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1-11:騎士団シトア支部[キャラクターステータス付]

 俺を呼び出した、という情報はきちんと伝わっていたようで、詰め所の入り口にいた騎士に名前と用件を伝えると、すぐに中へ通された。


 応接室のような部屋に通されて待っていると、程なくして扉が開き、中年というには少々若いものの、それなりの威厳を持った男性が入室してきた。その後ろに、部下らしき騎士の人が続く。

「やあ、よく来てくれた。私は騎士団のシトア支部を任されているギルバート=ハガードだ。トーマ殿のことはセシルから報告を受けているよ」

 礼儀として、椅子から立ち上がって一礼すると、男性は名乗りを上げた。なるほど、この人が騎士団の支部長か。観察眼のスキルを得て以降、初対面の人だと冒険者も騎士もさりげなく観察眼で視るクセがついてしまった。ふむ、支部長はレベル30か。見た目は華奢なんだが、人は見た目によらないな。

「トーマ殿も冒険者としてお忙しいだろうから、早速本題に入らせてもらおう。トーマ殿、Eランクにしてオーガを3体も葬ることができるその力、騎士団でより一層伸ばしていく気はないだろうか?」

 早速本題に入る、と言って切り出した支部長の話は、やはり騎士団への勧誘だった。だが、これに関してはすでに答えは決まっている。

「そう仰っていただけるのは大変光栄ではあります。しかし私はまだ10日ほどしか過ごしていませんが、自由気ままに動ける冒険者稼業を気に入りました。それに、騎士としての礼儀作法なども自信がありませんので、辞退させていただきます」

「やはり、そうだろうと思っていたよ。だが、我々のような地方の騎士団支部を統括する王国軍の上層部にオーガを討伐した件を報告したところ、君を是非騎士団に加入させろ、という命令が下ってしまってね。私としては、君の言うように自由気ままな冒険者を国が縛りつけようとしても上手くいくはずがない、と思っているのだが、それも宮仕えの哀しさというものかね。おっと、愚痴になってしまったな。今のは忘れてくれ」

 肩をすくめて俺の入団拒否を受け入れ、軽い口調で勧誘の背景を明かす支部長に、好感を覚える。

 後ろに控えていた騎士が支部長に何か耳打ちしている。すると、支部長は表情を引き締めて、

「入団を拒否された、というのは私が責任を持って上層部へ報告しておく。しかし、今回の討伐隊で大活躍をして騎士団としては大きな助けになった。そこで、感謝の印として、褒章を授けたいと思うのだが、受け取ってもらえるかな?」

 褒章か。ベラさんも言ってたが、そのくらいなら別に構わないだろう。支部長も「感謝の印」って言ってるし。

「はい。ありがたく、受け取らせていただきたいと思います」

「そうか。では例の物を持ってきてくれ」

 支部長は控えていた騎士に命じると、再度俺のほうに向き直った。あらかじめ近くの部屋にでも置いてあったのか、すぐに騎士は戻ってきた。手には黒い盆のようなものを持っており、その上には腕輪のようなものと、鞘に納められた短剣が載せられている。

「規則上、金銭の授与はできないことになっているので、代わりにこれらの腕輪と短剣を納めてくれ。いずれも褒章にする品としてのみ造られる、特注品だ」

 支部長は盆の上からそれらを取り上げ、順に差し出した。腕輪には剣と盾をモチーフにした意匠が刻まれており、なかなかカッコいいと思う。

「短剣を抜いてみてもいいですか?」

 革製の鞘に収められた短剣はズッシリと重く、許可を取って抜いてみると、よく砥がれているであろう刀身はランプの灯りを反射して鈍い煌めきを放っている。

「素晴らしい逸品ですね」

 観察眼で調べてみると、ボロックナイフと表示された。柄が丸みを帯びているくらいで、刀身、そして鞘と、飾り気とは無縁の無骨なこの短剣は、実用性としては十分だ。刀身に何か文様のようなものが刻んであるが、よくわからない。気にするほどのものでもないか。きっとサイン風に銘を刻んだのだろう。

「気に入ってもらえたようだな」

 ボロックナイフを鞘に収めて、鞘についているベルトで腰に固定していると、支部長が笑みを浮かべながら声をかけてきた。ちなみに、腕輪――ナイツ・バングルという名前らしい――はすでに左腕に装備済みだ。名前を直訳すると騎士団の腕輪となるので少々気に入らないが、それを補って余りあるデザインのかっこよさに、装備することを決めた。どうせ防具の名前なんて、俺みたいに観察眼のスキルでも持っていなければ、基本的には知りようがないのだ。なお、この腕輪、ずいぶん仰々しい名前をしているが、登場する防具が腕輪型になっている某最後の幻想のシリーズ作品のように腕に着けるだけで大幅に防御力が上がったりするなどの特別な効果は持ち合わせていないようだ。正真正銘、単なる装飾品というわけだ。そういえば、俺の持つ格闘グローブ兼集束具であるマジックナックルも手の甲側に付けられた魔宝石があの作品のマ○リアっぽく見えることもあるんだよな。ま、どうでもいいことだけどな。

「はい、ありがとうございます」

 メインウェポンの剣は新調したけど、こないだみたいな事態に備えてサブウェポンを何か用意しようかと思ってたところだったからちょうど良かったな。武具としての品質も申し分ないし、助かった。

「ところで、これは騎士団としてではなく、個人的な頼みなんだが、君は剣、格闘ともに騎士に勝らずとも劣らない技能を持つ上に、魔法も騎士団の魔法兵以上に使いこなすと聞いている。もし君が良ければ、その一端を模擬戦という形で私にも見せてはもらえないだろうか」

「構いませんよ。ただ、魔法は模擬戦で撃ち合うのは危険すぎますので、その部分を考慮していただければ」

 模擬戦をやるだけでも経験値になるのはギルドでの実例がある。それなりにレベルの高い騎士たちが相手なら、またレベルが上がるかもしれないな。


「はっ!」

「なんの!」

 模擬戦は2階建ての詰め所の2階にある訓練場で行われることになった。ギルドの修練場と比べても遜色ない広さだ。

 常時何人もの騎士たちが訓練を行っており、今はその中からジェームズという名の騎士と剣を交えている。彼は一般騎士の中ではレベルが高めの19で、剣術スキルのレベル3、セシル隊長と肩を並べるレベルのスキルを持っている。だが俺の剣術スキルは4に上げてある。それにも関わらず互角ないしはやや押され気味に推移しているのは、ジェームズ氏の応用力、ゲーム的に言えばプレイヤースキルが高いからだろう。今のもジェームズ氏の上段からの打ち込みを辛うじて剣で受け止めた、という状況で、模擬戦だというのに緊迫感に満ち溢れている。ちなみに、受け止めた際に以前ギルドの戦闘テストでハリーとやりあった時の受け流しをやろうと試みはしたが、仕掛ける寸前に気づかれて失敗に終わっている。

 その後、お互いに決定打を欠いたまま打ち合いは続き、支部長から「そこまで」と言われた瞬間にジェームズ氏と同時に座り込んでしまった。

「強いな、君は。模擬戦でこんなアツくなったのは久しぶりだよ。ぜひ、またやりたいね」

「いやいや、ジェームズさんこそ強かったですよ。俺もあなたとはまた戦いたいですね。騎士団に入団するのはお断りだけど、訓練の一環として、ならいいかも。支部長さん、そういうわけなんですけど、自分の冒険者としての訓練のために騎士の方々と模擬戦をしに来ることを許していただけますか?」

 しばらくしてお互いノロノロと立ち上がると、がっしりと握手を交わし、再戦を誓い合う。だが俺は騎士団に入ることを断った身。つまりは部外者なので、訓練場に出入りするためには支部長の許可が必要だろう。いったん握手を解くと、振り返って模擬戦を観戦していたギルバート支部長にお伺いを立てる。

「君が訓練を行うことで、我々騎士団も質の高い訓練になると考えれば、私が拒否する理由は無いな。ぜひ、訓練場に来てくれたまえ。ジェームズは騎士団の一般騎士では強いほうだ。彼と互角の勝負を演じられる君なら、他の騎士たちにはいい刺激になるだろう」

 意外なことに、支部長は即答で頷いてくれた。

「ありがとうございます。ええと、次は魔法の訓練ですか?」

「うむ。別の区画で魔法兵の訓練をしているから、そこに向かう。着いてきてくれたまえ」


 魔法兵の訓練場は1階にあるらしいので、支部長たちに続いて階段を下りていく。

 先ほどの騎士たちの訓練場の真下にある部屋が、魔法兵の訓練場。やはり、広い。

「ノーランド王国軍魔法兵団、シトア支部へようこそ」

 ギルバート支部長に続いて俺が入室すると、ローブを着た、人当たりの良さそうな中年の男性が声をかけてきた。

 どうやら彼がここのトップ、支部長らしい。名前はアルバート・アガター。訓練中の魔法兵の中にこないだのお嬢さんもいる。ふむ、名前はベリンダと言うのか。

「どうも、トーマ=サンフィールドです。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼むよ。じゃあ、訓練に混ざってもらう前にひとつ聞きたいんだが、トーマ殿は自分の力をきちんとした数値として見たことはあるかい?」

 するとアルバートさんは唐突に妙なことを聞いてきた。これは要するに、自分のステータスを知っているか、っていうことか? そうだとしたら、YES、となるのだろうが、安易な回答をしてチート能力のことがバレるとめんどくさそうだな。

「いえ、ありません」

 なので、何食わぬ顔で平然とウソをつく。

「そうか。じゃあ、得意な属性は?」

「それもよくわからないです。火、水、風、土、どの属性も同じように撃てるようになれ、と師匠である親父から教わったものですから」

 俺の回答を聞いたアルバートさんの顔が引きつっている。

「そ、そうか。親父さんもなかなか珍しい素質を持った方だったんだね。じゃあ、とりあえず測ってみよう。石版に手を置いてくれ」

 アルバートさんは乾いた笑みを浮かべながら隅に設置してあるテーブルに俺を案内すると、その上に置いてある石版を指差した。

「これはなんですか?」

 話からすると、触れた者のステータスを測る道具なのだろうが、一応聞いておきたい。

「これは能力計測器メジャーメント・アビリティという魔道具でね。その者の強さの指数となる数値や、体力や魔力といった各種能力値を数字で示してくれるんだ。これは簡易版だから身に着けている技能は表示できないが、王都などにはもっと本格的なものもあって、身に着けている技能も表示できるらしい。ともかく、それによってどのくらい魔法を撃てば魔法力が枯渇するのかを知ることができる。正直な話、私の個人的な興味でもあるのは否定しないが、トーマ殿にとっても悪い話ではないはずだ」

 まあ、俺は自分自身でステータスを見られるから本当は必要ないんだけど、別にいいか。

「わかりました」

 そう言って石版にペタリと手を触れると、石版がぼんやりとした光に包まれ、空中に文字を出力し始めた。


【名前】トーマ=サンフィールド

【強度指数】16

【年齢】20

【生命力】460 【魔法力】1096

【筋力】286 【耐力】230

【敏捷】184 【器用】162

【魔力】548 【運気】52

【属性】火・水・風・土・無


 おお、俺の能力値が衆目に晒されている。なるほど、レベルは強度指数という言い回しをするのか。なかなか凄いな、能力計測器。大仰な名前をしているだけのことはあるか。けど、スキルが出なかったり、自分でステータスを見るのとは少し違う部分もあるようだ。簡易版であることや、自分で見る分には必要ないから表示されないだけだろうけど。ともかく、これなら俺が観察眼のスキルを持っていることは分からないし、数字だけならそこまで突出して、も……?

 さっきまでずっと静かだった部屋の中が突然ざわついたのを感じて周囲を見回してみると、アルバートさんやギルバート支部長をはじめとして、ベリンダちゃんたち一般魔法兵の皆さんも一様に驚いている。

「な、なんだこの数値は……!?」

「魔法力が4桁なんて、見たことない!」

「それなのに強度指数がまだ16だなんて、どうなってるんだ……!?」

 あれ、やっぱり俺って規格外なのか?

「いやぁ、凄いですね、これ……って、どうされたんですか?」

 務めて笑顔を作りながら、何食わぬ顔で様子を伺ってみると、

「トーマ殿。やはり今からでも遅くはない。礼儀作法もこれから身につけて行けば良い。だからぜひ騎士団に入ってはもらえないだろうか? これはもはや国からの命令とかではなく、騎士団を預かる支部長としての純粋な願いだ」

 驚いて固まった状態から再起動してきたギルバート支部長が俺の肩をガシッと掴んで勧誘を再開した。

「その件は辞退させていただきます、と先ほど申し上げたとおりです。返答は変わりません」

 だがこのくらいで揺らぐ俺ではない。即答で拒否する。

「やはりダメか。ところで、トーマ殿はまだしばらくこの街に滞在するのか?」

 俺の答えにギルバート支部長はあからさまにがっかりしてみせるが、すぐに気を取り直して別の質問をしてきた。

「特に決めてはいないですけど、そろそろ別の街に行ってみようかな、とは思い始めています」

「そうか、ならば旅立つ際にはまたここへ立ち寄ってくれ。行き先がよほどの農村でもない限りは王国軍、あるいは我々のような騎士団が駐屯しているからな。紹介状を書いてあげよう」

 紹介状か。それがあると何か役立つのだろうか。まあ、今は気にしなくてもいいか。

 結局、魔法兵の皆さんとの訓練は中止になった。俺の能力値を目の当たりにして動揺した方が多く、精神集中が必要な魔法の訓練を行うどころではなかったためだ。

 それ以上滞在する理由もなかったので、俺は騎士団の詰め所を後にした。



「申し訳ありません、勧誘には失敗しました」

『そうか。ならば消えてもらうしかないな』

「……はい? いま、なんとおっしゃいました?」

『その者には消えてもらう、と言ったのだ。それだけの強さをもって我が国に刃向かわれたらたまらん。大方、騎士団入りを拒んだのも野心があるからであろう』

「な、なんということを……! 失礼を承知で申し上げます、彼、トーマ殿はそのような野心を持つような者ではありません!」

『黙りたまえ。君の意見など求めてはいないのだ。その、トーマとかいう冒険者を消すのはもはや決定事項である。そして、ギルバート=ハガード士爵。公爵位を持つこの私に楯突いた罪により、ただいまをもって騎士団シトア支部長の任を解く。追って正式な処分を通知するまで、謹慎せよ。その間の支部長代理は先の討伐戦で活躍した、セシル=スターンを任命する。以上だ』

 ちょっと意見を返しただけで支部長を解任させられた上に一方的に通信を切られ、ギルバート前支部長はがっくりとくず折れた。

「ギルバート支部長」

 そこへ現れたのは、銀竜隊の隊長にして、たった今公爵から新支部長として任命されたセシルだった。

「セシルか……話を聞いていたのか? 私は支部長を解任された。次の支部長はお前だ。自ら隊を率いながらも、長いこと私を支えてくれたお前なら任せられる。引継ぎすることも、ひとつだけだ。トーマ殿が、王国の闇に狙われることになる。彼を、守ってやってほしい」

「何を言っているんですか、支部長・・・。話は一部始終聞こえていましたが、そんな口頭での一方的な通達、私は受けるつもりはありませんよ。私にとって、いえこの支部にとって支部長と呼べる方はあなたしかいません。トーマ殿の身の安全を確保しつつ、私は王都に赴いて公爵に陳情を行ってきます。それまで、待っていてくださいね。必ずや、あなたを支部長の座に復帰させますから」

 セシルは憔悴するギルバートを気の毒そうに見つめながらもそう宣言すると、その場を立ち去ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回……1-12 逃避行(前編)

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