1-10:宴会[キャラクターステータス付]
「想定外のバケモノが出てきたけど、とりあえず討伐依頼、お疲れさんでした! かんぱーい!」
『かんぱーい!!』
その日の晩、俺はギルドホールの酒場をまるごと貸し切りにし、今回の討伐隊に参加した冒険者たちはもちろんのこと、ギルドの職員、さらにはその場に居合わせただけの冒険者などまでも集めて宴を開いていた。参加人数はおそらく50人を超えるだろう。
それなりに広い酒場をまるごと貸し切りにし、さらに呑み放題食べ放題ということで、金貨1枚、100万ゴルドが飛んでいったが、今回の討伐戦において大物を3体も撃破した俺は、Bランクのステラさんたちを差し置いての稼ぎ頭になっている。
ちなみに、最終的にオーガ3体の買い取り価格は死体の損傷による減額込みで1体あたり200万ゴルドでまとまり(完全な状態だったら理論上は1体あたり250万ゴルドは下らないそうだ)、討伐報酬と参加報酬の2万ゴルドと合わせると、今回の収入は合計で632万ゴルド。これほどの収入になると、さすがに全部金貨以下の硬貨でちょうだい、とは言えなかった。金貨を入れないと銀貨632枚だもんな。素直に100万ゴルド金貨を6枚と、銀貨32枚を受け取った。
「なあ、トーマよぉ。お前さんはついこないだふらっとこの街に現れて冒険者になったんだよな? それが10日も経たないうちにオーガを3体も討伐できるその戦闘能力。さらに命に関わりかねないほどの重傷を負った俺みたいな人間を、自力で歩けるくらいまで治すほど回復魔法を連発できるその魔力。どこをとってもEランクの冒険者に成せる所業じゃねえ。そんな凄腕なら、冒険者としてギルドに登録していなくても、以前から噂になっていてもおかしくないが、今まで全く噂の類は無し。一体この街に来る前はどこで何をしていたんだ?」
この宴の主催者であり、同時に主役でもある俺は、飲み食いもそこそこに、あちこちでお呼びがかかる。そんな中、立ち寄った席で唐突にそう訊ねられた。
「まあ、俺はこの街に来るまで、ここから遠い国の小さな村で両親と暮らしていたからな。戦闘能力は魔法も含めて全部そこで親父に仕込まれたんだよ。だから、噂になってないのは当然といえば当然だな。で、今はその親父に世界を見て来いと言われて田舎を出てきたところだ」
「なるほどな、今回の討伐隊にお前がいてくれたのは、それだけで僥倖、と言わざるを得ないな。もしお前がいなかったら、もっと多数の犠牲が出ていただろうからな」
どうやらこんな説明でも納得してもらえるようだ。まあ今は酒の席、そこまで本気で突っ込んでは来ないだろう。
ん? なんだか、熱い視線を感じるな。どこだ?
不自然にならない範囲であたりを見回すと、俺に熱視線を向けていたのは、ベラさんだった。ベラさんが、なんで俺をそんな目で見つめているんだ?
俺と一瞬目が合ったところで熱視線を向けるのを止めたが、今もちらちらと様子を伺うような感じがしている。そういえば、俺はベラさんのことをあまり知らないな。今度、誰かに聞いてみるか。
結局、朝まで宴は続き、朝陽が昇る頃になってようやくお開きとなって解散した。
☆ ☆ ☆
『なに、シトア南東の森にオーガが出ただと?』
「はい。全部で7体。ゴブリンの掃討作戦で騎士団と冒険者の混成討伐隊を組んでいた中での遭遇でした」
『それで、倒したのか?』
「はい。冒険者に2名死亡者が出ましたが、7体のオーガは全て倒しました。我々騎士団が4体と、冒険者のひとりが3体を倒しています」
『たったひとりで、3体のオーガを倒した? それは本当か?』
「はい、間違いありません。しかもその者、最近シトアにやってきて冒険者になったばかりのため、まだEランクだと。これは、その者が提示したギルドカードにより確認済みです」
『Eランクでそれだけの戦闘能力……正直、脅威以外の何者でもないな。王国騎士団シトア支部長、ギルバート。その者に褒章を授け、騎士団へ入団させるのだ。入団させるためなら、手段は問わぬ』
「は、承知いたしました。褒章として与える品はいつものものでよろしかったでしょうか?」
『うむ。では、良い報告を待っているぞ』
その言葉を最後に、通信は途切れた。途端に、支部長を務めるギルバートの表情が憤怒に歪む。
「自由な冒険者を国が管理しようとしても、余計な反発を招くだけ。なぜ、それがわからない……!」
だが、今の通信相手は、ノーランド王国の軍を統括する立場にある貴族。支部長などという仰々しい肩書きを持っているギルバートも一応貴族ではあるが、相手は公爵、ギルバートは貴族の中では最も低い爵位である士爵なので、上には逆らえないのだ。おそらく褒章はともかく、入団の要請は拒否されるであろうことは容易に想像がつくが、それでもそういったアクションを取らなくてはならないため、ギルバートはため息をつきながらも今回の討伐隊で大活躍した冒険者への褒章にする物品を用意するよう、部下に命じるのだった。
☆ ☆ ☆
起きてから、ステータスをチェック。やはり大物を3体も撃破したおかげで、レベルが16まで上がっていた。スキルポイントも69ポイントあるし、早速スキルを強化するとしよう。
オーガとの戦闘でも、Eランクとしては規格外らしいポテンシャルだったらしいが、今後のことを考えると、強さを追い求め続けることは必要だろう。
ということで、今回はスキルポイントも十分あるし、剣も格闘も魔法も、総合的な強化をしておこう。剣術と格闘を4に上げ、さらに魔法剣と法闘術は2に。前回上げた火魔法以外の属性、水、風、土、それと無属性の各種魔法を3に上げておく。それと、MPの数値が増えてきて、自然回復ではなかなかすぐに全回復とは行かなくなってきているので、魔力回復というスキルをいきなりレベル2まで取得する。これまたレベル1で2ポイント必要なスキルなので、レベル2まで取ると6ポイント消費。これだけレベルが上がってなかったら手を出しづらいスキルだな。いや、レベルが上がってなくてステータスが低ければ必要のないスキルだから別にいいのか。さらに周囲の気配を探知できる索敵のスキルをレベル3まで取り、6ポイント。最後に、今回みたいな野営をする必要があるときに役立ちそうな結界作成のスキルをスキルポイントを5消費して取得しておいた。結界作成のスキルは観察眼同様にレベルの概念は無く、作成時に注ぎ込んだMPの量によって効果時間が決まる。結界そのものの強度は自分より少し強いくらいの魔物の攻撃を凌げる、という説明がスキル一覧の説明にあったので、おそらく俺自身のレベルが上がれば、それに応じて強度も上がっていくのだろう。
さて、落ち着いたところでステータスを表示してみる。
【名前】トーマ=サンフィールド
【Lv.】16
【SP】21
【HP】460(230) 【MP】1096(548)
【STR】286(143) 【VIT】230(115)
【AGI】184(92) 【DEX】162(81)
【MAG】548(274) 【LUK】52
【スキル】剣術4 格闘4 魔法剣2 法闘術2 火魔法3 水魔法3 風魔法3 土魔法3 無属性魔法3 回復魔法2 身体強化2 魔力強化2 魔力回復2 索敵3 結界魔法 生活魔法 観察眼 料理1
【補足】HP・MP・STR・VIT・AGI・MAG・DEX 各100%上昇
おお、ついにMPが4桁の大台を超えたか。まあ、スキルポイントはまだ余ってるから、身体強化や魔力強化のスキルに注ぎ込んでさらにステータスを引き上げることもできなくはないけど、今はその必要は無いだろう。
「いらっしゃい、トーマくん。今日はどうしたの?」
朝食後、俺はひとりで武具屋に来ていた。リーフィアは今日一日部屋でのんびりするそうだ。
「ああ、剣を新調したいんだ。魔力を込めても、硬いモノを斬っても簡単に砕けないような、いい素材でできた剣が欲しい。それと、マジックナックルも改造の相談をしたいんだけど、主人はおられるか?」
「いい素材でできた剣が欲しい、とはずいぶん大きく出たね。前に使ってたの、ただの鋼で造られたショートソードでしょ? 一応、上位素材の剣としてはミスリル、アダマンタイト、それとオリハルコン製の剣の在庫があるけど、どれもべらぼうに高いよ?」
イザベルさんは暗に予算は大丈夫か、ということを聞きたいようだ。
「予算は十分にあるから、全部見てから考えたい」
そう言いながら、皮袋に詰まった金貨や銀貨をイザベルさんに見せる。
「……! こ、こんな大金、どうしたのよ?」
「オーガを3体仕留めて、その死体を売り払った。たぶん、そのうち武具の素材になって出てくるんじゃないかな」
「なるほどね、オーガ相手にあのショートソードで渡り合ったら、そりゃ剣も壊れるわ。待ってな、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンで造られた剣、持ってきてやるよ」
3振りの剣を見比べ、さらに実際に持って軽く素振りしてみたり、魔法剣の要領で魔力を通してみた感覚を比べた結果、ミスリルは軽くて魔力を通すとよく馴染む。オリハルコンは非常に硬くて物理的な攻撃力ではこの3振りの中どころか世界を巡っても右に出るものはそうそう無さそうだが、魔力との相性が絶望的に悪い。アダマンタイトはミスリルとオリハルコンの中間的な素材のようだ。ミスリルより硬く、だがオリハルコンほど魔力との相性は悪くない。今回はミスリルを選ぶことにしよう。
「ミスリルソードにするんだね。そいつは150万ゴルドだけど、本当に予算は大丈夫かい?」
「大丈夫だ、問題ない」
笑って頷きながら、金貨2枚を支払い、銀貨50枚の釣りを受け取る。
「おう。呼んだか、小僧?」
そこに、主人が奥のほうから現れた。相変わらず、ずんぐりした小柄の体躯なのに、存在感が凄まじい。
「ああ、マジックナックルの改造を頼みたいんだ」
「ほう? もう改造が必要になるほど使い込んだのか? それならまず、使い心地を聞こうか」
「ああ、使い心地は快適そのものだ。あらかじめ魔宝石に魔力をチャージしておけばそこから魔法を放てるし、チャージした魔力で格闘の攻撃力も引き上げられる。だから、改造と言っても、悪い点があるわけじゃないんだ」
「なるほどな。格闘技と魔法を両方修めた小僧ならではの戦い方って奴だな。だとすると、改造を希望するのは、魔宝石がらみか?」
「ああ。今はナックルの背にひとつずつ設置されてる魔宝石を、とりあえずふたつずつに増設したいんだが、そういう改造は可能か?」
「ああ、できるぞ。ただし、魔宝石はかなり高価な品だ。改造費込みで40万ゴルドほどになる。それと、ウチにある全属性の魔宝石はこれで在庫切れだ。次に仕入れられるのはいつになるかわからんから、そういう方向性での改造はしばらくできないかもしれない」
やはり予算の心配か。この夫婦、似た者同士だ。魔宝石の在庫の件については、仕方ないだろう。希少性の高い品だと言っていたしな。
「ああ、大丈夫だ。それでお願いするよ」
俺は頷くと、銀貨を50枚、主人に渡した。10枚も多いと返されそうになったが、いくら試作品だからと言って、こんないい武具にお金を払わずにいられるほど俺の神経は図太くないから、遅くなりはしたけど、と説明して受け取ってもらった。
改造は滞りなく終わり、ナックルの背に埋め込まれた魔宝石は左右それぞれ2つずつに増やされた。それにより蓄積できる魔力容量も増え、法闘術の応用力がさらに上がるかもしれない。試してみなくてはわからないが、魔力をチャージして攻撃力を高めたナックルで攻撃し、さらに命中する瞬間に攻撃魔法を解放して、なんていう戦い方もできるかもしれない。ただ、ギルドの修練場にある的やそこらへんに生息する並の魔物では攻撃魔法を解放するまでもなく一撃必殺で終わってしまうから検証するのは難しいかな。とはいえ、検証のためにまたオーガを越えるような魔物とやりあうのもごめんだし、ひとまずこの件は置いておこう。今回、こうして改造してもらったのは、半分はナックルの代金を受け取ってもらうためだったし。
「あ、トーマさん。先ほど騎士団の方がいらっしゃいまして、トーマさんが見えたら騎士団の詰め所まで来て欲しい、と伝言を頼まれましたよ」
午後、やっぱりヒマだから、というリーフィアと一緒にギルドへ行くと、いきなりベラさんにそんなことを言われた。
「騎士団、か。何の用だろうな」
「勧誘、とかならいいんですけど。なんだか良くない感じがします」
「大丈夫ですよ。これまでにも、大規模な討伐などで活躍した冒険者に騎士団から褒章が授与されたことも何度かありますから、今回もそうだと思いますよ」
突然の騎士団からの呼び出し、という想定外の状況に、リーフィアと2人で考えてみているところに、ベラさんが過去にあった事例を挙げて微笑んできた。
まあ、何にせよ行ってみないことにはわからないか。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回……1-11 騎士団シトア支部
11/5 21:00 予約投稿をセットしておきます。




