であった。それどころか、本職の漁師に混じってさえも、大きく引けを取ることがなかった。
言わば、好むと好まざるとに拘らず、彼は海の申し子のような少年に成長していったのである。
そしてもう一つ、洋平はずっと後年になってから知ることになるのだが、隆夫は洋平より一歳年上だった。幼児の頃、大病を患い入学を一年延ばしていたのだった。おそらく彼自身はこの事実も知っていて、内向きになる傾向に拍車を掛けていたと思われた。
洋平は歩みを止め、深呼吸をした。
「そげな格好は、やめんか!」
率直に怒りを面に出した。
洋平は歩みを止め、率直に怒りを面に出した。
これまでとは一変した洋平の対応に、隆夫は驚きというよりは拍子抜けしたように唖然と佇んでいた。
やがて、洋平の真意が通じたのか、真顔になった。
「すまんの、洋平。ちょっとふざけすぎたの」
短い言葉ではあったが、洋平は久しく見聞きしていなかった隆夫の真摯な物言いに、心の中を一閃の清風が通り抜けたような気がした。わずかではあるが、彼に対するわだかまりが薄れたようにも感じていた。
「洋平。侘びという訳ではないけんど、一つええことを教えちゃろうか」
隆夫は妙に自信ありげな表情で言った。洋平は、彼の自信の在りかに興味を持った。
「ええことって、なんじゃ?」
「実はな、うちが毎年笹竹を貰っている山のもう少し奥に分け入ったところに、小川の堰があるんだが、そこに蛍がいるんじゃ」
「蛍なら、小学校前の小川でも見ることができるがな」
当てが外れた洋平がおざなりな言い方をすると、隆夫は意味深げに微笑んだ。その、これ以上は焼けようがないほどに、真っ黒な顔からわずかに覗いた白い歯が、彼をよけいに得意げに見せていた。
「そいがなあ、小学校の小川とは、蛍の数が全く違うだが。あれは何百、何千、いや何万かもしれん。とにかく小学校のちょろちょろとしちょうのと違って、あばかんおるだが」
「だいてが、ここいらの蛍はいつも七月の中頃だけん、今頃居る訳がないが」
洋平は至って冷静だった。
へへへ……、と薄笑いをした隆夫の自信は揺るぎのないものだった。
「普段はそげだが、今年はちと違うだが」
隆夫は高揚する気持ちを抑えるようかのように低い声で言った。その熱を受けた 洋平と美鈴は、しだいに彼の話に聞き入っていた。
「どげな意味じゃ?」
「おらが蛍を観たのは五年前の盆前だった。兄貴が杉の枝打ちを手伝ったときに見つけただ。そんときは、まだ日が暮れてなかったけん、あんまり綺麗じゃなかったらしいけんど、あばかんだったということはわかったらしい。その話を聞いて、翌日の夜、兄貴に連れて行ってもらったんだけんど、そりゃあ気味が悪いほど凄かったけん。おらもあんなのは初めて見ただ」
彼の性格からして、洋平は決して嘘でも大げさでもないと思った。
「その年はの、四月になっても低温が続いての、海水の温度も上がらんで、真鰯が不漁だったし、山の根雪は一ヶ月も長く、四月の終わりまで残っちょった。だけん、蛍の繁殖も一ヶ月ほど遅れたじゃないかの」
「ということは……」
洋平は今年の冬を思い起こした。
「洋平君。今年の冬はどうだったの」
美鈴が急かすように訊いた。
「そう言えば、三月の終わりに季節外れの大雪が降り、四月になっても寒かった」
洋平が声を弾ませて言うと、
「今年の春も真鰯は不漁だったけん、五年前と似ちょうということだが」
隆夫は、どうだ参ったか、と言わんばかりの得意顔になった。
「けんど、蛍は水のきれいなところじゃないといけんのじゃろ。あの近くで、ダムの工事をしちょうけど、大丈夫だらか」
「さっき俺が行って見た限りでは、あの辺りは変わっちょらんから、大丈夫だら」
蛍の群生が現実味を帯びたことに、洋平は大いに興味をそそられたが、一方で絶望的な難題を抱えていることにも気付いていた。夜にどうやって家を抜け出すか、その手立てがないということである。
「私、見てみたい。洋君、二人で行こう」
美鈴は洋平の耳元で、囁くように誘った。洋平は、彼女の気持ちを忖度しながらも、きっぱりと否定した。
「そいは無理だけん」
「どうして?」
「だって、夜なんだよ。夜だと、おらたちだけで、どこかへ行くことさえもできいしぇんのに、まして山に入るなんて絶対にできいしぇん」
いかに平和で安全な村だと言っても、いやそれが村人たちの相互関心の上に成り立っていることを思えばむしろよけいに、夜に村中をうろつくことなどできることではなかった。
それっきり、二人とも言葉がなくなった。
洋平は隆夫を少しだけ恨めしく思った。自分たちに興味を持たせた挙句、落胆するはめになったからだ。もちろん悪気のない隆夫に対して、筋違いであることはわかっていたが……。
隆夫と別れたときだった。
「ねえ、洋君。蛍、どうしても無理かな」
縋るような眼差しだった。
「誰か大人の男の人が付いて行けば、もしかしたら行けえかも知れんけんど、でもうちは、お父ちゃんは仕事だし、お祖父ちゃんも無理だけん」
「うちも、祖父ちゃんと叔父さんの二人は、夕食が終わってからも、作業場に行って仕事をしているみたい」
「親戚の叔父さんたちも無理だろうなあ……」
「でも、どうしても観たい。やっぱり二人だけで行けないかなあ」
美鈴は諦めが付かないようだった。しかし、洋平にはどうすることもできなかった。
「そいは絶対無理だけん。おらも行ったことないんだよ。場所は隆夫に教えてもらうけんど、もし道に迷ったら大変な騒ぎになるけん。第一、いったいどげして夜に家を出るっていうだあ」
「それは……」
美鈴は言葉に詰まった。
「ねえ、鈴ちゃん。今年は諦めて、次の機会にしょいや。中学生か高校生になったら、二人だけでも行けえけん」
慰めのつもりだったが、意に反して彼女の表情を険しいものに変えた。
「次じゃだめ。どうしても今年行きたいの!」
初めて聞く強い口調だった。それが洋平の心に不安の波紋を広げた。
「何で次じゃいけんのかな? なにか特別な理由でもあるだか」
「特別な理由なんかないけど、どうしても今年観ておきたいの」
勝気とも負けず嫌いとも違う頑なな態度に、洋平の不安は増幅されていった。
「言っちょくけんど、おらの鈴ちゃんへの気持ちはずっと変わらんけん。だけん、今年無理せんでも、来年でも再来年でも何時でも二人で行けがな。それとも、鈴ちゃんは、おらに対する気持ちに自信がないだか」
ううん……と美鈴は首を横に振った。
「そんなことはない。私の気持ちも絶対に変わらないよ」
そう断言した美鈴だったが、俯いた表情に陰影が射していた。
彼女は呟くように言葉を継いだ。
「私が拘っているのは、そんなことじゃないの……」
その思い詰めた物言いに、洋平は見当違いの不安だったことに気付いた。
「そんなら、なんなの? なんで、そがいに今年に拘るだ」
「ええと……、それは次だと……、それは……、そう、次に大雪なるのはいつかわからないでしょう」
途切れ途切れの言葉は、洋平にも苦し紛れだとわかった。たったいま、気持ちは絶対に変わらないと言ったばかりである。そうであるなら、次の大雪の年を待てば良いのだ。むしろその方が、二人も大人になっていて、都合が良い道理である。
「そいは今年も同じだが。いくら大雪が降ったといっても、今年だって必ず蛍が居るかどうかわからんがな。だけん、次の機会に延ばしても同じじゃないかな……」
美鈴には乗り気がないと映ったのだろうか、いっそう語気が強まった。
「だから、今年に行っておきたいの。次の機会なんてどうなるかわからないでしょう? 必ず蛍狩りに行けるとは限らないし、ダム工事の影響だって出るかもしれないし、相手は自然なんだから、大雨でも降ったら蛍は全滅しちゃうじゃない。どっちにしても、次に必ず蛍を観られる保障なんてどこにもないんだよ。もし、次の機会に観られなかったら、きっと洋君も後悔すると思うよ」
「まあ、そりゃあ、鈴ちゃんの言う通りだけんど……」
「洋君。今年も次の機会も、ううん、来年も再来年もその先も、毎年二人一緒に行ってみれば良いじゃない。そうすれば、後悔なんかしないでしょう。とにかく私は一度思い立ったことを先延ばしにするのが大嫌いなの」
「……」
その気迫に満ちた口調に洋平は返す言葉が見つからなかった。
美鈴が続ける。
「洋君、どうせ同じことをいつかするなら、思い立ったときに行動する方が良いよ。思い切ってすぐに行動してする後悔より、先延ばしにしてする後悔の方がずっと大きいと思う」
気迫に満ちた口調だった。説得力もあった。これまでも美鈴の言葉の端々から意志の強さを窺い知ることはあったが、これほど強固な態度は初めてだった。
洋平は、もう一度考えを巡らした。しかし、どうしても夜に二人で家を抜け出す手段で行き詰まった。
「二人ともご苦労さんだったね」
縁側に笹竹を置いたとき、見計らったように奥から里恵が冷えたぜんざいを持って来た。里恵は、度々洋平の好物のぜんざいを作った。冬は熱いまま、夏は冷やして食した。
さっそく箸を付けた洋平を他所に、美鈴は里恵に切実な心情を吐露した。
「おばさん、隆夫君に蛍の話を聞いて、夜に山へ見に行きたいのですが、洋君が無理だって言うんです。でも私、どうしても、どうしても観に行きたんです」
「あらあら、美鈴ちゃん……どげしたかい、そんなに思いつめた顔をして……」
事情が良く飲み込めない里恵に、洋平は隆夫から聞いた話を詳しく伝えた。
「なるほど、そういうことかね。夜に山へねえ。けんど、誰かが付いて行くと言っても、うちの親戚は皆漁師だけん、海に出ていて居らんしねえ」
里恵もそう言ったきり考え込んでしまった。
洋平は、やはり無理なのだろうと思った。沈鬱な空気が支配する中、庭で鳴く油蝉とミンミン蝉の合唱が、殊の外耳障りな雑音となって届いていた。
洋平が美鈴に諦めさせる適当な言葉を模索し始めたときだった。
里恵が意外な言葉を吐いた。
「ここは一つ、隆夫君に頼むしかないわね」
「え? 隆夫」
洋平は思わず顔を顰めた。
「隆夫君は場所を知っちょうのでしょう。だったら、まだ安心じゃない」
里恵は委細構わず言い切った。
たしかに考え得る一つの方策ではあったが、隆夫に対するわだかまりが、完全に払拭されたわけではなく、洋平は気が進まなかった。
美鈴はじっと洋平を見つめていた。
洋平は彼女が何を訴えたいのかわかっていた。
洋平は迷いに迷ったが、ただ黙って切々と望みを訴えている美鈴を見ているうち、彼女に蛍を見せてやりたいと思う気持ちが、隆夫へのわだかまりを駆逐していった。
「おら、隆夫に頼んでみる」
洋平は決然と言った。
すると、彼の口元を注視していた美鈴がすかさず、
「私も一緒に行く」
と訴えたが、
「いや、鈴ちゃんはうちで待ちょって、おら一人で行って来るけん」
と、洋平は押し止めた。
このとき洋平は、一度隆夫に頼むと決めたからには、土下座をしてでも、必ずや承諾を得ようと思っていた。したがって美鈴にはその場を見られたくはなかったし、なによりも彼女が傍にいれば、隆夫に対して素直になれなくなるかも知れないと案じたのだった。
寺本隆夫の家は恵比寿家から西の方角で、一筋北に位置していて墓地に行くまでの途中にあった。
「こんにちは」
洋平は玄関で声を上げた。
隆夫の家は古かったが、元は網元だっただけのことはあって、他に比べれば大きな家だった。
隆夫がその家に母と二人きりで住んでいるのかと思うと、洋平は我が身の有難さをしみじみと痛感した。
玄関の敷居を跨ぐと、広い土間があり、間仕切りの扉に続く奥の土間に二つの大きな竈が見えた。
その竈を目にした瞬間、急に胸の奥から懐かしさが込み上げてきた。
「あら、恵比寿の総領さん、これは珍しいこと」
隆夫の母の愛子が竈のある土間から顔を出し、大変に驚いた声でそう言うと、
「まあまあ。いったい、いつ以来のことですかね。小さい頃はよく遊びにおいでだったね」
と懐かしそうに言葉を続けた。
そうなのである。洋平は幼稚園児の頃から、彼の祖父と父が亡くなるまでは、この家によく遊びに来ていたのだ。洋平も他の少年と同様、釣りが上手で、アケビや栗の独自の穴場を知っていた隆夫に憧れていて、いつも彼に付き従っていた。
小腹をすかせて遊びから戻って来ると、あの竈で煮てあったさつま芋をつまみ食いしたものだった。洋平の胸に込み上げてきた懐かしさは、幼き頃の隆夫との思い出だった。
だが、あの不幸な海難事故以来、どちらからともなく、お互いを避けるようになった。二人の間に溝ができ、心が通わなくなってしまったのだった。
「隆夫、恵比寿の総領さんがお見えだよ」
愛子の声に、隆夫が部屋の奥からそのっと出て来た。
「お、おう、洋平。珍しいな、わいがうちに来るなんて」
隆夫は意外な訪問者に、戸惑うな素振りを見せながら式台に腰掛けた。
「実はわいに頼みごとがあってな」
「わいがおらに頼みごと? これはまた珍しいなあ。いったいなんじゃ」
「さっき、わいが蛍の話をしただろう。そんで、おらたちも蛍を観に行きたいけんど、わいも知っての通り、うちの親戚は皆漁師だけん、夜の付き添いは無理なんだ。そいでな、お母ちゃんがわいに頼むのが一番だって言わさったけん、こうやって頼みに来たんじゃ。隆夫、頼むからおらたちを連れて行ってごさんか」
洋平は深々と頭を下げた。彼が隆夫に頭を下げたのは、小学校に入学したての頃以来だった。
隆夫は面を食らった様子で、しばらく黙っていたが、やがて念を押すように訊いた。
「わいのお袋さんがおらに頼め、と言わさっただか?」
「ああ、そうだ。そんで、おらもわいに頼もうと思っただが」
洋平がそう答えると、
「よし、わかった。おらが連れて行っちゃる。わいのお袋さんが、おらに頼めと言わさったとあっちゃあ、否とは言えんけん。わいのお袋さんには、世話になっちょう義理があるけんな」
洋平には隆夫の言葉の意味がわからなかった。
「おらのお母ちゃんに義理って、どげなことや」
と訝し気に問う。
「わいは知らんのかあ……」
隆夫は逡巡した。
「隆夫、言ってごしぇ」
洋平は強く催促した。
そこまで言うならと、
「わいのお袋さんには、いつもおらが獲ったサザエやあわびを買ってもらっちょうがな。それも、漁協で付く値段より少し高値でな。サザエやあわびだけじゃなく、カサ
ゴやべらのような売り物にはならん雑魚まで買ってもらっちょうがな。ほんとに助かっちょうがな」
隆夫は、洋平が知らない事実を打ち明けた。
聞けば、里恵はそうしたことをずいぶんと以前から行っていたようだが、洋平をはじめ家族には、一切何も話してはいなかった。
洋平は、実に母らしいと思った。おそらく、そのような母であればこそ頑なな隆夫も情けを素直に受けたのだろうと思った。
「おらの都合は、明々後日がええのやけんど、そいでええか?」
「うん。ええよ」
良いも悪いもない洋平は、二つ返事で了承した。
こうして、蛍狩りは九日に決定したのだが、洋平は彼女が許しを得ることは難しいと思っていた。自分の方は祖父や父も問題ないであろうが、大工屋が預かっている子
供を夜に出すだろうか、という懸念があったからである。
しかし、意外にもあっさりと許しが出た。後で聞けば、美鈴が両親との直談判に及んだということだが、思いの外強い反対もなく、許しが出たということだった。