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1-08:ゴブリン討伐戦(その2)~怪物現る~

 結局、森が見えてくる辺りまでゴブリンの散発的な襲撃は続いた。

 正確な数は数えていないが、おそらく30~40体のゴブリンが、一度に数体ずつという小規模な襲撃を仕掛けてきていた。

 いや、それにしたって、避けようが無いからやむなく交戦したというだけで、俺たちを無視して突破を図るような個体も多かったように思う。それらを結果的に斬り捨てただけであって、違和感が拭えない。

「諸君、ひとまず今夜はここで野営を行う。不寝番は我々騎士団が持ち回りで行うので、冒険者諸君はゆっくり休んでくれたまえ。夜が明けた後については、冒険者の中から何名かに森の奥を偵察してきてもらうつもりだ。では、休息に入ってくれ」

 ここまでのことを考えていると、隊長さんからそんな話があった。なるほど、低ランク、低レベルのルーキーも多い冒険者組に負担をかけまいとしてくれたのかな。ここはありがたく休ませてもらうとしよう。何が起こるかわからないからな。



「ゴブリンの集落は、壊滅していた」

 夜が明け、偵察に行ったステラさんたちの帰投後の第一声がそれだった。

 ゴブリンの集落が壊滅? 120体ほどいると言われていた大規模な集落だぞ? いやその前に、一体誰がやったというのか。

「ふむ、そうか……念のため、これより行軍を再開、森へ入り残敵の掃討を行う。何らかの危険があるかもしれないので、十分に警戒するように」

 報告を受けた隊長は任務の内容を一部変更し、新たに指示を下した。


 ここ、シトア南東の森は大陸東部に広がるルースア大森林の一部で、森の途中にわずかに開けた草原地帯が国境になってるらしい。なお、ルースア大森林はノーランド王国と隣のオスヴァルト王国にまたがって広がる大森林なのだ、と騎士団の人が教えてくれた。

 他国へ抜ける街道なので、森の中といえど大きく外れなければ、それなりに整備されており、道幅や視界は確保されている。だが、想定外の獣道などから突然ゴブリンや他の魔物が奇襲をかけてくることもあるため、一時も気を抜くことは許されない。

 とはいえ、魔物が奇襲をかけてきても、基本的に魔法使いとしての役割である俺はこの隊の中では守られるべき立場であり、散発的に起こる戦闘には参加していない。

 しばらく森の中を歩いたところで、やや開けた場所に出た。どうやらそこがゴブリンの集落だったらしく、ざっと数えても50体以上にもなるゴブリンの死体が転がっていた。

 死体の損傷具合を見ても、人間の仕業じゃないことは明白だ。何かこう、圧倒的な力で破壊の限りを尽くした、そんな感じの死体が多かった。

 ひとまず、死体が腐って疫病の原因になったり、アンデッド化して新たな騒動に発展しないよう、俺も含めて魔法使いが総出でゴブリンの死体と集落跡地を燃やした。きちんと延焼しないように魔法の範囲を絞ったので、余分に焼失させたりはしていないぞ。

 その後は戦闘すらほとんど起こらないまま、気がついたら昼を過ぎていた。

 このまま残敵掃討にもロクに絡むことなく、参加報酬の2万ゴルドだけで終わりか、などと思い始めた、そのとき。

「な、何か来ます」

 突然リーフィアが青ざめた表情で俺の袖を掴んできた。リーフィアは確か危険予知のスキルを持ってるんだよな。それが何か察知したのか?

 と、前方で轟音と悲鳴が聞こえ、直後にドサッ、と大きな音を立てて俺たちの目の前に何かが降ってきた。

「きゃっ!?」

 落ちてきたものを真正面から見たリーフィアが小さな悲鳴を漏らした。

 それは頭部を砕かれて顔の判別すらできない、だが辛うじて人とわかる輪郭は残した、人間の死体だった。ボロボロになった革鎧を着けているので、先頭を歩いていた冒険者の誰かだな。

 間違いなく即死、一撃で殺されたんだろう。

 これだけのパワーを振るえるような魔物がそうそう森の中にいるとも思えないから、十中八九、ゴブリンの集落を壊滅させた奴がやったのだろう。

 背中に嫌な汗が流れてきた。

 何が出たのかわからないけど、今まで出会ってきた、動物が少し凶暴化しただけの魔物とは訳が違う、ガチなバケモノのお出ましか。

「なあ、リーフィア。この場は、お前が元魔族の皇女で、ある程度魔物の事を知っていると信じて訊きたい。一体、何が現れたんだと思う?」

 青い顔で震えるリーフィアの肩を掴み、小声で問いかける。

 前方ではソレとの戦闘が始まったらしく、轟音と人の悲鳴が断続的に聞こえてくる。

「ゴブリンを襲う可能性があり、かつこれほどの破壊衝動を持つような魔物と言えば、トロールかオーガのどちらかだと思います。ただ、トロールはもっと乾燥した荒野にしか適しませんから、まず間違いなく、オーガですね」

 俺が肩を掴んだことで少し落ちついたのか、リーフィアはそう答えてくれた。



「奴の動きは決して早くないぞ! 正面には立たず、横や後ろから攻撃しろ! いいな、棍棒の打撃をまともに受け止めようと思うな!」

 俺が隊列を飛び出し、最前線に向かうと、巨大な怪物が騎士団と交戦している。その大きさは、最前線から少し離れていても見えるほどだ。観察眼で調べると、リーフィアの予測どおり、オーガだった。先頭を歩いていた冒険者チームはすでに戦闘に参加しているものは1人もいない。かなりの人数がオーガに殺されたか負傷させられたらしく、無事な者が肩を貸して安全な場所に後退しているようだ。

「ステラさん!」

 最前線まであと少しというところで、ステラさんのパーティを見つけた。彼女のパーティは3人とも生存していた。負傷してはいるが、生命に関わるほどの重傷ではなさそうだ。

「トーマ君、何をしに来たの? 今のこの場所は君みたいなルーキーが来ていい場所じゃないわ。Bランクの私たちでさえアイツには歯が立たなかったのよ? アイツの攻撃が直撃したCランクの冒険者が一撃で殺されたの。君みたいなルーキーが来たところで、無駄死にするだけ。冒険者の先輩として、それはさせられないわ。騎士団に任せて、早く下がりなさい」

 すでに負傷は魔法で応急処置を済ませてあるようで、ステラさんは冷静に俺を叱りつけた。

「それはやってみなければわからないでしょう。大丈夫、俺に策があります」

 だが、俺とてただの物見遊山で前線に来たわけではない。魔族の皇女として、特に強い魔物のことを覚えていたリーフィアから、弱点を聞いてきたのだ。それでも止めようとするステラさんを振り切って、騎士団のもとへ向かう。

「な、なんだこりゃ」

 オーガと聞いて、いろんなゲームなどで見てきた姿を思い出していたが、その中のどれとも違っている。いや、正確にはいろんなゲームで登場したオーガの特徴が混ざっている、というべきか。

 体長はおよそ3メートル、理性などまるでなさそうな赤い目に、肌の色は青紫、粗末な布をわずかに身体に纏い、右手には見るだに凶悪な棍棒。なるほど、ボディビルダーも裸足で逃げ出すモリモリの筋肉とその棍棒でゴブリンの集落とかを叩き潰したわけか。

「冒険者か!? コイツは危険だ、我々に任せて下がっているんだ!」

 騎士団の隊長が俺を見てそう言ってくる。

 まあ、突然、革鎧という騎士団に比べたらごく軽装な冒険者が戦場に飛び込んだところで、そう言われるのは必然だろう。

 だから、ここは実力行使で行かせてもらう。

 コイツの弱点は、火だ。数は1体。とりあえずこんがり焼いておくか。魔力収束、ターゲット、ロックオン!

「フレアシュート!!」

 突き出した左手から、勢い良く炎が噴き出す。ヒャッハー、汚物は消毒だぁーっ!

 噴き出した炎はオーガの頭部に命中した。さらに頭部から延焼して全身を炎が包む。炎の中で苦悶の声を上げるオーガ。

 リーフィアの話によれば、オーガは驚異的な膂力と硬い皮膚、それと高い自然治癒力を持つため、物理的な攻撃や防御面の能力に優れているようだ。つまりは脳筋ってことだな。そのためなのか、魔法による攻撃には非常に弱く、特に火属性の魔法を受けると自然治癒力が大幅に低下する弱点もあるんだとか。それを知っているのは奴らを使役する魔族か、奴らと戦えるだけの実力を持つ熟練の戦士くらいだろう。さーて、上手に焼けたかな?

「おお、火属性の魔法使いだったのか!」

「よし、奴はもう並の魔物以下だ! 一気に仕留めるぞ!」

 どうやら騎士団の面々はオーガの特性を知っていたらしい。騎士たちにそう指示を出すと、隊長自身も剣を抜き、オーガに飛びかかる。

 全方位からの攻撃に対し、オーガも右手の棍棒、さらには何も持っていない左手もめちゃくちゃに振り回して抵抗しているが、闇雲に攻撃したところで、騎士たちは冷静に回避し、あるいは盾で上手くいなしていく。

 そうしてできたスキを逃すほど、この隊長はお人よしではなかった。どういう身体能力をしているのか、オーガの攻撃が盾でいなされて体勢を崩した直後を狙って奴に駆け寄り跳び上がると、

「はぁっ!」

 気合一閃、オーガの首を一撃で切断してみせたのだ。

 いくらタフなオーガとて、首を落とされては生きてはいられない。ズン、という野太い音を立ててその巨体が地面に崩れ落ちた。

 本当に、何者だこの隊長。

 ことごとく重傷以上のベテラン冒険者たちと違い、騎士団のほうは多少の軽傷者はいるが、戦闘継続不可能なほど重傷を負った者はひとりもいないようだ。鍛え方が違う、とか真顔で言われそうだ。

「俺は回復魔法も使えるから、負傷者がいるなら言ってくれ!」

 ここまでほとんど何もしてないし、今のオーガ戦だって、開幕の火魔法フレアシュート以外魔力を消費していないため、まだまだ余裕がある。

「我々騎士団はそこまで重傷の者はいない。それより、冒険者たちのほうを優先して診てやってくれ」

 剣を振って血糊を払い、鞘に納めながら先ほどの隊長が俺のところへやってきた。

「的確な援護だった。おかげでこちらの被害は想定より少なく済むことができた。感謝する」

 被っていた兜を脱ぐと、見事な銀髪。目の色こそ平凡な茶色だったが、まごう事なきイケメンだ。年はおそらく20代後半から30代前半。それでいてあの強さだ。さぞかしモテることだろう。もしかしたらとっくに結婚してるのかもしれないけど。っと、今はそんなことはどうでもいいか。

「いや、隊長の剣技が凄かった……ってマジか」

 そう言ってその場を立ち去ろうとした俺は、さらに4体ものオーガが森の奥から出てくるのを見てしまった。

 ひとまず新手と距離を取るため、バックステップで飛び退りながらマジックナックルに魔力を収束する。

 それを親指以外の指に込めて、それぞれの指先に火弾を生成する。

「ファイアバレット!!」

 のそりのそりとこちらに歩み寄ってくるオーガたちに狙いを定め、指先の火弾を解き放つ。1発分足りないけど、アレみたいだな、フィン○ー・フ○ア・○ムズ。

 そんな冗談はさておき、放たれた火弾は見事に別々のオーガへ命中して炎上する。今度は4体もいるんだ、見てるだけ、ってわけには行かないよな。炎上しながらもなんかこっち睨んでるし、あいつら。

「行くぞ、各個撃破しろ! だが決して無理はするな! 複数人で1体を取り囲むようにして戦うんだ!」

 隊長が再び指示を飛ばし、自らも剣を掲げて走り出す。俺もやってやる!

「お、おい!? 魔法使いが前に出て何ができると言うんだ!」

 一歩踏み出して剣を抜こうとした俺を、騎士のひとりが止めようとする。

「大丈夫、俺は魔法使いであると同時に剣士でもあるんだ」

 しかし俺はそれに構わず剣を抜き、魔法剣のスキルで風魔法を纏わせ、切れ味を引き上げてから走り出す。

「グゥオオオオ!!」

 するとすぐに、騎士団と交戦していたうちの1体が騎士たちを振り払って俺のほうへ咆哮とともに迫ってきた。へえ、理性なんてなさそうな目をしているくせに、自分たちを燃やした魔法の使い手のことはわかるんだな。

 などと感心している場合じゃないな。風の魔法で、刀身の周囲にうっすらと緑色の輝きを纏ったショートソードを構え、オーガの攻撃を待ち構えた。

 間合いに入るや否や、オーガは棍棒を振り上げ、俺の頭めがけて叩きつけてきた。だが、そんな直線的で、かつさほど速くも無い打撃なんて、見切るのは楽勝だ。

 必要最小限の動きでオーガの棍棒を回避すると、当然凄まじい力で叩きつけられた棍棒は地面にめり込むことになる。それを奴が引っ張り出し、再び構えを取るまでの短い時間だけが俺に許された攻撃の機会。完全に棍棒に意識が行っていて無防備なオーガの首めがけて、ショートソードを強く振り下ろす。――手ごたえ、アリ。

 俺の剣は先ほどの隊長さんと同様、オーガの首を一撃で斬り落とすことに成功し、オーガはその生命活動を停止した。

 しかし、俺の剣はオーガの硬い皮膚に耐え切れなかったのか、刀身にヒビが入り、粉々に砕けてしまった。まあ、神さまからのもらい物の初期装備だし、仕方ないか。

「グゥオオオオ!!」

 だが、まだ戦闘は終わっていない。騎士団がまだ3体と戦っている。げっ、また1体こっちにきやがった!?

 くそ、剣もないし、退却か? いや、今ここで俺が下がれば、その後を追いかけてくるくらいはしてきそうだ。あの、恨みに満ちた視線がそれを雄弁に語っている。

 だあっ、マジックナックルで魔法を交えたインファイト、やるしかないか!

お読みいただき、ありがとうございます。

次回:1-09 ゴブリン討伐戦(その3)~怪物撃破~

11/5 03:00 予約投稿をセットしておきます。9時間ごとの更新で深夜帯になりますので、朝起きられてからまた読んでいただけたら幸いです。

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