4-10:参戦
「混戦だな……」
「そうね……」
出撃の準備を整えた俺とアンナが王都の南門を出ると、王都を攻め落とそうと迫る謎の敵性集団と、侵入を阻止せんと立ちはだかる王都騎士団と冒険者の混成軍が入り乱れて戦闘を繰り広げていた。全体的な練度は防衛側である混成軍のほうに軍配が上がるが、いかんせん兵数に差があるため、少しずつではあるが押されつつある、そんな状況だった。
「よし、とりあえずあの辺に固まってる連中をぶっ飛ばして、道を切り開くぞ」
「わかった。それじゃあ、わたしはあっちをヤるわね」
ぐるっと戦場を見回してみると、敵性集団は王都の南門を取り囲むように半円状に兵や魔物を展開し、じりじりと包囲網を狭めてきており、多くの場所でその進行を阻むべく騎士や冒険者が接敵しているが、数か所ほど、防衛側が1人もいない部分がある。おそらく、防衛側の戦力が斃されてしまい、そこの部分のフォローが間に合っていないのだろう。今なら、そこに狙いを定めて魔法を撃ち込めば、味方を誤射の心配をすることなく、敵の数だけを減らして道を切り開くことができそうだ。
「行くぜっ! 無属性魔法レベル4、“魔砲”!!」
「それっ! 光属性魔法レベル3、“光線”!!」
俺とアンナはそれぞれ別々の方へ向き、味方のいない場所に狙いを定めて、魔法をぶっ放した。
俺の放った“魔砲”は属性を持たない、純粋な魔力の塊を撃ち込む攻撃魔法。高密度の魔力が、防衛線に空いた穴を抜けようとしていた敵勢力に襲い掛かり、先頭付近で直撃を受けた者は貫通して身体に大穴が空いたり、体格が小さめだった者は欠片も残さず消滅した。さらに、後方で爆発を引き起こし、進軍中の敵勢力をひと山いくらという勢いで吹き飛ばしていく。あまりの爆発力に、撃ち込んだ付近の戦闘が一時的に停止しているほどだ。
また、アンナが放った“光線”については、俺は未習得なので詳細はわからないが、見たままを言うのなら、極太の光の帯が、何もかもを飲み込んでいった、ってところか。俺のみたいに爆発こそしなかったが、より恐ろしいことに、巻き込まれた敵勢力が塵となって消滅していた。なんだあの魔法。光属性、強すぎないか? しかも、あれでまだレベル3の魔法だと? レベル5になると、どうなるってんだよ……
まあ、それはともかく、俺とアンナの攻撃魔法でかなりの数の敵を倒すことができたので、前線で戦っていた騎士団や冒険者たちの負担をだいぶ減らせただろう。敵方も包囲網に大穴開けられて、陣形の立て直しにアタフタしてるようだからな。今のうちに、進むとしよう。
「よし、アンナ。行こうか!」
「ええ、行きましょう!」
俺たちは今しがた開けた包囲網の穴を抜けて敵陣へと足を踏み入れる。敵方も進ませまいとするが、俺たちの攻撃魔法が敵を吹き飛ばすさまが士気高揚につながったようで、防衛線はにわかに活気づいている。いずれかの魔法が掠めたなどして傷ついている者が双方に発生しているが、敵方は態勢の立て直しに必死なのに対し、味方側は負傷者を後方に下がらせながらも、残った少ない人数で敵方の負傷者を叩いて潰していた。
「リーフィア!」
襲い掛かってくる敵勢力を排除しながら進み、俺たちは敵陣最深部、指揮官を務めるリーフィアを発見した。久しぶりの再会に浮かれ、ここが敵陣の最深部であることを忘れて駆け寄る。
「我が名はリーファ……リーフィアなどという名前は、知らない……ヒューマン、死すべし! “爆熱”」
「ぐあああぁぁっ!?」
しかし、リーフィアは駆け寄る俺たちにカウンターで火属性レベル5、圧縮した火球をターゲットの眼前で破裂させる“爆熱”を放ってきた。俺もアンナも回避することができず、揃って直撃をもらい、地面に倒れ込んだ。
(くっそ、油断しすぎた……! リーフィアのやつ、正気を失ってるのか……? と、とにかく回復しないと……)
だが、そこで気づいた。俺の回復魔法スキルはレベル3までしか上げていない。これだと“中回復”か“広範囲回復”しか使えず、大ダメージを受けた今の俺を回復するには少々回復量が物足りない。さりとて悠長にスキルレベルを上げている余裕もなさそうだ。アンナは俺よりもHPが少ないので、辛うじて生きてはいるようだが、今もまだ蹲ったままでピクリとも動いていない。大丈夫か?
ひとまず“広範囲回復”で回復し、“中回復”を重ね掛けして回復しつつよろよろと立ち上がるが、本物の戦場において、瀕死に追い込んだ相手が必死に回復しようとしているのを律儀に待つ敵方などいるはずもなく、回復が終わる前にリーフィアが次の行動に打って出た。
「まだ、生きてる……? でも、これで、全て終わらせる……“竜巻”」
リーフィアが放った魔法は、彼女がパーティを離脱した時にはまだ習得していなかったはずの、風属性魔法レベル4、広範囲を巻き込み全てを吹き飛ばす、竜巻を発生させる魔法だった。おそらくだが、魔法の威力はMAGの値に比例すると思われる。つまり、魔族であるリーフィアはMAGも高く、放つ魔法はいずれも高火力となりうる。正直言って、あの竜巻の直撃をもらうと、俺はともかくとして、蹲ったまま先ほどから動いていないアンナはかなり危ない。だが、回避行動を取ろうにも、竜巻の効果範囲がこれもMAG依存なのかやけに広く、回復が追いつかずに満身創痍で動きが鈍っている今の俺では、俺だけならともかくアンナを担いで効果範囲から離脱するのは間に合わない。くそっ、絶体絶命、万事休すか……ユズ、一緒に帰ろうって約束、守れなくて済まない――
――お兄ちゃんたちを死なせはしない……っ!
あまりに絶望的な状況に幻聴すら聞こえる中、目を閉じてその時を待つばかりだったが、キンッ、という涼やかな音が聞こえたのを不思議に思って目を開けると、俺たちに迫っていたはずの竜巻が進路を180度変え、リーフィアの方へ向かい始めていた。
「なっ……!? く、“竜巻”」
リーフィア自身も何が起こったのかわからない様子ながらも、冷静にもう1発同じ魔法を放って相殺していた。へえ、やっぱ同じ魔法をぶつけ合うと相殺できるんだ。もっとも、威力まで全部同じでないと弱いほうが打ち負けるんだろうけどな。――で、何が起こったんだ?
「お兄ちゃん、アンナさん! 大丈夫!?」
改めて立ち上がり、周囲を見回してみると、すぐそばにバサきちに跨ったユズがいた。助けてくれたのは、ユズだったのか……?
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次回:4-11:覚醒




