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8話  聖慈愛病院

マレビトは不死であるが、不滅ではない。男しかいない。女はいない。この世界ではそれは常識である。


登場人物初期設定


鏡子  唯一のマレビトの女、死ぬと記憶を無くす


コトブキ 刑事、自称500歳のマレビト


ハタノ  全身刺青の破滅型のマレビト


カガミ  千年の寿命を迎え、ヒトとなった美青年


カスミゴロウ  鏡子が昭和の初めに生んだ子ども


モリオ  子供の頃に鏡子助けられた。


軍団カラス  カスミゴロウが組織する私設武装集


        老人カスミゴロウ

 

現在、この国のいたるところに、聖慈愛病院という総合病院がある。この病院はカスミゴロウが、戦後の国家機関の一部を乗っ取り、一代で作り上げた。

日本中にある「聖慈愛」と冠が付く病院は、この魔人のような老人の支配下にある。

厚生労働省のトップでさえ、カスミに意見を言うには命がけになる。

本当に殺すからだ。


老いたカスミゴロウは物々しい造りの総長室の椅子に深々と座っている。

目の前には青年カガミが立っている。


「面白いものを捕まえたって?」

「ああ、マレビトだ。我々と同じ様に鏡子を探していた。カラス達が捕まえた」

「あの麻酔銃まだ持たせてるのかい?戦前のものだろう、現代でヒトに打つには危なすぎる」

「ヒトにはな」


目の前のカガミは、突然カスミの前に現れた。

二十歳はたちそこそこの若者の口から、戦前の登戸研究所や折口の話しを聞かされても、カスミには信じ難かったが、カガミが鏡子の名前を口にした時、目の前に蜘蛛の糸を垂らされた様な希望を得た。


この悪魔の様な男が、カガミとの邂逅に神に感謝すらした。

「カガミよ、私は母親の鏡子の行方とマレビトの正体に命を懸けている」

「はは、そりゃそうだ」


カガミの軽口を聞き流す程、カスミは焦っていた。


「不死者から生まれた私は不死者なのか?」


焦燥するカスミにカガミは言う。


「死ねば分かる。生き返ればマレビト、そうじゃないなら、そうじゃなかっといういことだ」


「出来るか、そんなこと」とは言わず、老人は地鳴りの様な歯軋りをした。


カスミが恐れているものは死そのものではない。

無垢の死を迎えず、老衰で死ぬマレビトは小刻みに死と生を繰り返し、永遠に臨終と蘇生を繰り返す。

地獄だ。


カスミは、「軍団カラス」という私設武装組織を持ち、国中に暗躍させている。

彼等は100人程の男女の集団で、カスミ自らの子供達を合法的に武装させた軍団だ。


その目的の多くは鏡子を探し出すことだ。

彼らの内の幾人かは、鏡子捜索の任務中に命を落とした。

つまり鏡子の子のカスミゴロウの子のカラス等は、死んでもマレビトにはならない、ということが分かった。

焦燥感はより募る。

今や、目的か、手段かもわからなくなるほどに、カスミは鏡子に執着していた。


そのカスミの私物ともいえる都内の聖慈愛病院の地下霊安室に、刑事コトブキはヘマをして、捕まり、椅子に縛られていた。

そして、そのコトブキの前に、カスミとカガミが立っている。



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