4-12:撃退、そして新たなる旅路へ[キャラクターステータス付]
「俺が剣の峰打ちでリーフィアを叩くから、アンナはその間に取り巻きの魔族兵を、ユズは状況に応じて反射魔法を頼む」
戦闘再開に向け、ユズが再加入したことで役割を決め直す。さっきまでは役割も何もなく、リーフィアと対峙した直後にカウンターでやられてしまったからな。反省しないと。
「……わかったわ、任せて。そっちは任せるわ。わたしの槍じゃ剣に比べると峰打ちは難しいものね」
「あたしも、了解。んんっ!? リ、“反射魔法”!」
アンナは俺の考えた役割分担に何か言いたそうだったが、装備している武器の違いに思い至って反論を飲み込んだようだ。ユズはすんなりと役割分担を受け入れたが、直後に早速反射魔法を使用して俺たちの前に鏡のような光の壁が張られた。壁に弾かれるようにして火矢、雹弾、雷弾、土槍といった様々な属性の攻撃魔法が跳ね返され、放った術者のもとへ正確に戻っていき、打ち据える。
ぎゃああ……とかの断末魔の叫びも聞こえるから、跳ね返されることなど思いもせずに、跳ね返りの直撃を受けたのだろう。まあ、つい先ほど誕生したばかりの新魔法だからな、想像などできるはずもないか。
さて、これで指揮官リーフィアの取り巻きをしている魔族兵たちはアンナとユズが抑えてくれる。俺も自分の役割をこなすとしよう。
「リーフィアアアアアアアッ!!」
改めて真正面からリーフィアと対峙すると、腰の鞘からミスリルソードを抜き放ち、峰打ちにするべく、くるりと裏返すと、リーフィアに飛び掛かった。
☆ ☆ ☆
「戦況はどんな感じだ?」
「はっ、ここまで我々騎士団員に死者は出ていません。戦闘続行不可能な重傷者が5名、軽傷は残り全員。また、冒険者につきましては、死者が15名、重傷が48名、軽傷が残り全員、87名とのことです。南門の防衛線は破られず、南門から200歩ほどのところで戦線を維持しております」
「うむ、報告ご苦労。ところで、冒険者側の切り札とされる、トーマ=サンフィールド率いるパーティは先ほどの死傷者の数に含まれているのか?」
「いえ、彼らは報告申し上げた死傷者数には含まれておりません。敵方指揮官のもとに突撃したきり、負傷したという情報すらありませんので、信じがたいことではありますが、無傷、という可能性もあります」
「確かに、にわかには信じがたいが、あの盗賊団“灰空”をほぼ無傷で討伐してしまうパーティだからな。戦えるならそれに越したことは無い」
南門の内側に設けられた、騎士団の指揮本部。団長が現在の戦況の報告を受けていた。騎士団員には死者が出ていないが、応援要請を受けて飛び出していった冒険者たちに死者が出てしまっていた。
だがそれでも、防衛側にとって幸いだったのが、王都に攻め寄せてきた敵戦力の全てが南門に集中していることか。王都には東西南北に門があり、出入りが可能だが、東門、西門、北門の3か所ではいつも通りの風景が広がっていた。そのため、南門以外は通常業務をしながら、非番の騎士たちも南門に回して防衛にあたっている。
「ところで、シトアやトラツァルーチェからの援軍はどうなっている?」
すでに戦闘が始まって数時間が経っている。押し寄せる敵の数を見て取った団長は即座にシトアやトラツァルーチェへの応援要請のために早馬を両都市に向かわせたのだが、シトアはともかく、トラツァルーチェとの距離であればもう伝令の早馬は戻っても良いころなのだが、これまでにそうした報告は届いていない。と、そのとき。
「し、失礼します! 至急ご報告申し上げたいことがございます!」
天幕の外から別の騎士の声が聞こえてきた。
「よし、入れ。聞かせてもらおう」
「はっ! 自分は早馬にて王都への応援を願うべく、トラツァルーチェに向かったのですが、かの地もまた、謎の敵性集団の襲撃を受けておりました。騎士団トラツァルーチェ支部及び現地滞在の冒険者はそちらへの対応にかかりきりであり、王都への応援要請に応えることはできそうにない、との回答でした。お役に立てず、申し訳ない、とグロリアーナ支部長はおっしゃっておられました」
「そうだったか。ご苦労、少し休むといい。……そうすると、もしかするとシトアも同じような状況になっているのかもしれないな」
団長は報告に頷きを返し、騎士を下がらせた後、距離の問題もありまだ報告の届かないシトアの状況も似たり寄ったりである可能性に思い至った。
「王都を守るべき騎士団としては少々歯がゆいが、指揮官のもとへ向かったトーマ=サンフィールドのパーティに任せるしかないか。騎士団は押し寄せる魔物どもの対処に手いっぱいで、とても敵陣奥深くまで反攻できるほどの余裕はない……」
シトア、トラツァルーチェ両支部からの応援が難しくなった以上、彼我の兵力差を埋める手段は無くなった。後は参戦している騎士や冒険者個々の奮戦に期待するのみ。団長は深いため息をつくのだった。
☆ ☆ ☆
「うるあああぁぁっ!」
取り巻きの魔族兵をアンナとユズに任せることにより、リーフィアと一騎打ちの状況を作り出した俺は、片刃の片手剣であるミスリルソードの刃を返して峰打ちのようなスタイルでガンガン振り回し、リーフィアを滅多打ちにしていた。攻撃魔法は強力なものほど高い集中を要するので、滅多打ちにしている今は威力の低いスキルレベル1の弾系しか使わせていない。
一方、アンナとユズのほうも、次々に襲い掛かってくる取り巻きの魔族兵の攻撃を、時に回避してからアンナが槍で串刺しにしたり、時に回避せずに同じ属性の魔法を撃ち込んでMAGの差で魔族兵を圧倒して見せたりしながら、着実にその数を減らしていく。
「あっ!?」
アンナたちの様子を横目に見ながらさらにリーフィアを峰打ちで叩いていたら、ついに剣が折れてしまった。いくら頑丈なミスリルでも、さすがにこんな無茶な使い方をしてりゃ、折れるか。後で鍛冶屋行ってこないとな。ここからはマジックナックルで加減しながら殴らないと。法闘術なんて使ったらオーガですら粉砕しちまうんだ、リーフィアなんてひとたまりもないだろう。
「さすがに兵の損耗が大きくなってきたわね……一度この戦いは預けるわ!」
折れた剣をインベントリに仕舞い、マジックナックルの調子を確かめている間に、リーフィアは俺から少し距離を取ると、撤退を宣言した。おそらく何らかの合図を決めてあったのだろう、空に向かって火弾を放つと、花火のようにパァン、という乾いた音を立てて弾けた。驚いたことに、その音を聞いた魔族兵がさーっと潮が引くように素早く戦闘を中止して撤退行動に移った。俺にタコ殴りにされてボロボロのリーフィアも、無事だった魔族兵に護られながら王都南の平原を去っていく。くそっ、あそこまで殴りまくったのに正気に戻せなかった、ってことは魔術的な何かでの洗脳説が有力になってきたな。
ひとまず王都は守られたわけだから、これでリーフィアをパーティから切り捨てる選択をすれば、今の状況からしたら一番楽なんだろう。けど、可能性がある以上、簡単に諦めたくはないよな。往こう、デビルロード帝国へ。アンナとユズは……ついてきてくれるだろうか? いや、2人がついてきてくれなくても、俺は1人でも往く。
「済まないが、ギルマスへの面会をお願いしたい。至急だ」
王都へ戻った俺たちは、その足でギルドに向かい、受付のジミーを捕まえてギルマスへの面会を申請する。
「さて、2人に大事な話があるんだ。俺はこれから、リーフィアを助け出すために帝国へ乗り込もうと思っている。一緒に来て……くれるか? もちろん、危険を伴う旅路になるから、無理強いをするつもりはない」
ジミーがギルマスの了解を取り付けるべく上階へ走っていった間に、アンナとユズにこれからのことを話す。帝国への旅路は険しいものとなるだろうから、無理にとは言わないが、どうだろうな。
「もちろん、着いていくわ。リーフィアを助けたい気持ちはわたしも一緒だから、トーマ君が言い出さなかったらわたしが言うつもりだったもの」
「あたしも、一緒にいくよ。帝国へ乗り込むってことは、魔族の本拠地でしょ? あたしの価値は反射魔法だけじゃないと思うけど、必要でしょ? あたしも、勇者の素質に覚醒してるからお荷物にはならないよ」
アンナもユズも、一緒に来てくれると即答してくれた。ありがたいな。
「トーマさん。ギルマスへの面会許可、下りましたのでどうぞ」
ちょうどそこへ、ジミーが呼びに来た。
「まずはぁ、ご苦労様ぁ。トーマ君たちの活躍でぇ、敵性集団を撃退することができたわぁ。リーフィアちゃんの奪還には失敗しちゃったみたいだけどぉ、状況を調査する依頼は成功とするわぁ。それでぇ? わざわざトーマ君たちの方からわたくしに面会して話したいことってぇ、何かしらぁ?」
ギルマスの執務室に入ると、いつものぽやんとしたギルマスがいた。俺たちを労うと、用件を訊ねてきた。
「用件は単純です。俺たちのパーティは引き続きパーティメンバーである、魔族の元第一皇女、リーフィア=ドーラの身柄奪還のために行動し、帝国へ撤退した彼女を追いかけて帝国に殴り込みに行くので、その報告に上がった次第です」
俺が話した用件に、一瞬ギルマスの目が丸くなった。
「……そう、もう決めたことなのねぇ? わかったわぁ、止めはしません。でもぉ、無理をしちゃダメよぉ?」
ギルマスは逡巡の末、俺の目を見て決意が固いことを察すると、ふっと表情を和らげ、頷きを返してくれた。
「アドルファスさん、テリーサ。俺たちはこれから長い旅に出る。冒険者だから、戻ってこれないこともないとは言い切れない。だから、今のうちに言っておく。もし今日から1年、いや半年間戻らなかったら、ブレット伯爵を通じてこの屋敷を処分し、伯爵の家に戻ってもらって構わない。もちろん、戻ってくるつもりだが、万が一ということがいくらでもありうるのが冒険者っていう職業だからな」
帝国を目指す旅に出るので、何か月も家を空けることになる。あるいは、帰ってこられないかもしれない。なので、屋敷詰めの管理人とメイドとして勤めてくれた2人に、期限を区切って、俺たちが戻らなかった場合のことを伝えておく。
「お館様。私どもは半年と言わず、1年でも2年でもお館様のお戻りを待ち続けます。どうぞお気をつけて、行ってらっしゃいませ」
しかしアドルファスさんは、軽く首を振って俺たちの帰りを待ち続けると言ってくれた。執事の鑑ってやつかね。俺なんかにはもったいないくらいの人だわ、ホント。
旅立ちの前に、ステータスを確認して、スキルをレベルアップさせておいたほうがいいかもな。これから俺たちがこの世界に召喚されるきっかけを作った連中の本拠地へ、突撃かけるわけだからな。万全の支度を整えていかないと。
【名前】トーマ=サンフィールド
【Lv.】35
【SP】11
【HP】1554(444) 【MP】3514(1004)
【STR】1001(286) 【VIT】777(222)
【AGI】637(182) 【DEX】361(168)
【MAG】1757(502) 【LUK】113(98)
【スキル】剣術5 格闘5 魔法剣3 法闘術3 火魔法5 水魔法5 風魔法5 土魔法5 無属性魔法5 空魔法3 回復魔法5 身体強化5 魔力強化5 魔力回復5 鍛冶3 索敵3 結界魔法 生活魔法 観察眼 料理1 投擲1
【補足】HP・MP・STR・VIT・AGI・MAG 各250%上昇
DEX 115%上昇
LUK 15%上昇
【名前】アンナ=ブラックウッド
【Lv.】36
【SP】41
【HP】1190(340) 【MP】4151(1186)
【STR】728(208) 【VIT】595(170)
【AGI】1015(290) 【DEX】550(256)
【MAG】2076(593) 【LUK】186(162)
【スキル】長柄武器5 料理3 家事3 火魔法5 水魔法5 風魔法5 土魔法5 光魔法5 闇魔法5 無属性魔法5 聖属性1 回復魔法5 生活魔法 身体強化5 魔力強化5 魔力回復5 毒耐性2 錬金3 索敵4 観察眼
【補足】HP・MP・STR・VIT・AGI・MAG 各250%上昇
DEX 115%上昇
LUK 15%上昇
【名前】ユズキ=サンフィールド
【Lv.】30
【HP】1960(560) 【MP】2380(680)
【STR】1085(310) 【VIT】980(280)
【AGI】1505(430) 【DEX】490
【MAG】1190(340) 【LUK】325
【スキル】鞭5 火魔法5 水魔法5 風魔法5 土魔法5 無属性魔法5 回復魔法5 身体強化5 魔力強化5 調教5 料理1 生活魔法 索敵5 回避5 薬の知識 反射魔法
【補足】HP・MP・STR・VIT・AGI・MAG 各250%上昇
【称号】覚醒せし真の勇者
「よし、旅立ちの準備はいいか?」
「うん、いろいろ買い込んでインベントリに仕舞ってあるから、大丈夫よ」
各所へのあいさつ回りを済ませ、旅立ちの支度は全て整った。先の戦いで折れた俺のミスリルソードは鍛冶屋に持ち込んでも直せないレベルで壊れていたので、新しいものを買った。自分でミスリルを打てれば問題なかったんだろうが、まだ商業ギルドのランクが十分でなくてミスリルを卸してもらえないので、店売りのミスリルソードを買うこととなった。
「それじゃ、今しがた強化した空属性スキルで転移門が使えるようになった。これは行ったことのある場所に瞬時に再訪できるものみたいだから、これでシトアに行って、そこから帝国を目指そう」
先の戦いでは全員がかなりのレベルアップを果たし、俺とアンナはスキルポイントが溜まっていたので、帝国への殴り込みに際して上げられるだけスキルを上げた。その中で、俺の空属性を最大の3まで上げたところ、2で転移を、3で転移門を習得したのだ。違いとしては、転移は自分の手で触れているものだけが対象であるのに対し、転移門はその名の通り、物理的な門をその場に設置して、扉を開くことで目的地へ瞬時に移動できる、というものだ。この人数なので別に転移でも問題なく移動できるが、気分の問題だ。
「わかったわ」
「りょうかーい!」
「よし、出発だ!」
行くぜっ! 俺たちの冒険はこれからだっ!
お読みいただき、ありがとうございました。
トーマ達の旅路はまだ続いていきますが、残念ながら作者である私の力不足で全く反響を得られなかった点と、挑んでいたネット小説大賞の一次落ちが決まったため、区切りのいい、このポイントで打ち切りという形にさせていただきます。
次回作はおそらくノクターンノベルズで展開するえっちぃのになると思います。まだ設定の練り込み段階なのでしばらくはまた姿を消すと思いますが、再度姿を見せた際には、よろしくお願いします。




