あと、三か月
「レティア、今日も君は綺麗だね」
その言葉を耳にするたび、心の中で私は苦笑いを浮かべる。
(嘘つき)
鏡を見れば一目瞭然だった。
病の色を隠すように施された厚化粧。目の下には隠しきれない暗いクマが浮かび、唇は乾ききってひび割れている。
痩せこけた体は、着飾っても隠しようがないほど骨ばってしまっている。
こんな私の姿を美しいだなんて、嘘でしかない。
一国の頂点となるあなたの、皇子の妃として、私はあまりにもみすぼらしくなってしまった。
これじゃあ、あの教皇の娘と比べられてもうんともすんとも言えない。
「嬉しい。ありがとう、ルイーズ」
でも私は彼に笑顔で言う。
それは彼を悲しませたくない一心から出た言葉だった。
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ルイーズがくれた鎮痛魔法のかかった指輪のおかげで、痛みは無いものの。
しかし、日に日に吐く血の量は増え、私の体重はみるみるうちに落ちていった。
右手から左手に付け直したサファイアの指輪。彼の気持ちが嬉しくて、嬉しくて。毎日この指輪を眺めていると、元気になれるような気がしていた。
いつものように左薬指に視線を向ける。冷たく、ますます細くなってしまった自分の指が、どこか他人のもののように思えた。
目の前の世界は霞みがかることが増え、歩くたびに体が浮くような感覚に襲われる。
仕事もまともにできなくなった私は自室に閉じこもるようになった。
仕事が好きだった。どれだけ人が私を見下しても、結果さえ出せば私を見直してくれたから。
これは自ら望んだことではない。それでも、身体が思うように動かないのだから仕方がない。
「来てくださったんですね」
静かな声でそう告げると、戸口に立つ人影がゆっくりとこちらへ歩み寄る。
やがて目の前に立った彼は、私に向かって大きな花束を差し出した。
「どうぞ」
差し出された花束は、淡い色合いの美しいもので、見ているだけで心が和らぐ。
私は思わず目を輝かせ、それを両手で受け取った。
「わあ、とっても綺麗ですね。ありがとうございます、エンディミオンさん!」
心からの感謝を伝えると、エンディミオンは何かをためらうように目を伏せた。
「……お体は如何ですか、妃殿下」
かつて初めて出会ったときの鋭い眼差しとは違う。
今のエンディミオンの瞳には、深い憂いと、優しさが滲んでいた。
「元気ですよ! 今にも仕事に戻りたいくらい、とっても元気です!」
努めて明るい声を出し、にっこりと笑う。
けれど、エンディミオンは何も言わない。ただ静かに、私を見つめ続けていた。
「実は、エンディミオンさんに教えていただいた魔術師の元へ行ってみたんです。本当は胡散臭いな、なんて思っていたんですが、おかげでずっと悩んでいたことが解決できました。貴方のおかげで悔いはありません。このまま笑顔であの世に行けそうです」
冗談のように、軽やかに言ったつもりだった。
しかし、エンディミオンの表情は曇るばかりだった。
「……そんな顔をされないでください。私は気にしていません。これは、今に始まったことではありませんから」
そう言った私の声は、思っていたよりも静かだった。
エンディミオンは言葉を失ったまま、ただじっと私を見つめていた。
「今日貴方をお呼びしたのは他でもありません。私から貴方に、最後の頼みがあります」
レティアが死ぬまで、あと三か月。
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