表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/48

4-09:非常召集

「非常召集、ねえ。何があったんだ?」

 各街のギルドを通じて出された、Fランクを除く全冒険者に対する召集命令。めったなことでは出されないが、出されれば護衛依頼などで街を離れている者を除いて、滞在中の冒険者は必ず応じなくてはならない。基本的にこの命令に拒否権はなく、正当な理由もなく不参加を決め込んだ者に対してはペナルティが課される。具体的には、ギルドランクの降格や、一定期間のギルド員資格停止など。トーマ達もペナルティなど課されたくはないので、召集に応じてギルドのホールにやってきていた。周りには同じように突然の非常召集に戸惑いながらも冒険者が集まってきていた。

「よく集まってくれた。私は副ギルドマスターのエドワードだ。皆も知っての通り、ギルドマスターはこうした状況の説明が苦手なので代わって私が説明させてもらう。今回、皆を非常召集という形で呼び出させてもらった理由だが、数時間ほど前に王都の南側の平原に突如として謎の集団が現れたため、騎士団が調査に赴こうとしたところ、問答無用で襲われたらしい。襲われた騎士は傷を負いながらも王都へ逃げ帰り、情報を伝えた。騎士団はその集団を正体不明のままながらも敵であると定義し、我々冒険者ギルドにも応援を要請してきた。此度の召集はそれに応じるものである。諸君らの任務は、騎士団と協力し、謎の敵性集団を撃退すること。すでに騎士団が態勢を立て直して再出撃している頃だろう。準備の出来た者から順次、王都南門より出発してくれ。以上だ……と言いたいところだが、この場にトーマ=サンフィールドのパーティはいるか? いるなら、ギルドマスターが話があるとのことだ。すぐに出発せず、残っていてほしい」

 副ギルドマスターのエドワード、と名乗った男性職員が事情を説明する。突如として出現し、問答無用で騎士団に襲い掛かった、って、まさか、魔族? あり得ない話じゃないな。リーフィアの身柄を取り戻し、勇者の俺とアンナを物理的に消しに来る可能性を否定しきれないな。……って、ギルマスが俺たちを名指しで呼び出し? なんなんだ?


「状況はぁ、エドワード君からぁ、聞いた通りよぉ。その上でぇ、トーマ君たちに聞きたいの。──リーフィアちゃん、最近見ないんだけど、どうしてる?」

 俺たち以外の冒険者たちが準備のために街へ出ていった後、俺たちはギルマスの部屋に通される。そこには当然ながらギルマスのシャロンさん、そして一般職員の中で俺たちをよく知るジミーとベラさんも待っていた。もちろん、案内してきたエドワードも室内に留まり、ギルマスのシャロンさんが話を切り出す。途中まではいつものぽやんとした口調だったが、急に口調が変わった。目つきも鋭く、尋問めいた雰囲気を醸し出している。

「リーフィアなら、ジミーやベラさんには以前説明したけど、家の事情で実家に戻っている。いつ戻ってくるのかまではわからん。そもそも彼女とはシトアで初めて出会ってパーティを組むことになったから、実家がどこにあるのかも知らないんだよ」

 もう何度目だろうか、ギルマスにもこれまでと同じ説明をする。少しだけ付け加えもあるが、実家の場所を知らないというのは半分正しく、半分嘘だ。彼女は魔族の国デビルロード帝国出身の第一皇女であることから、実家は帝国の皇帝がいる城、ということになるだろう。ただ、どこに帝国城があるのか、具体的な場所は知らないだけで。

「そう……。これは、騎士団から伝わってきた未確認の情報だけど、件の敵性集団の中に、リーフィアちゃんと非常によく似た女の子がいたそうよ。トーマ君は知らなかったかもしれないけど、リーフィアちゃんはあの可愛さからみんなの人気者だったのよ。それを見た騎士はリーフィアちゃんのファンの1人だったから、見間違いはあり得ない、って言ってたわ」

「――――ッ!?」

「ねえ、トーマ君。ここからは私の推測だから間違っていたらそう言ってほしいんだけど、件の敵性集団は魔族の国デビルロード帝国の兵で、その中にいたリーフィアちゃんと思しき人物はその集団を束ねる指揮官であり、帝国の幹部級魔族なんじゃないかしら?」

 だが、俺の説明に対するギルマスの返答に、一瞬動揺が顔に出てしまったのかもしれない。続けてギルマスが放ってきた推測という名の爆弾発言に、もはや表情を取り繕うことなどできそうになかった。

「――驚きましたね。推測などと言いながら、ほぼ的を射ているじゃないですか。いずれ、本人から話させるつもりでいたし、本人不在の状況で俺が勝手に話すわけにもいかない類の話題だから言わなかっただけですが、お察しの通りリーフィアは魔族。それも皇帝の娘、第一皇女です。彼らの成人の儀式のようなものでヒューマン種を暗殺する任務を課せられた先で俺と出会い、暗殺されかかったのを返り討ちにしてやり、従者にしてパーティを組んでいたんですよ。最近になって故郷から迎えが来たから、魔族とヒューマン種などとの友好を模索するために帝国皇帝を説得しに行ってる、ってのが彼女の里帰りの真実です」

 ギルマスの推測という名の爆弾発言に続き、それを受けての俺の発言。立て続けに放たれた爆弾発言に、ギルマスはともかく、副ギルマスのエドワード、一般職員代表のジミーもベラさんも驚きのあまり固まっていた。

「なるほど、ひとまずの事情は理解しました。そうだとすると、里帰りで帰国した際に何かがあり、やむなく兵を率いて攻めてきている、という可能性も捨てきれませんね。もっとも、そうだとしても放置するわけにはいきませんので、トーマさん。ギルドマスターとして命じます。あなたの全力をもって魔族の兵の群れを突破し、敵方指揮官と思われるDランク冒険者、リーフィア=ドーラのもとへ赴き、状況を調査してきなさい」

 すると、事情を聞いてしばらく考え事をしていたギルマスが口を開き、ギルマス権限での強権を発動してきた。

「全力、って言われても、俺は普段から依頼は全力投球で臨んでいるが?」

「隠す必要はないわ。トーマ君が――いえ、アンナさんやユズキさんも含めて、有り余る力を抑えていることくらい、私は気づいているわ。他の冒険者たちとの付き合いとかを考えて、抑えていることも。だけど、それを今だけは抑えないで、本当の全力を見せてほしいの。おそらくだけど、敵方の兵の数がかなり多いようだから、騎士団と冒険者が総出で当たっても、ジリ貧になりかねない状況よ。だけど、トーマ君たちが力を貸してくれれば、その差を十分以上に埋められると思うわ。どの冒険者も、ギルマスの私にとってはかけがえのない同志だから、犠牲を最小限に抑えるためにも、今は、お願い」

 ギルマスが、頭を下げた、だと……!?

「わ、わかりました。ギルマスが考えているほどの差があるかは保証できませんが、その命令、受諾します」

 さすがにこれほど真摯な態度を見せられては、拒否するわけにもいくまい。そもそも命令だから拒否権などないのかもしれないが、きちんと納得した上で出発したいからな。


「ユズ、お前は後ろに残っていてくれ。リーフィアのもとへは俺とアンナで向かう。本当は俺一人で、って言いたいところだけど、それだとアンナが納得しないだろ? 俺とアンナは勇者の素質で高いステータスを有しているけど、ユズはそれがなくて、魔族の群れを突っ切らなくてはならない今回のミッションにはかなり不安があるんだよ」

 ギルマスの部屋を後にし、すでに誰もいなくなったギルド1階のホールで作戦会議を行う。そこで真っ先に切り出したのは、ユズをメンバーから外すことの通達。

「そうね。わたしもユズキちゃんは連れて行かない方がいいと思うわ。わたしまで外されるのは納得いかないからなんとしてでもついていくけど。ユズキちゃん、わかってくれるよね?」

 アンナも俺の意見に賛成し、ユズのほうを見やる。

「そうだね……本音を言えば、あたしもついていきたいけど、たとえバサきちやボアたんがいたところでお兄ちゃんやアンナさんに比べたらステータスの低いあたしは足手まといになっちゃうもんね。わかった、あたしは後方に残るよ。でも、約束して。必ず、リーフィアさんを連れて元気に戻ってくる、って」

 この前からユズもバサきちとボアたんをオトモに連れていれば、俺やアンナがいなくても行動できるようになってたから大丈夫だとは思っていたけど、ちゃんと聞き入れてくれてよかった。

「ああ、もちろんだ。なるべくリーフィアも一緒に戻れるようにしたいが、状況によってはかつての仲間とはいえ倒さなくちゃならないかもしれない。だからアイツも一緒に必ず、とはいかないかもしれないが、最低でも俺たちは元気に戻ってくる。3人で、日本に帰るためにもな!」

 さあ、往こう。相手は魔族の兵と魔物たちの群れ。目標は敵軍最後方の指揮官リーフィア。全力をもって、突破する!

お読みいただき、ありがとうございます。

次回…4-10:参戦(仮題)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ