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【旧版】パラレルエージェント/多世界転移管理局捜査部門【再投稿】  作者: デューク・ホーク
エージェント:ルージュ・フイユ(3編7話)
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触手の擬態 後編 【ルージュ登場】

「ハッハッ、ハァ」


 ハロルドは息も絶え絶えに逃げてきたが、ついに行き止まりになってしまった。


 このクラウス村には吊り橋がかけられており、それを渡らなければ外へ出入りできない。


 その橋が崩れて通れなくなっていた。


「う……来るな! 近寄るな!」


 怪物に石や研究室から持ち込んだ劇薬などを投げつけたが、まるで意味がなかった。


 触手の怪物はだんだんと小さくなっていき、ハロルドの姿になった。


「うっ」


 だんだんと、ハロルドの身体が痛み出して、磁石のように吸い寄せられる感覚に襲われた。


(あの怪物に無惨に喰い殺されるくらいなら……)


 真後ろの崖の下を眺めた。


(川が流れてるけど、さすがにこの高さじゃあ助からないかもしれない、でも、こいつに食い殺されるよりはよっぽどマシだ!)


 ハロルドは勇気を振り絞って崖から飛び降りた。


(20m以上の落下では、コンクリートと変わらぬ硬さだ)


 川に打ち付けられる感覚があると思っていた。

 しかし、クッション性のあるものに包まれて受け止められた。


「た……助かった?」


「おい! 大丈夫か!?

 魔法大学研究生のハロルドだな」


 マスクを被った男は、体長5mほどの魔獣に乗って空に向かって飛んでいた。

 彼が布を広げてハロルドを受け止めたのだ。


「……あ!

 上に戻らないでください! 触手の怪物が、村民を襲って、もう生き残りなんて……」


「でも、異世界からきた怪物を野放しにはできないだろ? ハロルド」


 やけに親しげに話して来る男の腕には『多世界転移管理局(パラレルエージェント)』と書かれた腕章をつけていた。


「アレがなにかわかるのですか!?」


「ああ、だから判明した時点で研究室やこの村の勇者や調査団と連携して捜査しようとしてたんだが、どことも連絡取れなくて、聞くと勝手に先人切ったと言うじゃあないか。

 おかげで被害がこんなに大きく――」


 マスクの管理局員が言い終わる前に、ハロルドの姿を模した化け物に対峙して、怪物が襲いかかってきた。


「村人に化けて、磁石みたいにくっついて来るんだ!」


「あれ、魔法大学の科目で教わらなかったかい?

『ドッペルゲンガー現象』だよ」


「え――」


 マスクの男は、腰から拳銃を取り出した。


「あの『巨大ウニキンチャク』は取り込まれた人間全部の"死骸"を完全に機能停止すれば消滅するぜ」


 マスクの男はハロルド似の化け物に標準を定め、引き金を引いた。


「ウヴォアアアアアアアアアアア」


 ハロルドにそっくりな姿をして穴という穴から触手を生やした怪物は、頭部の額ど真ん中に銃撃を受けた。

 叫び声をあげてドロドロに溶けていった。


「HEAD SHOT!!」



 

   *      *



 

 鳥に騎乗したマスクの男はハロルドを後ろに載せて村全体を俯瞰して観察した。


「あーあー、これじゃハロルド以外全滅か」


 


 村から離れた岩山の開けた箇所に着地して、2人は息を吐いた。


「さて、一応こちらが把握している展開と合致してるか、君の言葉で確認したいな」


「その前に、マスク取ってよ、その口まで覆った仮面、声も篭って判断出来ないよ。

 ――ルージュ・フイユ?」


「失敬、失敬。

 久しぶり、ハロルド。魔法大学の学部以来だな。5年振り?」


「やっぱりルージュ、君か!

 卒業したあと世界を冒険すると言っていたが、『多世界転移管理局(パラレルエージェント)』に入局していたのか!」


「まあね」


 マスクの男、ルージュとハロルドは5年振りの再会に握手をした。


 


   *      *



 

「あの巨鳥は15分しか人を乗せれる体力がない……瞬間速度は最速だから重宝されるんだけどね」


 ルージュは騎乗してきたグリフォンを身軽にして空に離し、ハロルドに事情を説明しながら山を下りた。


「ハァ、ハァ。それより、あの怪物は?」


「アレは"外来種"だ」


「それは"パラレルワールドの"って意味?」


「ご名答。

 この世界には本来『存在しない』はずだったが、ここ3年で数体確認されている。どれも『パラレルワールド』の転移絡みの事件で現れるな」


 ルージュは触手の化け物についての調査書をハロルドに投げ渡して解説を続けた。


「半世紀前に"この世界"の有史でも『異世界転移・転生』の魔法が発明された。しかも、ある程度上級の魔法使いであれば再現性が高い魔法であった。

 四半世紀前くらいに規制する法律ができたが、守らないやつは中々減らないし、時折甚大な被害を出して既存の政府機関では間に合わなくなってね」


「それで、数年前から多世界転移管理局/パラレルエージェントができたんだよね」


「実は創設メンバーだぜ、俺」


「ほんとに!?」


「まあ、稼働数年は色々政治絡みや悪徳魔法使いの目を鑑みて所属を非公開にしてたんだけどな。だから君にも教えていなかった」


「知っていたら、事件に巻き込まれた段階で連絡を入れたのに!」


「ほんと、調査団のメンバーの1人にアシスタントとしてハロルドの名前を見た時は頭を抱えたよ」


 ハロルドは調査書に目を移した。


「村長であった魔女も火遊びしてしまったのかな」


「偽勇者に討伐されてしまった今ではなんとも言えないな。

 事故か事件か、過失か故意か。

 ただ、最期まで封印しようと頑張っていたのは事実だ」


「あの、触手で人間に擬態するのも怪物の能力?」


「能力って言えば能力だけど、ちょっと想像してるニュアンスと違うな。

 パラレルワールドの"君たち村民"があの怪物に捕まって、その後こちらの世界に捕まった村民ごと転移されてしまったのだろう」


「……じゃあ、最期怪物倒した時に撃たれたのは、どっかの世界線の僕自身?」

 ハロルドはどんよりした顔で尋ねた。


「残念ながらね。

 既に取り込まれた"パラレルの村民たち"はとっくに死んでいて、ゾンビ状態にされていたから、どの道助かる道はなかった。

 触手の怪物は一気に食べ物を消化せず、触手を巻き付けてジリジリ養分を吸い取るんだ」



「2つの身体がくっついてバラバラドロドロになったのは――」


「あれは"自然の摂理"だよ。並行世界から転移して、同一魂・同一肉体が急接近すると起きる現象だ。『ドッペルゲンガー現象』と命名されている」


「今になって、大学で教わったことを思い出したよ」


 納得した様子で、ハロルドは下山に集中した。



 

「お疲れのとこ悪いけどさ、君、帰ったらどうするつもりだい? 今後」


 ハロルドは足を止めた。

「……考えないようにしてたが、やっぱまずい状況だよね」


「村民も調査団も魔女も君以外全滅だろう?

 おまけに怪物も完全に殺しきったおかげで消滅さ。

 責任転嫁でお偉いさんは君に責任を擦り付けそうだね」


「うう、研究職は続けられないな」


「それどころか刑罰もあるかも」


「ううう」


「そこでだ」

 ルージュは人差し指を立てて提案する。

「ハロルド、『多世界転移管理局/パラレルエージェント』へ入局しないか?」


「いいのか!?」


「今回君は巻き込まれた側だし、どこか機関に所属して後ろ盾があった方がいいだろう。

 まずは研修生となって、現役局員に仕事を教わることになるが……話の流れ的に、俺が教官役だろうな」


「恩に着る」


「これからよろしく、ハロルド」

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