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2-05:Q・アルラウネ討伐戦

「よお、お前さんも来たのか」

「ああ、巨大な魔物と聞いてな。まあ、こんだけ人数集まれば大丈夫だろ?」

「そうだな、どんなのが出てこようが、俺たちのやることはシンプルだ。魔物を斃す、ただそれだけ」

 実際、緊急の依頼はさらわれた女性、つまりユズキちゃんを救出することが目的だったので、それを達成できた以上無理にクイーン・アルラウネを討伐しなくてもいいのでは、と思ったりもしたんだけど、増援要請に応じて駆けつけてくれた冒険者たちもラート村に集結し、やる気、いえ殺る気満々な彼らの様子にわたしは何も言えなかった。まあ、あんな危険な魔物、いずれは討伐しないといけない類のものだろうから、余計な被害が出る前に片付けておくことに越したことはないわね。



 こうして、わたしとユズキちゃん、それとポールさんたちの5人に加え、王都に早馬を出して求めた増援要請に応じて駆けつけてくれた冒険者が計10人、合わせて15人の大所帯でQ・アルラウネの討伐に向かうことになった。歩きながら、Q・アルラウネの触手には魔法力を奪い取る追加効果があるので、極力攻撃を受けないように、と全員に注意喚起をしておく。

 わたしは槍による前衛も魔法による後衛もどちらも務められるけど、今回は後衛として参戦することになっている。前衛はポールさんと、増援でやってきた冒険者の中から3人。計4人で前衛を固め、迫り来る触手を片っ端から斬っていく。その間にわたしを含む後衛10人でひたすら遠距離から弓矢や魔法で本体を攻撃。ただし、その数に入っていないユズキちゃんは武器が鞭で遠距離には向かないので、経験を積ませるために連れては来たけれど、今回は事実上の戦力外。もちろん、いずれは心強い味方になってくれると信じてるけど、今はまだその時じゃない。


 さすがに15人にもなる大所帯で歩いていると、そこら辺の並の魔物は恐れをなして逃げていくので、わたしたちにとってはちょうどいい。これから巨大なボス級の魔物とやりあうのに、雑魚と戦って消耗してる場合じゃないからね。


 そのまま何事もなく最奥部へたどり着いたわたしたちは、Q・アルラウネと対峙した。わたしやユズキちゃん、それとポールさんたちのパーティは一度見ているからまだ落ち着いていられたけど、初めて見た増援組の10人はさすがに驚き、やや腰が引けている人もいるみたい。

「アンナさん、号令を頼む」

「はい。じゃあ、皆さん予定通りにお願いします!」

 みんなを鼓舞する意味も込めて、ポールさんから号令を頼まれたので、精一杯の勇気を込めて大声を張り上げる。

「おうっ!!」

「任せとけ! 後衛には1本たりとも通させやしねえかんな!」

「みんな、行くぞっ!」

 前衛を務めてくれる人を発端に、次々と応える声が響いた。


 そして、戦闘が幕を開ける。


「大きくたって所詮は植物、炎に弱いのは変わらねえんだろ? くらえ、フレイムアロー!」

「いやいや、もっとド派手に行こうぜ。フレイムピラー!」

 先手を取ったのはQ・アルラウネ。だが、同時に何本も放たれる触手の攻撃は、そのことごとくを前衛に斬り落とされる。その隙に、後衛が火魔法を立て続けに放つ。火矢の魔法がまだ健在な触手に命中したかと思った次の瞬間には、根元から巨大な火柱が上がって本体が炎上する。しかし、火矢を受けなかった触手が消火活動に当たり、すぐに消し止められてしまう。すると、Q・アルラウネはこちらの人数が多いことを察したのか、新たな触手を生やし、前回の戦闘時の倍、20本もの触手が蠢いている。それらを時間差で押し寄せる波のように次々に前衛に浴びせかけてきた。見た目に反して知能が高い魔物みたいね。

「ぐぁっ!」

「うおおっ!」

「ぎゃあっ!」

「うぐっ!」

 邪魔な前衛を排除するために一時的に防御を捨てて全面特攻してきた触手の猛攻に、前衛が揃って膝をつく。

「ワイドヒール!」

 けれど、わたしの広範囲回復魔法ワイドヒールならこの場にいるパーティ全員を一度に回復できる。回復量はヒール以上トワイヒール以下だけど、全体にかけられるから使い勝手は抜群に良いのよね。

「よし、これでまだ戦える! ありがとよ!」

「魔法力を奪われようが、前衛の俺たちにゃ関係ねえ!」

 前回のユズキちゃん救出戦と、今日これまでの戦いで気づいた事があるので、前衛からの礼の言葉を聞き流し、わたしは後衛の魔法使いたちに質問を投げかけた。

「皆さん、水系の魔法は使えますか?」

「水? なんでだ? 使えなくはないが、水の魔法なんて、植物を喜ばせるだけじゃねえのか?」

 質問に対して返ってきたのはそんな答えで、ほぼ全員が同じ意見のようだ。水魔法が使える人数はわたしと今の発言をした冒険者を含めて4人。参加している後衛の半数以下だが、十分イケるはず。

「水系の魔法は、発展系として氷を操る魔法も使えるようになるんです。アイツを炎で燃やしても、粘液で消火されてしまい、思うようにダメージが通っていないみたいなんで、その粘液もろとも氷漬けにしてしまおう、という作戦です」

「なるほど、そういうことか。理屈はわかったが、あいにく俺は水のみで氷には発展していないな」

「オレもだ」

「あたし、使えるよ。どっちかというと火より水系のほうが得意なくらいさ」

 結局、氷系の魔法を扱えるのはわたしとベティさんだけか。まあ、やってみるしかないよね。

「ベティさん、準備はいいですか?」

「ああ、いつでもいいよ!」

「行きます! ヘイルバレット!!」

「行くよっ! ブリザードぉっ!!」

 わたしは水魔法のスキルがレベル3なので、レベル2で習得する氷系攻撃魔法の初歩、雹弾ヘイルバレットしか使えない――レベル3では氷系の魔法は習得しなかった――けど、ベティさんはどうやら水魔法のスキルがレベル4以上なのだろう。中級以上の氷魔法を習得しているようで、雰囲気からして強力な魔法を放つ。火より水が得意というのはあながち誇張でもないみたいね。わたしの短杖から放たれた無数の氷の礫を、ベティさんの杖から放たれた吹雪が絡めとり、加速させてQ・アルラウネに直撃させた。さらに吹雪そのものの雪もQ・アルラウネを覆っていき――

 氷の礫と吹雪の競演が収まると、Q・アルラウネは氷の礫の直撃で本体のあちこちに穴が開き、触手はちぎれ飛び、それらの破片もひっくるめて吹雪の冷気が全て氷漬けにしていた。


 当然ながら、体内の粘液ごと凍結させられたQ・アルラウネは絶命している。魔法を使うとしても、敵の種類によって使う属性を考えないとダメなんだね。植物だから火が有効、とは限らないか。そういうところも、結構ゲーム的な考え方でイケたりしちゃうのかな。

「なあ、俺ら来た意味あったか?」

 すると、増援で来た冒険者の一人、水魔法が使えなかったため最後は見てるだけになった魔法使いの青年が声を上げた。

 言われてみると、Q・アルラウネとの戦いに決着をつけたのはわたしとベティさん、つまり最初に遭遇した5人の中の2人だ。それで決着をつけられるなら、わざわざ増援を要請する必要は無かったのかもしれない。

「もちろん、ありましたよ。前衛の皆さんは文字通り身体を張って猛攻を防いでくれましたし、後衛はみんなで一斉に火魔法を放ったからこそ、奴が火に対してやや強い、ということに気づけたんですから。結果的に奴を仕留めたのはわたしとベティさんですけど、ギルドから出されてる緊急の依頼の一環として、参加した皆さんに報酬が支払われるはずですよ」

 100%嘘偽りのない、わたしの本心を語る。増援を呼ばず、わたしとユズキちゃん、それとポールさんたち3人の5人だけで挑んでいたら、間違いなく戦線は崩壊していたでしょう。なんせ、明確な前衛がポールさんだけしかいないからわたしも前衛に回る必要があったでしょうし、そうなると後衛で魔法攻撃するのがベティさんしかいなくなる。フローラさんの弓矢だって矢の数には限りがあるわけだし、ユズキちゃんは戦力外。これじゃあ勝てないよ。

「まあ、美味しいところを持ってかれた、って思ってるだけで、報酬さえあれば俺たちとしては何も問題ないさ。さて、いつまでもこんな辛気臭い森の中にいるのもなんだし、村へ戻ろうぜ」

 わたしの話に青年は笑って頷くと、踵を返して歩き出した。それに合わせて、他の面々も後に続く。

 はぁ……疲れた。ゲームでボスに挑むときも、手に汗握るようなギリギリの死闘になることが多くて疲れてたけど、実戦となるとそれとは比べ物にならないわね。

 あ、レベルが3も上がってる。スキルのレベル上げは後でいいや……



 ラート村に戻り、ひとまず村長に森の安全を伝える。どうして突然あんな大型の魔物が出現したのかわからないけど、そうそう出てくることも無いでしょうからね。

 ちなみに、ラート村に戻った時点で増援組は先に王都に帰ると言って去っていった。また、どこかで会うこともあるのかな。


「そういえば、ユズキちゃんはどうして森の中に?」

 ポールさんたちとも別れ、わたしとユズキちゃんはラート村の宿で1泊してから王都に戻ることにした。

 その晩、宿の部屋で、気になっていたことを訊ねてみた。

「森の奥に、効果の高い薬草があるんですよ。ほら、あたしって回復魔法とかは使えないので、どうしても傷の治療は薬に頼らざるを得ないんですけど、薬はそれそのものを買うと高いんで、材料を調達して調合だけ薬屋さんに依頼すると、安上がりなんですよ。それで、薬の材料になる薬草を森まで採取に行ってたら、あの魔物に襲われた、というわけです」

「そうだったの……災難だったわね。せめて回復魔法くらいは神さまも習得させてくれれば良かったのにね。でも、安心して。これからは、わたしがユズキちゃんを守るから」

 あまりの境遇に、思わずわたしはユズキちゃんを抱きしめていた。



 今日からは、わたしとユズキちゃんは正式にパーティを組み、行動を共にする。ひとまず、ユズキちゃんが持つ、魔物を手駒として使役するスキルを活かすため、使えそうな魔物を探しに出かけようかな。

 話を聞いてみると、調教スキルは使用者のレベルと対象となる魔物のレベルを比較し、使用者のほうが高ければ成功率が上がる、ゲームみたいな仕様をしているスキルらしい。調教に成功すると、使用者の命令を聞き分け、その魔物のHPが尽きるまで共に戦ってくれる手駒になる、とのこと。どこまでもゲームみたいな仕様ね。まあ、分かりやすくていいけど。

 わたしたちは今、王都から南に半日ばかり歩いた先にあるニルーナの街を過ぎた先に位置する、ニルーナ砂漠にいる。目的は、ここら辺にいる、強そうな獣系の魔物を調教すること。

 このあたりは1ヶ月ほど前に、異常発生したスコーピオンの討伐依頼で訪れている。この砂漠は、当のスコーピオンをはじめ、魔法を使えるようになったゴブリン、メイジゴブリンとか、突然砂の中から現れてこちらの足を止め、その隙に無数のトゲを飛ばして攻撃するサボテン型の魔物、その名もサボッテンだとか、面倒な魔物が多数出てくる場所なんだけど、獣系も割と多く出てくるのよね。ブラックバッファロー、バーサクベア、それとヒュージボア。多分、今のユズキちゃんのレベルならどれが出てきても調教はできると思うんだけど……

「グガァアアアアア!!」

 おっと、言ってるそばからバーサクベアね。正直、大きさと迫力だけはそこそこだけど、強い魔物だとは感じない。

「ユズキちゃん、どうする? コイツにする?」

「そうですね、あたしのレベルを考えると、ちょうどいいぐらいだと思うので、この子にします!」

 いくらなんでも、こんなゴツイ熊を「この子」呼ばわりはどうかと思うけど、この場にはわたししかいないし、気にすることも無いか。

「わかったわ、何か特別な手順とかはある?」

「いえ、特には。鞭で死なない程度に叩くだけなので」

 思わず、それなんてSM、って突っ込みそうになったが、ユズキちゃんはまだ15歳。まだ、大人の世界を知るには早すぎる。……弱冠20歳にしてそういう世界があることを知っているわたしもわたしだけどね。わたしの場合、彼氏と過ごす時だけドSの女王様になる子とか、同じく彼氏と過ごす時だけドMの変態化するような、困った友人がいる関係で、知りたくもない世界を知ってしまった、っていう感じかな。

 そんなことを考えているうちに、ユズキちゃんはバーサクベアの調教に成功し、その肩に乗せてもらっていた。

「アンナさんも乗りますか?」

 って訊ねてきたので、即答で頷いた。だって、毛皮が気持ち良さそうなんだもの!

 案の定、バーサクベアの毛皮はモフモフで、座り心地はとても良かった。両肩に2人の女性を乗せて、バーサクベアは砂漠を行く。調教できる魔物の数はスキルのレベルと同じらしいので、今のユズキちゃんなら3体まで手駒にできるってことか。

 ただ……このクマ、モフモフで座り心地はいいんだけど、砂漠に照りつける灼熱の太陽の下ではちょっと暑いかな。


 と、その時。わたしたちが乗ったバーサクベアの目の前でいきなり地面が破裂し、砂が舞い上がった! サボッテンね!

「あ、アンナさん! 後ろにも!」

 う、後ろにも!? 振り向くと、わたしたちのすぐ後ろでも舞い上がる砂埃。最悪ね、サボッテンの挟み撃ちなんて……今日はなんて日なのぉ!?

お読みいただき、ありがとうございます。

次回……2-06 危機を乗り越えて1ヶ月後

2章最終話となります。

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