あと、一か月
「レティア!」
その懐かしい声に、私は思わず目を見開いた。
そこに立っていたのは、私の父。カスターナ公爵だった。
「お父様、どうしてここに……まさか、私のためにわざわざ来てくださったの?」
「当たり前じゃないか!」
お父様は大きくそう言い切ると、私の手を強く握った。
「お母様も?」
お父様のすぐ後ろには、お母様の姿があった。
いつも凛として美しい人だったのに、今は泣き腫らした目で私を見つめている。
「私の可愛いレティア。ああ、愛しい子……」
お母様は私の頬を撫で、震える唇でそっと額に口づけた。
「ルイーズ皇子殿下が、わざわざ皇宮の魔法使い様を送ってくださったんだ。おかげで、ここへ来ることができた」
父の目線を追うようにして、ゆっくりと横を見る。そこには、静かに私を見つめる彼がドアの前で佇んでいた。私の視線に気づいたルイーズは、そっと微笑む。
(ルイ……)
「私の可愛いレティア」
お母様は私の名前を優しく呼び、抱き寄せる。
「お母様?」
「本当に、よく頑張ったわね」
温かな腕の中で、私は幼い頃の記憶を思い出していた。
眠る前に読み聞かせてもらった童話。転んで泣いたとき、膝を撫でながら歌ってくれた子守唄。
偉大な両親に守られ、何も怖いものなどなかった日々。
「ごめんなさい。お母様、お父様……」
もう二度と会えないと思っていた二人に、こんなにも優しく包まれるなんて。
「謝ることなんて何もない。お前は十分頑張ったではないか」
父の低く、優しい声が頭の上から降ってくる。
その言葉に、私はかすかに首を横に振った。
「そんなことありません。私は、本当にダメな娘でした」
泣いてはいけない。これは、最初から決まっていたことだ。
だけどどれほど堪えようとも涙は止まらなかった。
私が生きた証を、愛する人たちの心に残したいと願うほど、涙が止まらなかった。
「あなたは私たちの誇りよ、レティア。生まれてきてくれてありがとう。私たちはあなたのことを、この世の何よりも愛しているわ」
私の目元に溜まった涙を拭い、優しく微笑むお母様。
「……はい、私も愛しています」
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暫くの間、家族水入らずで会話を楽しんだ後、両親は皇帝陛下と皇后陛下に挨拶に行ってくると席を外した。
「どうして突然両親を呼んでくださったんですか? 皇宮の魔法使いをわざわざ他国へ送るだなんて、相当な経費が掛かったはずです」
二人きりになったこのタイミングしか聞くチャンスがないと思い、ルイーズに問いかける。
「君のご両親には前々から挨拶をしたいと考えていた。それに、君が喜んでくれると思ったんだ」
ルイーズは私の手をそっと握ると、静かに微笑み口を開いた。
「僕は君が笑ってくれるなら、どんなことだってする」
彼の真っ直ぐな視線とともに囁かれる優しい言葉が私の胸に染み入る。
「……嬉しかった。とても、嬉しかったわ。お父様とお母様に会わせてくれて、本当にありがとうルイ」
言葉が詰まり、涙が溢れそうになる。
「もう、二度と会えないと思っていたから」
ルイーズは私の頬にそっと手を添え、そっと親指で涙を拭った。
「君が笑ってくれたなら、それで十分さ」
(どうしてあなたはそんなにも優しいの?)
こんなに優しくして、こんなに大切にしてくれて。
私は、あなたを残していくことが、ますます辛くなってしまう。
レティアが死ぬまで、あと一か月。
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