4-03:初めてのご指名
「リーフィア、戻ってくる感じが全くしないな」
「そうね……っていうか、戻ってこれるの? 一応、魔族の帝国の皇女様でしょ? そもそもそんなやんごとない身分であろう彼女がどうしてトーマ君への刺客として放たれたのかもよくわからないけど、帝国の皇帝にとっては娘なんだろうから、作戦に失敗しながらも生きて戻ってきた娘を再度手放すとは思えないんだけど……」
完全休業日のある日のこと。皇帝の説得を試みるために帝国に帰国したリーフィアがひと月以上経っても戻らないことが心配になってつぶやくと、アンナが戻ってこれない可能性に言及した。
「確かに、そうなんだけどな。ああ、リーフィアが俺への刺客として放たれたのは、本来の刺客だった帝国の幹部級魔族をボコってその役目を奪い取ったからだ、って以前本人が言ってたな。それもあって、俺に負けた後どんな顔して帰ればいいかわからない、って言って俺の従者のような立場になった上でパーティを組んでいたんだ」
「ふうん、そうだったんだ。まあ、リーフィアさんの魔法系スキルはどれも高レベルだったけど、ぶっちゃけた話お兄ちゃんやアンナさんがスキルカスタマイズで徹底的に強化すれば代用できるんだろうから、彼女ありきで考えなくてもいいんじゃないかな?」
すると、ユズがそんなことを言い出す。いや、俺とアンナのスキルカスタマイズで代用できるって点は正論ではあるし、アンナやユズはリーフィアとの付き合いは決して長くはないから、仕方ない面もあるんだろうけど、一時でもパーティの一員として共に戦った仲間にその言い草はどうかと思うんだがな。
もっとも、ここでああだこうだ言ってても、リーフィアが戻ってくるわけじゃないからどうしようもないんだけどな。
翌日は3人そろってのパーティ活動日なので、朝早くからギルドを訪れると、待ってたとばかりに即刻ジミーに捕獲された。
「で、問答無用でギルドマスターの部屋に連行たぁ穏やかじゃねえな。何かあったのか?」
捕獲された後、そのまま有無を言わさず2階にあるギルドマスターであるシャロンの執務室に連行されたところでようやく一息つくことができ、連行してきたジミーとシャロンに事情を訊ねる。
「ええ、ぜひトーマさんたちのパーティの力を借りたい事件が起こっています。ギルドマスター、僕がこのまま説明しますが、よろしいですか?」
「ええ、任せるわぁ」
本来であれば、ギルドマスターの部屋に連れてきて、ギルドマスター当人もいるのならば、その、俺たちの力を借りたいっていう案件の説明はギルマスからされるべきものだと思っていたけど、ここのギルマスの口調はだいぶ間延びした特徴的なしゃべり方だからな。ジミーのほうが説明には適任かもしれんな。
「では、僭越ながら僕から説明いたします」
ジミーが話した内容をまとめると、こうだ。
この王都から見て東、海岸沿いに位置する、ノーランド王国では王都イェスラ、シトアに次いで3番目に規模の大きな都市、トラツァルーチェ。海沿いの都市ゆえに海産物が豊富で、王都を筆頭に王国内に海産物を供給する一大拠点都市として栄えている。だが、ここ最近王都とトラツァルーチェを結ぶ交易路に、「灰空」を名乗る盗賊団が出没するようになり、荷を奪われたり商隊の人員に死傷者が出てしまうなど被害が多発している。もちろんただ手をこまねいているわけではなく、王都とトラツァルーチェの両ギルド支部から腕利きの冒険者を派遣して盗賊団の討伐を試みたのだが、なかなかに頭の回る者がグレースカイを率いているのか、一定数以上の護衛を引き連れていると彼らは現れず、王都とトラツァルーチェをやすやすと往復できてしまう。だからと言って毎回そんな人数の護衛を雇っていたら利益が増えないし、根本的な解決にならないため、少人数の編成でグレースカイをおびき寄せて返り討ちにできるパーティが欲しい、ということで俺たちに白羽の矢が立った、というわけらしい。俺たちは確かに人数はこないだまで4人、現在3人と少数精鋭だし、しかもそのうち男は俺だけのハーレムパーティと言われたこと数知れず。さらに全員が胸当て型の軽鎧を好んで装備してるから、見た目にもあまり強そうには見えない、ってことを俺が王都に来てアンナたちとパーティを組んでからの1ヶ月の間だけで何度か他のパーティから言われたことあるんだよな。けどその実態は少なくとも王都のギルドにおいて最強クラスの矛、らしい。自分らじゃあまり実感ないけどな。
「わかったよ。その依頼、受けよう。困ってる人を放ってはおけないからな」
「ありがとうございます。ところで、リーフィアさんの姿をここしばらく見てない気がするんですけど、パーティを解消されたんですか?」
俺が依頼の受諾を伝えると、ジミーは礼を言って、ここにいるはずの者の不在を問う。
「ああ、リーフィアは彼女の家の事情で実家に帰ってるんだよ。なんだ、俺たち3人じゃ依頼の遂行に不安か?」
「いえ、そうではないですよ。トーマさんたちが王都に来てアンナさんとユズキさんと合同パーティを結成して以降はほぼ一緒におり、ギルド関係者の誰一人その姿を見ない日はほとんどなかった方を見かけなくなってもう1ヶ月くらいになりますので、先の巨大蜘蛛討伐依頼あたりでケガでもされたのかと気になりまして。リーフィアさん抜きで3人になっていても、皆さんなら大丈夫でしょう」
まだ、リーフィアの正体が魔族であることを明かすわけにはいかないよな。本人いないし。なので、少しぼかして不在の理由を伝えて逆にそんな質問をした理由を訊ねると、そんな答えが返ってきた。まあ、俺はともかくとしても、リーフィアやアンナ、ユズキは美人だから、どこに行っても目立つだろう。もっとも、ユズは多少身内の贔屓目が入ってると思うが。
「そういえば、報酬ってどのくらいになるんだ?」
報酬額に関係なく、依頼は受けるつもりなのであまり聞く意味はないかもしれないが、それでも一応は聞いておくべきだろう。
「ええと、王都とトラツァルーチェの往復に伴う基本報酬が銀貨10枚。道中で狙い通りに盗賊団が現れ、それを討伐するなどして脅威を完全に取り除いた場合、追加で銀貨50枚。計、銀貨60枚ですね」
ふむ。最大で銀貨60枚か。とはいえ、俺たちのパーティはまだこうした護衛依頼を請けたことがなかったので、今回の依頼の報酬が適正なものかは判断つかないが、適正な報酬でないのなら、俺たち冒険者に振る以前に受注しないと思うからな。大丈夫なんだろう。
「わかった。ただ、俺たちは護衛依頼の経験が無いんだが、それでもいいんだな?」
「はい。護衛依頼の経験の有無よりも、少人数パーティでの戦闘力を優先した人選をすることはあらかじめ先方には伝えて了承をもらってますから。先方も、だいぶ切羽詰まっているようですし。一応、護衛依頼の遂行の基礎程度であればレクチャーできますが、聞いておきますか?」
「ああ、全く知らないのと、さわりだけでも聞いておくのとじゃ全然違うからな。頼む」
頼りなさそうな外見に反してジミーもちゃんと冒険者ギルドの職員らしく、Dランク冒険者と同等の能力を有しており、どうしても人手が足りないときに短期の護衛依頼を職員パーティで請けた経験があるとかで、俺たちに護衛依頼のイロハを教えてくれた。
まあ、索敵のスキルで離れた場所に潜んでいても一定距離に近づけばわかるし、野営する時なんかは俺の結界作成スキルで商隊と荷馬車を覆ってしまえば、俺やアンナを一撃で沈めるような強力な攻撃を受けない限りは安全だ。多少頭が回るヤツが率いていようが、盗賊レベルでは破れないだろう。油断するつもりはないが。
「では、明後日の朝に出発となりますので、明後日の朝の1の鐘が鳴る頃、王都の東門にて商隊と待ち合わせてください」
「了解」
さあ、初めての護衛依頼だ。リーフィアが抜けて3人パーティになってるけど、きっちり盗賊を討伐して、報酬を満額でゲットだぜ!
お読みいただき、ありがとうございます。
次回:4-04:商隊の護衛
近日更新……予定。