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宇宙鯨

作者: 堀乃す
掲載日:2026/06/16

 宇宙には鯨がいる。


 海の深く。

 光が届かないほどに深い場所。


 そこでは何も見えない。

 目を瞑ったときの陳腐な黒ではない。

 飲み込まれそうなほどに深みを感じる黒。

 先はあるのに、目の前すら見えない。

 見えているけど見えていない。


 宇宙はそんな黒色で埋め尽くされている。

 きっと神様は、そんな景色は味気がないから宇宙に宝石を散りばめた。

 キラキラと輝く宝石は黒い暗い宇宙を彩った。

 白い宝石。青い宝石。赤い宝石。

 濁った色なんてひとつもなくて、どれもが煌めいている。


 美しい。綺麗。


 言葉で形容することは出来ても「足りない」と思ってしまう。

「美しい」「綺麗」なんて一言ではもっと大切な部分が伝わらない。

 胸に込み上げるこの満足感は。

 澄んだ空気を肺いっぱいに吸いこんだときのような解放感は。

 実際に見なければ伝わらないし、伝えられない。

 形容しようと思うことが愚かな行為だと辿りつく。


 もっと近くで見たらどれだけ美しいのだろう。

 当然の思い。

 けれど、求めた美しさが手に入ることはないだろう。


 だってそれは宝石ではないのだから。

 それは星。

 自らが燃えることで輝く星。


 壮大で荘厳な炎の圧に見惚れるかもしれない。感動するかもしれない。

 けれどその感情は美しさから来るものではないだろう。


 星は離れて見るから美しい。

 その煌めきを観測しながら、想いを馳せるのだ。

 あの輝きは星が寿命を削って燃える、命の輝きだと。

 儚さを知って。さらに美しさに拍車がかかるのだ。


 だから分かる気がする。

 宇宙鯨が星を食べる気持ちを。


 綺麗なものは口に入れたくなる。

 人の子供だって綺麗なものを口に入れようとする。

 理由は単純で、綺麗だから。

 おいしそうだとか、どんな味だろうという好奇心ではない。

 綺麗だから食べた。

 繋がらないように見えて、実は繋がりがある行動と理由。


 そうか。仕方がない。

 星は綺麗だから。

 腑に落ちた。


 あぁ、でも。

 僕らの住む星を食べようとしないでおくれ。

 綺麗だと思ってくれたのだろう。

 それはこの星に住まう生物として嬉しく思うよ。


 けど、食べられてしまえば文明が終わる。

 世界が終わる。

 今回だけは、綺麗だから食べずに残そうと思ってはくれないか。


 ——宇宙鯨は今日も星を食べる。


 そうしてまた漂う。

 宇宙を気ままに。

 ゆっくりと。


 尾ひれを揺らしながら、ゆらゆらと。

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