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4-07:王都への帰還

「みなさん、おかえりなさい。まずは、お疲れ様でした。先ほど商隊の代表の方が来られまして、『トーマさんたちのおかげで安全な行路だった。ありがとう』と伝えてほしいと仰っておられました。それと、追加報酬を支払うともおっしゃられ、銀貨20枚を追加でいただきました。なので、盗賊団の討伐成功報酬も合わせまして銀貨80枚ですね。どうぞ」

 王都に着いたのは夜遅い時間でだいぶ疲れていたので、アロイさんたちと別れたあとはすぐに屋敷に帰ってほとんどベッドに倒れ込むように眠りについた。朝起きてからギルドに報告に向かうと、ジミーがカウンターで書類を作っていた。話しかけると、あらかじめ準備してあったのだろう、今回の依頼の報酬を手渡してきた。

「なあ、今回の依頼についてひとつだけ確認したいんだが、出かける前に討伐対象だった盗賊団の人相とかを伝えなかったのはどうしてだ?」

 俺は報酬が入った小さな革袋を受け取りつつ、ジミーに訊ねる。

「その件については、こちらのミスでした。下っ端はともかく、盗賊団“灰空”のリーダー、グレンだけは人相を書いた手配書があったんですが、それをお渡しするのを忘れてしまいました。気づいたのは皆さんが出かけた後のことでして……本当に申し訳ありませんでした!」

 すると、ジミーはギルド側のミスを全面的に認めた。てっきり、俺が訊ねなかったからだとかなんだかんだ言い訳を重ねてくると思っていただけに、やや拍子抜けだ。ここまで潔く認められると、怒る気も失せるな。

「そうか。まあ結果的にはリーダーを含む2人を戦闘で倒し、残り8人はトラツァルーチェの騎士団に引き渡してきたから問題ないっちゃないんだが、同じようなミスを繰り返さないでくれればいいんじゃないか」

 結果論だが、誰も死傷者が出てない案件で、かつ過ぎたことをあーだこーだ突いてもしょうがないからな。

「ぶべっ!?」

「もう、トーマさん。あんまりジミー君を甘やかしちゃだめですよ。この子はすぐ安心して同じことを繰り返すんですから」

 すると、カウンターの奥の扉を開けて出てきた何者かが手にした書類でジミーの頭を引っ叩いた。キレイに後頭部に決まった不意打ちに、ジミーの口から変な声が漏れた。

「ベラさん!?」

 顔を上げて、驚いた。ジミーを書類で引っ叩いたのは誰あろう、つい先日会ってギルドに復職することを勧めたベラ=オルセンさんだったのだ。ってか、会ったのが護衛依頼に出かける前日だったから、そこから4日しか経ってないのにもうすっかり馴染んでる。それも長年シトアのギルドで働いて身に着けた対人スキルなのだろうか。

 なお、割と勢いよく引っ叩かれたジミーはカウンターに突っ伏している。いくら叩くのに使ったのが書類とはいえ、ベラさんが手にしている羊皮紙の書類は結構な束だし、何よりも受付嬢としてギルドで10年以上働いていたらしい彼女は冒険者としてもDランク相当の実力はあり、武具を振り回す程度の腕力はあるわけで。不意打ちで無防備な頭部を叩かれれば、それなりに痛いんだろう。

「王都の実家に帰ってきて、宿の仕事を手伝いながらも、またギルドの仕事がしたいな、って思っていたんです。でもなかなか踏ん切りがつかずにいたところに、トーマさんが会いに来てくださって、背中を押してくれたから、お父さんに話したら『宿は大丈夫だからお前の好きなようにしなさい』って言ってくれて。それで決心ついてギルドに来たら即採用だったんです。まあ、まさか2歳下の幼なじみのジミー君が働いていたなんて思いもしませんでしたけど」

 やっぱり、ベラさん自身もギルドの仕事に戻りたいとは思っていたんだな。でも、それじゃなんでシトアのギルドを辞めたんだ? ……そういや、宿で再会した時に見合いがどうの、とかいう話もあったから、それ系の理由で呼び戻された、ってのが妥当な線か? でもそれだとベラさんがギルドの仕事に戻るのを親父さんが認めてる点でイマイチ腑に落ちないんだよなぁ。果たしてこれは聞いてもいいものなのだろうか。……やめよう。あんまり他人のプライベートに土足で踏み込むものじゃない。

「うぅ、いきなり背後から引っ叩くなんて、酷いよベラ姉……」

 しばらくカウンターに突っ伏していたジミーがようやく再起動してきてベラさんに文句をつける。へえ、ジミーはベラさんのことを「ベラ姉」って呼ぶのか。幼なじみでもベラさんのほうが2歳年上らしいから、きっと子供のころから姉貴分としてジミーを引っ張っていたんだろうな。

「ギルド職員にとって、冒険者とは家族みたいなものよ。ジミー君が今回犯したミスは、一歩間違えばそんな家族を死地においやることにもつながりかねないくらい、重大なものだったと思うの。シトアにいた頃からさんざん規格外って言われ続けてきたトーマさんだからこそ五体満足で帰ってきてくれましたけど、それくらいのミスを犯して頭を叩かれる程度で済んでるんだから、少しはマシだと思いなさい」

 だがベラさんは全く取り合う素振りも見せず、淡々とジミーを諭す。……って、俺そんなに規格外か?

「トーマ君が規格外じゃなかったら、冒険者の規格って何? って言われるわね」

「うん、お兄ちゃんはどこから見ても規格外ね」

「ええ、トーマさんは一般的な冒険者の範疇には収まりません」

 ギルドに来てから聞き役に徹していたアンナとユズ、それとミスを責められていたジミーまでもが俺が規格外だと口を揃える。ちくしょう。


「……私がシトアのギルドを辞めて王都の実家に帰ってきた理由? それはトーマさん、あなたです。どこかしら変わった人間が多い冒険者の中にあっても、10年以上あそこで働いていた私ですら見たことないようなとびっきりの変わり者。それでいて当時Eランクでオーガを3体仕留めるなど、規格外の実力を持ち合わせている人に興味を持つのは自然なことだと思いますよ」

 俺としてはベラさんのプライベートに踏み込みかねない話題なので触れようとは思わなかったが、空気を読まないジミーが「そういやベラ姉はなんで長年働いてたシトアのギルドを辞めて実家こっちに帰ってきたの?」と訊ねてしまった。しかし触れられたくないと思った俺の予想に反してベラさんはさらりと質問に答えていた。って、俺が規格外だから興味を持って王都まで追いかけてきたとでも?

「じゃあ、俺がリーフィアとともに王都に活動拠点を移す、っていう挨拶をするために出向いたのが決断のキッカケだったのか?」

 そこまで聞いて足を突っ込んだのならとことんまで聞いてやろうと、ダイレクトに質問をぶつける。

「そうですね。あの挨拶があったからトーマさんたちがシトアを離れて王都に移動するということを知ることができたので。だからもしもトーマさんたちが何も言わず旅立っていたのなら、私はあのままシトアに残っていたでしょうね」

 ストレートな質問に対してベラさんは迷うことなく頷きを返してきた。

「ベラさんはトーマ君のことを異性として好きなんですか?」

 すると、ここまで黙って話を聞いていたアンナが口を開き、ベラさんに質問をぶつける。

「そうですね、トーマさんがシトアにやってきた頃は単に期待の新人、と思っていただけで、異性としてはあまり意識していませんでしたが、オーガを討伐した頃からは異性として意識し始めました。ただ、今はまた異性として意識しているというよりはとても強い冒険者であるトーマさんの活躍ぶりを追いかけていたい、くらいの気持ちなので、大丈夫ですよ。いくらこの世界が一夫多妻の制度を取っていると言っても、アンナさんの大事な恋人を取ったりはしませんから」

 スッと目を細め、やや尋問めいた雰囲気での質問に対し、ベラさんは微笑みながら現時点では俺のことを異性として意識してはいない、と答えた。ほっとしたような、残念なような、ちょっと複雑な気分だな。

「ところで、トーマさん。リーフィアさんとはパーティを解消されたんですか?」

 すると、ベラさんが今度は私の番とばかりに気になっていたであろうことを聞いてきた。

「いいや、彼女はちょっと実家に里帰りするために一時的に離脱しているだけで、パーティを解消したつもりはないよ。もう1ヶ月過ぎてるから心配ではあるけど、そのうちひょっこり帰ってくるさ」

 まあ、この質問はすでにジミーからもされてるから、回答に困ることは無い。

「そうなんですか。リーフィアさんもトーマさんほどではないにせよ、魔法使いとしては規格外なところがありますから、今後、大いに期待している冒険者のひとりなんですよ。書類を見る限り、アンナさんやユズキさんも冒険者ランクに対して高い実力を有する方のようですし、全員が再び揃ったとき、どんな冒険を見せてくれるのか、楽しみにしていますね」

 うわ、暗にパーティ全員が規格外だって言われたような感じだよな、これ。それに気づいたであろうアンナが地味にヘコんでるけど、名指しで規格外って言われた俺の方がヘコみたいわ。

 ホントは積もる話もあるからしばらくベラさんとダベっていたいけど、いつまでも仕事の邪魔しているわけにもいかないので、ここらで話を切り上げてギルドを後にすることにした。とりあえず少し休んで、また次の依頼を探すかな。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回:4-08:開戦へ向けて

帝国側のお話です。

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