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1-15:和解[キャラクターステータス付]

 騎士団の詰め所では、復職を果たしたギルバート支部長と、セシル隊長が待っていた。

「まずは、あれからのことを話しておこう」

 セシル隊長があれから――つまりは暗殺者部隊を連れてシトアに帰還した後のことを話してくれた。

 俺たちと別れた銀竜隊は半数をシトアに残し、セシル隊長を含む半数の騎士は暗殺者部隊を馬車に乗せ、2日をかけて王都イェスラへ上った。公爵による騎士団シトア支部長の更迭を取り消してもらうのと、それも含めて王国上層部に今回の件を報告するために。

 公式には存在しないとされる部隊と共に王城を訪れ、用件を伝えると、応対した兵士は自身で対応できるレベルの話ではないことを悟ってすぐに宰相を呼びに行き、セシルは応接室へ、暗殺者部隊を含むそれ以外の面々は別の待合室へ通された。


「なんと……今の話は本当なのか」

 ノーランド王国の宰相、ニコラス=ファーニヴァルは絶句した。自国の軍を統括する貴族が軍の下部組織といえる騎士団への入団勧誘を拒否した冒険者を暗殺しようとした、など到底信じられる話ではないが、目の前にいる騎士の表情は真剣で、狂言だと斬り捨てる根拠も無かった。

「は、全て真実にございます。その冒険者が暗殺者部隊をほぼ全員無力化する形で返り討ちにして生きていることが不幸中の幸いであると、私は考えております」

「うむ、ではこの件はこちらで引き取り、バーンズ公爵を呼び出して話を聞いてみるとしよう。その件に付随する、騎士団シトア支部長ギルバート=ハガード士爵の不当な更迭の件も含めて、追ってこちらから連絡を入れよう。報告、感謝する」

 ニコラスとてヒマな身ではないが、この件が事実ならば重大な案件なので、調査を行うことを約束した。

「ありがとうございます。失礼いたします」

 セシルはソファから立ち上がって応接室を出て行くニコラスに深々と一礼すると、自らも部下と合流して王城を後にした。



 そして2日後、その調査結果が届いた。

 それによると、証人となる暗殺者部隊を抑えられたバーンズ公爵は全てを認めた。だが、「なぜ公爵たるこの私がたかが冒険者ごときに頭を下げねばならぬのだ」と被害を受けた冒険者への謝罪は拒否。事態を重く見た宰相と国王はバーンズ公爵家を伯爵位に2段階降格すると同時に軍の統括権を剥奪、王国軍の指揮統括権は国王の手に戻された。

 ノーランド王国建国から存在し、王家に仕えていた唯一の貴族家として公爵位を与えられたバーンズ家に王家からの業務委託という形で軍の指揮統括権を与えていたが、その委託は取り消された。同じ轍を踏まぬよう、今後他の上級貴族家などに委託する予定も無い。

 また同時に、反逆罪に問われ支部長職を剥奪されていたギルバートの復職も決まった。いくら爵位が上といえども、罪罰の決定権は国王のみが持つものであること、そして反逆罪というものは国王や王家及び国家そのものに対してのみ成立する罪であるため、公爵に対する反逆罪は成立しない、という当然の判断により、罪そのものが無かったことになり、元の鞘に納まったのだ。

「それで、なのだが、話にはまだ続きがある。今回の件は君がオーガをひとりで3体も撃破したことから始まっているのだが、そのことも含めて国王陛下が直接君と会って話をしたいと仰られているらしい。王都まではセシル率いる銀竜隊に護衛をさせるから、王都へ行ってはもらえないだろうか?」

 なるほどね。まあ、もうひとりの勇者の件で王都には行くつもりだったから、ちょうどいいか。でも、その勇者はまだ王都にいるのだろうか?

「わかりました。俺としてもそろそろ別の街へ行こうかと考えていたところだったので、ちょうど良かったです」

「そうか。では、お互いにいろいろと支度もあろう。2日後、またここを訪ねてきてくれ」

 ギルバート支部長は笑顔で頷き、席を立った。王都に通信で報告を入れに行くのだろう。

「セシル隊長、この前は済まなかった。王都までの道中、よろしく頼む」

「気にしなくていい。私だって、君の立場なら同じことをしただろう。リーフィアちゃんを大事にな」

 セシル隊長は笑って許してくれた。全く、何をやっても絵になるイケメンだよな、この人は。


 おそらく、シトアを離れて王都へ行けば、そのままそっちを拠点に活動することになるだろう、ということで、世話になったギルドや武具屋などにあいさつ回りに奔走していたら、2日間はあっという間に過ぎていった。


「旅立つ前に、スキルとステータスを見ておくか」

 7月6日の夜、宿の部屋で俺はスキルメニューを開いていた。現在の俺のレベルは20、スキルポイントは64ポイントある。とりあえず、今回は剣術と格闘は現状維持にしといて、魔法剣と法闘術をそれぞれ3に上げよう。オーガ戦のときは1だった法闘術、2に上げて、しかもナックルを改造した状態で暗殺者を文字通り粉砕してるから、スキルレベルの上昇は純粋な威力アップだと考えていいかな。たぶん、あの状態でならオーガも軽く粉砕できていただろう。正直、人間相手にはオーバーキルだった、と言わざるを得ない。

 さらに火水風土の4属性と無属性魔法のスキルをまとめて4に上げる。未知の地域にどんな魔物がいるかわからないから、強くなっておけるならそれに越したことは無い。ついでに回復魔法も3に上げとくか。お、新たな派生スキルがあるぞ。くう魔法――風属性レベル4からの派生で、レベル1を取得するのに3ポイントも要するが、習得したのは飛行フライ。文字通り、空を飛べる魔法のようだ。

 残りは22ポイント。よーし、身体強化と魔力強化も3に上げるかー。ステータスは高いに越したこと無いしな。


 ――で、ステータスはこうなった。


【名前】トーマ=サンフィールド

【Lv.】20

【SP】10

【HP】680(272) 【MP】1605(642)

【STR】430(172) 【VIT】340(136)

【AGI】280(112) 【DEX】202(101)

【MAG】803(321) 【LUK】62

【スキル】剣術4 格闘4 魔法剣3 法闘術3 火魔法4 水魔法4 風魔法4 土魔法4 無属性魔法4 空魔法1 回復魔法3 身体強化3 魔力強化3 魔力回復2 索敵3 結界魔法 生活魔法 観察眼 料理1 投擲1

【補足】HP・MP・STR・VIT・AGI・MAG 各150%上昇

    DEX 100%上昇


 うは、身体強化と魔力強化、レベル3に上げたから強化率150%、基礎値の2・5倍でとんでもない数値だ。しかし、それらで強化されないDEXやLUKの低さが際立つな。まあ、DEXは観察眼スキルで2倍になってるからまだマシと言えるが。

 ってか、取得した覚えのないスキルが1つ増えてるな。投擲か。レベルは1、ってことはこの前ナイフを投げたことで投擲スキルを取得した、と考えるのが自然だろうな。ふむ、俺はスキルポイントに頼らずとも、一般人同様のやり方でスキルを習得することもできる、ということなんだろうか。

 また、今回上げた魔法系のスキルで習得した魔法としては、火属性の溶岩マグマポンド、水属性の水渦メイルシュトローム吹雪ブリザード、風属性が竜巻トルネード落雷ライトニング、土属性は局地地震アースクエイク、無属性の魔力爆発ビッグバン魔砲マジックキャノンに回復魔法の広範囲回復(ワイドヒール)。使い勝手はこれから検証してみないとならないが、名前からしてかなり強力なものだろう。


「トーマさん、さっきから寝転んだままですけど、寝てるんですか?」

 一通りスキルのチェックを終えたところに、リーフィアが2段ベッドの上から身体を乗り出すような格好で覗き込んできた。おいおい、部屋着の隙間からなんか肌色のものが見えてるぞ。

「いや、起きてるぞ。ずいぶんスキルポイントも溜まったから、スキルの強度を上げていたところだ」

 リーフィアのポロリを見ないように、上半身を起こしながらそう答える。

「はぁ、またトーマさんが強くなるんですね……。いえ、もちろんいいことなんですけど、トーマさんの強さを目標にしている私としては、目標が遠ざかっていくな、と」

「はは、そう簡単には追いつかせやしねえよ。それに、目標は遠くにあるから目標にできるんだ。そんな簡単に追いつき追い越せるようなものなんて、目標にしても面白くないだろ?」

「そ、それはそうですけど……。見ていてください、いずれは追いついて見せますから」

 ややたじろぎながらも、リーフィアはむん、と拳を握り締めて高らかにそう宣言する。そういえば、最近リーフィアのステータスをちゃんと見ていなかったな。


【名前】リーフィア=ドーラ (本名:リーファ=フォン=ドーレス)

【種族】魔族(デビルロード帝国元第一皇女)

【Lv.】15

【HP】232 【MP】1065

【STR】117 【VIT】116

【AGI】98  【DEX】54

【MAG】533 【LUK】38

【スキル】剣術1 長柄武器1 火魔法5 水魔法3 風魔法3 土魔法4 索敵2 回避2 危険予知2 礼儀作法2 吸精4 魔眼3


 おおう、魔力強化のスキルを持たないのにMPが4桁とか、さすがは魔族というべきか。あと、地味にリーフィアもスキルを成長させているんだな。俺みたいにスキルポイントで自由にカスタマイズできるわけじゃないから大変だろうが。


 ――☆ ☆ ☆――


 その頃、デビルロード帝国。

「お呼びですか、陛下」

「うむ。トーギャンよ、私は決めたぞ。愛する娘を取り戻すため、勇者を討つ! 全軍に通達せよ、これより我が帝国はノーランド王国へ向けて侵攻する!」

 愛娘リーファ(リーフィア)の裏切りを知って沈んでいた皇帝エスペラードが立ち直り、彼女を連れ戻すために、高山地帯に位置する帝国から見て北東側のすぐ麓にあり、現在リーファが滞在している国でもあるノーランド王国へ侵攻することを高らかに宣言した。勇者を討つという目的は変わらないが、動機がやや情けなくなっている。もちろんそのようなことは誰も気にしていないのだが。

「お待ちください、父上」

 だが、それを制止する者が入室してきた。

「なんだ、レオナルト。なぜ止める」

 入室するなりエスペラードを制止したのは、第三皇子のレオナルト。

「なぜも何もありません。皇帝である父上自らが出陣されては、もしものときこの国はどうなるというのですか。それに、全軍を動かすのも反対です。父上の強さを信頼していないわけではありませんが、勇者の討伐は私にお任せいただけませんか」

「陛下。私もレオナルト殿下のご意見に賛成でございます。陛下の御身に何かあってからでは遅いのです。無論、レオナルト殿下なら何かあってもいいというわけではございませんが……」

「ううむ……」

 エスペラードはこのまま自身が先頭に立って侵攻するのと、一歩引いてレオナルトに任せる場合と、それぞれのメリットとデメリットを計算し始めた。

「やむを得ん、レオナルトよ。全面戦争は今は避けよう。お前に諜報に長けた50の兵を預ける。お前は指揮官として彼の国に潜入し、勇者を抹殺し、リーファを連れ戻してまいれ」

「ははっ、謹んで拝命いたします」

 結局、エスペラードはレオナルトの意見を受け入れることにした。なお、帝国が有する兵力は全部でおよそ5万。ただし、これは理性を持つ魔族兵の数なので、彼らが使役する魔物を合わせると、10万は下らないだろう。

 今回は、その5万の兵のうち、隠密行動を得意とし、諜報活動を主な任務とする50の兵がレオナルトに預けられた。また、全面戦争を避けるため、目立つ魔物は連れて行かないことになった。

 レオナルトは預かった兵力を5人1組、10の班に振り分けた。

「では、これより我々はノーランド王国へ向け出陣する。今回の目的は異世界より召喚された勇者の抹殺および我らを裏切り勇者の下についた姉上、リーファ第一皇女の捕縛である。兵力も限られているゆえ、示威行動は慎み、目的外の戦闘は極力避けるように」

 レオナルトの言葉で初めて皇女の裏切りを知った兵がやや動揺したが、取り乱すようなことは無かった。

 かくして、レオナルト率いる50の魔族兵が北東にあるノーランド王国への潜入を目論み動き出した。


 ――☆ ☆ ☆――


 7月7日、予定通り俺たちは騎士団の詰め所へ赴き、セシル隊長率いる銀竜隊と合流、馬車で王都イェスラへと向け出発した。

 俺を暗殺しようとした公爵は爵位を落とされ伯爵になったらしいので、逆恨みからの報復くらいはあるかとそれなりに警戒してはいたが、予想外にも何も起こらず、2日後の7月9日、王都イェスラに到着したのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回……1-16 王都イェスラ

11/7 18:00 予約投稿をセットしておきます。

なお、1-16で第1章の本編は終了となります。

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