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学術都市 セレノア

「早く早くリュードさん!」

「・・・下り坂になった途端に元気になったな」

「へへ・・・」

「いや、褒めてないからな?」


長かったソロン山も遂に下り坂、いや、もう麓の門が見えている。

門をくぐればレルトラ大聖堂はもう直ぐのはず、セシルが急に元気になったのは下り坂になったからだけではないのだ。


「大分暗くなりましたね・・・」

「まあな。だがこれくらいなら宿はまだ空いているだろう。神父に会うのは明日でも構わないな?」

「・・・いや、出来るなら今日が良いですけど厳しいんですよね、じゃあしょうがないです」

「随分物分かり良くなったな」

「私は最初から物分かり良いですよ?」


リュードは少し呆れたように大きなため息をついたが、セシルの頭上には「?」が浮かんでいるようなキョトンとした表情を見せていた。多少のサバイバルをこなしたといっても少女の本質はやはり変わらないものである。


「・・・あれ?門が・・・」

「あん?」

「閉まっているんですよ。ほら!」


セシルが指差す先には大きな門、その奥には巨大な十字架を建てた建築物がいくつも見える。

非常に頑丈な鋼の門で隠れているが、中にはセシルが育って見てきた建物とは比べ物にならないほどの街並みが広がっていることは想像に難くない。


しかし、その門は誰一人通す意思のない無慈悲な存在感を放っていた。


「止まれ!」


強靭な肉体と頑丈な鎧、更には物騒な槍を持った衛兵らしき人物が二人、口をそろえて言う。

交差されたその槍はこの道を進むことを到底許してくれそうにない。


「えっと・・・通していただきたいんですけど・・・」

「ならぬ」

「わ、私はセレスト・カムの信者でして是非このレルトラ大聖堂に・・・」

「ならぬ」


余りに頑固なその兵士の言動と態度にリュードは苛立ちを隠さずに問いかける。


「女一人に対して随分と横暴なんじゃないのか?話くらい聞いてやっても罰は当たんないと思うが?」

「何人たりともここを通すことは許さぬ」

「なに?」

「この門は毎週虎の日と蛇の日にのみ開くことが許されいる門。更には日没と同時にこの門を閉めることを我々は義務付けられておる。貴様らは運が悪かったのだ」

「日没って・・・」


確かに日は暮れた、とはいえまだ六時にもなっていないくらいの時間である。

更に今日は虎の日であり、そこから蛇の日まで門が開かないということは・・・


「四日後にまた来いってか?」

「そうなるな」

「随分と良い給料もらってんだろうな、そこまで真面目にお仕事やってればな」

「何とでも言うがよい、しかしここは通せぬ」

「・・・分かったよ、あんたと話しても時間の無駄だってことがな」

「賢明な判断であるな」


くそ、と悪態をつきながら振り向いたリュードにセシルは問いかける。


「・・・リュードさん」

「仕方がないな、行くぞ」

「い、行くぞってことは・・・」


「また野宿ですか?」

「・・・まあ、そうなるな」

「嫌ですよ!ベッドで寝たいです!たまには」

「昨日ベッドで寝ただろ、ソローネで」

「え、あ、まあそうですけど・・・えっと、疲れたんですよ!」

「えっと?」

「だ、だって山ですよ!疲れないんですか?」

「いや、疲れたが・・・仕方ないだろ、野宿でも」

「うう・・・」


それに、とリュードは肩越しに衛兵を指差す


「文句はあのおっさんに言うべきじゃないのか?」

「なに?」

「少しくらい特例を認めなくちゃ出世は見込めないぜ?」

「貴様・・・」


衛兵はやれやれという表情で語りだした


「この聖堂の近くにセレノアという学術都市がある。セルフェス大陸のその近隣の島国全ての情報が集まる場所と言われている・・・な」

「セレノア!本で見たことがあります!」

「そこなら宿屋もあるだろう。方角は東だ」

「ありがとうございました!衛兵さん!」


セシルは満面の笑みを衛兵に見せる。衛兵は恥ずかしそうに少し顔を背けたもであった


「・・・行く場所は決まったな」



少し歩くと確かに先程のレルトラ程ではないが大きな建物が見えてきた。

恐らくあれがセレノアなのだろうと二人は足早に駆け込む。


「大きいですねーあれ何なんでしょう?」

「さあな、気になるならその辺の奴に聞いてみればいいんじゃないか?」

「あ、それもそうですね。すいませーん」


通りすがりの人物を見つけたセシルは駆け寄って話を聞いている。

ついこの間まで村から出たことが無いというのが嘘のような行動力と会話力である。


(・・・いや、無害だと思われているだけだろうな)


不思議と納得のいったリュードの顔を戻ってきたセシルが訝しげに見つめている。


「何かありましたか?」

「いや、特には。お前の方こそ収穫は?」

「えっとですね、どうやらあの大きな建物は図書館みたいですね」

「図書館?流石学術都市とやらか・・・あの中に本がずらっと並んでいるのか・・・気が滅入るな」

「で、えっと・・・あっちも図書館らしくて・・・」


セシルが指差す方向にも確かに施設が見受けられる。幾分か小さいとはいえ十分な施設だ。


「ん?図書館が二つもあるのか?」

「いや、あともう一個あるみたいですよ」

「なんでそんなにあるんだ・・・一つだけでもかなり大きいぞ?少なくともソローネのどんな店よりも」

「うーん、私も良くは分かってないんですけども、どうやらこの都市では個人が閲覧できる情報っていうのが決まっているみたいなんです」

「情報が?」

「ええ、どうやらこの都市やセルフェス大陸にどれだけ貢献しているかで三つのランクに分けられるみたいです」

「貢献・・・?どうやれば貢献になるんだ」

「例えば本を出版したり、世紀の大発見をしてそれを国に譲渡したり・・・新たな理論を発表したり、方法は色々あるみたいですね。でも本当に相応の活躍をしなければならないみたいです。事実この都市にいる人間の80%は一番下のランク・・・民間ランクの資料の閲覧しか許されてないみたいですよ」

「へえ、随分と面倒くさいんだな・・・それがセシルが最後に言っていた施設なのか?」

「みたいす。で、約19%の人が上流ランク・・・つまり二つ目のランクらしいです。これが私が二番目に指差した施設を利用できる人たちみたいですね。」

「なるほどな・・・ところでセシル」

「はい?」

「とりあえず宿をとるか?」

「珍しいですね、リュードさんがそんなことを言うなんて・・・やっぱりソロン山で疲れたんですか?」

「勿論、それもあるんだが・・・」


リュードは辺りを見回す。

分厚い本を片手に小難しいことを口にしている若き学者たちがあちらにもこちらにもいるのだ


「・・・俺にはこの空間の方が苦痛だ」

「?」



「ふいー久々のベッド気持ちいい・・・」

「もう一度言うが昨日もベッドだぞ」

「分かってますよー、でもやっぱりベッドが良いんですー」

「・・・ったく」

「でもここで三日間も過ごすんですね」

「・・・三日もか、俺は宿から出ないことにする」

「え?何でですか?」

「昔から本というものが性にあわなくてな。文字ばかりで頭が痛くなるし、気付いたら本自体が苦手なんだ」

「・・・リュードさん分かってないなあ、本ってのは知識の泉なんですよ?読むことによって文字を覚えるし見聞を広められるんですよ?」

「・・・」

「じゃあリュードさんにお勧めの本を貸してあげますよ?」

「いや、お前本なんて一冊しか持ってないだろ」

「聖書なんですけど・・・」

「聞けよ」


呆れるリュードと、折角ですしと勧めるセシルの部屋にノックの音が響く


「失礼いたしますじゃ」

「あ、宿のおばあさん」

「お茶を持ってきたのでどうかと思いましてな」」

「あ、そ、そんなお構いなく」

「どうも」


お茶を受け取り飲むリュードとセシル。少し熱かったのかセシルはふーふーと冷ましている。


「しかし旅の方なんて珍しい・・・この街には本しかありませんのに」

「退屈だな」

「リュードさん!なんて失礼な・・・」

「いいんですよ、お嬢さん。確かですから・・・本を読むのが好きならいざ知らず、ただ宿を求めて来ただけなら本当に見るべきところなんて無いのですから」

「わ、私は本好きですよ!」

「ほうほう、その年で書物が好きとは・・・珍しい子じゃ」

「えへへ・・・」

「実はこの街にはあんたと同じくらいの年の天才がおってな。数少ない国家ランクの資料閲覧可能の女の子がいるんじゃよ」

「え、凄い・・・私と同じくらいなのにそんなに貢献しているんですか?」


しかし老婆は首を横に振る。


「この都市では三年に一度知識を披露する舞台があってな。そこで一定以上の知識を見せつければ貢献などしなくても国家ランクの資料閲覧が可能になるんじゃ。」

「え、てことは実力で知識を勝ち取った・・・ってことですよね!」

「面白い言い方じゃな、しかしその通りじゃよ。まあ同じ国家ランクや他のランクの人間が快く思っておらんようで大分風当たりが強いみたいじゃがの」

「そんなの嫉妬みたいなものだと思いますけどねえ・・・」

「ほっほっほ、面白い子じゃな、お兄さんの恋人は」


セシルは一瞬思考が停止し、リュードはため息をつく。


「少なくとも恋人はないな、良くて妹みたいなものだ」

「なんかその言い方は言い方で複雑です・・・」


ムッとするセシルを見て老婆はさらにほっほっほ、と笑う。


「まあ、こんなところじゃがゆっくりしていくと良い。民間ランクの資料なら旅の方でも閲覧できるしの」

「え?そうなんですか?」

「世に出回っているような本ばかりじゃがな、それでも良いのか?」

「全然かまわないです!あ、リュードさん少し行ってきてもいいですか?」


少女はワクワクが止まらない様子だ。村から出たばかりのセシルに流通頻度の高い資料でも十分な資料になるだろう。


「・・・あまり遅くなるなよ」

「はい!」


少女は満面の笑みで言った。



「えーっと・・・宗教の項目だから・・・地下にあるんだ」

いずかに

セシルは民間ランクの図書施設に来ており、余りにも膨大な量の本と非常に細かい項目分けに非常に苦戦していた。セレスト・カム関係の資料が読みたいのだが、その本がどこにあるのか探すだけで一苦労だったのだ。


「おお、でも苦労しただけあってイッパイ本がある・・・」


知識欲の塊であるセシルは嬉しさのあまり叫びそうになるのを堪えた。きっと自分ひとりだけなら小躍りしていたが、周りの集中している人たちの邪魔なんて出来ようはずもない。セシルも周りに倣い、静かに本を取り読み進めた。


(基本的なセレスト・カムの成り立ちとそこから少し突っ込んだ考察の本が多いけど・・・少し解釈に無理があるのが多いな・・・それに後々のセロの行動、思想と矛盾してくるし・・・)


神父からもらった聖書をボロボロになるまで読んでいるセシルにとって、そんじょそこらの名もない小説家や評論家の書いた文書は物足りないものであった。

背伸びをして、ふと周りを見回した時セシルはその看板を見つけた。


『ここからは国家施設。国家ランクに達していない者。立ち入り禁止』


(国家ランクの施設・・・そっか、地下では通路がつながってるんだ・・・確かに国家ランクの人が少し他のランクの施設の本が読みたくなった時に不便だもんな・・・)


辺りを見渡すと特に取り締まりを行いそうな者は見当たらなく、周りの人々は今読んでいる本に集中している。少しくらいなら、国家施設に行ってもバレないのではないか?

きっとランクが違うのなら更に精度の高い資料もあるはずだ。

彼女も好奇心は良い方向に向かうときもあれば少々危険な方向へ向かうときもある。


セシルは通路に向かって忍び足で近付いていく。

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