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【旧版】パラレルエージェント/多世界転移管理局捜査部門【再投稿】  作者: デューク・ホーク
エージェント:ルージュ・フイユ(3編7話)
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触手の擬態 前編【ハロルドの帰郷】

 ハロルドは疲労困憊の中逃げ惑った。

 

 知人や幼馴染が『怪物』に襲われ、身体がバラバラに崩れ落ちて食い殺される光景を、たった数分間で何十回と見た。


(早くこの村から脱出しなければ!――)


 しかし、目の前には崖が広がっており、行き止まりである。もう逃げ場はない。


『怪物』は全体的に丸っこく、直径3mほど。

 巨大なイソギンチャクのように全身からピンク色の触手をうごめかせ、回転しながら近づいてくる。


 ハロルドから数メートル付近まで来ると、触手から分泌液を垂れ流しながら、だんだんと形が『人型』へと変貌していった。


「あ……あ……」


 怪物は、目の前の『ハロルドとそっくりな見た目』になった。


 怪物が"擬態"したようにハロルドには感じた。


 目や耳、また身体の至る所に穴を空け、そこから触手を出してグラグラとゾンビが歩くようにハロルドに近づいていった。


(ここ……までか)




   *      *


 

 

 場面は悲惨な事件が起こる数時間前に巻きもどる。


 


 ハロルドという魔法研究員は、このクラウス村に5年ぶりに帰省していた。

 村の入口付近で、旧友に出会う。

 

「ハロルド、久々の帰省だな。お前がいない間、この村は色々大変だったんだ。

 でも"勇者様"が魔女を退治してくれた。村に平和が訪れたぞ!」


「そう……らしいね」

(なんか、怪しいんだよなあ)


 ハロルドは旧友の言葉を信じなかった。


 クラウス村の長は村民の直接投票で決まる。件の魔女は通常の手順通り『立候補』して村長になった。


 しかし、昨年から徐々に外交が減っていき、今年頭になって、村を鎖国ならぬ鎖村したのである。


 魔女の演説によれば、

『疫病が流行ったので、外部に出すわけには行かぬ!

 こちらで疫病を収める術は把握しているので、他の都市や国の介入は不要、むしろ被害を広げかねない』


とのことであった。

 


 ハロルドは国直下の魔法大学で研究をする研究者だ。

 このクラウス村出身ということで、通常は参加できない『国による各自治区の調査』の調査員に情報提供者として同行している。


「調査の結果、魔女は『大魔法』に失敗したようだ。大魔法の種類はおそらく異界からの転移・転生魔法。結界を張り巡らせて、四六時中"封印魔法"に勤しんでいる」

 調査機関の人間がハロルドに語った。


 


(ところが、急に"鎖村"は解除された……)


 ハロルドは報告書をカバンから取り出して読み直した。



 

報告書No2『不可解な魔女討伐』より:

5箇所抜粋


・今年の某日に、突然クラウス村から、<魔女討伐成功>の報が国へなされた。


・話によると、前触れなく力の覚醒した勇者<レイ>という人物が出現した。


・「村を閉鎖して悪行を成す魔女を討伐し民衆を解放する!」

と村民を鼓舞し、賢者や狩人などとパーティを組んで、魔女の工房へ攻め込んだ。


・魔女の首を討ち取り、帰還して民衆の喝采を受ける。


・以後、勇者レイが暫定的に村を統治している。



 

 報告書を持ってきた調査団員は付け加えた。

「魔女の"封印魔法"がどうなったのかは一切不明。

 村民は魔女の"方便"だと思って意に介さない様子だが、我々は魔女の行動が真実であったと把握している。

 まあ、そもそも転移・転生魔法の失敗と、国に援助を求めず独断で暴走したこともまた事実なので、魔女に同情する気はないが」


「しかし、封印のことはあとから勇者団に忠告できるだろう?」


「それが"勇者様"は『封印なんてものはなかった。全ては魔女の戯言だ』と返答したんだ」


 


  *      *



 

 ハロルドは調査団数人に付いていって、魔女の工房跡地に到着した。


「ここは、僕が村を出て魔法大学に通う前から存在している建物です。魔女は村長になる前からここに住み、ずっと魔道具の製作や薬草の調合などをしていました」


「なにか当時と違う点はあるか?

 と言っても、こんな廃墟みたいになっちまってると違いすぎるか」


「……特に。僕には、わかりません」


「チッ、使えねーな」

 調査員はハロルドに悪態をついた。


(うう……帰りたい。"元村民だから"って理由で僕を連れて来たって、助けになんてならないよう……)


「あ? なんか言ったか」


「い、いえ、別に」


「全く、『封印されたモノの回収・研究のため研究員を連れていけ』っていう話だけどよー、なんでこんな使えないやつがお供なんだ!?」


「それは、『この村の出身だから』――

 ああ! 睨まないで下さいよ!

 研究室で一番成果が遅れているのが僕で、何とか研究室のノルマを達成するために調査についていけと、教授に言われまして――」


「は〜〜。そんなこったろうと思ったぜ」


 調査員はハロルドに荷物を押し付けて、工房に入ろうとしたところで、ある人物に声をかけられた。


「貴様ら、魔女の手下か?

 何をしている!?」


 声の主は勇者レイであった。



「……国の調査団だよ。

『魔女討伐しました』『はい分かりました』

で話が済むわけねー」


「今、民衆の生活が戻りつつあるんだ。それに満足せずマニュアル通りのお役所仕事で引っ掻き回すのは、歓迎出来ないな。

 まあでも、その工房は既に機能してないし、好きに調べればいい」


 勇者レイは政府への不満をぶつけてその場を去った。


 


「なんか、勇者レイってこの村出身bって見た目をしてないんですよねえ」

 ハロルドは調査員に話した。


「そんなことはもう何日も前に把握してる。

『異世界転移』で勇者の素質をある人物を連れてきた可能性があるとかで、『パラレルエージェント』が介入しようとして来てるんだ。俺らの調査を邪魔しやがって」


「パラレル……なんです?」


「『パラレルエージェント』!

 別名『多世界転移管理局』つって、ここ2~3年で新設された新しい捜査局だそうだ」


 調査員はいやな顔をしてハロルドを睨んだ。


「管轄争いなんだよ、この事件の調査は。

 魔女の"封印"作業にも『転移・転生魔法』が絡んでるとかで、パラレルエージェントが捜査権を渡せと迫ってきてな。

 国中の村、自治区を調査する俺らの『自治区監視部隊』は管轄権争いに負けないよう、あの手この手を使っている」


 話している内に怒りが頂点に達し、握りこぶしでハロルドへ悪態をついた。

「お上が『あの手この手』してるうちに、ミスっておハロルドみたいな使い物にならないアシスタントを雇っちまってるんだ!」


「そんな僕本人に愚痴らないでよ」


「お前しかこの場にいねーからしょうがないだろ? もっと使える人間よこせよなー」


(こいつよりパラレルエージェントが来てくれた方がよっぽどマシだ!)

 ハロルドは喉元まで出かかった言葉を抑えた。


「工房を探索するから、お前は出入り口を見張ってろ」


 ハロルドは言われた通り出入り口で待機することになった。

 

 

【中編へ続く】

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