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2話   昭和20年8月29日 

マレビトは不死であるが、不滅ではない。男しかいない。女はいない。この世界ではそれは常識である。


登場人物初期設定


鏡子  唯一のマレビトの女、死ぬと記憶を無くす


コトブキ 刑事、自称500歳のマレビト


ハタノ  全身刺青隻腕の破滅型のマレビト


カガミ  千年の寿命を迎え、ヒトとなった美青年


カスミゴロウ  鏡子が昭和の初めに生んだ子ども


モリオ  子供の頃に鏡子助けられた。


軍団カラス  カスミゴロウが組織する私設武装集




         登戸研究所別棟


昭和6年に始められた「きのと計画」には、哲学者の折口信夫も参加していた。


「彼らは昔から不死のようだ。そのようなものが我が国にいる。それらをマレビトと呼ぶこととしよう」


彼の唱えにより、古よりのヒトならざるものの統一名称として、「マレビト」が、定着した。


識者はこぞって、この島国を出ぬマレビトの素性根幹を知りたがった。


マレビトは何故に我が国にのみに留まるのか?


一部の研究者や軍部のものは、この計画に湯水のように金を使った。満州国成立と共に、多くの日本ビトが大陸へと入植せんと意気込んでいる時世に逆らうような計画だった。

それでも、マレビトには、形而上、形而下、双方のアプローチを行い、正体を明らかにしようとしていた。


ある日、この施設に朝日に頬を光らせた美しい少年が現れた。

少年はカガミと名乗った。

折口は、少年に心を奪われた。

折口は、少年カガミを研究材料には絶対にさせなかった。

カガミは聡明で、折口すら驚くような言葉を口にするときがあった。

折口は、時にカガミに尋ねた。


「君はマレビトになってどれくらいたつのか?」


カガミは少年のはにかみを見せ、答えた。


「ずっと昔だ、過去は覚えていない。でも未来は分かるよ」

「未来?」

「そう、僕の未来、もうすぐ死ぬ。マレビトの寿命だ。もうすぐ千年になる」


愛人の告白に、折口は動揺を隠さなかった。


「そ、それは、いつ?」

「70年後」

「70年後?」


折口は肩を揺らして笑った。


「それなら私も長生きをしなければ、100まで生きれば、君と死ねる」

「僕はそこからヒトのように老いるんだよ、大丈夫?」


折口はやさしく微笑む。


「問答をしよう。それが我々の仕事だ」


カガミはその言葉に、澱みなく喋り出す。


「この国に僅かにいる我らマレビトを、時の権力者は自ら不死になる為に、あるいは不死の兵として、マレビトを求めた。しかし、マレビトを食してもヒトは不死にはならず。マレビトがヒトを殺す事も出来ない、では僕らの存在意義は?」


折口もまた澱みなく答える


「マレビトの定義は(現象)ではなく、(条件〉だからだ。ならば、世界は君らに何をや求めん。さあ、この豊穣の大海に漕ぎ出す舟を我々で見つけるのだ」


折口はカガミと協力し、存在としてのマレビトという形而上の答えを探し出そうとしていた。


しかし原爆投下とソ連軍の急激な南下により、敗戦となり、計画は頓挫した。

多くの軍施設が進駐軍に徴収されたが、進駐軍が来る前に、軍部残党の手によって登戸研究所は焼き払われた。


同時に、美少年カガミは忽然と折口の前から消えた。

折口はカガミを失った後、釈尊空と改名し、失意の中、無駄に俳句をみ、常世へと消えた。


そして、戦後七十年近く経って、カガミは世に現れた。

カガミは少年のあどけなさが抜け、鼻梁が涼やかな背の高い20才の青年になっていた。カガミは、マレビトとしての千年時を過ぎて、ヒトへと戻っていた。


「僕はもうヒトだ」


何事も無かった様にそう言い、70年ぶりに老人カスミゴロウの前に現れた。






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