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1-04:出会い[キャラクターステータス付]

 ホールの奥にある修練場では、多くの冒険者たちが思い思いに身体を動かしていた。

「よう、ハリー。もう大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。お前のことを防具も持たないド素人だと侮ったのは失敗だったな。どうやら防具も調達してきて、だいぶ冒険者らしくなったみたいだし、再戦、頼めるか?」

 その中にはさっき模擬戦をしたハリーの姿もあり、声をかけると模擬戦を申し込まれた。

「ああ、いいぜ。今度ももちろん俺が勝つけどな」

「言ってくれるぜ。さっきのは俺が油断していただけだってこと、教えてやるよ!」



「くそ、なんでこの短時間でさらに強くなってんだよ……」

 はっはっは、レベルアップで強化したスキルのおかげで圧倒してしまったぜ。気絶しない程度に威力を抑えて叩きのめしてやった。ちなみに今回は魔法を使っていない。剣術と格闘だけ。

「さっきの模擬戦で見せたものだけが俺の実力じゃないってことだよ。まあ、もっと頑張れ。俺はいつでも相手になる」

 まさかこんな、バトルものの漫画とかによくいるような、主人公の前に幾度と無く立ちふさがるライバル的なキャラクターが好みそうな言葉を自分が言う日が来ようとは。

 はっ! これは、いずれ俺がハリーに負けるフラグを立ててしまったのか!? いかんいかん、俺ももっと強くならないと。勇者として今後魔族や魔物との戦いに身を投じなくてはならないわけだし。


 今日はもう上がるというハリーと別れ、俺は先ほどのハリー戦での反省点を洗い出す。攻撃面では今のところ問題は無い。だが、防御および回避と言う点で少し不満が残る。まだ防具を着た状態に慣れてないから仕方ない部分もあろうが、たびたびハリーの攻撃を回避しきれず食らってしまった。防具があったのと、クリーンヒットじゃなかった分決定打にはならなかったが、防具を着た状態での動きに慣れていれば回避できたと思うので、もう少しこのまま素振りとかをしていこう。


 防具を着た状態で一通り剣術や格闘術の動きを確認したところで、端っこにあるベンチに腰掛けて一休みする。さっき買ったタオルで汗を拭い、皮袋に入った水をがぶ飲みする。ああ、運動の後は水が美味い。それは日本もサイネガルドも変わらないんだな。

「あの、すみません。トーマさん、ですよね?」

 空になった水袋を手にそんなことを考えていたら、声をかけられた。

「ん、確かに俺はトーマだけど、俺に何か用かな?」

 顔を上げると、女の子がひとり。こんなところにいることと、革鎧を身につけているので、十中八九冒険者だろうが、こんな可愛い子もいるんだな。でも、俺に声をかけるのに緊張しているのか、少し身体が震えている。

 顔に見覚えは無いが、かなりの美少女だろう。ややくすんだ金髪を肩までのショートカットにしており、ぱっちりとした意志の強そうな目、そして立ち居振る舞いから漂う気品めいたもの。一体この子は何者だろう。どこかの貴族の跳ねっ返り系お嬢様とかか? いや、跳ねっ返り系にしては落ち着いた雰囲気なんだよなぁ。うーむ。

「あ、あの……」

 ややまごまごした様子で言いよどむ謎の美少女。一種異様な雰囲気に、修練場のあちこちから視線がこちらに向けられる。

「わ、私と結婚してくださいっ!!」

 ……は?

 あまりの爆弾発言に、修練場の空気が凍りついた。



「少しは落ち着いたか?」

「は、はい……」

 さすがに修練場に居づらくなったので、ギルドホールにある酒場へ移動し、果実水を2杯注文した。1杯100ゴルドの、俺のおごりだ。もちろん、アルコールは入っていない。酒場だからといっても、全ての飲み物にアルコールが入っているわけではないのは、元の世界と同じだ。

「じゃあ、いろいろ聞かせてもらおうか。なんでいきなりあんなことを言い出した? いやその前に、あんたは一体誰だ」

 噂が広がる速度なんてのは世界が変わってもそうそう変わるものではないらしく、こっちに移動してきても視線の数は増える一方だ。だが、何にせよまずは真意を問いたださなくては。

「あ、名乗りもしないですみません。私、リーフィアって言います。トーマさんと同じく今日ギルドに登録したばかりで、冒険者ランクはF-(エフマイナス)です」

「ちょっと待った。F-ってなんだ」

「えっと……」

「登録したときの戦闘テストで全くいいところがなくて、単独では戦闘が絡むような依頼に参加することができないランクのことよ」

 気になる単語を聞き返すと、説明に困って言いよどむリーフィアを尻目に質問に答えたのは、隣のテーブルに座っていたベラさんだった。今日はもう仕事は終わりみたいで、食事をしながらこっちの話を聞いていたようだ。

 え、この子まともに戦えないのに冒険者やるの? なんかすごく嫌な予感がしてきた。

「そ、そうか。話の腰を折って悪かった、続けてくれ。なんであんなことを言い出したのか」

「はい。あなたは、私の運命の人なんです」

「はあ?」

 ヤバイ、この子電波入ってるかも。初対面で「運命の人」とか、いつの時代の少女マンガだ。とりあえず内面を顔に出さないようにしながら続きを促す。

「運命の人、ねえ。もう少し詳しい説明を頼む」

「ええと、近いうちにこの街に黒目黒髪の男性が現れる。その人が私の運命の人だ、というお告げがありまして。しかもトーマさんってとても強いですよね。トーマさんの戦闘テストを見ていたんですけど、Dランクの方に勝ってしまうなんて、すごいです。容姿はお告げにあった私の運命の人ですし、強さと、私を守ってくれそうな優しさを兼ね備えた、最高の人。だから、結婚してください」

 どうしよう、頭が痛くなってきた。この子、自分の都合しか考えてない。アレか、なまじ可愛い分、ちょっと媚びた感じで迫れば落とせない男はいない、とでも思っているのかね。

「ほう、そうかそうか。だ が 断 る」

「ええっ! な、なんでですか!?」

「俺は確かに登録したての新人としては強いほうなんだろう。だが、それでも俺はまだEランクに過ぎない。このギルドだけでも俺よりもっと強い冒険者はたくさんいるはずだ。俺の容姿だって、黒目黒髪は確かに珍しいかもしれないが、全くいないわけでもあるまい? とにかく、決して強いとは言えない今の俺には足手まといを背負い込む余裕は無い。最低限、自分の身を自分で守れる程度の実力を身につけてから出直して来い」

 日本人は「NO」と言えない民族だとか言われることもあるけど、俺は「NO」と言える日本人なのだ。言うべきときは言う、これ大事。

「ええっ! な、なんでですか!?」

 おい、某ゲームのエンディングで「はい」を選ぶまで会話が無限ループし続けるシステムじゃないんだから、話をちゃんと聞けよ。

「今の俺は自分のことだけで精一杯で足手まといを連れ歩く余裕なんて無いからな。それに、誰のお告げだか知らないけど、それが示す運命の人とやらの容姿に一致するからと言って初対面の男を無条件で信じるなよ。信頼してくれるのはありがたいが、俺はあんたが俺を信頼するほどにはあんたを信頼できそうに無い」

「大丈夫ですよ。本当に今日この街に来たばかりで、過去に後ろ暗いものがあるわけでもないから」

 断る理由を説明していたら、またしてもベラさんが会話に乱入してきた。まあ、ギルドの職員が保証するなら大丈夫なのかな。でもなぁ。

 冒険者ギルドは日本的に言えば何でも屋だろう。つまりは信用第一のサービス業。そこで働く職員は信用を失えば仕事にならないであろうことはわかってるはずだからな。隣で盗み聞きをしてはちょくちょく話に乱入してくる人についてはあえて突っ込まない。

「まあとにかく、俺はあんたと結婚するつもりも、パーティを組むつもりも無い。じゃあな」

 再度はっきりとナディアに「NO」を突きつけると、俺は席を立った。これだけわかりやすく理由立てて説明してるにも関わらず、絵面的には俺がリーフィアをフッたようにしか見えないために非難がましい視線を向けてくるのもまだいるようだが、そんなものは気にしない。気にしないったら気にしない。ここで情に流されて足手まといを抱えることになれば、勇者として魔族の野望を止めるのにも支障が出てしまう。ここは魔物が闊歩し、戦いに負ければ命をも失う世界。この際、評判云々より安全のほうが大事だ。


 宿に戻ると、夕食の時間だった。今日のメニューはカルボナーラっぽいパスタと、野菜サラダ。なんだろう、パスタはともかく、サラダの野菜も日本で食べてたようなのとあまり変わらないな。今度、市場へ行ってみようか。いずれは宿暮らしじゃなく部屋を借りるなどして自炊したほうが経済的だろうし。

 部屋に戻り、さっきの出来事を思い返す。

 正直、リーフィアは可愛いと思う。好みかどうかと聞かれたら、間違いなく俺の好みだ。だけど、それだけで結婚して足手まといを連れて歩くのは無理があるし、それに何より、俺には日本で付き合ってた彼女がいた。いた、と過去形にしたのは、別に俺がこっちの世界に来てしまったからではなく、それよりも前に彼女が忽然と失踪してしまったからだ。部屋の中には彼女のスマホも財布も家の鍵もそのまま残されており、彼女が住んでいたマンションはオートロックのセキュリティ完備、その上で窓も玄関もきっちり施錠されていた。彼女が自分の意思で失踪したのでは、という意見もあったが、それはないと俺は思ってる。失踪する直前まで一緒に居て、彼女のマンションまで送り届けて別れているのだ。別れ際も特に失踪に繋がるような何かがあったわけでもない。まるで手がかりもない状況のため、捜査も手詰まりだったようだ。なんせ、家の鍵が部屋の中に残されており、他に合鍵を持つのは俺と、彼女の親のみ。だが、俺はともかく、彼女の親は遠く離れた街に暮らしており、夜中に訪れることは不可能だ。それに何より、マンションの各階に設置されてる防犯カメラは俺が彼女を送り届けて立ち去った後、何ひとつとして不審なものを捉えていなかったのだから。

 あれ、スマホも財布も鍵も何もかも部屋に残っていた、その状況って俺も同じ事になってるんじゃ……?

 だとすると、彼女、杏奈アンナもサイネガルドに来ている可能性がある? いや、いくらなんでもそれは考えが飛躍しすぎているか。

 でもそういえば、神さまが「俺の住む世界からあと2人、勇者とその仲間を招いている」みたいなことを言ってたよな。まあ、もうひとりの勇者が杏奈である可能性は限りなく低いが、この世界で生きて行けばその人ともいずれ会えるだろうから、今は考えなくてもいいか。


 と、そのとき。部屋の扉をノックする音が響いた。なんだ、宿の部屋に来客?

「こんばんは、トーマさん」

 扉を押して開けると、そこにいたのはリーフィアだった。無言で扉を引っ張って閉めようとするが、閉まる直前に足を挟んできた。お前は押し売りのセールスマンか。

「お願いです話を聞いて……痛い痛い痛い!」

 とりあえず挟んだ足を引っ込めさせようと、扉をさらにグイグイと引っ張ってみたり、挟んだ足本体を踏んづけてみたり、我ながらなかなか酷いことをしている自覚はある。だが反省はしない。


 結局、諦めないので俺が折れた。やや足を引きずりながらリーフィアが部屋に入ってくる。

 話を聞いて、その上で断ればいいだけなのだから。あ、ついでだから観察眼でステータスを調べてみるか。


【名前】リーフィア=ドーラ(偽名) 本名:リーファ=フォン=ドーレス

【種族】魔族(デビルロード帝国第一皇女)

【Lv.】5

【HP】20(146) 【MP】20(532)

【STR】10 【VIT】10(73)

【AGI】10 【DEX】10

【MAG】10(266) 【LUK】10

【スキル】(火魔法5)(水魔法3)(風魔法3)(土魔法3) 索敵2 回避2 危険予知2 礼儀作法2 吸精3 魔眼3


 ……は? ナンデスカ、コノすてーたすハ?


 いやいや、ちょっと待て。一旦落ち着こう。なんで問題の魔族の皇女がこんなところにいて、しかも冒険者やってるんだよ。つーか、スキルの一部がカッコ表示になってたり、能力値がありえないレベルでフラットすぎる。どうなってるんだ、これは。


「私のどこがお気に召さないのでしょう? 直せる部分は直していきます。だからせめて結婚までは行かなくとも、私とパーティを組んではいただけませんか?」

 なるほど、少しはさっきのことで学習したのか。だが足りぬな。

「さっき言ったはずだぞ、そもそもお前とパーティを組むことそのものを拒否する、と。改善する点があるとするならば、お前が自分で自分の身を守れる程度の力を身に付け、冒険者ランクを最低でもF-からFに上げることだ。そうしたらパーティの件だけは考えても……いや、その前にもうひとつ聞かないとならないことがあるな。お前はどんな目的を持って俺に接触してきたんだ? なあ、魔族の皇女、リーファさんよ」

「!!」

 観察眼で見えた情報の一部をバラし、正体に気づいた風を装って訊ねると、リーフィア、いやリーファはビクリと身体を震わせた。

「まさか、観察眼のスキル? さすがは勇者、と言うべきかしら。まあ、正体を見破られたなら、隠している意味も無いわね。そうよ、私の本当の名はリーファ=フォン=ドーレス。魔族の国デビルロード帝国から、仇敵である創造神ハジュによって導かれた勇者おまえを抹殺するためにやってきたのよ」

 お、リーファの雰囲気が変わった。本性を現したか? それまでの、発言が電波系であることを除けば普通の大人しい少女だったのはどこへやら、今の彼女は全身から殺気を放ってこちらにプレッシャーをかけてきている。あと、頭にツノが生え、尻からは悪魔っぽさ全開の尻尾が飛び出した。

「ほう、俺を抹殺するときたか。要するに、結婚云々は、俺を油断させて寝首をかくための方便だったわけか。だが、俺とてそう簡単にやらせはしないぞ。まして直接的な戦闘力がほとんど無いに等しいお前がどうやって俺を倒すというのか」

 今まで生きてきて、こんな本気の殺気を浴びせられたことはないので、ぶっちゃけ怖いが、精一杯の虚勢を張ってリーファと対峙する。

「お前のような人間を倒すのに、直接的な戦闘力など必要ないわ。どうせ、創造神から聞いているのでしょう? 魔族(私たち)の固有能力のこと。そうでなくたって、観察眼で私を調べたのなら、スキルもバレてるでしょうに」

 まずい、固有能力って触れた相手の生命力と魔力をまとめて奪い取るとかいうやつか。……あれ、でも確かそれが有効なのはこの世界の生命体だけで、異世界から渡ってきた俺には効果がない、とも言ってたな。まあ、どうやらリーファはそのことを知らないみたいだし、焦って突撃するフリでもしておくか。演技だ、演技。

「やられる前にやってやる! 食らえええっ!」

 どういう手段で固有能力を発動させてくるかわからないので、とりあえずベッドの横に立てかけておいたショートソードを抜いてリーファに斬りかかる。

 だが、その突撃は踏み出してたった一歩で止められた。リーファの瞳が金色に輝いており、それを見た瞬間に動けなくなってしまった。魔眼系のスキルか。そういやステータスの習得スキルにあったな、魔眼。

「ふふ、観察眼でスキルを見破った割には焦ったのかしら。さあ、最後の夜を楽しみましょう?」

 リーファは動けない俺の手から剣を取り上げて床に置くと、俺をベッドに転がして上にまたがった。

 動けない俺はせめて助けを呼ぶため、声を上げようと思ったが、その機先を制するようにリーファの瞳がまた金色に輝き、俺は意識を失った――

お読みいただき、ありがとうございます。

次回……1-05 パーティ結成

11/3 15:00 予約投稿をセットしておきます。

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