ハロルド・バルトによる前説
世界観の説明が主ですが、読まずに本編に進んで頂いても構いません。
異世界転移が主題の事件を物語るのなら、きっとメイン登場人物の転移初日から語るのが"セオリー"だと豪語する人間も居そうだけど、初日のことを一番はじめに語ってしまうと、色々な事情で『混乱』させてしまうのが目に見えている。
だから、あえて転移の日ではなく、この僕、ハロルド・バルトが「パラレルエージェント/多世界転移管理局」という国家機関に所属した初日から話させて欲しい。
僕がこの事件録を『月間魔導書』という雑誌に寄稿するために執筆する際、友人であり主人公のルージュ・フイユに、
「一人称なのは冒頭の自己紹介だけで、あとは三人称で書き進めたい」
と提案し、了承してくれた。
つまり、今ここで"僕"が筆を持ち文を綴っているが、次号からは事件の記録や推測を元に三人称で物語が進むということだ。
また、友人のルージュ・フイユに事前に確認もしてもらっている。後日読者諸君も目にすることになるだろうが、僕が綴った創作物が遠因で殺人事件が起こるといった問題が発生してしまった。そのことを受けてなお、筆を持つ機会をくれたルージュ・フイユには感謝しかない。
本作は『月間魔導書』に、数年前の、既に公表しても問題ない事件を順次執筆していく。つまりは、「何十巻にも及ぶ壮大な物語」とはならないので、気楽に読んで欲しい。
――事件そのものは残酷かもしれない。
* *
舞台の世界観が気になるかい? であれば、以下に目を通すといい。
(気にせず読める人はすっ飛ばして本編に行ってOKだ)
月間魔導書が「日本展開」するというので、科学世界の人間向けに記述しよう。
そう、魔法が信じられてない読者諸君の世界はいわゆる「科学世界」というやつだ。日本やアメリカ、中国といった国々があるね? 魔力が乏しい代わりに、科学が発展した。
あ、そうそう、先月号の『月間魔導書』に予告文が掲載された時、勝手に『科学交渉に則ったSF』と勘違いして酷いアンチ活動に巻き込めかけたことがあった。
『魔法世界』って言ってるんだ、ファンタジーに決まってるだろう?
いや、普段SFを読んでる層が読んでいただけるのはありがたいが、時たまいる「フィクション要素は1つだけで、あとは現実の科学原理の考証をしっかり行い則っているのこそが最重要で評価する面白さ」と言われて修正を強制してくる輩はテロだなあれは。びっくりした。
……横道にそれた。話を戻そう。
「魔法世界」だが、特に世界観としては"中世ヨーロッパ"といわれる光景で問題ないと思う。実は中世、ルネサンス、バロックなどそれぞれ違うと言われてもピンと来ないのなら"中世ヨーロッパ的"というイメージで問題ないだろう。
僕は主にクヴァンツ王国という国で活動しているが、隣国のフィンア帝国はもう少し中華風味漂う風土だ。
中世ヨーロッパ的と言っても、魔力量が「科学世界」の10倍以上あるので、魔法魔術の発展は目まぐるしく、TVなどがない代わりに絵画が動いたり、携帯電話がなくても端末型ゴーレムがあったりする。そういう(キミたちにとっては)とんでも世界だ。
あと書いておきたいことは……ああ、これだね。
ボクはゲーマーじゃないから分からないけど、某DQと略される「RPGゲーム世界まんま」ではないな、多分。
別にスキル付与とか、旅のはじめはスライムが定番だとか、目の前の空中にステータス画面が表示されるとか、そういう世界ではない。
とは言っても、「冒険者ギルド」とか「勇者」「竜騎士」とかはいるくらいの世界観だ。
さて、大雑把に「科学世界」「魔法世界」と言ったが、別に世界はこの2つだけじゃない。
「物事の選択によって数多の分岐があり、その分岐の数だけ世界がある」と言ったら、読者諸君は想像できるかな?
紙が隣合って束になるように、世界は隣合って互いは干渉しない……はずだった。
半世紀前、ある魔術師が「異世界転生・転移」の魔法をあろうことか『簡易化』してしまった。政府が規制を入れる前に一般魔法使いに知れ渡り、色々と人身売買や奴隷商売、快楽欲求を満たすために悪用する輩が現れた。
数年たち、法としての取り締まりは始まったが、組織立っての管理はまだまだ"ザル"だった。
5年前、ルージュ・フイユを含む一流の魔法使い数名が「魔法転移管理局」を組織し、政府に公的に承認された。
(実は「多世界転移管理局」という別名もあるが、場面によって使い分けが違う。それはのちのち語りたいと思う)
設立のきっかけに「友人の1人がこの世界に転移した事件」が関わって来るんだけど、それはおいおい話せればいいなと思う。
……。
長々と話してしまったけれど、次号からこの「多世界転移管理局」で起きた事件たちを紹介していく。
P.S.
前述の通り、読者に「科学世界」の人間も想定しているので、どのような魔法を如何に使ったか長々と説明する「ハウダニット」はあまりフォーカスせず、冒険劇として、そして「ホワイダニット(なぜ行われたか、動機」を重視して綴っていこう。