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欠損

作者: 松本仙之助
掲載日:2013/09/30

 今日も理想の女性とは出会えなかった。この仕事ならいつか出会えると信じて医者になって5年。もうあきらめて自分から行動するしかないのだろうか・・・・・。

 

 その時緊急呼び出しが掛かった。

 高速道路で玉突き事故が起きらしい。私の勤務する病院にも多くの負傷者が運びこまれて来たが。女性はいなかった。


 玉突き事故の翌日は夜勤だった。

 その日は急患は珍しく患者は運ばれてこず。退屈な夜を過ごしていた。

 私はメスを眺めながらもの思いにふけっていた。この手で傷をつくるしかないのか・・・・と。午前3時を回ろうかというとき急患の知らせが入った。そして、私の運命の女性が運ばれてきた。


 その女性は生きているのが奇跡に思われた。傷ついた凄惨な体は事故のすさまじさを物語っている。医者ですら眼を背けたくなるような悲惨な姿だった。

 そんな悲惨な姿に私は見惚れていた。手術を始めるのも忘れていた。看護師に声を掛けられ私はハっとする。

 目の前にいるのは患者だ。今から手術しなくてはならない。

 しかし、彼女を見つめていると手元がくるいそうになる。それくらい彼女は魅力的で、美しい。

 けれども彼女は傷ついている、傷ついている。醜く焼け爛れている。

 大きな事故に巻き込まれた彼女の体は一般的には醜く歪んでいた。だが、僕にはとても美しく、愛おしく写った。

 彼女を助けなければ。僕は初めて心から人を助けないといけないと思った。


 手術は成功し、彼女は一命を取り止めた。しかし、体中に傷が残り。元の面影はない。

 しかし・・・・僕はそれでいいと思った。


 僕は彼女が歩けるまで回復するのを待ってお茶に誘った。

 足にも怪我をしたので彼女は上手く歩けない。歩くときは手をつなぎ、彼女の歩調に合わせゆっくりと歩いた。事故の後遺症で彼女の右目は極端に視力が低下していたから、彼女の眼にもなった。


 食事の時も彼女を助けた。彼女の左腕は手首から先が切断されていた。片手で食事をすることになれていない彼女をフォローするために僕は隣に座った。

 切り分けて食べやすくし、ときどき口まで運んで食べさせてあげた。

 

 いつでも僕は彼女の助けとなった。

 僕はこの女性と出会うために医者になった。彼女のような凄惨な姿の人間が運び込まれてくるのをずっと待っていた。

 もう、十分に傷ついている。彼女は誰かの助けがなければ生きていくのは難しい・・・・その誰かに彼女は僕をきっと選ぶだろう。そうでなくてはならないせっかく僕の理想の体を持つ女性なのだから。

 彼女の肉体は十分に傷ついている。僕が満足するくらいに。これならもう新しい傷は必要ないと思えるくらいに。

 これなら愛していけると思う。

僕は理想の女性を探し当てた。

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