あと、二か月
「ここでいいか?」
「うん、ありがとうルイ」
ルイーズの腕から降りると、そっと芝の上に座る。
目の前に広がるのは、手入れの行き届いた皇宮の庭園。
見渡す限り、花々が風に揺れ、整えられた木々が陽光を浴びて輝いている。
「わぁ……やっぱり、皇宮の庭園は美しいですね」
ひゅう、と風が吹いた。
頬を撫でるそれは心地よくて、目を閉じてその風邪を受ける。
(あと何回ここへ来れるかしら)
この場所に、自分の足で立てる日があとどれほどあるのか。
足元に視線を落とし、手を芝生の上に広げる。指の隙間から、緑の感触が伝わった。
「私、素足で芝の上を走り回ってみたかったの。太陽の下で力いっぱい走って、大きな声で笑いたかったわ」
言葉にした瞬間、それが叶わないことを誰よりも理解している自分に気づく。
だからこそ、ただの夢のように語るしかなかった。
「ああ」
彼はそれ以上、何も言わなかった。
「あなたと、もっと、もっと一緒に居たいのになぁ……」
静かに漏れた言葉は、風に溶けるように消えていく。
自分の身体のことは、自分が一番理解している。
これから先、彼と過ごせる時間が限られていることも。この穏やかな時間が、永遠には続かないことも。
それでも、今だけは。
せめてこの瞬間だけは、何もかも忘れてここにいたかった。
「レティア……」
「違うわ。これは、悲しいわけじゃないの」
言葉と共に、頬に涙が伝う。
(泣いちゃダメだ。私が泣いたら、彼に心配をかけてしまう)
ルイーズはかっこいいし、優しいし、とても素敵な人。だからこそ、あなたの心を一生引き留めておくことは出来ないと、分かっている。
私が死んだ後、あなたには私を忘れて新たな妃と幸せになってほしいと、心から思っている。
「ただ、なんだか少し、寂しくて……」
心の底からあなたの幸せを願っているのに。
それなのに、寂しくて寂しくて、仕方がない。
「どうすればいい」
「……え?」
「どうすれば僕は、君を泣かせなくて済む」
まっすぐな目で、真剣にそう私に問いかけるルイーズ。
その瞳は揺らぐことなく、私だけを映し出していた。
「どうにも僕は君のことになると空回りしてしまうようだから、君に全て聞こうと思うんだ」
「ルイ? 何を言って……」
戸惑う私の手を、彼はそっと包み込むようにして握る。
「どうすれば君は笑ってくれる?」
ルイーズの声は、ひどく切実だった。
その言葉が、真っ直ぐに私の胸へと届く。
「わ、わからない」
声が震える。
何かを言おうとして、でも、言葉が出てこなかった。
「……私は、あなたさえ居れば幸せだから」
涙をこらえながらそれだけを絞り出す。
それが、今の私に言える精一杯のことだった。
レティアが死ぬまで、あと二か月。
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