地球は敵だ!
「地球は──敵だ!」
隊長の怒声が作戦室に響き渡った。整列した兵士たちは一様に背筋を伸ばす。
「地球を“守る”? なんと傲慢な発想だ。奴は我々の隙あらば、灼熱、洪水、嵐と、あらゆる手段で滅ぼしにかかる! 生き残るために! 我々は戦わねばならん!」
「敵は地球そのものだ! 動物、鳥、魚、森、海──あらゆる“自然”が、我々を襲う機会をうかがっている!」
「利用できるものは利用しろ。生き残ることが、我ら“人間軍”の最優先事項だ!」
一人の兵士が進み出る。
「隊長! では森を切り開き、伐採した木材で兵舎を建てましょう!」
──ドン!
隊長の鉄拳が炸裂し、兵士は吹き飛んだ。
「愚か者! 無計画に森を破壊すれば、地球が“酸素低下+温暖化”の気象兵器で反撃してくるのは明白だ!」
「森林は“生かさず殺さず”。バランスを保て! 敵の手の内を読むのだ!」
「以前、我々が工場を乱立させ、汚水を海に流す攻撃を実行した結果──海産資源が激減し、捕虜(魚)が取れなくなった。結果、経済に深刻なダメージを受けた!無計画な攻撃は逆に利敵行為になりうる!」
別の兵士が手を挙げる。
「捕虜の魚ですが、抵抗するので軽く痛めつけ──」
再び拳がうなる。
「捕虜は資源だ。粗末に扱えば未来の糧を失う! 懲罰房行きだ!」
ざわめく兵士たちの中、別の声が上がる。
「最近、戦わずして“動物資源に頼らない”戦術を取る集団がいるようですが……」
「──ああ、菜食主義部隊か。彼らは異なる戦略で戦っている。志を同じくする人間軍の同志だ。押しつけ合わず、戦術の多様性を尊重せよ」
隊長は腕を組み、厳かに宣言する。
「午後の“ゴミ拾い作戦”を決行する。これは我々の領土である地表から“有害物質”を撤去する地味だが有効な戦術だ」
「そして明日、我々は大規模な“砂漠緑地化作戦”を決行する! しっかりと休息を取れ。以上、解散!」
作戦室を出た隊長を、若い兵士が追いかけて呼び止める。
「隊長……この戦い、終わりはあるのでしょうか? 我々は勝てるのですか?」
隊長は背を向けたまま、重く静かに答えた。
「……この戦いに終わりはない。なぜなら“敵”は常に変化し、“我々”も変わり続けるからだ」
「だが、一つだけ確かなことがある。我々が戦い続けなければ──“地球”が我々を滅ぼすだろう」