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シスコン結界

作者: OTAM

「いつか……いつかこんな日が来るとは思っていた」

「なら話は早い。 さっさと認めるんだ、俺こそ彼女にふさわしいと……」

 無人の、そして無限の荒野に二つの影が立っていた。

 照りつける灼熱に怯むことなく、揺らめく陽炎に眩むことなく、影は一定の距離を保ったまま真っ直ぐに対峙していた。

 影の正体は男。 どちらも成人してはいるものの、まだまだ学生と言った風な若者だ。

 ひとりは向かい合う男を憎々しげに睨みつけ、もうひとりは涼しげな表情で眼光を受け止めている。

 しかし、両者の表情は彼らの力関係を示すものでは断じてない。 何故なら……

「これがお前のマジックの正体だったんだな……」

「ああ、そうだよ。 お前がタチの悪い上級生に絡まれた時も、中学時代に不良グループのリーダーの彼女に告白された後の厄介事も、全て後始末はこの空間でつけていたんだ」

「つまり、俺はこの荒野に何度も助けてもらったんだな」

 攻撃的な形相の男、彼には生来奇妙な力が備わっていた。 自らの意思で自分と敵対者を異空間ヘと送り込む。 その異空間こそがこの無限に広がる荒野の正体なのだ!

「だが、そのお前が今やその空間にいる」

「残念だよ。 認めてくれると思っていたんだがな……」

「認めて欲しけりゃ俺に勝つんだな。 言っておくが、俺はこの空間では無敵だぞ?」

「今時珍しい暴走族の集団30人と一緒に消えた時すら勝って帰ってきたくらいだからな、そりゃあそうなんだろう。 それで、この空間にいることでお前に何が起きるんだ? それとも引きずり込まれた側の能力が大幅に下がるのか?」

 涼しい表情を浮かべている男の言葉が示す通り、結界の主の普段の身体能力はせいぜい人並み程度でしかなく、球技などになると間違いなく人並み以下のものでしかない。

 実際、彼の身長は170にも届かず、手足も細い。 30人の暴走族はおろか、数人の上級生にも不良にも勝てるとは思えない。

 そんな彼が、今日に至るまで不敗を貫いてきたその秘密とは……

『頑張ってー!』『負けたら許さないんだからねっ!!』『大丈夫……お兄ちゃんなら』

「聞こえるだろ、この声援が」

「あ、ああ……これは一体?」

 二人を除いては無人のはずだった荒野にいつの間にか無数の人影が立っていた。

 人影は一人残らず少女の形をなし、皆が男に声援を送っている。 彼女らの中には全くと言っていいほど同じ容姿をしたものも多く、しかしそれでも多種多様な個性が荒野の果てまで節操なく氾濫している。

「これが俺の能力。 その名もアンリミテッド・イモウト・ワークス!」

「て、的確に気色の悪い能力だな、おい!!」

「でも、俺にはこれ以上なく相応しい力だ。 今もこうして実妹の彼氏を気取ろうとしている愚かな幼馴染を叩きのめそうとしてるんだからな……!」

 アンリミテッド・イモウト・ワークス。 どこかで聞いた名前であることはこの際完全に目を瞑っていただきたい。 その力は彼の重度のシスコンが生み出した異能。 無限に広がる荒野とでも形容すべき異空間に自らと相手を引きずり込み、さらには無限にも等しいおびただしい数の妹を召喚する。

 妹たちは実に多種多様で実妹義妹といったカテゴリはもとより年齢は0歳の新生児から果ては兆に届く天文学的数字、果ては時間という概念を超越したことで年齢という単位が意味をなさない、否もはや神とか概念とでも言うべき存在までもが顔を並べている。

 勿論、メイド、軍人、ナース、女教師、巫女、キャビンアテンダント、保育士といった定番の職業からそっち系の意味ではない女王様、小説家、時にはちょっと表記するだけでR-18になりそうな凄まじいものまで実に多彩。

 パーソナリティだってツンデレヤンデレと言った言語化の容易なものから、ごくごく普通の極めて現実的かつ一般的なものまで幅広く、更には同じ姿形でも制服がつまり通っている高校が違うといったバリエーションさえも存在する。

「なるほど、女の子といってもこれだけの数がいればどうにもならないな。 ってか、あの婆さんとか妹扱いでいいのかよ?」

「トメさんはボケた影響で心の年齢は7歳なんだよ! 立派に妹だろうが!!」

「お、おう……しかし、お前の本当の妹の姿はないんだな。 やっぱり彼女の形をしてると

戦わせられないか? でも、実妹でなければ男と殴り合わせることにためらいはないと」

「何を言っているんだ、お前は?」

 挑発のつもりで発した言葉はあっけなく空振り、男に首をかしげさせる。

 直後、結界の主であり、無限の妹たちの兄である男が猛然ともうひとりの男へ向かって駆け出す。 そして、迎え撃とうとした男の顔面に鮮やかな一撃をお見舞いした。

「確かにこの数で押しつぶせばどんなやつにだって楽勝だ。 その気になれば自衛隊どころか米軍だってロボット系妹の全軍突撃からの自爆で一蹴出来るだろうし、地球も太陽も飛び越えて宇宙の中心にあるブラックホールを無数の重力操作系能力を持った妹の手で消滅させることも可能だろう。 もしかしたら論理能力系妹の力で新世界を産み出すことだって難しくはない、かも知れない。 でもな、それでも俺はそんなことはしないんだよ。 どうしてかわかるか?」

 一撃をもらいながらも何とか持ちこたえた男に向かってさらなる一撃が放たれる! それでもなお崩れない男に向かって容赦ない拳の雨が叩き込まれる!!

「何故なら、俺がどうしようもないシスコンで! あの子達が妹で! 俺がお兄ちゃんだからだ!! 上級生5人も! 不良グループ13人も! 暴走族32人も! ヤクザの組員219人も! 全部、この拳と妹たちの声援だけで乗り切ってきたんだ! あいつらが見守ってくれていれば! 俺はいつだって無敵なんだよーっ!!」

 力強い宣言とともに放たれた強烈なアッパーが、男を天高く打ち上げた。

浮かんだ言葉は『アンリミテッド・イモウト・ワークス』

字面的にはアホそのもの

→しかし、実はどチート能力

→でも主人公はそれを活用しない

→が、それなりに役には立っている

というダメ起承転結

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