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第1話 初対面での告白はロマンある①



 告白をするかされるかで言ったら、される方にキュンとする。

 だってそうだろう。知らず知らずのうちに好意を寄せられていて、その限界値が「告白」となって自分の心に突き刺さる。

 パターンは大抵二つに分けられる。自分が相手の好意に気づいているパターンと、気づいていないパターンだ。俺は特に後者が良い。気づいていないということは、知らなかったと言い換えても同じ。告白を通じて相手の好意を知るなんて、好きじゃなくても好きになってしまいそうな破壊力がある。

 女々しい? 知らねえよそんなこと。本心に嘘を吐くことは、後々きっと心を締め付けてくる。だから俺は素直に生きると決めている。


 それで言うと、俺の右隣に座っている田中(この男)は、昨日別クラスの女子から告白されて平然と断ったらしい。本人は何も言っていないが、目撃情報と野次馬連中によってその《《事実》》は瞬く間に拡散されたようだ。だから大して話したこともない俺の耳にまで届いている。

 コイツに告白した女子は学校に来ていないらしい。それで田中が悪く言われるのは筋違いだと思うが、女子の友達連中はそんな理不尽を平然とぶつけてくる。少し申し訳なさそうな横顔をしているのはそのせいだろうか。


 俺だったらいったんは付き合うね。好きになるかもしれないじゃないか。それに彼女が出来ればとにかく《《色々なこと》》ができる。今まで彼女なんて出来たことがない俺にとって、「彼女」という言葉はそれはそれは甘い蜜である。


 だけど、世の中はそんなに甘くないと理解しているつもりだ。

 俺は大してルックスも良くないし、陽キャのようなコミュ力もない。それなのに俺は性格よりも外見を優先してしまうから、必然的に選ばれることはない。だからと言って、人気のない女の子を選ぶこともしない。

 いわば、負け戦に挑み続けているだけの人生だった。中学から今に至るまで、俺が「良いな」と思った女の子の隣には必ず誰かがいた。

 こんなスタンスでいるせいか、誰からも告白されたことはない。恋愛事への興味が高まってからは、ずっと告白されるシチュエーションを妄想しては虚しくなることを繰り返している。それ以前に、女子と話をする機会自体が少ないことも原因だったりする。


「はいはい。連休明けだからって気の抜けた顔をしないよー」


 担任の若槻先生が俺の目の前で手を二回叩きながら言う。ゴールデンウィーク前の席替えで教卓の目の前になってしまったから、俺だけに言われているような気がしてならない。若くて綺麗な人だけど、かなり快活でズバズバ物言いするから、下手な態度は取れなかった。いや、取りたくないって言う方が正しいか。


「早速だけど、実はこのクラスに転校生が来ます」


 その瞬間、気怠そうな雰囲気に包まれていたクラスがドッと立ち上がるように明るくなる。同時に騒がしくなるから、先生は「静かにしろ」と一喝する。だから俺の方を見て言わないでほしい。一言もしゃべってないんだからさ。

 こういう展開はドラマやマンガで見たことがある。大抵の場合、転校生は入り口の外で待っている。それを察した廊下側のヤツが覗き込むと、「やべえ可愛いぞ!」なんて騒ぐ。てことは女子か。これに陽キャ連中が続くから、再び先生の雷が落ちる。


「ったく。じゃあ、入って良いよー」


 廊下にも響く声で呼び掛けると、がらりと引き戸が開く。

 クラス全員の視線を集める中、その可愛いと言われた女子生徒は真っ直ぐと前を向いて堂々と入ってきた。

 第一印象は確かに可愛いということ。でもそれ以上に、すごく綺麗な金髪に意識を持って行かれた。外国人か? それとも帰国子女とかハーフの子? 俺だけじゃなくて、周りのクラスメイトも同じような会話を繰り広げている。

 先生が黒板に彼女の名前を書く間も、転校生は少し俯き気味にこの気まずい時間を耐えている。カチャンと先生がチョークを置いて「自己紹介して」と促す。


 彼女は顔を上げて、クラス中を見渡した。青い瞳がすごく綺麗だった。


間宮(まみや)レイアです。よろしくお願いします」


 小さくお辞儀をすると、どこからともなく拍手が巻き起こる。クラス替えして1カ月経ったけど、このクラスってこんな明るかったっけ。

 なんとなく黒板に書かれた文字を見つめる。漢字の苗字にカタカナの名前。間宮レイア。これだけ見れば、日本人と外国人の血を引いていると考えるのが自然だ。


 わずかに視線を動かすと、彼女もこっちを見ていた。目が合う。

 目を逸らそうとしても、大きな青い瞳に吸い寄せられるみたいで出来なかった。でもそれもほんの数秒だと思う。目を背けようとしたら、彼女の口元が少し動いた。


「――」


 なんだろうか。こういう時ってどうするのが正解なわけ? 

 と、とりあえずニコッとしておくか? 軽く愛想笑いを浮かべても、間宮レイアは表情を一つも変えない。なんだよそれ。


 なんて思ったのは、本当に束の間でしかなかった。


「あなたが好きです」


 告白をするかされるかで言ったら、される方にキュンとする。告白を通じて相手の好意を知るなんて、好きじゃなくても好きになってしまいそうな破壊力がある。

 ――なんて言うのは、全て嘘だと思った。知らない人間に告白されるのは、戸惑いでしかないと、俺は思い知ることになった。

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