ようこそ、異世界へ
皆さん、部活は一体何に入っているだろうか。運動部か、または帰宅部か。さらに活動は週にどれくらいか。俺の所属する部活の活動は大きく言えば1つだ。
高等学校から家までのおよそ20分の道のりを走る鉄の塊や春先に大量出現する変態や暴走する自転車やAの友達やらに細心の注意を払いながら点灯する明かりが青の時を狙って走り抜ける(歩いても可)こと。
つまり「帰宅部」だ。
活動は学校さえあれば必ずあるが、部員が集まるということは一切ない。よって、
「お茶会は5時からだよ」
という普通の部活では大抵帰宅不可能な時間にお茶会に向かうことだって出来る。全く喜ばしくないが。
「さあ、行こう!」
久々に一緒に久々に帰るからかAはどこか嬉しそうだ。そういえば小学生の頃はAはいつも笑っていた。あの頃は骸骨のVも、ジャック・オ・ランタンのKもよく一緒にいた記憶がある。
春には桜―ではなくコウモリがピンクのペンキを体中につけて飛び回った。夏にはスイカ―ではなくカボチャ割りを行い、秋には月を狼男と眺めた。冬にはAとVと雪合戦をしたような気がする。
あの試合はどうなったか。確か結果はAとVの圧勝だった。しかしこれは仕方がない敗北だと思う。Aはすり抜けるから当たったか分からないし、Vは骨なのでそもそも当たる場所が少ない。
しかし結果はどうあれ、あの頃は楽しかった。今も特別つまらないというわけでは無いがあの頃と比べて笑っていない気もする。かといってこいつらが巻き起こす面倒にかかわるのはごめんだし、五月蠅いし。大抵の現象には慣れてしまって好奇心の欠片もうまれないからつまらないだけだし……。
「それにこいつらが関わると俺にとって怪奇現象じゃなくなるから嫌なんだよな」
あの角から今までなら魔女が箒に乗って突っ込んできていたが、例えば今まであったことが無い物―そう、口裂け女が来たらさぞ面白いだろう。彼女の過去、言動、対処方法。考えただけでワクワクしてくる。魔女だと在り来たりなのだ。もっと日常から離れた事が起きないものか。
「ルソー、危ない!」
「へ?」
Aの声で口裂け女についての想像が途切れた瞬間、俺の体をAがすり抜けた。目の前から白い布が消え去った次に見えたのは、暴走する自転車。
運転手も既にパニック状態で当てにはできそうもない。ならば自分で避けるしかないのだが、俺はAのせいで反応が1歩遅れてバランスを崩しているし、自転車もブレーキこそかけているが、相当スピードを出していたらしく止まらない。このままでは激突するだろう。
祈ったところで何も変わらない。
今を変えるのは―戦う覚悟だ!
「自転車を殴れっていうのか!」
我ながら自分の案には呆れる。ぶつかったら吹き飛んでしまいそうな自転車を殴ったら骨折するだろうに。骨が折れなかったとしても止まる事は無いだろう。
目をつぶって衝撃に耐えようとしたが、その重要な衝撃がこない。10秒ほど待ってみたがやはりこない。奇跡的にブレーキでもかかったのかと恐る恐る目を開けてみると、立派なカボチャが目についた。
「カボチャなんてあったっけ……」
冷や汗が背中を伝う。慌てて周囲を見回すが、1つとしてあの曲がり角にあった物は見つけられなかった。
右には墓。左には放棄されたらしい巨大な釜。正面には立派なカボチャが幾つも転がっている。広さ的には広場といったところか。背後を振り返ると、遠くの方に少し平衡感覚が狂いそうなレベルで傾いている城を見る事が出来た。
「俺……、死んだかな」
ポツリと呟いたその言葉は真っ黒な空に吸い込まれていった。自分で発光しているんじゃないかと疑いたくなるほど明るい月が俺を見続けているような気がした。




