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1-05:パーティ結成[キャラクターステータス付]

 眩しい。

 目を開けると、見慣れない天井。

 そうだ、俺は昨日から異世界サイネガルドに来て、宿に泊まっているんだった。

 身体を起こそうとしたが、重い。左側に何かがしがみついているようだ。

 そちらを見やると、くすんだ金髪の女の子――リーファが俺の左腕を抱き枕のようにして眠っていた。

 それを見て、急速に昨夜の記憶が蘇ってきた。

 慌てて俺たちにかかっていた薄手の毛布を捲り上げる。

 その下から出てきたのは、2人の裸体。それだけ。脱がされた記憶はないが、俺はリーファの魔眼で身動きを封じられていたんだから、脱がすのも簡単、か。俺の服はベッドの下に放り投げられていた。

 どうやら、一線は越えていないようだ。いや、もしかしたらこの子が初めてじゃないとか、そんな可能性も無いわけではないが、今はそんなことはどうでもいい。

「ん……」

 俺がもぞもぞ動いてるのを感じたのだろう、リーファも目を覚ます。俺と目が合った。

 一瞬の静寂。

「な、な、なんであなた生きてるんですか!?」

 あー、うん。必勝だと思っていた手を使って、仕留めた気になってた相手が生きてりゃそう言いたくもなるよね。でも、仕留めたつもりの相手の腕を抱き枕にして寝てるって、ずいぶんな趣味だな。


 明るい部屋で、お互い全裸で話をするのはなんとなく気になったので、まずは服を着ることにした。

 なんでだろうね、脱ぐときより着るほうが……って、完全にオッサン思考になってるな。


「……つまり、私たち魔族の種族特性、吸精能力は、この世界に生きる生物のみにしか効果がない、と。そしてあなたはこの世界の人間じゃないから効かなかった。そういうことですか?」

「まあ、そうだ。と言っても、俺も創造神さまから聞いた話をそのまましているだけだから、よくわかってないんだがな。で、お前はこれからどうするんだ?」

「私がどうするか決める前に、逆に聞いてもいいですか? あなたは、何をするためにこの世界へやってきたのですか?」

「なんていうか、こんな話をしといてなんだけどさ、よく一発で信じる気になれるよな。普通、異世界から来ました、って言われても信じられないと思うんだが」

 リーファの問いにはまだ答えず、俺は苦笑しながら言った。

「それは、私の吸精が全く効いていない以上、信じざるを得ませんわ。これまで、我が帝国に迷い込んできた者たちの口を封じるために、例外なく吸い尽くしてきたのですから。では、質問に答えていただけますか?」

「俺は、半ば無理やり創造神さまにこの世界に連れてこられて、魔族の野望を止めてくれ、と頼まれた。その手段は特に指定されてはいない。だから、話し合いでどうにかなるものなら、それでもいいと思ってる。皇女っていう立場のお前から見て、皇帝は話し合いに応じるような感じはあるか?」

 偽りのない、本音だ。戦わずに問題が解決するなら、それに越したことは無い。

「残念ですが、現状ではそれは難しいと思います。話し合いでなんとかなるのなら、そもそもそんな野望を抱いたりしないでしょうから」

 ま、そりゃそうだよな。話し合いで解決するなら、世界に戦争なんか存在しないだろう。言葉では相容れないからこそ、力を振りかざし、血で血を洗う戦争になるんだろうからな。

「まあ、俺の答えはそんなところだが、お前はどうする? 俺を物理的に抹殺するか? もちろん、その場合は俺も全力で応戦させてもらうぞ。死にたくはないからな」

「私は……トーマさんについていきます!」

「はいぃ?」

 またわけのわからない展開になってきたな。

 どうしてこうなった。



 詳しく話を聞いてみると、どうやらこの子、自分の能力が俺に通用しなかったことで戦意を喪失し、俺に従うことにしたんだそうだ。

 故郷に帰ればいいじゃないか、と言ったら「勇者を始末するために無理やり飛び出してきて、しかも本来勇者(あなた)への刺客として使うはずの、自分を連れ戻そうとした追っ手をしばき倒してまでここに来ているから、どんな顔して帰ればいいのかわからない。もうデビルロード帝国の皇女としてのリーファ=フォン=ドーレスは死にました。これからは勇者トーマの従者、リーフィアとして生きて行きます」なんて言われてしまった。それでいいのか第一皇女。

「まあ、俺の命を脅かさないのなら勝手にしろ、と言いたいところだが、昨日言ったことは覚えているな? 最低でも、自分の身を自分で守れる程度の強さ、冒険者ランクFにしてからだ。その条件は譲るつもりはない」

 ここまで宣言した以上、コイツはしがみついてでも俺についてくるんだろう。ならば、目の前で死なれないように、昨日少しだけ話したパーティ結成の条件を満たしてくるように言うしかないだろう。

「わかりました。でも、なぜかわかりませんが、昨日までより身体が軽いんですよね」

 ん、どういうことだ? ちょっと、ステータスを見てみるか。


【名前】リーフィア=ドーラ (本名:リーファ=フォン=ドーレス)

【種族】魔族(デビルロード帝国元第一皇女)

【Lv.】7

【HP】165 【MP】624

【STR】80 【VIT】83

【AGI】64 【DEX】36

【MAG】312 【LUK】25

【スキル】火魔法5 水魔法3 風魔法3 土魔法3 索敵2 回避2 危険予知2 礼儀作法2 吸精3 魔眼3


 なん、だと……?

 昨日と今日で大幅にステータスが違う。レベルが上がっただけではないだろう。いや待て。そもそも、なんでレベルが上がってるんだよ。戦闘なんて無かったはずなのに。ある意味ベッドの中での戦闘行為はあったのかもしれないが。

 うーん、昨日のステータスがおかしかった、と考えれば、今のこれが彼女の本来の能力値なのか? レベルアップしているのはともかくとしても。

「あ、そういえばトーマさんって観察眼のスキルを持ってるんでしたよね。昨日私の正体見破ったときと、何か変化あります?」

「ん? ああ、昨日は驚くくらいステータスが低かったんだが、今見たら大幅に上昇しているな。そもそも、昨日はなんであんなにステータスが低かったんだ?」

「えっと、昨夜トーマさんに正体を見破られるまでは、普通の人間ヒューマンに擬態していたんですが、擬態するとステータスまでヒューマン並みに下がってしまうんですよ」

 なるほど、だからあんなにステータスがフラットだったのか。まあ、普通の人間があんなにフラットなステータスなのかはこの際置いておく。でも、今のリーフィアを見ても、昨日正体を明かした時のツノや尻尾は見えず、ヒューマンの女性となんら変わりない姿をしている。それなのに能力値が本来の状態を取り戻しているのはどういうことだろう。

「これは仮説なんですが、昨夜私はトーマさんを性的に食べちゃいました。その影響ではないかと思うんですが、どうでしょう?」

 いや、どうでしょう? とか言われてもね。つーか、コイツが初めてじゃなかっただけで、やっぱヤられてたんかい。記憶が無いのが悔やまれるわー。

「まあ、なんでもいいけど、その状態なら、冒険者ランクをF-からFに上げるのもそんな苦労しないだろうから、とっとと済ませて来い。とりあえず、起きるぞ。着替えるから、お前は出てけ」

 話を強引に打ち切り、リーフィアを部屋の外へ蹴り出す。閉めた扉の向こうで何かわめいてるが、無視だ、無視。


 どうやらリーフィアが泊まってる部屋は俺のすぐ隣だったようで、俺が身支度を整えて部屋を出たところにちょうどかち合った。女子にしてはずいぶん支度が早い、と思ったが化粧をしていないだけだった。おそらく、化粧品が無いわけではないだろうが、年齢的にそれをする必要が無いのだろう。

 時刻は午前7時を少し過ぎたところで、多くの宿泊客が朝食を取りに食堂に来ており、かなり混んでいた。

 空いていれば別々に座ろうと思っていたが、これはコイツと相席せざるを得まい。そう思って空いているテーブルを見つけ、リーフィアとともに腰掛けると、周囲のテーブルにいた冒険者たちの一部が少しざわついた。

 ひそひそと、「アイツ、昨日あの子の事こっぴどくフってなかったか?」とか聞こえてくるから、俺がリーフィアと一緒にいることに驚いているんだろう。気にするほどのことじゃないな。

「ところで、リーフィア。お前はどんな武器を使うんだ?」

 朝食に出てきたパンとスープに野菜サラダ、それと目玉焼きを食べつつ、リーフィアに訊ねてみた。

「私、今までほとんど魔法に頼りきりで、あんまり武器を使ったことがないんですよ。私も何か武器を使えたほうがいいですか?」

 なるほど、確かに魔族というからにはその有り余るほどの魔力で押し通る戦術もアリか。だが、純魔法使いだけだと、パーティを組んだ際、前衛をやるのは俺だから、やや不安があるんだよなぁ。どうするべきか。

「そうだな、あれだけのスキルがあれば、魔法だけでも十分やっていけるとは思うけど、もし魔力が尽きたときのために、何か武器が扱えるといいな。武器攻撃ができれば、いくらかは魔力の節約にもなるしな。正式にパーティを結成したら、武具屋に行ってみるか」

「はいっ!」

 足りない頭をフル活用して出した俺のアドバイスに、リーフィアは嬉しそうに頷いた。



「十分ですね、合格です。昨日の今日でこれほどまでに動きが良くなるなんて、何かあったんですか?」

 ベラさんが目を丸くしながらリーフィアに戦闘テストの結果を伝える。まだまともな武器を持っておらず、模擬剣を使える自信もない、とのことで、今回は威力を抑えた攻撃魔法だけで戦術を組み立て、昨日敗れたらしい、名も知らぬFランク冒険者をノックアウトして見せた。

「たぶん、昨日は緊張で硬くなってたんだと思います。それに、Fランクに上がればトーマさんがパーティを組んでくれる、っていうのも頑張る理由でしたから」

 照れたように笑いながら、リーフィアがウソの理由を並べ立てている。まあ、全部が全部ウソと言うわけでもないんだろうが。


 約束どおり、リーフィアがFランクに昇格したので、俺とパーティを組むことになった。言っておくが、パーティを組むだけで、結婚する気はないけどな。彼女がその笑顔の裏で何を考えているかはわからないが。

 集束具を持たずにそれなりの威力を持つ魔法を連発してみせたリーフィアの秘めた実力に修練場はどよめいていたが、やはり目立つのは良くない。なので、手遅れだとは思うがリーフィアにも武器と一体化した集束具を持たせるべく、武具屋にやってきた。

「いらっしゃい。ああ、トーマくんか。今日はどうしたの? 早速マジックナックルの改造?」

 現在の時刻は午前10時を回ったところ。多くの冒険者はとっくに出かけたのだろう、武具屋は閑散としており、イザベルさんもカウンターで暇そうに頬杖をついていた。

「いや、新しくパーティに加わった彼女が持つ、集束具が欲しくてな。また、武器と一体化した集束具を見せてもらえるか?」

「はいよ、どんなのがお好みだい?」

「俺が見た感じだと、ほぼ魔法一本で勝負できるだけの能力はあるけど、いざと言うときのために武器として持たせられるようなものが良いと思うんだが、リーフィアはどんなのがいいんだ?」

 用件を告げ、まずは方向性を絞ってから、本人の希望を聞いてみる。逆にしなかったのは、今まであまり武器を持たなかった子にいきなり訊ねても、迷うばかりで決まらないと思ったからだ。

「えっと、私は希望とかは特に無いんですけど……」

「そうかい。なら、こっちでいくつか見繕ってくるから、その中から選んでおくれ」

 リーフィアは希望を出せなかったので、イザベルさんが店の奥に候補となるような品を探しに行った。

「今の在庫だと、こんなもんだね」

 そう言ってイザベルさんが持ってきたのは、剣と、杖が一本ずつ。剣は俺が持ってるショートソードと同じくらいの長さだな。杖は、本体は木製で、グリップの部分と先端が金属で補強してある。長さは、リーフィアの背丈と同じくらいか。

「リーフィア、後はお前が実際に使いやすそうなほうを選べ」

「は、はい」

 そう促されてようやく、リーフィアはそれぞれを手にとって比べ始めた。素振りとかもしてみているが、あまり剣は向いてないかもしれないな。ちょっと、不恰好すぎる。

 そのことは本人もすぐ気づいたのか、やや顔を赤らめて杖を手に取る。お、こっちはまだマシかもな。

「トーマさん、私、こっちの杖のほうが使いやすいです! あれ? でも、私あまりお金持ってないんですけど、これっておいくらですか?」

「その杖――コンバットスタッフは、7万8000ゴルドだよ。買って行くかい?」

 イザベルさんが値段を提示する。手持ちで十分買えるな。

「な、ななまんはっせん……」

 だが、リーフィアは値段を聞いて顔を青くしている。

「ああ、買わせてもらおう」

「えっ……」

「毎度あり。彼女へのプレゼントかい? ずいぶん太っ腹だねえ」

「何を言ってるんですか。これは言わば先行投資ですよ。コイツはやればできる子だと思ってますからね。はい、じゃあこれで」

 俺はインベントリから銀貨を7枚と銅貨を80枚取り出してイザベルさんに支払い、コンバットスタッフを受け取る。これで残高はおよそ5万ゴルド。早いとこ依頼をこなして金を稼がないとな。


「どうして、ですか……?」

「言っただろう、先行投資だと。パーティを組む以上、戦力の底上げはできる限りやっておかないとならないからな。さあ、ギルドに行くぞ。依頼を受けて金を稼がんと、宿代もままならなくなるからな」

 よし、ちゃんとした意味では初めての依頼だ。どんなのがあるのか、楽しみだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回……1-06 初めてのパーティバトル

11/4 00:00 予約投稿をセットします。

今後はストックが尽きるまで9時間に1話のペースで突っ走ります。(なので1日に2話~3話ずつ展開予定)

3章の最後まではストックがありますので、いくらかは物語が進んでるはずですw

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