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1-06:初めてのパーティバトル[キャラクターステータス付]

 創暦1763年6月13日、デビルロード帝国。

「全く音沙汰が無く状況がわからぬが、リーファは無事に勇者を抹殺できたのだろうか……」

 皇城では皇帝エスペラードが愛娘を心配していた。と、そこへ謁見の間の扉がノックも無しに勢い良く開けられ、何者かが駆け込んでくる。

「陛下、一大事です! リーファ皇女殿下が勇者に敗北しました!」

 駆け込んできたのは傷も癒えて職務に復帰していたトーギャンだった。なお、いくら腹心の部下とて謁見の間に許可無く駆け込むことは普通は許されない。だが、持ち込んだ報告の重大さに、エスペラードも冷静ではいられなくなり、そのことを咎めるどころではなかった。

「なんだと!? どういうことだ!」

 椅子から立ち上がり、凄まじい剣幕で詳細な報告を求めると、

「ははっ、詳しくはこちらをご覧ください」

 トーギャンは言葉で説明するより証拠を見せるべきと考え、遠方の監視に使える目玉の魔物から届いた証拠映像を提示した。

 そこには、彼ら魔族が必殺だと思っていた吸精をまともに受けながらまるで効いていない勇者トーマに、戦意を失って頭を垂れるリーファの姿があった。なお、父が娘の淫行を録画したものを見ている、という客観的な事実は気にしてはいけない。

 さらに、勇者の温情なのか故郷に帰るよう促されたリーファは国を捨てて勇者に付き従うなどという、皇女としては決して許されざる決断をする光景も映っていた。

「な、なんということだ……吸精できなくとも、攻撃魔法でどうとでもなるであろうに。私の育て方が間違っていたのだろうか……」

 愛娘のまさかの裏切りに、がっくりとうなだれる皇帝を気の毒そうに見つめ、

「陛下、いかがいたしましょう。新たに勇者への刺客を放ちますか?」

「いや、しばらく放っておく。トーギャンよ、済まぬが私も少しの間ひとりにしてもらえまいか」

「は、陛下の仰せのままに」


 ☆ ☆ ☆


「さて、どの依頼を受けようか」

 ギルドにやってきた俺たちは、早速依頼の掲示板を物色する。

 一応昨日も掲示板を見て一角ウサギの討伐依頼を拾い上げてはいるが、こうしてじっくりと掲示板を眺めてみると、定番の魔物討伐系から、街中のゴミ拾いやお届け物などの雑用系まで、多岐に渡っていることがわかる。とりあえず、リーフィアも無事Fランクに昇格していることだし、稼げそうな魔物討伐の依頼にしよう。お、これなんかいいかも。


「グラスディアーの討伐、ですね。彼らは基本的には草食で、攻撃されない限りは人を襲うことはほとんどないですが、あまり増えすぎると家畜に与える草が食べ尽くされてしまいますので、時々はこうして討伐して減らさないといけないんです。先日の調査で、街の東側の草原に60体規模の群れが生息していることがわかっていますので、それを半減させることを目標にしてください」

 依頼の受付票をベラさんに差し出すと、詳細な情報を教えてくれた。

「ということは、30体くらい倒せばいいんだな。ところで、どうやって倒した数の確認を取るんだ?」

「それは、ギルドカードに自動的に記録されるようになっていますが、きちんとトドメを刺した数だけしか記録されませんので、確実にトドメを刺すようにしてください。それと、調査の際には遭遇していませんが、グラスディアーの生息域には必ずと言っていいほど、彼らを食料として狩りにくるゴブリンが生息しています。群れの討伐の最中にゴブリンの集団に襲われて乱戦になってしまったら、EやFランクの冒険者2人では危ないので、ゴブリンを見かけたら即座に撤退することも考えて行動してください。ゴブリンを1体見かけたらその付近に40~50体はいると思え、っていうのが冒険者としての心構えのひとつですから」

「わかった。よし、行くぞ」

「はいっ!」

 諸注意を心に留め、リーフィアと共に街を出発する。ゴブリンに関する格言は地球で言うところの黒いアイツみたいだが、アレの場合は1体見かけたら30体はいる、だったような気がするから、こっちのほうが酷いな。あ、どうでもいいけどどっちも“G”だな。まあ、見た目がキモイくらいで命に関わるようなものじゃない黒いアイツと、下手したらガチで命に関わるゴブリンとじゃ全然別物なんだろうけどな。



「ちぇいっ!」

 頭の立派なツノで立ち向かってくるグラスディアーをギリギリで回避しながら、すれ違いざまに斬りつける。かつて戦った一角ウサギ同様、コイツもツノが弱点だ。弱点のクセにそれを武器にして向かってくるなんて、何考えてるんだ。ああ、何も考えてない、本能のままに生きてるんだな。

 街に着く前に戦ったグラスディアーはツノを切断するのに数回の斬撃を要したが、レベルが上がってSTRが増してる今は一撃でツノを切断していた。動きが鈍ったところですかさず首に剣を突き立ててトドメを刺す。これで俺は15体撃破。


「ウィンドカッター!」

 リーフィアはリーフィアで、得意の魔法を駆使して一度に複数体の相手をしていた。コンバットスタッフを構え、次々に放たれる風の刃は、狙い違わずグラスディアーどものツノを軽快に斬り落としていく。ツノを落として動きを鈍らせられれば、扱いに慣れていない短剣でも突き立てればいいだけなのでリーフィアでもトドメが刺せる。良かった、安物でも短剣を買っておいて。コンバットスタッフに比べたら激安の、たった500ゴルド。何の変哲も無い鉄製のダガーだが、今はそれで十分だ。

「ひっ……きゃあああっ!」

「リーフィア、どうした!?」

 突然の悲鳴に振り向くと、彼女の魔法でツノを斬り落として弱っているグラスディアーにこっそり接近し、勝手にトドメを刺して横取りしている、ゴブリンの姿があった。む、これはヤバイかもしれん。現在、リーフィアのそばにいるゴブリンは1体のみだ。グラスディアーの群れはすでに半分以上仕留めているが、視界の隅に映る森から新たに現れたゴブリンが結構な数の群れでこちらに接近中だ。あれは少なくとも50体はいる。いまリーフィアと睨みあいをしている1体は斥候か何かなのだろう。さて、どうしよう。撤退すべきか?

「リーフィア、それは諦めていったんこっちへ下がれ!」

 あくまで自分が倒した獲物だと、右手にコンバットスタッフ、左手にダガーを握ってゴブリンと睨みあうリーフィアに、そう指示を出す。ゴブリンどもと戦うにしても撤退するにしても、まずはリーフィアと合流してパーティとしての方針を決めねばならん。もちろん、悠長にやってる時間なんてあるわけないから手早くしないとな。


「ファイアウォール!」

 すると、リーフィアが炎の壁を立てて目くらましをしつつ、下がってきた。その表情はどことなく悔しそうだ。

「リーフィア、魔力はどの程度残ってる?」

「大体半分と少し、ってところです。まだまだ大丈夫ですよ!」

「わかった。実際のところ、あの群れを2人だけで殲滅、もしくは奴らを撤退させるところまで行けると思うか?」

 炎の壁が小さくなってきた。猶予は無さそうなので、決断をするために最後の質問を投げかけた。

「大丈夫ですよ。私もまだまだ余力ありますし、トーマさんだって大丈夫ですよね?」

「ああ、もちろんだ。だが、もし今見えている群れの他にも援軍が来るようなら、そのときは即座に撤退するから、そのつもりでいてくれ」

「はい! じゃあ、ここは私が!」

 リーフィアはひとつ頷くと、こちらに向かって突進してくるゴブリンどもを視界に納めて、魔力をコンバットスタッフに収束していく。

「フォーリントラップ!」

 その詠唱とともに、ゴブリンどもの足元に、大きな落とし穴が口を開けた。突然のことに、先頭集団は為す術無く穴に落ちる。一部のゴブリンが運ぼうとしていたグラスディアーの死体も、一緒に何体か落ちている。かなり深い縦穴で、ゴブリンどもは登ってくることができずにもがいている。また、少し遅れていたグループも、穴を飛び越えようとして失敗し、次々に穴に落ちていく。結果として、20体以上のゴブリンが穴にハマり、残りはギイギイ言いながら、落とし穴に落ちず、その手前に転がっていた何体かのグラスディアーを戦利品として担ぎ上げ、元来た方にある森の方角へと撤退していった。仲間を躊躇なく見捨てて撤退か。潔いというか、ドライというか。まあ、魔物に情けは無用。フォーリントラップの穴が消える前に、とっととトドメを刺してしまおう。

 まあ、トドメを刺そうにも、この深さの穴だと俺の剣じゃ直接攻撃することができないんだけどな。せめて槍とかなら届くかもしれないが、無いものねだりをしても何にもならない。ここは魔法を使うとしよう。剣を鞘に納め、集束具にもなっているグローブに魔力を収束していく。

「ウォーターガン!」

 人差し指の先に生じた小さな水球から、1秒に1回のペースで水のレーザーとも言うべき水流が発射され、肩車をして穴からの脱出を図るゴブリンどもを貫いていく。水圧が半端じゃないようで、まさに一撃必殺の威力だ。あっという間に肩車が崩壊し、穴の底に落ちて物言わぬ骸となる。横を見れば、負けじとリーフィアも同じようにウォーターガンを発動させ、ゴブリンどもを屠っていく。20数体いた穴の中のゴブリンが全滅するまで、数分とかからなかった。不思議と、こういう物語などでよくあるような、人型の魔物を倒したことへの嫌悪感とかはわいてこなかった。俺って意外と冷血漢なのかもな。

 最終的に、グラスディアーの死体が40と、ゴブリンの死体が25体。2人でこの戦果は、果たして多いのか少ないのか。比較対象がないので、どうにもわからないな。

「よし、じゃあ引き上げるぞ」

 その死体全てをインベントリに収納して、俺たちはほぼ無傷でシトアの街に帰還した。



「これだけの戦果を上げるほどの魔物に襲われて、よく五体満足で帰ってこられましたね……」

 俺たちのギルドカードに記録された戦果を見て、ベラさんが顔を引きつらせていた。どうやら相当多いようだ。俺の戦果はグラスディアーが30と、ゴブリンが20。リーフィアはグラスディアーが10と、ゴブリンが5。活躍の割にグラスディアーの撃破数が少ないのは、トドメを刺す前にゴブリンどもに横取りされたせいだろう。ゴブリンはほとんど俺のウォーターガンが先に貫いて仕留めてたからな。

「まあ、グラスディアーをあらかた倒し終わったあたりでゴブリンの群れが乱入してきた感じだったんで、両者を同時に相手取るような乱戦にはならなかったんだよ。ゴブリンどもだって、リーフィアが土魔法で落とし穴を作ってそこに落とせた分しか倒してないし」

 紛れも無い真実だ。ゴブリンが乱入してきた時点で、五体満足なグラスディアーはほとんど残っていなかった。群れの半分も倒せば十分だったのだが、少し張り切りすぎたようだ。おそらく、ゴブリンの乱入がなければリーフィアもグラスディアーを20体くらいはトドメを刺せていたと思う。

「そうですか、何はともあれ無事でよかったです。じゃあ、依頼の達成報酬、1万2000ゴルドをお支払いします。今回は死体の持込はありますか?」

「ああ、俺たちが仕留めた分全部持ってきた」

「え、全部ですか?」

「ああ、グラスディアーが40体、ゴブリンが25体だ」

「で、ではこちらへ来ていただけますか?」

 自己申告した数にまたも顔を引きつらせながらも、ベラさんは修練場よりもさらに奥にあるギルドの倉庫へ俺たちを連れて行く。同時に手の空いている職員に声をかけ、鑑定を手伝わせるようだ。

 修練場の倍はありそうな広い倉庫は、ひんやりとしていた。天井からぶら下げられた球状の物体から冷気が漏れているようだ。ファンタジックでいいな。

「じゃあ、出すぞー」

 そう宣言して、グラスディアーやゴブリンの死体をドサドサと放出していく。一塊にするとかなり不気味だな。

「グラスディアーのほとんどはツノを落とされているな」

「ゴブリンは頭や心臓の辺りを一撃で撃ち抜かれている……魔法か?」

「全体的に状態は悪くないが、うーむ」


 今回持ち込んだものは、品質はまあまあ良かったものの、割増で買い取るほどでもなかったとのことで、全て通常の買い取り価格だったが、それでも数が数だ。グラスディアーが40体で24万ゴルド、ゴブリンが25体で14万5000ゴルド。さらに討伐報酬で計9万7500ゴルドと、依頼の達成報酬1万2000ゴルドと合わせれば、この依頼だけでおよそ50万ゴルドの荒稼ぎだ。まあ、2人でやったものだからこの中からリーフィアのやった分を計算して分配しなくてはならないが、それでも半分以上を倒した俺の取り分は30万にはなるだろう。リーフィアとは単にしばらくの間パーティを組むだけで、結婚して家計を一緒にしようとかなんてのは考えていないため、分配はしっかり行わなくてはな。


「えっ、私こんなにもらっていいんですか?」

 討伐数などから計算した結果、リーフィアの取り分はおよそ13万ゴルド。結構な大金だが、それでも今日の稼ぎの4分の1程度だ。だが、それでもリーフィアは多いと感じたのだろう。戸惑った様子で聞いて来た。

「ああ、今日の収入は全部で49万4500ゴルドになったんだ。お前が討伐した分と、ゴブリンを倒すときに土魔法を使っただろう。俺もそれに乗っかって倒したから、その分少し多めに分配する。気にせず受け取れ」

「は、はい。わかりました……」

 正当な報酬であることを丁寧に説明し、13万ゴルド、銀貨13枚を受け取らせる。それでも俺の取り分は36万4500ゴルドにもなる。十分すぎる。



 今日の依頼は昼前から出て夕方までかかった。とはいえ、2人で50万ゴルド弱も稼いでくれば、ボロ儲けもいいところだろう。

 宿に戻って別料金のシャワーを浴びると、良い具合に空腹を感じる。昼飯は食いそびれ、街へ戻ってくる途中でインベントリの中に最初から入っていた保存食の干し肉を2人で食べただけなので、さすがに腹も減るというものだ。

 夕食を済ませ、部屋に戻ってステータスを見てみると、レベルが一気に9まで上がっていた。まあ、あんだけ倒せばレベルも上がるわな。

 スキルポイントは42ポイントある。とりあえず、剣術と格闘を3に上げておく。

 ん? それぞれ何か別のスキルへの派生があるみたいだ。ええと、剣術からは魔法剣、それと格闘からは法闘術というスキルが派生で新たに取得可能なのか。魔法剣はまあおおよそ文字通りの意味でいいとして、法闘術ってなんだ?

 とりあえず、それぞれをレベル1で取得してみよう。どちらもレベル1の取得に2ポイントずつ必要だったが、魔法剣は攻撃魔法のエネルギーや魔力そのものを剣に乗せて攻撃できるものだとわかった。では、法闘術は? どうやらこちらは格闘グローブ、マジックナックルに魔法のエネルギーを纏わせたり、コツをつかめば魔力そのものを全身に纏わせて攻撃できるようになるスキルらしい。つまりは剣と魔法の合わせ技、格闘と魔法の合わせ技ができるようになるってことなんだな。ああ、魔「法」格「闘術」で法闘術か。集束具が格闘グローブっていう変わり種の俺だからこそこのスキルが活きてくるのかな。

 どちらも、レベル1で習得済みの全ての魔法を利用できるみたいなので、これのスキルレベルを上げると、威力が跳ね上がっていくとか、そんな感じか?

 まだいっぱいポイントは残っているので魔法もそれなりに強化できるが、一応リーフィアもいるし、ひとまずほとんどの魔物に有効であろう火魔法を3に、無属性魔法を2にそれぞれ上げておく。それと、回復魔法も2に上げておこう。ああ、そうだ。1ポイントの生活魔法というものも取ろうと思ってたんだった。あと、身体強化と魔力強化を2に上げておけば、とりあえず今回のスキル強化はいいだろう。これからはポイントを少しは残しておかないと、不測の事態に備えられないからな。42ポイントのうち、今回は28ポイントを消費して残り14ポイント。十分だろう。


 さて、と。ステータスはどんなもんかな?


【名前】トーマ=サンフィールド

【Lv.】9

【SP】14

【HP】296(148) 【MP】768(384)

【STR】184(92) 【VIT】148(74)

【AGI】126(63) 【DEX】96(48)

【MAG】384(192) 【LUK】34

【スキル】剣術3 格闘3 魔法剣1 法闘術1 火魔法3 水魔法2 風魔法2 土魔法2 無属性魔法2 回復魔法2 身体強化2 魔力強化2 生活魔法 観察眼 料理1

【補足】HP・MP・STR・VIT・AGI・MAG・DEX 各100%上昇


 うん、身体強化と魔力強化を2に上げたから強化率100%、つまりは基礎値の2倍だ。そのせいとはいえ、我ながらとんでもない数値だと思う。


 ちなみに、リーフィアもレベル8に上がっていた。スキルに杖、コンバットスタッフを扱うための長柄武器のレベル1が増えた程度で、ステータスにも別段特記するようなこともないので、詳細な数値は割愛する。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回……1-07 ゴブリン討伐戦(その1)~出発~

11/4 09:00 予約投稿をセットしておきます。

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