宇宙鯨
宇宙には鯨がいる。
海の深く。
光が届かないほどに深い場所。
そこでは何も見えない。
目を瞑ったときの陳腐な黒ではない。
飲み込まれそうなほどに深みを感じる黒。
先はあるのに、目の前すら見えない。
見えているけど見えていない。
宇宙はそんな黒色で埋め尽くされている。
きっと神様は、そんな景色は味気がないから宇宙に宝石を散りばめた。
キラキラと輝く宝石は黒い暗い宇宙を彩った。
白い宝石。青い宝石。赤い宝石。
濁った色なんてひとつもなくて、どれもが煌めいている。
美しい。綺麗。
言葉で形容することは出来ても「足りない」と思ってしまう。
「美しい」「綺麗」なんて一言ではもっと大切な部分が伝わらない。
胸に込み上げるこの満足感は。
澄んだ空気を肺いっぱいに吸いこんだときのような解放感は。
実際に見なければ伝わらないし、伝えられない。
形容しようと思うことが愚かな行為だと辿りつく。
もっと近くで見たらどれだけ美しいのだろう。
当然の思い。
けれど、求めた美しさが手に入ることはないだろう。
だってそれは宝石ではないのだから。
それは星。
自らが燃えることで輝く星。
壮大で荘厳な炎の圧に見惚れるかもしれない。感動するかもしれない。
けれどその感情は美しさから来るものではないだろう。
星は離れて見るから美しい。
その煌めきを観測しながら、想いを馳せるのだ。
あの輝きは星が寿命を削って燃える、命の輝きだと。
儚さを知って。さらに美しさに拍車がかかるのだ。
だから分かる気がする。
宇宙鯨が星を食べる気持ちを。
綺麗なものは口に入れたくなる。
人の子供だって綺麗なものを口に入れようとする。
理由は単純で、綺麗だから。
おいしそうだとか、どんな味だろうという好奇心ではない。
綺麗だから食べた。
繋がらないように見えて、実は繋がりがある行動と理由。
そうか。仕方がない。
星は綺麗だから。
腑に落ちた。
あぁ、でも。
僕らの住む星を食べようとしないでおくれ。
綺麗だと思ってくれたのだろう。
それはこの星に住まう生物として嬉しく思うよ。
けど、食べられてしまえば文明が終わる。
世界が終わる。
今回だけは、綺麗だから食べずに残そうと思ってはくれないか。
——宇宙鯨は今日も星を食べる。
そうしてまた漂う。
宇宙を気ままに。
ゆっくりと。
尾ひれを揺らしながら、ゆらゆらと。




