6話 世田谷区三茶
マレビトは不死であるが、不滅ではない。男しかいない。女はいない。この世界ではそれは常識である。
登場人物初期設定
鏡子 唯一のマレビトの女、死ぬと記憶を無くす
コトブキ 刑事、自称500歳のマレビト
ハタノ 全身刺青の破滅型のマレビト
カガミ 千年の寿命を迎え、ヒトとなった美青年
カスミゴロウ 鏡子が昭和の初めに生んだ子ども
モリオ 子供の頃に鏡子助けられた。
軍団カラス カスミゴロウが組織する私設武装集
モリオ
その後、鏡子は、どうせする事もないだろうと、ハタノ言われて「タタキをやろう、大金が手に入る」とに誘われた。
鏡子は良いと悪いとも言わなかったが、その日、ハタノの仲間と、強盗に入った。
強盗の相手は、新ドラックを都内でばら撒いて金持ちなった男で、東京西半分に勢力を持つアンダーワールドという反社会的地下組織のリーダーで、暴力団とは違い、リーダーの名前すら殆どのメンバーは知らない。唯、この男の事をモリオとだけ呼んでいる。
そのモリオは縄で縛られ、床に転がされている。若くてまだ20代前半に見える。
ハタノ達は勿論、全員顔を隠している。
モリオを見下ろし、ハタノは鏡子に男の素性を説明し出す。
「この男はアンダーワールドのリーダーだ。渋谷や新宿に蔓延しているキラキラというドラッグの元締めははこのモリオさ」
「何でそんな事を私に言うの?」
「安心させようと思ってよ、こんな金は盗られたところでこいつには泡銭だ、こいつも取り返すくらいなら稼ぐ方が早い」
モリオは現金で2億円ほど持っていた。
覆面をしているハタノ達は、金をバックに詰めていた。
ふと、鏡子がため息のような笑いをこぼす。
笑う鏡子にハタノが怪訝そうに声をかける
「どうした?」
「前にも、似たような事があったかなって」
「あんたほどの長生きなら、そういうデジャブも多いだろうね」
「結局、覚えてないから体中が刺青だらけさ」
鏡子は苦笑いをしながら、モリオを見る。
「悪いね、大人しくしててよ」
転がされているモリオが、みあげる様に鏡子に話掛ける。
「あんた、鏡子さん?」
モリオに声をかけて掛けられ、鏡子は怪訝そうに短く返事をする。
「あんた誰?」
その瞬間、鏡子が前のめりに崩れる。
鏡子は、気の抜けた笛の様な音をたて、口の端から血を溢している。
そのうつ伏せの鏡子の背中にナイフが刺さっている。
驚くモリオが鏡子の足下の人影をみる。
鏡子の足元にハタノが立っていた。
「知り合いだったのは誤算だったなあ」
ハタノは鏡子の背中からナイフ抜いて、モリオの足元を括っていた縄を切る。
目の前の出来事に理解がついて行けず声を失うモリオに、ハタノが話し掛ける。
「この家に火を付ける。お前の命までは取らない。犯人はその女のせいにすればいい、女の燃えカスは残るが、刺し傷は消える。金はまた稼げ」
「待ってくれ、金はくれてやる。火はつけるな」
「その女、生き返るぜ?」
ハタノは、意地の悪い含み笑いを覆面の下で露骨にしてみせる。
「知っている。女に用がある。俺はその女に育てられた」
うつ伏せの鏡子を見て、ハタノは何かに合点がいったように笑みを浮かべる。
「長生きするもんだな」
と言って、仲間を連れて、その場から消える。
数分後、血溜まりの中、鏡子は少しだけ起き上がる。
モリオはもう一度鏡子の名前を呼んだ。
「俺は、ガキの頃に、あんたに助けられた。」
鏡子はモリオの声を聞くと、自分の血溜まりの中で少し微笑んだ様にみえた。
「そう…ごめんね、覚えてないんだ」
そう言って鏡子は目を瞑った。