いざAの元へ
死後の世界として有名な所は地獄だ。そこでは生きていたら10回以上死んでいるような行為を何度もされても死なないとか。幽霊のようなものなのだろう。
そんな考えはさておき、死んだとすれば俺はここで何が起きても死なない。ならば多少の無茶も平気だろう。
「じゃあ手始めにこのカボチャから」
目の前に置いてあるカボチャはなかなかの大きさだ。普通のカボチャをバレーボールと例えるならこれはサッカーボールくらい。叩いてみると良い音がして、中身がつまっている事が伺える。
そういえばカボチャ割りのカボチャも中身がつまっていた。口のような半月型の跡が付いている所もそっくりだ。その跡をそっと指でなぞると、突然開いて手が喰われた。
「え」
突然の事で全く反応できなかった。リアクション芸人なら残念すぎる結果だよな、と半ば現実逃避の混ざった考えを巡らせたままカボチャを見つめる。すると口の右上と左上、つまり目の位置が開き始めた。目を完全に見開いた次の瞬間、
「悪い子はいねがー!」
と叫び始めた。口が開いたので手を抜くが、全く気付いた様子はない。
「人の安眠を邪魔する悪い子はいねがー!」
「寝てたのかよ……」
喰われた手を服で拭っていると、カボチャの目が俺を捉えた―気がした。眼球が無いため、いまいち何処を見ているのか分からない。
「なんだ、誰かと思えばまたルソーか」
何を言っているんだこのバカボチャは。確かに俺はルソーだが会った記憶は無い。それをまるで会ったことがあるかのように自然に言った。しかも物凄く呆れられた感じがある。なんてカボチャなんだコイツ。またってどういう事だ。
「……違います」
「まあ、仕方ないか。昔だもんな」
カマをかけても隙なし、という事は俺が忘れているだけか。しかしこの大きさは自分で移動できなさそうだし、ツルがついているから動いた事は無いはずだ。
すると、俺は1度ここに来たことになる。
そしてコイツの安眠を邪魔して知り合った、という事だろうか。
……確かにそれは呆れられるだろう。2回も同じことをして怒られているのだから。
それにしても、こんな印象に残る出会いをして簡単に忘れるものだろうか。来たことがあるならこの広場だって少しは見覚えがあってもいいはず。それに来たことがあるということは、俺はここに来て元の世界に戻れている事にもなってしまう。
「死後の世界から……、まさか転生……?」
「何言ってんだルソー。それよりお前の事Aが探してたぞ」
「Aが?」
そうだ、ここに来る前に話していたのはAだった。ならAに全てを聞くのが早い。知り合いが町にいるなら、知らないなんて事も無いだろうし。
俺は知らなったけれど。
「Aは何処に?」
そう聞くと、右側から何かが土を掘っているような音が聞こえた。そちらに目を向けると、今まさに這い出てきたゾンビがなにやら看板を手に持っている。
『Aは城前の庭に向かったアル』
中国から来たゾンビなのか。そもそもアルなんて使わないだろう、と問い詰めてやりたいが時間が惜しい。それにわざわざ作ったキャラを壊す必要も無い。
「Aは庭にむかったぞ」
「今読んだから知ってるよ」
カボチャはすこししなびてみせると穴を全て閉じてしまった。拗ねたか、安眠か。どちらにしろ話しかけなくてもいいだろう。
『庭は城に向かって道なりアル』
「ありがとな」
爽やかに礼を言ったが、内心では語尾のアル付けに大笑いしている。本人の前で笑う事を避けるため、傾いた城への道を全速力で駆ける。庭に着く前に息が切れて歩く事になったが、結局笑わなかったのでよしとしよう。




