おかしいお茶会
枯れたツタがまとわりついた門を押し開けた。広場より少し狭い空間の中央にはここの大部分を占める長机が置いてある。机の上には紫色の飲物や多種多様なお菓子が並べられていた。ここがAの待つ庭だろうか。
そう思い1歩踏み込む。その瞬間、左右からクラッカーの鋭い音が耳に突き刺さった。
「ハッピーハロウィーン!」
全く現状が飲み込めず、問い詰めようとするが時すでに遅し。クラッカーを鳴らしたゴースト達は机の方へ飛んで行き、ワイングラス同士を当てて小さい音を出した。それが合図だったかの様に様々な所から人影が現れる。
その中の誰1人として人ではないのだが。
奥から料理を運んでくるV、紅茶入りのポットを高々と掲げているのはジャック・オ・ランタンのKだ。庭掃除を任されたらしいコウモリのRはせっせと働いている。他にもたくさん出てきて総勢20人ほど。入り口で突っ立っていた俺を無口なフランケンシュタインのNが席に連れていってくれた。隣の席ではジャック・オ・ランタンの中で最も大きいCが3人分の席を使って寝ている。
「やあ、ルソー。待ちくたびれたよ」
席に座って数分。ネクタイを首に巻いたAがようやく登場した。ネクタイの柄はジンジャーマンクッキーで、コミカルな絵柄とは裏腹に背景が赤黒いという良くいえばハロウィンらしいネクタイだ。悪くいえば気持ち悪い。
「おいA。ここは一体―」
「その話はあとでね」
そう言ってほほ笑むと、ワイングラスを手にしてKに紅茶を注がせた。周囲の奴ら全員がKに紅茶を注いでもらっており、俺にも配られた。
「それじゃ、乾杯!」
机の上にはかぼちゃパイやビスケットなど様々な種類のお菓子が並ぶ中、なぜかジンジャーマンクッキーが半分を占めている。ほとんどの参加者はジンジャーマンクッキーを口に運んでおり、ほかのお菓子の減りは悪かった。
「おい、A。一体ここは何処なんだよ。死んだと思ったぞ」
ジンジャーマンクッキーを頬張るAを呼び寄せ、聞きたかった事を浴びせる。
「ルソーは1回ここに来たよね? 5歳くらいの時。僕等の生まれ故郷に来たいって」
先ほどのカボチャといいAといい、当然そうに言うが全く覚えていない。だがここまで言われると俺が忘れているだけの様な気がしてくる。5歳というとコイツらと初めて会った歳だ。そう考えると何があってもおかしくない。
「Nも覚えているか―ってあれ?」
背後に立っていたNがいない。他の所に行ったのだろうか。無口なやつなので行っても行かなくても分からないのだが。
「Vが作ったチョコクッキー好きだったね。何枚も食べてたよ」
くすくすと笑って紅茶を飲み干すと、当然のように自分で注ぎはじめた。Kに注いでもらうのは始めだけなのだろうか。変わった形式もあるものだ。
だが、紅茶などは入れ方が重要とか。ならばKに注いでもらおうと周囲を探すが、姿が見当たらない。なら仕方ないかと自分で注ぎ、よく食べていたというチョコクッキーを手にとってみる。
重みがあり、1枚に大量のチョコレートが使われている事が分かる。1口齧ってみると、チョコのほろ苦さとアーモンドの香ばしさが見事に組み合わさっていて美味しい。こんなに美味しいならVももっと作ってくれればいいのに。
何枚か食べた後に再びAの方を向く。
しかし、紅茶を飲んでいるはずのAはそこにいなかった。
「あれ?」
先ほどまで持っていた紅茶入りのワイングラスは残されている。かといって料理を取りに行ったわけでは無いらしい。
話を途中で放って何処かへ行くなんて勝手なやつだ。こっちは状況が分かってすらいないのに。しかし、今までAは何も言わずに去っていく事はしなかった。大体は俺から離れていたのだが、こちらが付き合う間は5分でも10分も話し続けていた奴がたかが2分で飽きるものだろうか?
「それに話し方もおかしかったよな…」
いつもはもっと子供っぽい話し方だったような。
椅子から立ち上がり周囲を見回すと、Aが庭から出ていこうとしている所を発見した。ふらふらと左右に揺れながら移動する様はまるで酔っているみたい。パーティには酒類など無かったはずだが。
「……追いかけるか」
思えばNとKも消えている。2人もああやって去っていたとすると何かあったに違いない。別に心配なわけでは無いけど、と思いつつ紅茶を一気飲みして立ち上がる。Aが去っていったのは南の方、傾いた城がある方角だ。
庭から走り去る時に机の方を見たが、やはりジンジャーマンクッキーばかりが減っていた。あんなにチョコクッキー美味しいのに。




