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【完結】どうせ死ぬ命なので、誘拐犯に連れ去られてみます。  作者: にゃみ3


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15/18

あと、二か月


「ここでいいか?」

「うん、ありがとうルイ」


 ルイーズの腕から降りると、そっと芝の上に座る。

 目の前に広がるのは、手入れの行き届いた皇宮の庭園。

 見渡す限り、花々が風に揺れ、整えられた木々が陽光を浴びて輝いている。


「わぁ……やっぱり、皇宮の庭園は美しいですね」


 ひゅう、と風が吹いた。

 頬を撫でるそれは心地よくて、目を閉じてその風邪を受ける。


(あと何回ここへ来れるかしら)


 この場所に、自分の足で立てる日があとどれほどあるのか。

 足元に視線を落とし、手を芝生の上に広げる。指の隙間から、緑の感触が伝わった。


「私、素足で芝の上を走り回ってみたかったの。太陽の下で力いっぱい走って、大きな声で笑いたかったわ」


 言葉にした瞬間、それが叶わないことを誰よりも理解している自分に気づく。

 だからこそ、ただの夢のように語るしかなかった。


「ああ」


 彼はそれ以上、何も言わなかった。


「あなたと、もっと、もっと一緒に居たいのになぁ……」


 静かに漏れた言葉は、風に溶けるように消えていく。

 自分の身体のことは、自分が一番理解している。

 これから先、彼と過ごせる時間が限られていることも。この穏やかな時間が、永遠には続かないことも。

 それでも、今だけは。

 せめてこの瞬間だけは、何もかも忘れてここにいたかった。


「レティア……」

「違うわ。これは、悲しいわけじゃないの」


 言葉と共に、頬に涙が伝う。


(泣いちゃダメだ。私が泣いたら、彼に心配をかけてしまう)


 ルイーズはかっこいいし、優しいし、とても素敵な人。だからこそ、あなたの心を一生引き留めておくことは出来ないと、分かっている。

 私が死んだ後、あなたには私を忘れて新たな妃と幸せになってほしいと、心から思っている。


「ただ、なんだか少し、寂しくて……」


 心の底からあなたの幸せを願っているのに。

 それなのに、寂しくて寂しくて、仕方がない。


「どうすればいい」

「……え?」

「どうすれば僕は、君を泣かせなくて済む」


 まっすぐな目で、真剣にそう私に問いかけるルイーズ。

 その瞳は揺らぐことなく、私だけを映し出していた。


「どうにも僕は君のことになると空回りしてしまうようだから、君に全て聞こうと思うんだ」

「ルイ? 何を言って……」


 戸惑う私の手を、彼はそっと包み込むようにして握る。


「どうすれば君は笑ってくれる?」


 ルイーズの声は、ひどく切実だった。

 その言葉が、真っ直ぐに私の胸へと届く。


「わ、わからない」


 声が震える。

 何かを言おうとして、でも、言葉が出てこなかった。


「……私は、あなたさえ居れば幸せだから」


 涙をこらえながらそれだけを絞り出す。

 それが、今の私に言える精一杯のことだった。

レティアが死ぬまで、あと二か月。


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